ヒトの自己免疫病とヨーネ菌について(講演会のプレスリリースより)
研究所のご紹介:一般社団法人比較医学研究所は研究と研究情報の啓発を目的とした非営利型の法人として本年4月27日につくば市に発足しました。本邦では研究の拠点が乏しい「ヒトの自己免疫病とヨーネ菌」の関連を明らかにすることが目的です。このテーマの講演会を2018年9月29日に新宿で開催いたしました。
開催の趣旨:研究所独自の研究と医学部や関連学部との共同研究も推進してきております。このたび発足初年度の記念事業として「ヒトの自己免疫病とヨーネ菌」についての講演会を開催することにしました。
ヨーネ病発生状況:牛のヨーネ病は日本では家畜法定伝染病に指定されいる病気で、防疫が徹底されていますが、欧米ではそれがなされておらず、米国農務省は90%近くの農場がヨーネ菌汚染していると報告されています。ヨーネ病は慢性の腸炎で、感染牛は著しい下痢を繰り返し下痢便中に大量の排菌をしますが、肉や牛乳中にも菌が移行することがよく知られています。汚染農場由来の牛乳中にはヨーネ菌が含まれています。
ヨーネ菌と人の病気:クローン病は1932年にアメリカ合衆国医師クローンらにより報告された慢性の肉芽腫性腸炎で、クローンらは本病が家畜のヨーネ病の病変に類似することを記載しまた。その後、ヨーネ菌との関係の研究が進み、2017年3月には米国のテンプル大学で2017人の研究者と臨床医による国際会議が開催されました。本邦では日本結核学会、日本細菌学会、日本サルコイドーシス学会など関連学会で教育講演が持たれてきました。
はじめての公開講演: 今回は、医療関係者や一般の方(患者ご家族)を対象にヨーネ菌との関連が数多く報告されているクローン病と多発性硬化症の関連について最新情報をご紹介します。ヨーネ菌との関連が疑われている、1型糖尿病や橋本病についての概要もお話します。
1826年にd'Arovalが慢性下痢症の何頭かの牛に起こった一つの腸炎の型を報告した。
1881年にハンセンとニールセンは、特別な腸炎の瀕死の牛の腸粘膜に肥厚と皺襞形成を認めた。
ヨーネとフロシンガムがその疾病を記載し、疾患のある腸に抗酸桿菌を証明したのは1895年であった。
抗酸桿菌(結核菌と区別がつかない)の存在により、彼らはこの病気を結核の非定型もしくは変わった型であったと考えた。ローベルト・コッホも彼らと同様の見解を持った。
1906年にバングはこの病気を再評価して、結核ではないと結論し、偽結核性腸炎(pseudo-tuberculous enteritis)またはヨーネ病と呼ぶことにした。
1902~1908年になると牛の偽結核性腸炎は、デンマーク、ドイツ、フランス、ノルウェー、オランダ、ベルギー、スイスと米国からも報告された。
トウォートは1910年に原因菌を分離して、Mycobacterium enteriditis chronicae pseudotuberculosae bovis johneと命名した。
この病気は後にヨーネ病またはパラつベルクロージス、そして原因菌はMycobacterium paratuberculosisとして知られるようになった。以前はMycobacterium johneiの名前がM. paratuberculosisの同意語として用いられていたが、この呼び方は受け付けられなかったので、使用すべきではない。1990年に、Thorelらは、この細菌をMycobacterium avium subspecies paratuberculosisに名前を変更して、現在は一般にMAPと略記される。
Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis と Mycobacterium paratuberculosisはどちらも認められた本菌の分類学上の名称である。
動物のヨーネ病はparatuberculosisであるがJohn's diseaseとも呼ばれる。これはヨーネ菌の肝線維より生じる反芻動物やそれ以外の動物の消化管に起こる慢性肉芽腫性疾患である。
ヨーネ菌感染は通常生後30日以内に起こるとされる、しかし、その後長期間発症しない。
感染の徴候は、通常若い成獣に見られる。
本病に治療法はありません。そして、感染の初期に大部分の動物を診断する検査方法もありません。
最初の報告があってから、本疾患は、世界中の家畜集団に蔓延して牛、ヒツジ、ヤギなどの畜産業に相当な経済的損失を与えている。
国内家畜集団の間で疾患の蔓延を防疫する努力はほとんど効果がなく、本疾患は現在世界のあらゆる国で認められる。
米国ではこれまでの一世紀に、当初ヨーネ病は稀な疾患と思われた状況から、風土病まで言われるようにひどく蔓延してしまった。現在では米国のすべての乳用牛の8~34%、そして乳用雌牛の22~68%がヨーネ菌に感染している。
原発性感染様式は糞からの経口経路である。
臨床疾患にかかった成動物は糞便1グラムにつき108以上のヨーネ菌を排出する可能性がある、そして、平均的ウシが1日につき20-40kgの糞便を排出することからヨーネ菌による環境汚染は著しいのである。
本感染に対してはは年齢依存的な抵抗力が発達するようで、感受性動物は通常、分娩後早い時期(生後30日以前という)に感染する。しかし、臨床発症は通常3-5歳まで認められない。
臨床疾患の重症度と発症は、環境汚染(暴露菌量)のレベル、遺伝的感受性(異品種間もしくは同一品種内での違い)、免疫性反応(成熟度:年齢)とヨーネ菌の病原性に依存しているようである。
ヨーネ病の病理学および免疫性感染経過は、ハンセン病の感染経過に見られるようなライ腫様ライ型、結核様ライ型、両極型病変の免疫学的プロファイルに最も類似している。
しかし、結核菌は肺、ハンセン病菌は皮膚と神経、そしてヨーネ菌は腸組織に好んで感染する。
ヨーネ菌がハンセン病菌が末梢神経に損傷を与えるように、同じ様式で腸の神経単位に損傷を与えるかもしれない。
ヨーネ菌を静脈内接種や期間内接種した感染実験では、全身感染ではなく消化管に病変が起こった。
実験的研究は腸管外病変は普通にみられ、抗酸桿菌が見られる場合にも、本菌は胃腸管の組織外では増殖できないようであることも示されている。
ヨーネ菌感染が扁桃から直腸まであちこちに起こる場合があるにもかかわらず、好発部位は回盲弁の近くの回腸末端部である。なぜ、ヨーネ菌が消化管で特異的にいて、増殖するのかのメカニズムと理由は未だに解明されていない。
ヨーネ病は主に反すう動物動物の疾患であるが、特定の未知の条件ではヒト以外の霊長類を含む単位動物にも感染して腸の病気を起こすことがある。
広宿な宿域であるにもかかわらず、歴史的にヨーネ菌はヒトにはで無害であると思われてきた。しかし、最近、ヨーネ菌はバイオハザードレベルIIの病原体に分類されヒト対して無害だという性質に疑問があがっている。
無症状感染の間には免疫学的検査で診断することはほとんどの感染動物では困難で、ヨーネ菌の培養には、特別な培地、長い培養期間そして経験豊かな人員を必要とするなどの難しさもある。
ヨーネ菌は、人工培地での培養には8-16週間(より長い)必要な、極度に気難しい抗酸菌である。いくらかの菌株は培養困難である。
これはヨーネ菌が鉄キレートするジデロフォアであるマイコバクチンの合成がうまくできないためで、人工培地には鉄マイコバクチンの添加が必須である。
(本文はIAPの掲示している解説をもとに作成した。文責:日本ヨーネ病学会、百溪)
2023年4月11日更新
2015年10月01日