福岡西陵高等学校 吉本 悟
「竹取物語」を読んでいるところで、臨時休校に入りました。授業では「敬語」に気をつけながら、「辞書を引かずにその場で口語訳をつくる」ということにチャレンジ中でした。テキストも途中までしか読んでいないので中途半端ですし、休校中にも少しは古文のテキストに触れて欲しい(日常生活で「自然と古文を読む」なんて場面は期待できませんから)ので、「口語訳をつくって写真に撮り、データで提出」という課題をLMSで配信しました。
口語訳を「打ち込んで提出」よりも「写真に撮って提出」の方が、ぐっとハードルは下がります。普段使いのノートやプリントを撮影するだけなので、割と手軽にできる課題提出方法です。
とはいえ、1人で口語訳をするのが難しいという生徒もいるでしょう。「竹取物語」ほどの有名なテキストの口語訳は検索すれば簡単に手に入るし、電子辞書でも確認できるのではないでしょうか。だから「書き写す」ことは簡単にできます。でも今回の学習は「辞書を使わずにその場で口語訳する」に重きを置いていたので、調べて書き写しになっては意味がありません。そこで、Zoomを使って自由参加の補習授業を行いました。
生徒の提出した写真
使用したのは2台のiPadです。1台をホストにして、もう1台は参加者としてミーティングに入っています。写真の手前の1台は画面共有用です。このiPadの画面を生徒に画面共有しました。Metamoji Noteというアプリを使って、テキストに注釈を加えながら解説します。もう1台のiPadはモニター用で、こちらがホストとして参加しています。生徒の表情や、チャットの書き込みを見るのに使います(画面共有中のiPadでは相手の様子などが見れません)。ホスト側の端末はスマホやPCでも問題なさそうです。
ビデオ会議での授業だったので、「一方的な知識伝達と解説になるのでは?」と危惧したのですが、Zoomのチャット機能やリアクション機能は想定以上にインタラクティブでした。「この文訳せる人?」や「この助動詞の意味は?」など生徒と対話しながらの授業が可能でした。普段の授業よりも生徒から質問が多く出たのも印象的でした。案外、画面越しの方が生徒も遠慮がないのかもしれません。収録した動画の配信ではなく、ライブで繋がっていることとリアクションを求められているというのが生徒の集中力を高めるのかもしれません。
Zoomにはブレイクアウトルームという小グループをつくる機能もあるので、小集団の話し合いも可能です。つまり「解説」「発問」「発表」「話し合い」という学習活動なら普通にできてしまうことが分かりました。ジグソー法での学習もLMSで資料配布を行えば十分に可能でしょう。
Zoomによるオンライン補習と現代語訳の提出だけでは折角の「竹取物語」が面白くないので、生徒たちには追加で3つの課題を用意しました。
休校期間中は時間があるから、この際「竹取物語」を読破したり、映画などの他メディアで物語を楽しんだりするのも良いと思います。
「かぐや姫はなぜ地球に来ていたのか?」みなさんは考えたことありますか?
A かぐや姫の罪と罰を解説
かぐや姫の犯した罪、そして罰は何だったのか?
自分なりに考察して解説しよう。レポート形式の解説を紙に書いて写真に撮っても、解説動画でも構わない。とにかく形式は自由。分かりやすいように工夫した解説を提出すること。
B 現代版かぐや姫を創作
現代にかぐや姫が来ていたら、どんな貴公子に求婚され、どんな無理難題を言いつけるだろうか?
物語を創作しよう。登場する貴公子は1人でも良い。形式は小説、マンガ、動画、戯曲のいずれか。小説や漫画はワードなどの文書ファイルでの提出もOK。
C 現代語訳のトレーニング
五人の貴公子のどれかの場面を1つ選び、ノートに原文を書写し、横に現代語訳をつくって書き込もう。インターネットで検索すれば現代語訳も簡単に手に入るので調べれば簡単だが、力がつかないとやる意味がない。間違えてもいいので現代語訳のトレーニングにすること。写真に撮って提出すること。
Aは考察を楽しむ課題。Bは創作を楽しむ課題。Cはガツガツ勉強したい生徒のための課題です。
以下は、課題文として生徒に提示したものと、生徒が提出したデータです。
【追加課題】
「竹取物語」について調べ、ABCの、どれかにとりくみましょう。(2つ以上でも可)
『竹取物語」は、みんなが知っている通り昔話「かぐや姫」です。
お爺さんが竹の中からかぐや姫を発見し、育て、美しく成長したかぐや姫が月へ帰っていくというお話ですよね。
もう少し詳しく、かぐや姫が求婚してくる五人の貴公子に無理難題を言いつけることや、帝に求婚されること、月に帰る前にかぐや姫が翁と帝に手紙とプレゼントを贈ることなども知っているという人もいるでしょう。
でも、そもそもなぜ、かぐや姫が地球に来ていたのかを知っていましたか?
この前、みなさんが読んだ文章で、かぐや姫は「昔の契ありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。」と告白しています。
現代語訳すると「前世からの因縁があったことによって、この世界に参上したのです。」です。
前世からの因縁…?
それって、何でしょう?
物語の終盤、かぐや姫を迎えに来た月の人が翁に言うセリフがあります。
「かぐや姫は、罪をつくり給へりければ、かく賤しきおのれがもとに、しばしおはしつるなり。」
訳せますか?
「かぐや姫は、罪を犯しなさっていたので、このように身分の低いお前のもとに、しばらくいらっしゃったのである。」
衝撃の事実!つまり、かぐや姫は月で何らかの罪を犯したので、罰として地球に飛ばされ、子どもの状態から人生をやり直したということです。
地球で生活することが、かぐや姫に与えられた罰だったのです。
でも、かぐや姫は翁と嫗に大切に育てられ、お金持ち、美人で多くの男性に恋しがられる…。
この生活、幸せそうに見えますが、一体どこが罰なのでしょうか?
罰とは罪にふさわしいものが与えられるはず。かぐや姫の犯した罪とは何だったのでしょうか?
「竹取物語」についてもう少し調べて、これを考えてみてください。
「竹取物語」について知る方法をいくつか紹介しておきます。
1.原文と現代語で読む
http://www.manabu-oshieru.com/daigakujuken/kobun/taketori.html
2.現代語訳のみ読む
(1)青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/001072/files/48310_42692.html
(2)iPhoneで読めるApple Books
https://books.apple.com/jp/book/%E7%AB%B9%E5%8F%96%E7%89%A9%E8%AA%9E/id566895926
3.映画で観る
スタジオジブリ「かぐや姫の物語」
http://www.ghibli.jp/kaguyahime/
この映画は原作「竹取物語」とは少し違いますが、よくできています。できれば、現代語訳で読んだ後に観て欲しいです。ネット配信されていないのでDVDをレンタルしましょう。また、ネット上にはこの映画を解説した記事で「かぐや姫の罪と罰」に言及したものも多くありますが、それが「ただ1つの正解」ではないことに気をつけてください。ネット上の誰か、または映画監督の「個人的解釈」に過ぎません。参考にしても鵜呑みにせず、「自分の解釈」をつくることを楽しみましょう。
生徒の提出したデータ
生徒は映画「かぐや姫の物語」を観て、さらに高畑監督のインタビュー記事などを調べたようです。インタビュー内容を写すだけでなく、自分の考えも根拠を持って書けていて素敵だと思います。うん。おもしろい解釈。
時代背景を調べて考察したのが伝わります。
生徒には、友達や恋人、家族と映画を観た後にカフェやレストランでこういう会話ができるようになって欲しいと私は思っています。それは物語や古典を学ぶ価値の1つではないでしょうか。
リンクを送って、メディアミックスで好きな時間に学びを深められるのはオンライン授業の特権だと感じました。
ICTはインプットの学習を容易にアウトプットの学習に変えます。「習得→活用→探究」を「探究→活用→習得」に変えます。言うなれば静的学習から動的学習への変化です。静的学習が苦手だという子どもが生き生きと学ぶ機会になります。宿題を楽しむ子どもの動画を紹介します。この学びが私の憧れです。こんなに宿題を楽しめる授業を創りたいといつも願っています。
福岡西陵高等学校 吉本 悟
オーストラリアのセカンダリースクールで日本語を学ぶ生徒との交流活動を行いました。
使用したのはZoomというビデオ会議システムです。
20世紀にはエアメールを使ったPen Pal(文通)での生徒間の国際交流がよく行われていました。経験した先生もいるのでは?
今でも手紙には他の通信手段にはない良さがあります。しかし、21世紀も20年近く過ぎました。コミュニケーションツールは進化しています。
今はリアルタイムのビデオ会議での交流が可能です。音声通話のみだと難しくてもビデオ会議なら映像もあるので安心です。ジェスチャーはもちろん、手元の紙に書いた文字を見せることも、チャット機能で文字の文章をやりとりすることもできます。「読む」「書く」だけでなく、「話す」「聞く」の4技能をフルに使った交流が活動が可能です。
リアルタイムの交流活動を行う際の大きな障壁は「交流相手の確保」と「時間調整」です。とはいえ、「交流相手」はPen Palの時代から存在するわけで、今ならその気になればインターネットやSNSで知り合うことも可能でしょう。
「時間調整」は思った以上に厄介な問題です。日本の学校同士でもそう上手くいきません。互いの学校の授業の時制が異なるため、授業時間をフルに使うことが難しいのです。まして、国際交流となれば時差も存在します。せっかく相手を見つけて国際交流をしても、わずか15分でチャイムが鳴って終了では残念ですよね…。
本校ではオーストラリアの学校と交流を行っています。時差が少ないのでリアルタイムのビデオ会議での交流がもともと行いやすいのですが、しっかりと時間を確保するために放課後の課外活動として希望生徒同士で行います。
しかし、日本の高校では3月は入試や成績会議に忙しく、放課後にあまり時間をとることができません。そのため、相手との都合もつかず3月の開催は難しいと思っていたのですが、臨時休校措置となり、放課後に限らずとも自由に時間設定ができるようになりました。もちろん放課後には会議も部活動もなく、時間設定はとても容易になりました。つまり今回の交流は休校中だからこその利点を活かした実践だったと思います。
生徒たちは家から自分のスマホでZoomのミーティングルームにアクセスし、ホスト役の教師がブレイクアウトルームという機能を使って生徒たちをグループに振り分け、グループごとの小ミーティングルームで交流を行いました。
グループには日本の生徒とオーストラリアの生徒がそれぞれ2〜3人いますが、自宅から一人で参加しているため、日本人らしい「恥ずかしさゆえに日本人同士で目配せして笑ったり、こそこそ話をしてしまったりする」というマイナス行動ができません。シャイになっていては何も発言できずに終わってしまうため、多くの生徒が必死で英語を話そうとしている姿が見られました。放課後に学校で行うよりも良かったかも知れません。
盛り上がった生徒たちはInstagramのアカウントを交換して、交流を自主的に続けているようです。
近隣の学校との交流だと、こういった個人の繋がりには生徒指導の観点から少し気を使いますが、他国の生徒と繋がっても心配ありません。どんどん友達になって、交流して、国際経験を積んで欲しいと思います。
こういった経験を生徒に積ませられるのも、交流相手がいてこそです。本当にありがたいです。
私たち教師自身がどれだけ多くの自校外の人と繋がれているか。その繋がりがそのまま生徒に還元される…。
そういう時代なのでしょう。
近畿大学附属高等学校 神野 学
本校英語特化コース1年生は、3月の特別学習期間に、東日本大震災に関する学習を行う予定でいました。東北の悲しい犠牲から私たちが学んだことを、世界へと届けようとするプロジェクトです。突然の休校措置を受け、実施方法は、すべて、オンラインでの活動へと切り替えることとしました。
1年間を通じて、授業をはじめ様々な場面でiPadを利活用してきた生徒たちだけに、適格にiPadの様々な機能を利活用しながら、課題を成し遂げることができました。結果、オーストラリア・ニュージーランド・イギリスの計12の学校にてプレゼンをさせてもらうことができ、東日本大震災から私たちが学んだことを、世界へと届けることができました。
以下のブログに、その取り組みをまとめています。