研究内容

私たちの体の中では、様々な物質(タンパク質やDNA, RNAなど)が存在します。

それらが密接な関わり合いを持ちながら、それぞれの機能を果たすことで、

私たちは生命活動を営むことができます。

私の研究内容は、それらの物質の立体構造を明らかにすることで、

それぞれの機能や関わり合い方を原子レベルで明らかにすることです。

これらの物質の大きさは、数nm~数十nmと非常に小さな物です。

小さな物の形を見る装置として、顕微鏡がありますが、

一般的な光学顕微鏡は0.2μm程度の大きさの物までしか見ることができず、

私の研究対象はその1/10以下の大きさなので、扱うことができません。

そこで、私たちはX線結晶解析という手法を用いて、立体構造を決定しています。

X線結晶解析は対象を結晶化する必要がありますが、最も高精度な構造を得る手法です。

百聞は一見に如かずという言葉がありますが、

物質の立体構造がわかっていると、その物質の機能をより深いレベルで知ることができます。

また、医薬品は通常、体の中の様々な物質と結合することによって、その効果を発揮しています。対象となる物質の立体構造がわかっていると、その物質に結合する物質の形や性質も想像がつきます。そのため、製薬会社でもX線結晶解析を用いた研究は盛んに行われています。

研究対象

  • ヘム分解酵素(ヘムオキシゲナーゼ)
    • 血液の色の源であるヘムは、赤血球の新陳代謝に伴って毎日分解されています。また、外傷による内出血時にも、ヘムは分解される必要があります。ヘムオキシゲナーゼはヘム分解経路の律速酵素であり、基質であるヘムを酸素を活性化する補酵素としても用いるユニークな酵素です。
  • NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)
    • シトクロムP450はヘムを補酵素とする酸素添加酵素で、1960年代に日本人によって再発見された酵素です。コレステロール、ステロイドホルモン、薬物代謝に関わる重要な酵素です。NADPH-シトクロムP450還元酵素(CPR)はシトクロムP450の酵素反応に必要な還元力を供給するフラビン酵素です。またCPRはヘムオキシゲナーゼにも還元力を供給します。
  • フェレドキシン依存性ビリン還元酵素(PcyA)
    • 高等植物で光センサータンパク質として働くフィトクロムや紅藻類、シアノバクテリアの光捕集器官であるフィコビリソームはヘムの代謝産物であるビリベルジンが還元された色素を持ちます。これらの色素を合成する酵素がPcyAに代表されるフェレドキシン依存性ビリン還元酵素です。この酵素ファミリーは一電子還元によって基質内に生じたラジカルを上手く制御して、特定の部位を還元します。
  • クロロフィル代謝酵素(RCCR)
    • 光合成色素として有名なクロロフィルは、紅葉(黄葉)や病原菌感染を防御するための細胞死誘導時に活発に分解されます。RCCRはクロロフィル分解経路の後半で働く酵素で、フェレドキシン依存性ビリン還元酵素の類縁酵素です。
  • ビリベルジン還元酵素
    • ヘムオキシゲナーゼに引き続いて働くヘム分解経路の酵素。NAD(P)Hからの還元力を利用して、ヘムの代謝産物であるビリベルジンをビリルビンへと還元する。ビリルビンは生理的な濃度では強力な抗酸化作用を持つ物質として知られるが、何らかの原因で過剰となると黄疸の原因となる。ビリルビンはグルクロン酸抱合を受けたのち、胆汁へと排泄され、腸内細菌の作用による代謝ののち、便として排泄される。