■金融機関との信頼関係を築く交渉術
私は、お客様である中小企業の社長とご一緒して、金融機関との面談に関わることがあります。先日は、福岡県内の本社事業所で、お客様の社長、地域金融機関のご担当者様、金融機関関係者、そして私と面談を行いました。その際にも、はっきりとお伝えしたのは、金融機関は貸してほしいと思ったときには手を引くことがあるということ。これは当然のことで、資金を貸す側の金融機関からすると回収できない融資は出来ないためで、金融機関のご担当者様も正直にうなずいていました。
1.中小企業にとって厳しい状況が続く
・直近の倒産件数(2025年10月8日発表)を見ると、中小企業・小規模事業者にとっては、厳しい状況が続いています。
・2025年度上半期の倒産件数は5146件(前年同期4990件、3.1%増)で8半期連続の増加、中小零細規模の倒産が目立ち、「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」334件、「人手不足倒産」214件(過去最多)、「後継者難倒産」264件、「物価高倒産」488件(過去最多)となっています。(出典:帝国データバンク、図も)
・もちろん、事業そのものを安定させることが不可欠です。そして、金融機関が貸し続けたい、そのように思って頂けるように努力することも、中小企業・小規模事業者にとっては必要な事です。出来ることはやっていこう、ということです。
2.金融機関からの見え方と融資の受け方
・先ず、当社は金融機関からどのように見えているでしょうか。当社の業況が良好で財務に問題がなく、借入金をきちんと延滞もなく返済していれば、おそらく「正常先」と金融機関は見ています。正常先であれば、必要に応じて新規融資を受けることが出来ます(審査はあります)。一方、業況不振、返済の延滞、貸出条件の緩和などがあれば、金融機関は「要注意先」と見ている可能性があります。
・正常先であれば、借入金の元本を返済し続けていって、ある程度進んだ状態で元々の元本額まで借入額を戻す、折り返し融資を受けることが出来る場合があります。これは資金繰り安定の一つの手法となります。
3.金融機関との信頼関係を築く
・金融機関との信頼関係を築くため、出来ることはやっておく自助努力も必要です。当社のビジネスモデルがどうなっているのか、あらためて説明しておくことも大事です。その上で、金融機関が当社の財務状況を確認しやすいように、資料を整えることも信頼関係醸成に繋がります。
・月次試算表は定期的に作成して金融機関へ提出しましょう。できれば資金繰り表も作っておきたいです。そして、決算報告や事業計画の説明も出来ると一層よいと思います。
・何かあれば金融機関へ相談する姿勢も大事で、資金繰りは余裕があるほうが良いですが、コロナ融資で借りすぎて返済がきつくなったという事業者様の声を度々お聞きしますので、借りすぎには注意が必要です。
■金融機関・銀行と良好な関係を築く決算書~どんぶり勘定からの脱却~
福岡県内の商工会からの依頼を受けて建設業者の決算書を拝見して、とても驚いたことがありました。
すでに税務申告を終えて確定した決算書でしたが、建設業経理ではなく製造業のような勘定科目を用いて、利益の計算も正確かどうか検証不能な状況にありました。
商工会の経営指導員もとても驚いていました。
決算書は税理士が作ったので、と回答する中小企業の社長がいらっしゃるそうですが、決算書の中身の責任は社長にあります。
税理士が作ったとしても、それが正しいか、会社の意思を反映しているか、社長が最終確認をして、必要であれば税理士と協議をしなければなりません。
金融機関・銀行・信用金庫から新規融資を受ける場合、また融資を受けている場合、
金融機関へ決算書を提出して、中身についてしっかりと説明すること、これが良好な関係を築くことに繋がります。
金融機関は、貸借対照表・損益計算書だけでなく、勘定科目内訳明細書を見て、決算書の中身をチェックします。
度々見かけることは、売上原価に入るべき費用と、販売費及び一般管理費に入るべき費用が混在したり、区分されていなかったり、決算書としては不十分なものがあります。
このような決算書を認めている会社の社長は、金融機関からすると「どんぶり勘定」と認識されてしまいます。
そのため、税務の観点だけでなく、会計も理解した決算書の作成が、金融機関との良好な関係を築くポイントとなります。