社会の分断を防ぐ教育経営2~新たな公教育の構築に向けて~
【趣旨説明】
今期研究推進委員会は、「社会の分断を防ぐ教育経営」と題して、多様な子どもの学びと参加の機会を保障する公教育経営に関する理論と実践を検討している。分断は、多様な他者に無関心で自己責任とする社会の中で、分断される側の人々が声を喪失し、無用な存在として不可視化されていく排除の問題として理解することができる。それゆえに、民主的な社会、および個人と社会のウェルビーイングを棄損する喫緊の社会問題となる。ここで述べる民主的な社会は、多様な他者の声を聞き、それに応答するようなあたたかで互恵的な関係からなる共生社会を意味する。公教育は、分断を抑制するために、多様な人々の声が現れ、存在が承認される社会をどう切り拓けるのか。そのためには、学校が民主的空間として形成され、そこでの経験としての学びの積み重ねとして子どもたちが民主的社会を形成する主体となることが望まれる。昨年度は、学校での学びや公教育経営の内実に迫る前段階として、社会の分断の是正や抑制の遂行がなぜ難しいのかを議論した。
2年目となる本年度は、上記の問いに迫るために、次の3つの課題報告を行う。一つ目は、社会の分断に抗するための制度的整備について、米国テネシー州で生成・展開した校長会の事例を基に報告する。そこでは、学校改善事業を通して社会経済的に不利な地域の学校群がアカウンタビリティを分有し、学力伸長に焦点化した評価原理を軸に、校長会で教育実践や課題が協議される中で偏見の払拭が目指された。本報告では現地で実施した校長等への聞き取り調査を中心に、その意義や課題を分析する。
二つ目は、教育経営における分断への対抗策の一つとしての多職種・多機関連携の位置付けに関する報告である。まず、学級というオープンな場で教師が子どものニーズに応答することの意味を確かめ、そのプロセスを支える多職種・多機関連携を駆動するために考慮すべき点を整理する。次に、A市B中学校の事例を手掛かりに、多職種・多機関連携をめぐる組織内部過程を分析する。
三つ目は、教員養成や現職教育における学びに関する調査報告である。以下の3つの問いからアプローチする。①日本における民主的な社会の形成において、学校を軸とした公教育が果たし得る役割があるとすれば、それは具体的にはどのような経験や学びを児童生徒が享受できることだと考える道筋があり得るか。②そして、その実践化と試行錯誤を支え促す教師の知識や思考の仕方をどのように考えればよいか。③それらは教員養成、現職教育の段階での学習機会や授業内のどのような学びによって獲得され、鍛えられ、磨かれる可能性が期待できるか。
以上から、アメリカの校長会、日本の学校組織、教員養成課程に関するミクロレベルでの分析を踏まえつつ、教職の本質から教育経営を捉え直す。
【報告者】
西野倫世(滋賀大学)、髙谷哲也(鹿児島大学)、留目宏美(上越教育大学)