**ネオセルフ抗体(neo-self antibody)**とは、自己成分が何らかの変化を受けた結果、新たに出現した“変性自己抗原”を標的とする自己抗体を指します。
通常、免疫系は自己を認識して攻撃しないよう「自己寛容(self-tolerance)」が保たれています。
しかし、感染、炎症、細胞の老化や変性、酸化ストレス、あるいは腫瘍形成などにより、自己成分が構造的・化学的に変化し、「自己であるが非自己のように見える」分子=**ネオセルフ抗原(neo-self antigen)**が出現することがあります。
それに対して免疫系が反応し、抗体が産生されると「ネオセルフ抗体」となります。
ネオセルフ抗体は、以下のような疾患に関与している可能性が指摘されています:
関節リウマチ(RA)
抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)などは、アルギニンがシトルリンに変換されるという「ポストトランスレーショナル修飾」によって生成されたネオ抗原を標的としています。
自己免疫性肝炎や自己免疫性膵炎
細胞のアポトーシス過程で露出される修飾自己抗原が標的になることがあり、「自己抗体」と「ネオセルフ抗体」の境界が曖昧な例も存在します。
新型コロナウイルス感染後の自己免疫反応
SARS-CoV-2感染によって誘導される炎症や細胞障害がネオセルフ抗原を誘導し、後遺症として自己免疫性の症状が出る可能性も指摘されています。
ネオセルフ抗体の概念は、伝統的な「自己 vs 非自己」二元論を超えた免疫学的理解を促します。
治療標的やバイオマーカーとしての可能性もあり、新しい自己免疫疾患の病態解明や創薬につながる研究領域です。
現時点では、ネオセルフ抗体という言葉はまだ一般的な臨床用語として確立しているわけではなく、主に研究領域で用いられる概念です。
検査法や診断基準は統一されておらず、疾患ごとに異なる理解が求められます。