タイトル:封じ壺
作家 :平良 志季
画廊 :靖雅堂夏目美術店
展示会 :LOVE×2妖怪SHOW アートフェア東京2018
購入日 :2018年3月10日
サイズ :8
技法画材:日本画
平良志季さんの「封じ壺」は、2018年3月のアートフェア東京で私が最初に買った絵画です。それまでは自分が絵画を購入するとは思いも寄りませんでした。それどころか美術館に行くことも殆どありませんでした。美術館は意外と混雑するうえ、ベンチは少なく、のんびりと休日を過ごすには心地良い環境でないことも多い(印象派やゴッホやピカソくらいしか名前が出てこないので、あえて混雑する展覧会を選んでしまうのも悪い)。
もう一つ、私を美術から遠ざけていたのは、現代アートはよくわからない抽象画やポップなもの、名前を上げれば、草間彌生、ジャクソン・ポロック、キースヘリング等々、もちろん社会に浸透しすぎたために一般人からすると斬新さが感じられない側面もあるでしょう。なので、アートフェア東京は友人に誘われて半ば仕方なく行ったわけです。しかも販売するくせに入場料を取るんかい、と文句を言いながら。案の定よく分からないものが、よく分からない価格で売っているので、直ぐに帰りたくなったのですが、平良志季さんのブースを見たときは、こんなユニークな作品もあるのかと思いました。誰が見ても楽しさを感じる作品だと思います。「封じ壺」は私のアート熱を開放した記念すべき壺になったわけですね。私は「始まりの壺」と別名を付けています。
「MY ART ROOM」というホームページを立ち上げたのは、個々のアート作品の善し悪しを誰も説明してくれないからです。美術館の解説も作者の経歴や出身など作品にまつわる周辺情報が列挙されているだけで、率直に面白くありません。ということで、自分になりに作品の良さを発見しようと思い至ったのです。鑑賞のポイントは、主にモチーフ、構図、色彩、描き方(筆使い)の4点になります。この点に注意しながら、ひねもす作品を鑑賞していると作品の魅力が浮かび上がってきます。文章にすることで、あらためて作品の良さを確かめることができます。とは言え、杓子定規に絵画を分析しようとすると、本質を見失ってしまうように思います。結局のところ「直感」が大事というのも正論であり、絵画鑑賞はこの冷静と情熱のあいだ[1]にいるようなものです。
それでは「封じ壺」を鑑賞していきましょう。この作品の中心を占めるのは大きな白磁の壺です。壺は絵画で描かれやすいモチーフですが、これだけ堂々とした壺はなかなかお目にかかれません。かなりうす塗りで右側は下地が透けて見えるほどで、ガラスのような光沢を感じます。胡粉を厚く持ってしまうと重たい印象が拭えなかったでしょう。このツボは高級な謎めいたオーラを漂わせています。よく見ると龍が描かれていますね。これは北宋の定窯で作られた白磁陽刻白龍文取手付壺と鑑定しました(空想です)。取っ手にぶら下がる紐もポイント。左右の長さが違うため、妙なアンバランスさが生まれます。何やら悪いことが起きそうな予感がしてきませんか。詳しく構図を考えてみましょう。取っ手の紐は鑑賞者から見て左が長く右が短い。右上がりです。壺の蓋は左から持ち上げられていますから、右下がりになります。壱目様の配置と動き、細長い布(壺に巻かれていたのか、壱目様の羽衣の類なのか)も同じような流れになっていることに気がつきました。つまり右の取っ手に向かって「>」の形になっています。これにより「動きのある絵」になるわけです。
また、壺が載せられている漆の台を見てみましょう。随分と小さく感じませんか。壺に敷かれた布か座布団のような敷物も小さい。指で押せば直ぐに倒れてしまいそうです。壺がひっくり返り、割れてしまう。そこに持ち主が帰ってくる。壱目様はこの難局を乗り切れるのでしょうか。
壱目様
壱目様は平良志季さんの創作によるキャラクターで、古事記にも出てくる「天目一箇神」がモデルです。「MY ART ROOM」で紹介している「壱目様と吸血鬼」にも登場していますが、体の色は緑と薄橙と全く違います。壱目様の亜種かもしれません。白い眉毛は垂れ下がり、お爺ちゃんの雰囲気がありますね。「封じ壺」は2018年3月のアートフェア東京で購入したものですが、平良さんが妖怪をモチーフにしてから比較的初期に制作されたそうです。便宜上、この壱目様をプロトタイプ、吸血鬼から逃げる壱目様は通常型としましょう。通常型の壱目様は人間の目を一つにしたものですが、プロトタイプは目が縦に割れているのも特徴です。妖怪の異質な雰囲気がアップ。通常型は丸顔なのに対し、プロトタイプ壱目様は面長のため、目は縦に長くしたほうがバランスは良い。ちなみにプロトタイプも通常型もかなりの福耳。
壱目様の羽衣又は壺に巻かれていた細長い布も見所です。画面に流れがでるのはもちろん、裏表の捻じれもポイント。表の紋様も丁寧に描かれています。左上の煙のようなものも気になります。「封じ壺」には何が入っていたのでしょうか。真ん中の壱目様が大事そうに抱える茶色の粒、長寿の薬かはたまた媚薬か。御札にヒントが隠されているのかもしれません。(2022年6月12日)
[1] 小説、読んでいるはずなんですが、あらすじすら覚えていない。小説はタイトルが大事。さらに余談ですが「世界の中心で、愛をさけぶ」の元々のタイトルは「恋するソクラテス」だったそうです。これでは売れませんね。絵画は一瞬で全てを観られるためか、タイトルは重視されない傾向があります。もっとも多い題は「無題」でしょう。「Untitled」というキャプチャーを見ると鑑賞者のテンションは下がります。絵画もタイトルをよく考えた方が良いかもしれませんね。