知的障害の子どもは、特性に応じた支援を受けながら発達します

一般的には【知的障害】の呼び名として知られており、これ以前は【精神遅滞】とも呼ばれていましたが、近年は【知的発達症】の名称として広がりをみせています。症状の多くは幼児期に気付かれ、障害の程度は知能検査等の数値だけでは決まることはなく、本人の自立度や社会に対する適応の状況等を知ることで、総合的に判断されます。彼らは必要な支援を受けるだけでなく、本人に適した教育から日常において必要となる実用的な生活動作を習得し、理解ができる範囲で社会性を発揮します。


1. 知的障害と発達障害の違い

2. 知的障害の生活動作

3. 知的障害のコミュニケーション

4. 遊びと余暇について

5. 知的障害の概念や社会性



1. 知的障害と発達障害の違い

★知的障害は症状で、発達障害は総称

国際的な疾病分類(病気の症状に対する)において、知的障害(知的発達症)は、発達期に認められる脳の機能を要因とした行動や認知機能の不全を指す「神経発達症群」に分類されています。尚、神経発達症群には、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、発達性学習症、発達性協調運動症等も含まれています。

日本の発達障害者支援法では、自閉症(ASD)やアスペルガー症候群その他の広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、又は学習障害(LD)等を「発達障害」と定義しています。知的障害が含まれていない背景として、この法律が定められる以前に、知的障害者の福祉向上を目的とした知的障害者福祉法が制定されていたからです。参考として知的障害者福祉法は1960年に、発達障害者支援法は2004年に定められています。

発達障害や神経発達症群は特定のグループを表す総称であり、知的障害、自閉スペクトラム症等は各々の状態を示す症状です。

知的障害を抱える方の中には、自閉スペクトラム症を併せもつ場合があります。軽度や中等度の知的障害に該当しつつも、言葉を介しない非言語コミュニケーション(表情理解等)に、いちじるしい不得意さを見せたり、対人関係においては友人を持つことが苦手であったり、交流の発展に興味を示さないケースがあります。障害を抱える人を理解するには、知的能力がどの程度かを探り知るだけでなく、コミュニケーションや対人関係の傾向を把握するべきです。


2. 知的障害の生活動作

●箸を使えたり、フォークのみだったりと状態は異なってはいるものの、一人で食べることができる

●幼児期に着替えを覚え、自分で脱着できることもあれば、学齢期(6~18歳)を経て身に付ける児童がいる

●排泄(トイレ)の自立度は個人よって異なり、周囲の声掛けや介助を必要とする子供がいる

●重度の児童でも、大人のペースに合わせて歩けるようになる

食事に関しては、自分一人で食べられるようになるケースが多く、動作は幼児期から学齢期にかけて習得します。使用する食具は、扱いやすいフォークやスプーンのみの場合もあれば、箸の操作を身に付ける子供もいます。食べこぼし等は、自分で気付いて対応する児童もいますが、どう対応するべきかの判断が難しいお子さんもいます。

衣服の脱着動作は、比較的どの児童でも習得しやすいです。着る動作は大概の子供達は膝までのズボン上げや、腕の袖通しをおこなえます。ボタンやファスナー類は、個々の能力だけでなく、練習の頻度に応じて習得状態が異なります。重度のお子さん達は、衣類の前後を理解する、靴下履きの踵合わせ、ズボンの中への下着入れ、履物の左右などが難しく、声掛けを受けることで正すことができ、介助を得ながら行っています。

重度知的障害の排尿行為は、幼児期だけでなく学齢期を含めて身に付けていきます。排便も同様で、適切にお尻を拭く行為ができないケースにおいては、介助を受けています。その他、排泄意思の確認や定期的な時間誘導を必要とするお子さんがいます。

移動について、危険に対する認知度が乏しい幼児期は、支援者に手を繋がれて歩くケースが多いです。学齢期になると、歩くペースの安定や支援者の声掛けに反応できるため、一人歩行の練習が始められ、その後は訓練次第で、面識の少ない支援者と一緒に行動が取れるようになります。

軽度知的障害の子供は、幼児期の段階で生活動作に遅れ(症状)を表さない可能性があります。ただし、かなり不器用で動作習得までの歩み(進歩)がゆっくりしている可能性はあります。


3. 知的障害のコミュニケーション

●会話は十分に成立するが、抽象的な話はかなり難しい

●自らの言葉で発信できる単語は限られている。でも意思表示はおこなえる

●声のトーン・大きさ、表情やジャスチャー、視覚的な手段で関わりが持てる

軽度知的障害のお子さんは、自分の知っている言葉の範囲を使用して会話が楽しめます。言葉数も学校での学びや関心がある内容を中心に増え、冗談に反応し理解する様子もみられます。だだし「どんな」や「なぜ」を含んだ問いかけに対しては、曖昧な設問の為に受け答えを苦手とする傾向があります。

中等度の子供達は、日常生活の中で頻繁に使用する言葉を理解していきます。発語を持つ児童は、挨拶や欲求等の言葉を覚えたり、テレビ等で見聞きしたワードを言葉にしたり、身近な保護者などの言葉を真似したりします。密接に寄り添う大人側が豊かな表現をすることで、自分に向けられた言葉の意味や文脈、意図の理解もみせます。

言語理解が難しい児童は、実物を目の前に提示されたり、対象物を指差しで示されると、指示が伝わりやすい傾向があります。子供からの意思表示を読み解くときは、表情から「喜び」「怒り」「悲しみ」を。地団駄等の動作からは「不満」「怒り」「欲求」の推測ができます。表情理解がある児童に良いこと悪いことを伝える際は、支援する側が表情を交えて関わると理解しやすくなります。


4. 遊び・余暇について

●楽しいと感じることの幅は、子供の持つ知的能力で異なる

●内容は幼いかもしれないが、テレビを観るし音楽も聴いて楽しむ

●水や砂、風等が体感できる遊びは嬉しいし、口で感触を確かめたい

●成人期までを視野に入れると、本人の好む遊びや余暇を持つことが望まれる

軽度知的障害の児童は、アニメだけでなくバラエティー等の番組を楽しむばかりでなく、番組の選択もできます。複雑な内容でなければ、集団でゲームをすることも可能です。中等度のお子さんも、特定のキャラクターが気に入ればテレビを見続けたり、自分が知っている音楽が聴こえてくれば、その番組に関心を向けたりします。重度の子供達は、音が鳴ったり、光が出たり、動きがある玩具へ興味を向ける傾向が強く現れます。指先にザラザラ等の触感が得られる玩具も好み、与えれば自分のペースで遊ぶことができます。

触覚に過敏さをみせない場合は、水、砂、風等の体感遊びを非常に好む傾向があります。重度の児童は学齢期以降も体で感じる遊びへ関心を向け、手で触るだけでなく、感覚の鋭い口で確かめようともします。又、体感の種類はプールや砂場だけでなく、強風を受けたり、落ち葉を踏みつけたり、手を繋ぎ走る等が喜ばれる傾向があります。

公園に設置してある遊具の滑り台は遊びやすい反面、面白さが得られないばかりでなく、怖さを覚えることもあります。揺れに合わせて膝を同調させるブランコや、手足の運び位置を考えながらおこなうアスレチックやジャングルジムなどは、体の動かし方を理解できないことから、遊びが難しい児童もいます。

遊びや余暇は、当事者が人生を歩み上で非常に有意義な時間です。知的能力に障害がある子供達の遊びは、一般と比較して幼いかもしれません。ただし、自分一人で余暇を楽しめることは何よりも大切で、養育者・教師・支援者等のサポート者達は24時間付き切りになることはできません。最重度の子供達は、好みの遊びや余暇を見つけづらいですが、乳幼児期から「好きなこと」を探して下さい。


5. 知的障害の概念や社会性

5-1. 軽度な知的障害に該当するケース

●文字は読めるけど、内容の読み取りが得意でない

●規則は知っているが、正確に沿えない

軽度知的障害の子供達は、平仮名や漢字を含めた文字の読み書きについて、個々の知的能力に応じて学ぶことができます。ただし、読み取りの正確さや、要点を文章にまとめるなどの複雑な学習は苦手な傾向にあります。計算は、計算の処理が早くないだけでなく、暗算を苦手とするケースがあります。金銭については、硬貨や紙幣に表示されている数を、数量として扱うことが難しい場合もあります。

社会的なルールや規則は、文面として読み取れるばかりだけでなく、理解を示すこともできます。ただし、実際のルールが適応される場面に遭遇すると、一般的な子供達よりも判断の不正確さが見られます。又、身に付けた社会性を、状況に応じて使い分けることは極めて苦手としています。その他、不安定な感情や自尊心の低下から、社会的な物差しとなる行動が乏しいケースもあります。

5-2. 中等度な知的障害に該当するケース

●平仮名の読み書きをできる児童がいる

●大人から声を掛けられれば、理解できる範囲の中でルールに従うことができる

中等度知的障害児の場合、理解できる範囲の学習を積み重ねることで、たどたどしさを残しつつも平仮名を読むことができたりすることがあります。数は1~10までの数を連続して声にすることのできる児童は、物をひとつひとつ数える機会を繰り返すことが有効となります。数の大きさを意味する数の量の概念は、理解できない児童がいます。その他、信号機の色の理解や、自宅から学校までの通学路、一人での登下校等は、適切な学びを得ることで習得できるお子さんもいます。

「静かにしましょう」「並びましょう」「走らない」等の簡単な決まり事を、どの状況で行うかの判断は難しいです。ただし、大人や支援者の言葉を受けて静かにすることや、周囲の様子に順応することは習得可能です。