第四章「生活の手引き」

語録

「精霊」

・(マカ)クラスィーナ

神。月。宇宙。

・(マカ)アポストールナ

月の使徒。天使。

・ドゥーシャ

魂。

・(ダリ)ズローイ

悪魔。悪霊。

「聖職者」

・(マカ)ニャーニャ

ハラムニの神官。

・(マカ)ジェヴァールニ

教会長。

・マカシェーストラ

教会で働く人。姉の意。

「建物や物」

・(マカ)ハラムニ

月の神殿。クラッシナ教総本山(運営組織)。(建物は損失。現在は後者の意味で使われる)

・マカドームニ

教会。

・(マカ)チャーシェルニ

聖杯。

・(マカ)アトリヴァールニ

月の雫。

・(マカ)アムリェット

クラッシナ教のシンボル「月と聖杯」。銀製。

・(マカ)ルニーガ

聖典。

 クラッシナ教では、純粋太陰暦を使用する。

 第九の使徒ノーンナ様がご降臨された新月の晩である西暦九四四年四月二五日をクラッシナ歴零年零月零日とし、翌晩をクラッシナ歴元年一月一日とした。

 一年は十二ヵ月とし、新月の翌晩を月の始まりとし、日没を以て日の始まりとする。

冠婚葬祭

はじめに

 クラッシナ教は母を象徴する月を信仰するため、いずれも月の出ている晩にマカドームニで行うこととする。

 誕生してから一八年が経った者が、成人の儀においてマカシェーストラとともに祈りの句を読み上げることで成人とする。

また、成人するまでは種をなすための行為は硬く禁ずる。

 成人した者同士が、お互いを支え合い、死がふたりを分かつまで愛し続けることを誓う儀式。二人は姓を作ることができ、以降はそれを二人の姓とする。

 死ねば全ては母に還る。魂は月の光に導かれ空間中に霧散する。肉体は速やかに母の一部である大地か海に還すため、火にかけ灰にすること。

 ただし死後九日間は別れの時とし、灰を持ち帰って共に過ごしてもよいとする。

 そしてその後は灰を土か川か海に還すこと。

 もし魂だけ還し、肉体を還さなかった場合、次に産まれてくる者の体が欠けることになる。

・毎月、満月の日は感謝日とする。母が見守ってくれていることに仕事を休み、大切な人と生きる喜びを分かち合うこと。

・毎月、新月の日は休息日とする。母が眠り、ズローイの力が増し非常に危険であるため、各々できる限り家に籠もり、静かに過ごすこと。また、月の雫を一滴口に含むと良い。

・毎年、元日を生還祭とする。一年間、反転の夜が来なかったことを祝う日である。盛大に祝い、生の喜びを実感すること。

・毎年、四月の満月の日を兎月祭とする。第四使徒ヨマーの試練で兎が月へと昇ったことを祝う日である。

・毎年、最後の日を降臨祭とする。反転の夜が近いことを告げるためご降臨なされた第九使徒ノーンナ様への感謝と、そのままこの一年を無事に過ごせるよう戒める日である。

善い行い

・母を信じること。そうすれば死後、迷わず母の下に還ることができるからだ。

・母に祈りをささげること。それは母との対話に他ならない。母はあなたがどんな行いをしたのか、あなたの口から話してくれることを喜ぶだろう。

・よく調べること。人は知らないものに恐怖を覚えます。そして知らないがゆえに誤った判断を下してしまうことがあるだろう。

・敵対するものの言うことを聴き、吟味すること。敵対するものが悪であるとは限らない。もしかしたらあなたが知らぬ間にズローイに犯されているかもしれない。常に相手の言い分を聴くこと。

・産みの母にも感謝を捧げ、尊重すること。その母がいなければ、私たちは生まれてくることもできなかったのだ。

・育ての親にも同じだけ感謝を捧げ、尊重すること。その親がいなければ、あなたはここまで生きてくることができなかっただろう。

・母を信じない者も母の娘である。決して見下したり差別しないこと。全ての命は平等である。

・母を信じない者には、母の存在を教えること。母を信じない者は死後、母の下に還ることができず、苦しみ続けるであろう。

・怒りや憎しみを捨てること。それはズローイによって引き起こされている。憐み、そして愛を注いで手を差し伸べること。そうすればズローイから脱却することができるだろう。

・富は他の姉妹のために使うのが良い。富は欲を産み、欲はズローイを産み出すのである。そのため清貧に過ごすこと。

・皆、母のように愛を注ぐこと。愛とは求めるものではなく、無条件に与えるものである。

悪い行い

・母を信じないこと。そうすればあなたは死後、母の下へ還ることができずに周囲に悪い影響を与えることとなる。

・物事を良く知らずに判断すること。知らないことによって生まれる不安感はズローイに憑りつかれる原因となる。

・自ら知識を得ようとしないこと。知ることは正しいことである。

・自らの行いが絶対に善であると思い込むこと。知らずの内にズローイによって誤った判断をしているかもしれないからである。

・たとえ罪を犯した者がいても、憎んだり恨んだりしないこと。誰もがズローイの囁きに頷いてしまうことはある。人を憎まないこと。その者もまたズローイの被害者である。

・ズローイもまた憎まないこと。ズローイは、ズローイによって産まれるものである。つまりズローイもまた被害者なのである。誰もがズローイになる可能性を秘めている。

・無駄な殺生はしないこと。安易な死は魂の救済を妨げ、ズローイへと誘う行為である。

・姉妹のモノを盗んではならない。これは単純に物のことでもあるし、パートナーや実績、立場もである。これらはズローイの囁きによるもので、それに頷いていると、後にあなた自身がズローイとなるだろう。

・偽証をしてはならない。これもまたズローイの囁きによるものだからだ。

・いかなる理由があっても差別をしないこと。それもまたズローイの囁きによるものである。全てのヒトを慈しむこと。

母、宇宙、月

 クラッシナ教では、母<神>を信仰している。母とは、宇宙そのもののことである。

 混沌の空間に母<宇宙>が生まれ、広がっていった。そしてその母<宇宙>の中に様々な星が生まれ、生命が生まれた。

 そして夜の闇でズローイが活発になるのを抑えるために、母は月にその魂の一部を宿したのである。

 だから私たちが信仰するのは、母である宇宙と月なのである。

月の使徒

 月の使徒とは、母が生物にその意を伝えるために遣わした特別な魂である。

 全部で九柱いて、それぞれに役割が割り振られている。

 月の使徒は 、時には魂のまま生物の意識に語り掛けたり、別の生き物の姿をとったり、時には別の生き物として生まれて活動することもある

魂と転生

 この宇宙は、物質とエネルギーと霊子の三つの要素で成り立っている。

 物質は文字通り、基本的に不変な原子などである。エネルギーは、他のエネルギーに変換することのできる因子である。霊子は、生物に宿り、意識をもたらせるものである。

 この空間には霊子が空気のように満ちており、生物が胎内に生まれた時に、周囲の霊子が集まり、宿ることで生命となるのである。

 魂を構成する霊子は、生物によってその量が違う。意識がはっきりとした生物になるほど総量は増え、人間などといった知的生命体が最も多い。

 生物が死を迎えた時、魂は再び霊子へと分解され、空間中に霧散する。しかし、強い意志(念)を持ったまま死んだり、母を信じずに死んだ魂は、霊子へ分解されることなく宙を漂い、ズローイとなるのである。

 ズローイは、母の用意した温もりである太陽の光を浴びたり、ほかの生物によって母の下へ導かれることによって、還ることができる。

 霊子が多い生物の方が意志の力は大きくなるが、意志の力が大きくなると、母の存在を忘れ、母以外の何か空想上の物を信仰するようになる傾向にある

ズローイと反転の夜

 星にある霊子の内、ズローイとなって霊子群に還ることがなくなった霊子の割合が半分を超えると、連鎖的に健全な霊子までもがズローイとなり、その星が滅びることを反転の夜という。

 この地球は、母の存在を覚えている霊子が少ない生物の霊子量と、母の存在を覚えていない霊子が多い生物の霊子量の比率がギリギリ前者に傾いているので最悪の事態は免れている。

 しかし人間のほぼ全てが母を忘れ、その上母を覚えている他の命を奪うことで連鎖的にズローイが発生することで、いつこの地球が反転の夜を迎えてもおかしくない状況にある。

 第九使徒ノーンナ様は、その星に反転の夜が近付くと、それを知らせる役割を持っている。

 私たちは、再びノーンナ様がご降臨されないよう、全力を尽くしていかなければならない

兎の伝説

 実は使徒は一度ずつではなく、母が地上の生物の生活を知るために何度も遣わせていた。

 ある時ヨマーが地上の生物の心を見るために、弱々しい飢えた獣に化けて、助けを求めた。

 あらゆる動物が争ったり、盗んだりして食料を集めたり、そもそもその獣に救いの手を差し伸べようとはしなかったりした中で、唯一兎だけはその身を捧げたのだ。

 ヨマーは兎の魂が霧散するのを留め、母に報告すると、母は兎の魂を月に移し労った後、準使徒としたのである。

 以降、母からの重大な宣告を告げるのは使徒を、そして地上の生物の生活を覗き見るのには兎を遣うようになったのだ。

兎の取り扱いについて

 月を見上げると、兎の姿が浮かんでいる。

 そのため、私たちは兎が母の遣いであると考えている。

 ですので、兎の肉を食べたり、兎を殺して皮を剝ぐことはしてはならない。

 マカドームニでは、兎を最低でも一羽は飼育することを義務付けられている。

 兎は、愛を持って接すれば、その愛を返してくれます。とても小さく、目を離したすきに母の下へ還ってしまう儚さは、生命の大切さを教えてくれるだろう。

 だから兎を愛し、大切にしなければならない

聖杯と月の雫

 聖杯とは、純銀で作られた器である。

 聖杯から月の雫を作る。

 新月の晩、ズローイから身を守るために月の雫を飲む。

月の雫の作り方

 聖杯に蒸留水を満たし、新月の翌日から月の光を浴びせる。日中は箱に仕舞い、日光をあびせないこと。

 これを次の新月の前の日まで行うことで月の雫が出来上がる

供物と祭壇

 母への祈りをする際に、母への感謝を籠めて供物を祭壇に捧げると良い。

 石造りの祭壇を月の光が当たる場所に設置し、その上に聖杯や供物を置く。


 供物には、ミルク、サンノフルール(※1)、ノウノフラーラ(※2)を供える。

 捧げたミルクと は、祈りの後もしくは日が明けてから食す。糧となり、塵として母に還るのである。

 は供えたままでも良い。ただし枯れたら交換すること。


(※1)太陽の果実と呼ばれる、白い花を咲かせる暖色の拳大の果物。林檎とする説や、桃とする説、また柑橘とする説もある。

(※2)雪の花と呼ばれる白い花。百合とする説や、鈴蘭とする説、またスノードロップとする説もある。

寄付

 マカドームニは、皆の家である。皆はその家を守り、存続させるために寄付をするのが良い。しかし、その大小によって善し悪しが決まるのではなく、その気持ちによって善し悪しが決まるのである。

 また、寄付をする金銭がない者は、無理に寄付する必要はない。

 その代わり、そのマカドームニに勤める者の手伝いなどをするのが良い。

 我ら姉妹は互いに支え合うことが重要である。

 マカドームニは、そのための場所でもある

聖職者になるには

 まず一信者として懸命に過ごし、マカドームニで九年勤めることでマカシェーストラとなる。

 シェーストラとして九年勤め、成人している場合、試験を受けることができ、その試験に合格した場合、ハラムニからジェヴァールニとして任命されることができる。

 ジェヴァールニとして九年以上勤め、ハラムニから表彰されるような善行を何か行っていた場合(または研究論文を発表し、有効と認められれば)ニャーニャとなることを許される