第9号掲載論文要旨

社会科はどのように若者による市民的関与に関わることができるのか?探究的アプローチによる知識に基づいた市民参加への準備 - シンガポールの社会科カリキュラム

ミン・フイ・チー (シンガポール 南洋理工大学 国立教育研究所 人文・社会科教育学術グループ )

 「市民的関与(civic engagement)」という用語は様々な形で用いられ、この概念について幅広い定義が用意されている。市民的関与は個人的な行動を意味することも集団的な行動を意味することもあり、政治的、非政治的な参加の両方が含まれる。コミュニティとのつながりの感覚として簡単に定義することもできれば、市民または政府が始めた様々な社会政治活動への積極的な参加として捉えることもできる。効果的な市民的関与は、市民が複数の観点から問題を理解でき、公益のために行動できるという市民の能力にかかっている。本論文ではシンガポールにおける社会科の事例を紹介する。生徒たちが物事を知り、関心を持ち、参加に意欲的な市民となるために批判的思考スキルの発達に焦点を当てる探究的アプローチのアフォーダンスや課題について述べる。本論文では、教室で学ぶ教科としての社会科が、問題に関する議論を通じて市民的関与の機会を提供できることを示唆している。

児童の意欲を活用する社会科教育 - 「演じられたコンセンサス」の解体によって児童と社会を繋げるための方法論

田中 伸(岐阜大学教育学部)

 日本の社会科教育における教育学的研究は大きな問題に直面しており、社会科の教育内容と児童の(学習に向けた)との関係性が曖昧になってきた。社会科教育の実践内容は現実世界とは離れていることが多く、民主的な社会の理想的な形を捉えている(理想的な社会のイメージ)。教師が語る「理想化された社会」と児童の現実は乖離しているのである。社会科教育では自立した民主的な社会を形成するような市民性を育成することを目指している。「自立した形成」を促進させるためには、現実世界における児童の参加を包含する市民性を育むためのステップが必要である(Tanaka, 2015)。

 本論文では、児童の(学習に向けた)意欲や緊急性が社会科教育の研究に関連してどのように捉えられてきたのかをまとめ、そのその成果による行われてきたことを浮き彫りにしている。次に、結論に基づいた授業設計の概念を提案する。まず、これまでの社会科教育の研究における児童の(学習に向けた)意欲と緊急性の扱い方について情報を提示する。その後、社会科教育での使用に向けて理論的アプローチと授業設計の計画を提案する。すなわち、本研究では社会科の授業づくりに対して社会学的な理論的アプローチを適用している。

 伝統的に、学校の授業に関する研究で普及している重要な問いは「学校・学習とは何か?」である。学校と教えるという行為は、児童による学習の成功を常にもたらすわけではない。また、子供が学校へ登校し学んでいるふりをすることも可能である。そのため、「学校・学習はどのように機能しているのか?」と問うことも重要である。本質的に、この問いは児童による学習のための正式な足場として機能している学校や学習という観点から捉えなおされており、実施のカテゴリーとして役に立っている。

 このような観点は以下の二つの問いを提起している。第一の問いは「児童によるクラスや社会との関わりを我々はどのように捉えているのか?」である。学校や学習の「効果」として「機能」を検討しなおすことで、学校・学習の研究目標を児童の観点(彼らの認識論的な現実)からどのように改善していくのかということへ変更できる。第二の問いは「教室では児童のエンゲージメントをどのように管理すればよいのか?」である。本研究では、生徒たちによる「演じられたコンセンサス」に焦点を当てている。言い換えると、生徒たちは、授業に関与している状態を「参加しているふりをする」という形式的な参加として再考している。この状況を解くために、本論文では、教室や社会と自律的かつ主体的に関わるために、生徒を対象としたエンゲージメントの具体的な方法論の開発を検討する。