【1】静的静脈圧を用いたAVG管理を行った一例
長崎みなとメディカルセンター 臨床工学部
〇高石辰吾 富永潤史 山田佳穂 山下誠 土屋裕
【はじめに】
日本透析医学会ガイドラインでは「AVGモニタリングとして静的静脈圧が望ましい」とされている。今回、日機装社製DCS-200Siを用いて静的静脈圧でシャントトラブルを繰り返す患者のAVGの管理を行ったので報告する。
【症例】
88歳女性。79歳時に左前腕シャントを作成し透析導入。吻合部狭窄を繰り返し、2016年に右前腕内シャントを造設。以後、右前腕シャント再建や頻回のPTAを行い2022年右前腕に人工血管置換術を施行。その後も静脈側吻合部の狭窄に対して繰り返しPTAを行っている。
【方法】
2024年度の透析施行時に、静的静脈圧を測定し異常値を認める場合はシャントエコー評価にて精査を行った。
【結果】
2024年度では合計6回のPTAを行った。PTA前の静的静脈圧は上昇し、シャントエコーにおける血管抵抗指数(以下:R.I.)と正の相関を認めた。
【考察】
今回の症例を通して、静的静脈圧を基にしたAVGのモニタリングがシャントトラブルの早期発見に有効であり、日本透析医学会のガイドラインに従い、静的静脈圧をモニタリング指標として使用することが重要であることが再認識された。
【結語】
本症例においては静的静脈圧を用いた早期モニタリングが有効であったと考えられるが、今後は他の患者群においてもその有用性を検証し、更に静的静脈圧とR.I.の相関を他の指標や検査結果と合わせて評価することで、シャントのトラブル予測、回避に努めたい。
【2】回路凝固早期発見を目的とした透析中回路洗浄の効果判定と今後の展望
地方独立行政法人佐世保市総合医療センター 医療技術部臨床工学室
〇今里航貴、矢谷慎吾、田中太一朗、神宮裕樹、田邊義希、松永りか、草野公史、石田信悟
【はじめに】
当院で実施する血液浄化患者は、手術目的での入院もしくは救急搬送された患者が多数の割合を占めており、周術期前後の血液透析時の抗凝固剤は、ナファモスタットメシル酸塩(以下:NM)を使用している。患者由来もしくは抗凝固剤由来の回路凝固による回路内全血破棄を予防するために、1時間ごとの回路洗浄を実施し回路全体の評価を行っているが、不必要な容量負荷に伴った過剰な時間除水設定になっている可能性は否定できない。今回、回路凝固早期発見を目的とした回路洗浄が回路凝固の予防に効果があるかを検討したため、ここに報告する。
【対象】
2023年4月~2025年2月までの約2年の期間に血液透析を実施した患者46名を対象とし、回路洗浄を実施した症例26名をA群、洗浄を実施しなかった症例18名をB 群とした。
【方法】
①患者情報、②血液浄化種類、③血液検査データ、④除水関係の大きく4項目に区分して比較検討を行った。統計解析には、マンホイットニーのU検定、フィッシャーの正確確率検定を用い、P<0.05を有意差ありとした。
【結果】
両群において、①患者情報、②血液浄化種類、③血液検査データ、④除水関係の16項目全てで有意差を認めなかった。また、両群のうち回路凝固を来した症例とそうでなかった群に分けて検討も行ったが、その結果においても有意差は認めなかった。
【考察】
当初の予測では、炎症反応の値や除水量の違いが凝固発生に影響すると考えていたが、本検討結果からそれらの値の回路凝固とも直接的な関係性は薄いと考えられる。また、回路洗浄の実施は直接的な回路凝固の予防に効果は得られていないと推測されるため、不必要な時間除水量の増加に繋がっているとも考えられた。
【結語】
周術期前後の患者を対象とした血液浄化における回路凝固予防には、回路洗浄の実施が直接的な予防に繋がってないとの結果であった。本検討は、あくまで周術期前後を対象としたものであり、慢性維持透析患者の通常透析の場合とは条件が異なることには留意する必要がある。
【3】透析治療を再現した回路での一時離脱教育の検討
社会医療法人財団 白十字会 佐世保中央病院 臨床工学部
〇河野諒弥、中嶋喜代子、山川大貴、山内雄斗、田中亜実、岐本成海、福田琴乃、
羽田野修介、桑野恵歌、植木悠太、森山奈々美、福田龍太、益田温美、森田晃平、谷口一俊、
上原かをる、前田博司
【背景】
当院では、透析中に一時離脱を行うことを体外循環と呼ぶ(以下、体外循環とする)。透析業務の新人育成カリキュラムで1年目に様々な習得内容が設定されている。その中で、実施件数が少ない項目の技術習得に時間を要していた。その1つに体外循環が挙げられる。そこで、体外循環の技術習得を目的とし、透析治療を再現した回路を作成することで技術習得を試みた。今回作成した回路を使用した結果をここに報告する。
【方法】
透析治療を再現するため、2台の透析用監視装置を使用し、各装置に患者模擬回路と透析回路を用意する。患者模擬回路は血液循環を再現するため、ループ回路を作成し、中を水で満たす。この患者模擬回路を透析用監視装置にセッティングし循環させる。もう1台の透析用監視装置に透析回路をセッティングし、プライミングする。患者模擬回路に穿刺し、透析回路を接続後、治療を開始する。この回路を使用し、当院のマニュアル手順に沿った体外循環手技を練習することにより、技術習得に繋げた。
【結果】
今回作成した回路は実際の透析治療と近い再現ができていた。そのため、マニュアル手順に沿った練習が可能であり、7回練習することで手技の習得ができた。また、患者模擬回路内に水を満たして循環させることで手技中の血液漏出を再現することができた。これにより、体外循環手技時の留置カニューラ操作も実際と近い練習が可能であった。
【課題】
今回作成した回路を使用した中で2つの課題が生じた。1つ目が患者模擬回路穿刺部からの水漏れである。本回路を使用して5回ほどで穿刺部に亀裂が入ることで水が漏れだし、脱血不良や気泡検出アラームが発生した。これにより、回路の再作成を余儀なくされた。2つ目は体外循環中のトラブル対応である。今回作成した回路は現時点では透析中に起こりうるトラブルは想定していない。そのため、マニュアルに沿った操作は可能となったが体外循環実施中の回路内陰圧や気泡除去の対応まで行うことができなかった。
【結語】
今回作成した回路は実際の透析治療に近い再現ができた。実施件数が少なくても、本回路で練習することによりマニュアル手順に沿った体外循環の技術習得が可能となった。今回作成した回路は体外循環だけでなく透析治療における様々な技術習得の練習に活用できると考える。今後の新人育成において更に有効的に活用するため、今回の課題解決に取り組みたい。
【4】OHDFにおける透析液流量の検討~QDはQBの2倍以上必要ないのか~
医療法人社団兼愛会 前田医院
○鶴田耕一郎 宮﨑卓磨 藤原伊吹 中尾陽一 福田隆太 荒森 匠 近藤智樹
井村 亨 園田和美 島田慎二 今田真里 前田由紀 前田兼徳
【はじめに】
世界的に環境負荷への対策が謳われている。透析業界も例外ではなく透析排水、廃液に注意を払うことはGreen Nephrologyの観点からも重要である。
標準的な4時間透析では、1透析あたり約120Lの透析液を消費している現状がある。当院は長時間透析を行なっており、1透析あたりの透析液消費量は180L以上にも及ぶ。そこで当院では、環境負荷の観点から透析液消費量を必要最小限にすることも重要と考え、透析液流量の見直しを進めている。
【目的】
われわれは、HDにおける小分子量物質の除去について、QDはQBの2倍以上必要ないことを、第65回日本透析医学会おいて報告した。しかしOHDFにおいては、総透析液流量(以下tQD)だけでなく、ヘモダイアフィルタに流入する透析液流量や置換液量(以下QS)の割合で溶質除去率が変わってくる。また前希釈か後希釈かでも変わるため、QDはQBの2倍以上必要ないとは言いきれない。
今回、後希釈OHDF、及び前希釈OHDFにおける透析液流量について検討した。
【方法】
1、後希釈OHDF 12名を対象とし、平均治療時間5時間55分、平均QB248mL/min、平均tQD565mL/min、平均QS50mL/minの条件下で、tQDのみ465mL/minへ減量し各種の溶質除去率、spKt/Vを比較検討した。
2、前希釈OHDF 38名を対象とし、平均治療時間5時間55分、平均QB235mL/min、平均tQD559mL/min、平均QS250mL/minの条件下で、tQDのみ471 mL/minへ減量し各種の溶質除去率、spKt/Vを比較検討した。
【結果】
1、後希釈OHDF において、tQDはQBの約2.3倍から約1.9倍への減量となったが、UN除去率、Cr除去率、β2MG除去率、α1MG除去率、spKt/Vに有意差は認められなかった。
2、前希釈OHDF において、tQDはQBの約2.4倍から約2.0倍への減量となったが、UN除去率、spKt/Vは有意に低下した。Cr除去率、β2MG除去率、α1MG除去率に有意差は認められなかった。
【まとめ】
1、後希釈OHDFにおける溶質除去について、本条件下ではtQDはQBの2倍以上必要ない可能性が示唆された。
2、前希釈OHDF における溶質除去について、本条件下ではtQDはQBの2倍以上必要ないとは言い切れないが、影響は少ないものと考えている。