Falconハヤブサin白岩 11年を振り返って

1. 最初の記録

最初の記録は2012年6月で、対岸の護岸に幼鳥がたたずんでいるのをアマチュアカメラマンの山崎邦昭氏(長野市妻科在住)が撮影した。地元の方によればもっと以前から生息していたという情報もあるが、正確なところはわからない。

2. 記録係としての白岩デビュー

記録係の白岩のハヤブサとの出会いは2014年3月17日10時20分頃である。第一発見者である山崎邦昭氏ともう一人の方がカメラをのぞきながらシャッターをバシャバシャと押していた。ハヤブサが狩りをしてきて正面の枝にとまり、羽をむしり始めその羽が空に舞う。

ヒエー、こんなにシャッターを押してフイルムがもったいない!と思ったものだった。この日がハヤブサとのデビューの日であり、デジタル一眼レフカメラとの出会いの日でもあった。

2013年5月頃のひなの写真を見せてもらう。2羽で雪だるまのよう、と記録ノートにある。

3. 産卵・ふ化・巣立ち

2012年を除いた2013年から2022年までの10年間で傾向を見ると、産卵期は3月上旬から中旬で、ここ5年間は3月上旬には抱卵に入っている。ふ化の時期も産卵の早い遅いにかかわらず、4月20日前後に一定している。巣立ちの時期はやや変動が激しいが、5月20日以降6月初めころまでが多い。

4. 親の懸命な巣立ちの促し

ある年、巣にいるひなたちに親鳥がえさをおとりにして空中を幾度も旋回し、懸命に巣立ちを促す光景が見られた。またある時には、巣立った後も崖の下部にとどまってなかなか動こうとしない幼鳥に対し、えさを足につかんだまま一緒に飛ぶよう促す場面もあった。

しかしいずれの場合でもひなや幼鳥が親について飛び立つシーンはなかった。

5. 狩り・犠牲になった鳥たちの種類

ドバト、ムクドリ、カケス、アカゲラ、アカショウビンなどの野鳥で、ヘビやカエル、トカゲなどの爬虫類や両生類をとらえてきたという事例は報告されていない。解体して首を切って運んでくるケースも多く、種の同定が困難なことの方が多い。

6. 侵入者(外敵)

ハヤブサにとっての侵入者は必然的に空を飛ぶ鳥類が多い。カラス、アオサギ、トビ及びノスリなど。

哺乳類ではカモシカが群を抜いて多く、日本シカはまれである。営巣地近くに若葉をついばみに来るカモシカを見ても、外敵ではないとすでに学習済みであるはずであるが、ある年には岩のガリー状になった茂みの奥にいたカモシカに猛然とスクランブル攻撃を仕掛けたことがあった。営巣地にいるヒナたちを襲うことは考えられないはずなのに、よほどナーバス(神経質)になっていたのであろうか。

2010年5月にはこんな事件が起きた。まだ十分飛翔能力がないハヤブサの幼鳥が巣から落下して崖の下部にうずくまってもがいていた。通報を受けた県職員が捕獲網を持って幼鳥に近づいたところ、親鳥からの攻撃を受けたため、身の危険を感じて撤退したことがあった。損傷の程度や状態は観察者への聞き取りとか、双眼鏡やスコープなどを使えばある程度判断できたはずである。自然界で起きていることに人間がむやみに手を出すべきではないという教訓でもあった。県には猛然と抗議し、知事にも「ハヤブサを捕獲しないで下さい」というメールを送った。

7. 地方区から全国区へ

当初はごくわずかの地元ウオッチャーのみしか知らなかったが、いつの間にかネットやSNSで拡散し全国区になってしまった。中部圏、近畿圏、首都圏および北陸圏など県外ナンバーが数十台公園に鈴なりになる年が続いた。車を止めてカメラを構えれば、ある程度の距離で猛禽類の子育てが観察できる。こんなロケーションの良い環境は他にあまり例がないことなどが、全国から人が押し寄せることになったのであろう。

しかしそれに伴いエチケットを守らない人も出てきた。車の置き方、ごみの散乱、花壇や畑への侵入、河岸道路を高速で走ることによる砂ぼこり、幼鳥にストレスを与えかねないような至近距離からの撮影等々、必要最低限のマナーは守ってほしいものである。

8. 多士済々の人が集まるサロン

初代発見者、地元の守り人、バタフライ撮影の名人、女性の皆勤賞愛好家、イラストレーター、歯科医師、獣医師、元天文撮影者、社会保険労務士等々が集まり、情報交換に花を咲かせて勉強になることが多かった。“白岩友の会”でも発足させて、お互いの情報交換、写真の出来栄え、反省点、改善点などを話し合う場があればと思い続けてきたが、一歩踏み出せないまま10年の歳月が流れた。今年は“高齢出産”のフレーズがトレンド入りした。

9. ハヤブサが白岩に住み続ける理由

都市鳥であり人口構造物を苦にしない。県庁の屋上やパラボラアンテナ、信濃毎日新聞社の屋上やホテル国際21などに頻繁に出入りする。対岸でカメラや双眼鏡をのぞく人間たちを敵だとは思わない。周辺にえさが豊富にあることが大きな理由か。

最近では商業施設や公共施設の屋上などに営巣する事例も多く報告されていて、都市鳥化している傾向が強い。一観察者としては孤高の鳥であってほしいと願う。

10. 次世代へのバトンタッチ

雌親のスムーズな世代交代がなされれば、継続して繁殖活動が行われる可能性がある。それができない場合には、当地区での繁殖活動は先細りしていくことが懸念される。毎年3~4羽のひなが巣立っているのだから、当地区周辺にテリトリーを持ち、つがいを形成している可能性は十分ある。フォークスウオッチャーは新規開拓を目指すべきである。

2022.06.18 長野市宮沖7 金沢 誠