■新規事業創出への扉を開く
私は中小企業診断士として、お客様の中小企業の社長とお話する機会が多くあり、中小企業の新規事業創出にも関わらせて頂いています。コロナ後、物価高騰、人件費上昇など、厳しい社会経済環境にあり、既存事業が安定しない、何か新しい事業を始めなければ、このような声が多く聞かれてきます。新しいことをする、なかなか難しそうだなと感じられる社長も多くいらっしゃると思いますが、必要と感じられた皆さまは、先ずは新規事業創出への扉を開いてみましょう。
1.新規事業創出への扉を開く
・最近は、社会経済環境の変化が激しくなって、今まで売れていた商品が売れなくなった、サービスのお客様が減った、中小企業の社長からそのような声を聞くことがあります。このような社会経済環境の激変は、VUCA(ブーカ)(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉)と呼ばれていて、先行きが不透明で変化の激しい現代社会やビジネス環境であると言われています。この時代には、変化への適応力、創造的な問題解決力、多様性の受容などが求められ、中小企業としては柔軟な対応力が不可欠となっています。
・私のお客様である中小企業の社長からお聞きしたことは、既存事業のみに固執していては業績下降リスクを排除できない、既存事業の安定を図りつつ、新規事業創出に目を向けなければならない、とのこと、広い視野を持つ社長のご意見です。確かに、既存事業で特に単一事業の中小企業は社会経済環境の変化に対応できず、窮地に陥る場合が見受けられます。しかしながら、天才的なひらめきは持ち合わせていない、当社には新規事業を考えるノウハウがない、そのような声も聞こえてきます。
・実は、新規事業創出は天才的なひらめきに依存せず、順序立てて段階を進めることが成功の鍵となります。先ずは一歩ずつ、新規事業創出の歩みを進めていく、最初の扉を開く、それが大切と考えています。
2.新規事業創出のステップとアイデア創出、支援事例
・新規事業創出については、①アイデア具体化、②仮説構築、③仮説検証、④販売開始、⑤市場浸透、の5つのステップがあります。その中で、アイデア創出については、新規事業創出で最も大事で、これが進まないと何も始まらない、最初のステップです。
・アイデア創出に関して陥りやすい罠としては、顧客からの依頼での開発に依存して仮説で考えることが出来ない、二番煎じを怖れて発明的な新規事業を追い求めて頓挫する、思い付きや流行に振り回されて戦略と齟齬が出る、自社の技術やノウハウを過信して自社内完結にこだわりすぎる、社内的な既存製品部門からの反対にあう、などがありますので、留意が必要です。
・最近の支援事例として、家具で有名な福岡県大川市で長年に亘って家具を製造している中小企業で、バリエーションはあるものの単一事業のお客様で、新規事業創出の扉を開き、試作品の製作・取引先への提案をされました。その際も、新規事業創出ステップのアイデア創出の通り、キーワードを抽出し、「あったらいいな」を実現する視点で、発明的な新製品ではなく、同業他社を調べ、得意先ヒアリングを行い、アイデア具体化を実現しました。
3.アイデア具体化と経営革新計画・新事業進出補助金
・会社の経営戦略と事業環境分析に基づき、社会や顧客の動向変化を捉えたキーワードを3つ挙げていきます。そのキーワードそれぞれについて幅を広げ深掘りしつつ、3つのキーワードを掛け合わせることで、アイデアを増幅させていきます。例えば、3つのキーワード「スマート化」×「ユーザー」×「解決すべき課題」で、ユーザーといっても様々な業界・生活者など、無数にあります。自社の顧客層に限らず、一旦は発散して広げていくことも必要となります。
・発明的な新規事業を追い求めてもアイデアの具体化は難航します。ぼんやりと考えるのではなく、インターネットで検索する、最近ならAIを活用する、詳しい人に直接聞きに行くなどに加えて、同業他社の取組み事例、市場予測、技術動向、クラウドファンディングなどを調べていきます。世の中の「あったらいいな」の実現を目指す取組みを探っていく視点です。
・新規事業創出に関連した支援施策として、経営革新計画の承認があります。経営革新計画の承認を受けることで、資金調達で優遇される、補助金申請の加点要件になる、などの効果が期待できる場合があります。なお、具体的には、資金調達については融資をする金融機関の審査次第であり、補助金については公募要領を補助金申請段階で確認する必要があります。また、関連する補助金としては、新事業進出補助金がありますので、あらためて紹介したいと思います。
(出典:経済産業省)
■経営革新計画で新規事業の扉を開く
今回は、新規事業には欠かせない、新規事業に関する経営計画についてお話をしていきます。
経営計画とは、現状から将来のあるべき姿に到達するための「道しるべ」となるものです。経営計画は、絶えず変化する環境の中で会社が現在よりも高い水準の目標を設定し、その目標を実現するために、何をするべきかが明確になっています。それによって、自社のあるべき姿を具体的に示し、着実にその姿に到達するために「経営計画」を作成する必要があるのです。
「経営計画」を立てる前に、まずは、経営者であるあなたが、自身の会社への「思い」=「経営理念」・「経営基本方針」をここで確認していきましょう。
頭の中でいろいろ思い描いていることや理想を実際に紙に書いてみてください。
書くことによってその「思い」が明らかになり、これが「経営計画」へとしっかり結び付くのです。
そして、経営革新計画とは、中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書です。
計画策定を通して現状の課題や目標が明確になるなどの効果が期待できるほか、国や都道府県に計画が承認されると様々な支援策の対象となります。
なお、経営革新とは、以下の新たな取組み「新事業活動」を行うことにより、経営の相当程度の向上を図ることをいいます。
新商品の開発又は生産
新役務(サービス)の開発又は提供
商品の新たな生産又は販売方式の導入
役務(サービス)の新たな提供方式の導入
技術に関する研究開発及びその成果の利用
その他新たな事業活動
経営革新計画を策定することで、新規事業を進める上でのやるべき事や目標が明確になっていきます。
(出典:福岡県、福岡商工会議所、中小企業庁)(2025年10月)