NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)

NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)はシトクロムP450などが触媒する酵素反応に必要な電子を供給するフラビン酵素です。シトクロムP450はヘムを補酵素とする酸素添加酵素で、1960年代に日本人によって再発見された酵素です。シトクロムP450はコレステロール、ステロイドホルモン、薬物などの代謝に深く関わります。また、CPRの変異が原因の病気として副腎酵素欠損症(特定疾患)の一つであるAntley-Bixler症候群が知られています。

またCPRはヘムオキシゲナーゼ(HO)にも電子を供給します。CPRはFMNおよびFADを補酵素として結合していて、FMNを結合するドメイン(FMNドメイン)とFADを結合するドメイン(FADドメイン)に分かれています。

CPRの立体構造(close型)。黄色はFMNドメイン、オレンジはFADドメインを示す。

FMNの構造式。FMNのリン酸基にアデノシン一リン酸が結合したものがFAD。FMNもFADも様々な酸化還元酵素の補酵素として働く。

HOのヘムを分解する酵素反応やシトクロムP450が酵素反応を行うためには電子の供給が必要で、これを供給するのがCPRです。HOとCPRそれぞれの立体構造はX線結晶構造解析により解明されていましたが、HOなどのCPRから電子を受け取るタンパク質とCPRとの複合体の立体構造は不明でした。特にCPRはその状態によって、立体構造が大きく変化する(close型とopen型)ことが知られており、HOやそれ以外の電子を受け取るタンパク質をどのように認識して、電子を受け渡すのかは不明でした。

我々は、HOとCPRが結合した状態の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにしました。また、この複合体の立体構造が溶液中でもほぼ同様であることを、X線小角散乱により明らかにしました。

構造解析の結果、CPRは”open”と呼ばれる形でHOと結合していました。”open”ではCPRに含まれるFMNがCPRの外側に露出しています。一般的にCPRから相手タンパク質へはNADPH→FAD→FMN→ヘムの順序で電子が受け渡されると考えられています。CPRとHOの複合体中ではFMNとヘムが6Å程度の距離にあり、FMNからヘムへの電子伝達はスムーズに進むと考えられました。しかしFADとFMNの間は20Å以上離れており、この形のままではFADからFMNへの電子伝達は困難です。

従って、FADからFMNへの電子伝達時には”close”と呼ばれる形へのCPRのダイナミックな構造変化が生じて、NADPHからFMNへと電子を受け渡すと考えられます。

openからcloseへの構造変化では、HOはCPRと立体的に衝突するので、CPRから電子を受け取った後にCPRから解離すると考えられました。このようなCPRの構造変化を伴う電子伝達反応はHOとの場合だけではなく、シトクロムP450との電子伝達反応においても同様と考えられ、研究成果の波及効果が大きいことが期待されます。

紹介記事

関連文献

  • Sugishima M., Sato H., Higashimoto Y., Harada J., Wada K., Fukuyama K., Noguchi M. "Structural basis for the electron transfer from an open form of NADPH-cytochrome P450 oxidoreductase to heme oxygenase." (2014) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 2524-2529.
  • Higashimoto Y., Sugishima M., Sato H., Sakamoto H., Fukuyama K., Palmer G., Noguchi M. "Mass spectrometric identification of lysine residues of heme oxygenase-1 that are involved in its interaction with NADPH-cytochrome P450 reductase." (2008) Biochem. Biophys. Res. Commun. 367, 852-858.
  • Higashimoto Y., Sakamoto H., Hayashi S., Sugishima M., Fukuyama K., Palmer G., Noguchi M. "Involvement of NADPH in the interaction between heme oxygenase-1 and cytochrome P450 reductase." (2005) J. Biol. Chem.280, 729-737.