(2025年10月)
補助金申請を誰に委託するか ~行政書士法改正・令和8年1月1日施行~
・新型コロナウイルス感染症拡大期には、政府の中小企業支援施策として事業再構築補助金が推進され、中小企業の社長にとっても補助金が身近な存在になったと思います。その際に、社長ご自身は多忙で、従業員も本業の仕事に専念してほしい、そういう場合には中小企業支援の専門家へ補助金申請を委託された社長も多くあると思います。
・補助金申請には、事業分析や事業計画が必要なため経営コンサルタントの国家資格であり認定支援機関でもある中小企業診断士へ委託された社長もいらっしゃると思います。その場合は、「補助金申請そのものは会社で行ってください」、と中小企業診断士から言われたと思います。それは、『行政書士や行政書士法人でない者が、他人の依頼を受け、「手数料」や「コンサルタント料」等どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法〔出典:行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)(総行行第281号・令和7年6月13日・総務省自治行政局長)〕』であり、中小企業診断士は対応できないという解釈によるものです。
・令和8年1月1日施行の改正行政書士法において、この点が一層明確にされることになりました。しかしながら、行政書士とは許認可や申請届出業務など、幅広い業務分野を担う専門家であり、補助金申請に必要な事業分析や事業計画が専門分野で無い場合、対応が難しい場合もあります。今後、中小企業の社長としては、補助金申請を誰に委託するか、一層の留意が求められます。
<参考:根拠文書・法令等>
行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)(総行行第281号・令和7年6月13日・総務省自治行政局長)中、「業務の制限規定の趣旨の明確化」
・改正法による改正前の行政書士法第19条第1項(業務の制限)において、「行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない」と規定されていたが、改正法においては、本規定に「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言を加え、その趣旨を明確にすることとされたこと。
・これは、行政書士や行政書士法人でない者が、他人の依頼を受け、「手数料」や「コンサルタント料」等どのような名目であっても、対価を受領して、業として、官公署に提出する書類等を作成することは違法であるという現行法の解釈を条文に明示することにより、行政書士や行政書士法人でない者による違反行為の更なる抑制を図ろうとする趣旨によるものであること。
行政書士法
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
(2025年10月)
中小企業省力化投資補助金 支援事例と効果など
中小企業の社長にとって「補助金」は聞く機会の多い言葉と思います。補助金は国などが中小企業支援施策として用意しているもので、出来れば活用したいと思われている社長も多いと思います。一方で、様々な補助金があるため、何を活用すれば良いのか、どのようなメリットがあるのか分からない、このような声もお聞きしています。
今回は、経済産業省の関係者から一押しとお聞きした中小企業省力化投資補助金を紹介します。
1.中小企業省力化投資補助金とは
・中小企業省力化投資補助金は、中小企業の人手不足解消や生産性向上、賃上げなどを目的として、IoTやロボットなどの汎用製品やオーダーメイドの設備・システムの導入費用を支援する補助金制度です。この補助金の目的は、人手不足解消に効果のある省力化投資を促進し、中小企業の生産性向上、売上拡大、従業員の賃上げを図ることです。そして、賃上げ要件を満たした中小企業や小規模事業者が対象となります。
・もともとは、通称「カタログ補助金」と言われていたように、まるでカタログギフトを選ぶように、「省力化製品カタログ」に掲載された製品の中から、事業課題に合った製品を選択して導入する補助金制度でした。これは、経済産業省の関係者にお聞きしたのですが、なかなかカタログ補助金の申請件数が増えていなかった、そして中小企業の社長にお聞きしても、なかなかピッタリとした設備がカタログに掲載されていない、使いにくい、そのような声も聞こえていました。
・そのため、「一般型」として、個々の事業者の実状に即したオーダーメイドの設備・システムの導入も支援される補助金制度に改正され、申請を希望される中小企業の社長が増えてきている状況にあります。
2.支援事例と効果
・中小企業の社長は、常に自社の資金繰り・資金余力を頭に置いて経営をされていると思います。補助金制度を活用することで、キャッシュとしての投資資金効率が高まることになります。具体的には、投資資金の一部を補助金として受け取ることで、補助金を活用しない場合に比べて少ない原資で設備投資などを行うことと同様の効果が得られます。その節約できた原資は、別の事業へ配分するなど、成長投資の循環を目指すことを視野に入れることが出来ます。ただし、補助金は基本的に後払いのため、資金繰りには留意が必要です。
・私が支援した直近の事例は、福岡県内の製造業のお客様で、製造ラインの入替により効率的な製造工程を組むことを可能とする生産性向上・人材不足解消に効果をもたらすプロジェクトです。この事業者様は人材採用に苦労されていて、製造現場での技術承継も課題の一つで、この点も解消される効果が期待できます。
・そして、この事業者様は顧客要望の急変への対応により、設備投資直後に遊休資産化するケースがあるなど、固定資産管理が難しい状況にありました。例えば、現実には存在する設備が経理上の固定資産台帳で見ると該当資産が分からない、明らかに廃棄した設備が経理上の固定資産台帳に残っている、更には誰か分からないが勝手に設備を捨ててしまった、そのような状況に陥っていました。補助金申請を契機にして全社的なプロジェクトチームを立ち上げ、固定資産台帳と実在資産を突合させて、必要に応じて除却処理をする等、適正な資産管理を目指すことになりました。
3.留意点・公募要領
・補助金はいわゆるコンテスト形式のため、申請しても採択されない、補助金を受け取れない場合があります。そして、採択された場合でも、補助金は基本的に後払いのため、資金繰りには留意が必要です。この点は十分な留意が必要です。
・従業員の賃上げは、従業員のモチベーションアップに繋がり生産性向上の効果が期待できます。一方で、会社の将来にわたる事業計画に基づく人件費負担余力を踏まえた設計が不可欠です。補助金ありきの設備投資等は本末転倒ではあります。
・中小企業省力化投資補助金の特設サイトはこちらです。中小企業省力化投資補助金
独立行政法人中小企業基盤整備機構の委託により、全国中小企業団体中央会が運営しているサイト(ホームページ)です。補助金制度は変更される場合がありますので、検討段階で情報収集・アップデートをお願い出来ればと思います。
(2025年10月)
新規事業に打って出る際の補助金~新事業進出補助金~
中小企業こそ新規事業創出への扉を開こう、とのお話をしましたので、続いては新規事業に打って出る際の補助金についてテーマにしたいと思います。
1.新事業進出補助金とは
・新事業進出補助金のイメージとしては、アンゾフの成長マトリックスを思い描いて頂ければと思います。重要な点は、新製品・新市場の新規事業戦略です。新たな製品、新たな市場の新事業に取組む、その新事業は一定の規模(売上高1割増加等)があり、会社自体の規模拡大・付加価値向上などを実行の上で、賃上げを行い、ワークライフバランスを宣言して、事業計画を実行していく中小企業等対象事業者への補助金です。なお、コロナウイルス感染症拡大期の中小企業支援施策であった事業再構築補助金の後継版補助金として、この新事業進出補助金が説明されることもあります。
(図:経済産業省)
・補助金申請に際しては、公募要領を必ず確認する必要があります。その上で、当社が対象となるか、経営戦略に適合しているか、経営課題を解決するか、など方向性を理解しておくべきと思います。
・新事業進出補助金の制度概要は、後述しますのでご参照ください。内容は事務局ウェブサイトに記載のもので、具体化する場合は、公募要領を必ずご確認ください。
2.新事業進出補助金の制度概要
(出典:事務局ウェブサイト中小企業新事業進出補助金|中小企業基盤整備機構)
・企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等を対象に、既存の事業とは異なる、新市場・高付加価値事業への進出にかかる設備投資等を支援する補助金です。中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします。補助対象者は、企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等です。※「中小企業等」の詳細の定義については「公募要領」をご確認ください。
・補助対象経費
機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費
・基本要件
(1)新事業進出要件
「新事業進出指針」に示す「新事業進出」の定義に該当する事業であること
本補助金の対象となる新事業進出とは、次のいずれにも該当する場合をいう。
① 製品等の新規性要件
事業により製造等する製品等が、事業を行う中小企業等にとって、新規性を有するものであること。
② 市場の新規性要件
事業により製造等する製品等の属する市場が、事業を行う中小企業等にとって、新たな市場であること。新たな市場とは、事業を行う中小企業等にとって、既存事業において対象となっていなかったニーズ・属性(法人/個人、業種、行動特性等)を持つ顧客層を対象とする市場を指す。
③ 新事業売上高要件
次に掲げる要件のいずれかを満たすこと。
(ⅰ)事業計画期間最終年度において、新たに製造等する製品等の売上高又は付加価値額が、応募申請時の総売上高の十分の一又は総付加価値額の百分の十五以上を占めることが見込まれるものであること。
(ⅱ)応募申請時の直近の事業年度の決算に基づく売上高が10億円以上であり、かつ、同事業年度の決算に基づく売上高のうち、新事業進出を行う事業部門の売上高が3億円以上である場合には、事業計画期間最終年度において、新たに製造等する製品等の売上高又は付加価値額が、応募申請時の当該事業部門の売上高の十分の一又は付加価値額の百分の十五以上を占めることが見込まれるものであること。
(2) 付加価値額要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%(以下「付加価値額基準値」という。)以上増加する見込みの事業計画を策定すること
(3) 賃上げ要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げを行うこと
①補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間(令和元年度を基準とし、令和2年度~令和6年度の5年間をいう。)の年平均成長率(以下 「一人当たり給与支給総額基準値」という。)以上増加させること
②補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を2.5%(以下 「給与支給総額基準値」という。)以上増加させること
(4) 事業場内最賃水準要件【目標値未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること
(5) ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表していること
(6) 金融機関要件
補助事業の実施にあたって金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていること
<賃上げ特例の適用を受ける場合の追加要件>
(7) 賃上げ特例要件【要件未達の場合、補助金返還義務あり】
補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれも満たすこと
(1)給与支給総額を年平均6.0%以上増加させること
(2)事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げること
3.新事業進出に該当しない例
・製品等の新規性要件に該当しない例として、既存の製品等の製造量又は提供量を増大させる場合、過去に製造していた製品等を再製造等する場合、単に既存の製品等の製造方法を変更する場合、製品等の性能が定量的に計測できる場合であって既存の製品等と新製品等との間でその性能が有意に異なるとは認められない場合は、新事業進出には該当せず補助金申請対象とはなりません。
・市場の新規性要件に該当しない例 として、既存の製品等とは別の製品等だが対象とする市場が同一である場合、既存の製品等の需要が新製品等の需要で代替される場合、既存の製品等の市場の一部のみを対象とするものである場合、既存の製品等が対象であって単に商圏が異なるものである場合、新事業進出には該当せず補助金申請対象とはなりません。
・このように、製品等又は市場の新規性要件に該当しない場合でないか、公募要領を確認する必要がありますので、ご留意頂ければと思います。