■調査期間
■時 間 帯
■調査方法
■参加者数
■調査箇所
2021年7月22日(木)~8月9日(月)
17時~日没の間
任意の地点でツバメが飛んで行った方向を記録する
のべ 191人※
奈良県内および京都府木津川市 86地点※
※ 調査期間・時間外の情報も含む
今回の調査活動は、認定特定非営利活動法人 バードリサーチ様の調査研究支援プロジェクトにてご寄付いただいた支援金を活用して実施いたしました。
調査結果の集計には3次メッシュを使用しました。
ツバメが飛んで行った方角を東、南東、南、南西、西、北西、北、北東の8種類に分類し、下記の方法で集計しました。
① 同一メッシュ内の同一日について方角別に羽数を合計
② 方角別に合計羽数が最大になる日の値を採用
観察時間別の結果は、17時台、18時台、19時台の時間帯ごとに、上記と同じ方法で集計しました。
なお、以下のデータは集計の対象外として扱いました。
・対象期間および対象時間以外のデータ
・平城宮跡と同一メッシュ内の観察地点のデータ
2021年の平城宮跡のねぐらでは3月末から10月半ばまでの間ねぐら入りが確認されました。例年であれば5月末頃からねぐら入りするツバメの数が増えますが、2021年はツバメの姿が少なく、大きな群れがねぐらを利用し始めたのは7月に入ってからでした。7月28日には6万羽のねぐら入りを確認しましたが、ねぐら入りするツバメの数が5万羽を超える期間は例年に比べて短くなりました。(図 1)
そのような状況ではありましたが、結果的には、調査期間に設定した7月22日~8月9日の間が、平城宮跡にねぐら入りするツバメの数の最大の時期とちょうど重なりました。
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図 1 平城宮跡におけるツバメのねぐら入り総数の変化(2021年6月~9月観察より)
収集した情報を地図に落とした結果が図 2です。観察地点を赤丸または黒丸でプロットし、ツバメが飛んだ方向を黒の矢印で示しました。矢印の大きさで観察されたツバメの数を表しています。黒丸の地点ではツバメが集合する様子が観察されました。
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図 2 17時~日没の間のツバメの飛翔方向(2021年7月22日~8月9日)
黒の矢印の状況から、平城宮跡の東および南方面から飛来するツバメが多いことがわかります。赤の矢印は想定されるツバメの移動ルートを表しています。この状況は2020年の調査結果と同じであり、平城宮跡でねぐら入りを観察している際に東および南方面から大きな群れが飛来する状況とも一致します。西からの飛来もありますが、東や南からの数と比較するとその数は多くはありません。西は矢田丘陵、東は大和高原まで、南北方向では平城宮跡から5㎞以内の範囲(地図上の赤の点線で囲ったエリア)のツバメは、ほぼ平城宮跡に向かっているように見えます。
平城宮跡から10㎞以上離れたエリアでも平城宮跡の方向に向かって飛ぶツバメが観察されていますが、平城宮跡までの間の情報が不足しており、平城宮跡に向かっているかどうかは判断がつきませんでした。
平城宮跡周辺の拡大図を図 3に示します。
平城宮跡の北側のエリアでは、ツバメが観察されなかった地点やツバメが平城宮跡以外の方向へ飛んで行った地点がありました。周辺にはツバメが観察されている観察地点があることから、平城宮跡に向かうツバメにはある一定の移動ルートがあって、ツバメが観察できなかった地点はそのルートからは外れているのではないかと推測しています。平城宮跡以外の方向に飛んで行ったツバメは周辺の小規模ねぐらを利用しているのかもしれません。
時間帯別の結果を図 4に示します。観察地点が灰色になっているところは、該当する時間帯での観察結果がないことを表しています。
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図 4 時間帯ごとのツバメの飛翔方向の変化
17時台、19時台の観察地点が少なく十分な比較はできませんが、17時台から18時台にかけて観察した地点では、18時台の方がツバメの飛来数が多いようです。平城宮跡から20㎞ほど離れた橿原市周辺(地図上の赤の点線で囲ったエリア)では19時台でもまとまった数のツバメが観察されており、その周辺にもねぐらがある可能性が考えられます。
2020年からの継続観察で、詳細な移動経路もわかってきました(図 5)。青い点は、実際に観察した地点を示しています。
2020年の調査で、興福寺周辺で数百羽の集団が北西および西(平城宮跡方面)に向かって飛ぶことが判明したので、2021年はさらにその東側を観察しました。
興福寺の約400m東に位置する荒池では東から西へ移動する群れを観察し、奈良ホテル付近で一時的に旋回する様子も確認できました。 荒池よりさらに1.5km東の春日山遊歩道南ゲート付近でも群れを観察し、最終的には群れが西へ移動することを確認しました。 春日山遊歩道南ゲートより東側は山になるため、今回の調査では観察できませんでした。
また、今回寄せられた調査結果から、興福寺の西に位置する大宮町でも数百羽の集団が西に向かって飛んだことが判明しました。
これらの調査結果をつなぎ合わせると、春日山遊歩道南ゲート周辺で集合した後に、荒池→興福寺→大宮町→平城宮跡とツバメが移動していくルートが見えてきました。なお、このルート上で観察されたツバメの総数は500羽/日でした。
移動ルート以外に、ツバメが集合しているという情報もいただきました。
ツバメの集合状況のまとめ(表 1)と集合場所の位置図(図 6)を以下に示します。
表 1 ツバメの集合状況
今回は調査対象時間を17時~日没としましたが、17時より前にもまとまった数のツバメが電線に集合している様子が複数地点で観察されました。電線に集合している様子が観察されたのは、奈良市南東部の茗荷町・高樋町・南椿尾町、宇陀市菟田野など、いずれも奈良盆地東側の山間部です。電線に集合したツバメがどちらの方向に飛去したかは未確認ですが、ねぐらに移動する前の集合である可能性も考えられます。平城宮跡に集まるツバメは南や東方面から飛来するものが多いことと関連があるかもしれません。
また、2020年にツバメが集合していた橿原市内の複数地点で今年は集合が見られませんでした。
調査結果全体に影響を与えそうな大規模なねぐらがないか確認するために、下記の方法によりねぐら情報の収集および探索を行いました。
・過去のねぐらの記録のチェック
(参考資料:日本野鳥の会奈良支部発行 いかる123号 近畿ツバメのねぐら調査2008一覧表 (2008年1月発行))
・平城宮跡以外のねぐらの観察を続けている方へのヒアリング
・航空写真を使用したねぐらになりそうなヨシ原の探索
今回はルート調査の結果に影響を与えるような大規模なねぐらは発見できませんでしたが、確認した結果を表 2、図 7に示します。
表 2 各ねぐらの状況(2021年6月~8月観察より)
京都府木津川市の五領池は、2020年以前からツバメがねぐらとして利用していました。平城宮跡のねぐらにツバメが集まらなかった6月頃、五領池にはツバメが集まっていることが分かったので、継続して観察を行いました。7月頃までは継続的に数百羽程度のねぐら入りがありましたが、平城宮跡にツバメが集まり始めた7月後半頃になると、次第に数が減少し始め、平城宮跡でピークを迎えた8月にはねぐら入りはほとんど観察できませんでした。
同様の傾向は、平城宮跡に比較的近い他のねぐら(表 2の②~④)でもみられました。これらのことから、平城宮跡周辺でねぐらをとるツバメは時期により利用するねぐらを変更しているのではないかと推測されます。
また、ヒアリングの結果により、平城宮跡から約20㎞南に位置している橿原市高殿町の隅田池と桜井市大福には、2019年にそれぞれ1万羽規模のねぐらがあったことがわかりました。2020年は隅田池のみ、2021年は桜井市大福のみがねぐらとして利用され、それぞれ数百羽の規模にとどまっています。2021年は橿原市新堂でもねぐら入りが確認されましたが、こちらも数百羽程度の規模でした。一方、2020年以降、平城宮跡でねぐら入りするツバメの数は増加しておらず、2019年に橿原市、桜井市でねぐら入りしていた合計2万羽のツバメが現在どこでねぐらをとっているのかは不明です。図 4でも示したように、橿原市周辺でツバメが観察されている時間帯を考慮すると、その付近のツバメがすべて平城宮跡に行っているとは考えにくいため、まだ発見されていない大規模なねぐらが存在する可能性が考えられます。
2022年も引き続き調査を継続いたします。今回の結果を踏まえて、下記の点についてさらに調査を進めたいと考えています。
・矢田丘陵より西および大和高原のツバメの動向
・17時台またはそれより早い時間帯のツバメの動向
・南および西から平城宮跡に飛来するツバメの移動経路
・情報が少ない奈良市と橿原市の間の区域(主に天理、田原本周辺)のデータ収集
・平城宮跡以外の大規模ねぐらの探索