ヒグマ共食い糞

ヒグマの共食い糞を見つけてから論文になるまでの、うらばなし

2017年5月。

北大ヒグマ研究グループは毎年恒例のモニタリング調査のため、クマの痕跡を求めて山へ繰り出していました。

*北大ヒグマ研究グループ..北大の非公認サークル。ヒグマの生態調査をおこなう。

調査地の様子 雪解けの時期です

調査は早朝から昼過ぎまで。

早く踏査を終えた班が、ストーブの前で体を乾かしながらまどろんでいると

「なんかすごい糞出た!」と興奮した様子で残りのメンバーが帰ってきました。


内容物を見てみると、細くてもさもさした黒い毛の中に、ヒグマの爪が!

しかも糞から出てきた爪や歯はえらいちっちゃい。

なんじゃこりゃー

発見時の様子 (写真はIto et al. 2022より引用)

先行研究を調べたり他の標本と比較したところ、

おそらく、食べられたのは冬眠から覚めて間もない幼い子グマだろうということがわかりました。

糞から出てきた爪、歯。爪は小さく、先端がするどい(写真はIto et al. 2022より引用)

北海道では、生後間もないクマの幼獣が食べられた糞はこれまで報告されていませんでした。


そこで、当時クマ研の最上級生だった、間も無く博士号を取らんとするスゴイ先輩に

「貴重な発見は、1例でも論文になるのだ」と喝を入れていただき、

きっとこの糞もすごい発見に違いない!

よし、論文にしよう!

と執筆チームが結成されました。


著者は全員クマ研メンバー。

スゴイ先輩に論文の書き方を1から教えていただき、(怒られながら、呆れられながら)なんとか短報という形で世に出すことができました。

先輩、本当にありがとうございました。



今回の研究からは、共食いの原因が何であったかは推察の域を出ません。

なぜ共食いが起きるのか?を含めて、クマのことを知るためには研究が進む必要があるでしょう。


地味なモニタリング調査を続けることで、貴重な発見に出会える可能性が高まるし

その発見がどれだけ貴重かもわかります。


基礎的な調査は大事だな、と改めて感じる出来事でした。

今回紹介した研究:

Taiki Ito, Hinako Katsushima, Kanji M Tomita, and Tomoka Matsumoto "Infanticide or predation? Cannibalism by a brown bear in Hokkaido, Japan," Ursus 33: e13. https://doi.org/10.2192/URSUS-D-22-00006.1 [北海道新聞][朝日新聞][毎日新聞]