●はじめに
産婦人科は、一般的に「産科」と「婦人科(女性診療科)」の2つの分野に分かれます。
さらに婦人科の中には、不妊症(不育症を含む)や悪性腫瘍(がん)など、より専門性の高い領域が存在し、それぞれが独立した診療科のように専門化しています。
このように産婦人科の中でも診療内容は多岐にわたり、医療機関ごとに得意とする分野や診療の中心が異なる傾向があります。不妊治療についても同様で、各医療機関によって対応の体制や専門性が異なります。
以下は、医療機関の特徴を大まかに分類したものです。
医療機関の主なタイプ(不妊治療との関わり)
不妊治療を専門とするクリニックや、来院される患者様の多くが不妊治療目的の施設
→ 高度な生殖医療の提供に特化しているケースが多いです。
婦人科全般を診療しており、不妊治療の患者様は比較的少ないクリニック
→ 月経異常や更年期などの一般的な婦人科診療が中心です。
分娩を中心とした産科クリニック(ローリスク妊娠が中心)
→ 妊婦健診や出産を主とする施設では、不妊治療の診療は限られることがあります。
大学病院・都立病院・総合病院などで、高リスク妊娠やがんなどの専門的な治療を行っている医療機関
→ 高度医療に特化している一方で、不妊治療は行っていないこともあります。
それぞれの施設に特徴や役割がありますので、不妊治療をどこで受けるかを検討される際は、事前にその施設の専門性や診療内容を確認されることをおすすめします。
当院は、上記1の「不妊治療を専門とするクリニック」に該当します。タイミング療法、人工授精、体外受精などの生殖補助医療を専門に行っており、専門的なサポート体制を整えております。
当院に不妊治療目的で転院される場合、紹介状は必須ではありません。
ただし、すでに保険診療で体外受精を他院で受けたことがある方は、保険の回数管理の都合上、以下の情報が記載された紹介状をご持参ください。
生殖補助医療の開始日(今回の不妊治療に関して)
生殖補助医療開始時の年齢(今回の不妊治療に関して)
保険で今までに行った移植の回数(今回の不妊治療に関して)
これらの情報は、保険診療を継続して行うために必要となります。
妊娠は「時間との勝負」と言われることもあります。治療を迷われている方や、転院をお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
早めのご受診が、将来の選択肢を広げることにもつながります。
●不妊症とは?
不妊症とは、生殖年齢にある男女が一定期間、自然な形で夫婦生活を送っているにもかかわらず、妊娠に至らない状態を指します。
少子化が進む一方で、不妊に悩むご夫婦は年々増えており、その悩みはとても深く、切実なものです。
私たちは、不妊で悩まれているご夫婦の気持ちに寄り添いながら、妊娠という目標に向かって、一緒に取り組んでいきたいと考えています。
お一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。
「一緒に頑張っていきましょう。」
その気持ちを大切に、スタッフ一同、心を込めてサポートいたします。
●治療にあたって
不妊治療の第一歩は、妊娠に至らない原因を明らかにすることから始まります。
ただし、不妊の原因は非常に多岐にわたるため、治療法も一人ひとり異なり、その重症度や進め方にも幅があります。
また、どれだけ精密な検査を行っても、すべての検査結果が正常で、明確な原因が見つからないケースも少なくありません。こうした場合、治療方針の決定に時間がかかることもあります。
当院では、患者様の現在の状況を丁寧に確認しながら、納得いただけるよう話し合いを重ね、治療方針を一緒に決めていくことを大切にしています。
検査や治療には、月経周期の中で適したタイミングがあります。いつでも行えるわけではないため、スケジュールの調整など、患者様のご協力をお願いすることもあります。
また、どれほど急いだとしても、排卵は月に1回だけです。すぐに結果が出ることばかりではありませんが、根気強く、前向きに治療を進めていく姿勢が大切になります。
私たちも、少しでも早く結果に結びつけられるよう、全力でサポートしてまいります。どうぞ安心してご相談ください。
不妊の原因は実にさまざまで、検査をしてもすべてが明らかになるとは限りません。
また、治療の内容はその原因によって異なります。ここでは、治療法別に妊娠の可能性がある主な原因をご紹介します。
🔹 タイミング療法で妊娠が期待できる場合
ホルモンバランスの乱れ
└ 生理不順、生理周期が長い、基礎体温の乱れ
└ 男性ホルモンが高い、インスリン抵抗性、高プロラクチン血症、黄体機能不全 など
性交のタイミングが合っていない
排卵障害がある
排卵期の子宮内膜が薄い
子宮内膜ポリープがある
クラミジア感染の既往がある
子宮内膜炎がある
体内の銅の蓄積が多い
免疫細胞のバランスが崩れている
必要なビタミンが不足している
🔹 人工授精で妊娠が期待できる場合
膣内射精障害(シリンジ法でも対応可)
頸管粘液が精子の通過を妨げている
└ ※ヒューナー(フーナー)テストで確認します
精子の状態がやや不良(軽度の場合)
🔹 人工授精または体外受精・顕微授精が必要な場合
抗精子抗体がある
└ 精子の運動を妨げる抗体が女性側に存在する場合
🔹 体外受精・顕微授精が必要となることが多い場合
実年齢が40歳以上
子宮内膜症、チョコレート嚢胞がある
└ 手術により卵子が減少することがあり、AMHが低下する可能性があります
└ 内服治療で月経を止めると妊娠が難しくなることがあります
└ 腹腔内環境の悪化により、自然妊娠が難しいこともあります
精子の状態が非常に悪い(重度の乏精子症など)
卵管が閉塞・狭窄している(通水検査で抵抗がある場合など)
FSH(排卵を促す脳下垂体ホルモン)が高い → 卵巣の反応が鈍い
AMH(卵巣予備能を示すホルモン)が低い
└ タイミング法も不可能ではありませんが、卵子の数が少ないため早期治療が重要です
🔹 検査で原因が見つからない場合(原因不明不妊)
卵の質が低下している(加齢による卵巣の老化)
排卵はしていても受精できない(受精障害)
受精はするが、胚の発育グレードが低い
卵管が卵をうまく取り込めない(ピックアップ障害)
胚が子宮に着床できない(着床不全)
その他、医学的に特定できない原因
不妊は「一つの原因」ではなく、複数の要因が重なっていることもよくあります。
当院では、丁寧な検査と対話を通じて、その方にとって最も適した治療法を一緒に考えてまいります。不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
当院では、検査結果やご年齢、妊活歴などをふまえ、不妊の原因に応じた治療を行っていきます。
治療の進め方は一人ひとり異なりますが、以下のような治療方法があります。
◆ タイミング療法(排卵時期に合わせた性交指導)
不妊治療をはじめて受ける方や、年齢が比較的若く、不妊の原因がまだ明確でない場合に行います。
タイミングを合わせることで自然妊娠の確率を高める治療です。
対象となる方: 初期の不妊治療をご希望の方
妊娠率: 約 4%/1周期(=約25ヶ月で1回妊娠するレベル)
◆ 人工授精(AIH:配偶者間人工授精)
主に男性側に不妊の要因があると考えられる場合に行います。
当院では、精液を洗浄・濃縮し、排卵に合わせて子宮内に注入します。
対象となる方:
└ 性交に支障がある方
└ フーナーテスト不良の方
└ 精子の状態がやや不良の方
妊娠率: 約 4〜10%/1周期(=約10〜25ヶ月で1回妊娠するレベル)
◆ 高度生殖医療(体外受精・顕微授精)
以下のような状況に当てはまる方には、高度な生殖補助医療が必要と判断されることがあります。
原因からみて、タイミングや人工授精では妊娠が難しいと考えられる場合
1〜2年以上妊娠を希望しているが、妊娠に至っていない方
これまでに不妊治療を1年以上行っても妊娠していない方
40歳以上で、まだ一度も妊娠歴がない方
できるだけ早く妊娠・出産を希望される方
妊娠率: 約 40%/1回の胚移植あたり
└ ※おおよそ 3回移植(4〜5ヶ月)で1回妊娠するイメージです
費用(保険適用の場合):
採卵〜胚移植までの約3ヶ月間の総額で約200,000円
治療を進めるうえで大切なのは、焦らず、でも確実に選択肢を広げていくことです。
患者様ご自身の状況に応じて、最適なステップをご提案しながら、一緒に妊娠への道のりを歩んでまいります。
●治療の目安
一般的な治療の進め方は治療開始から6~10ヶ月ははタイミング療法を行い、必要があれば排卵誘発をします。
精子が少ないなどの適応や患者さんの希望が有ればAIH(人工授精)を6回程度行います。
それでも妊娠しないときは高度生殖医療(体外受精、顕微授精)を行います。
過剰な期待は禁物ですが、一般不妊治療(タイミング療法、AIH)を数年間にわたって行っていた方が高度生殖医療(体外受精、顕微授精)を行うと1回で妊娠する場合が多々あります。
●検査
下記のような検査は必要に応じて行います。検査を行っているときもタイミング指導などを同時並行に行い、
妊娠するチャンスをできるだけ逃さないように致します。ただし治療中も自分で見計らって適宜タイミングをとることは大切です。
●自分が不妊症かどうかわからない方へ
不妊症かどうかわからないので不妊治療が必要かどうかわからず、とりあえず検査だけ希望される方が時々います。検査だけで最低2~3ヶ月かかります。また検査がすべて正常でも妊娠しにくい方がいます。その理由は検査では排卵するところまでしか調べられないからです。原因として多いと思われる排卵後の受精・着床、胚のグレードなどは普通の検査で調べることは不可能です。妊娠は時間的に早ければ早いほど有利です。検査をしながら妊娠を目指したほうが時間に無駄がないので、不妊かどうかわからない場合でも妊娠を希望する場合は「不妊治療」と「不妊症の検査」を同時に進めていくことをお勧めします。