JSTさきがけ 「力学機能のナノエンジニアリング」領域 「ハイドロゲル摩擦のナノ潤滑機構の流体力学的解析」(2021年10月-2025年3月)
科研費 挑戦的研究(開拓) 「細胞膜の局所ナノスーツ膜化による細胞内外ナノ観察のためのMEMS液体セル」(2021年7月-2024年3月)
科研費 基盤研究(B) 「細菌内無機元素の高分解能動態観測を目指した高機能マイクロ流路液体セルの開発」(2018年4月-2021年3月)
科研費 若手研究(A) 「ナノバイオロジーのためのMEMS電子顕微鏡技術の確立と細菌の動態研究への応用」(2015年4月-2018年3月)
MEMS液体セルを用いた液中ウイルスや細菌の高分解能電子顕微鏡観察
近年,これまでに人類が開発してきた全ての抗生物質に対して耐性を示す超多剤耐性菌が出現しており、新たな抗生物質の開発が急務である。しかし抗生物質は従来手法によって開発しつくされており、新たな手法の開発が必須である。そこで我々は従来の光学顕微鏡を電子顕微鏡に置き換え、さらにマイクロ流路技術を用いた細菌のナノレベル可視化実験系を開発している。電子顕微鏡は光学顕微鏡よりも高分解能な観察が可能であるが、観察には電子線を発生するために真空が不可欠である。これに対し、膜厚数十nmの電子線透過膜で液体と真空を切り分けることで、電子線透過膜近傍における液中試料の電子顕微鏡観察を実現する。そして、液中の細菌を培養しながら電子顕微鏡観察をするために、電子線透過膜を基板としたマイクロ流路デバイス(MEMS液体セル)を開発した(図1-1)。これにより還流培養中の細菌を電子顕微鏡でナノレベル観察を実現した。さらに高分解能するために、電子線透過膜や液体による電子線の散乱を減らす技術を開発し、電子線透過膜越しのウイルスや液中の細菌を高分解能観察するのに成功した(図1-2)。
MEMSゲル摩擦試験機を用いたハイドロゲル摩擦界面の高分解能顕微鏡観察
JOSTレポートを元に、2011年時点の日本における摩擦による経済損失を試算すると17兆円になると言われます。産業界では多くの潤滑技術が開発されていますが、更なる潤滑技術が必要と言えます。我々の身近な高潤滑として関節が挙げられ、産業界の潤滑技術に比べ一桁小さい摩擦係数を示します。その摺動部には関節軟骨があり、それが高潤滑を担っていることは間違いありませんが、そのメカニズムは未解明です。関節軟骨はハイドロゲルの一種であり、高潤滑メカニズムを明らかにするためにハイドロゲルを用いた多くの研究が行われてきました。それにも関わらず、メカニズムが未解明であるのは、ハイドロゲルの構造に起因すると考えます。ハイドロゲルは数nmから数百nmの網目構造に水がトラップされた擬固体物質であるのに対し、これまでの研究がせいぜいμmレベルであったため、潤滑特性を発現する網目や水の挙動を調べることができなかったと考えました。そこで、電子線透過膜技術を用いてSEM内でハイドロゲルの摺動中の摩擦界面をSEM観察することを試みています。そのために、ハイドロゲルの網目構造と水の流れのナノ可視化技術とMEMSゲル摩擦試験機の開発を行っています(図1-3)。
図1-1 MEMS液体セル。
図1-2 ウイルスや細菌のSEM観察。
図1-3 水の流れのナノ可視化技術とゲル摩擦試験機
科研費 基盤研究(B) 「難培養細菌の特性移植のためのマイクロ流路システムの開発」(2021年4月-2024年3月)
科研費 挑戦的研究(萌芽) 「微小液滴内に格納した微生物のX線誘起遺伝子操作法の開発」(2018年6月-2020年3月)
科研費 挑戦的萌芽研究 「微小空間適応を利用したシアノバクテリアの葉緑体化への挑戦」(2014年4月-2015年3月)
細菌の指向性進化用マイクロ流路デバイス
ダーウィンの進化論によると、生物は突然変異→自然淘汰→繁殖というサイクルにより、生物は進化してきた。この進化のスピードを速めることができれば、新しい特性を有する生物を生み出すことができる。つまり、適切な強度で突然変異を生み出し、適切な強度で淘汰すれば、生物の進化が加速する。そこで、細菌を封入した液滴に突然変異→自然淘汰→繁殖を繰り返し与えることで指向性進化を加速するためのマイクロ流路技術を開発している。その開発において、複数強度のストレス同時印加技術と進化サイクル繰返し技術が重要である。 本研究では、繁殖スピードの速い大腸菌を用いることとし、有機物生産で望ましい耐熱性を有する細菌を作り出すことを目的とする。耐熱性を有する大腸菌を淘汰により選別するための一度に複数熱ストレスを印加可能なマイクロ流路技術を開発し(図2-1)、進化のサイクルである変異→淘汰→繁殖をチップ上で繰り返すための液滴の順次移送するマイクロ流路技術を開発した(図2-2)。
細菌の細胞融合用マイクロ流路デバイス
抗生物質や寄生虫薬の発見に細菌が大いに貢献してきた。培養可能な細菌は全細菌のわずか0.1%にすぎないにも関わらず、人類への貢献は非常に大きい。残り99.9%の培養できない細菌を培養できるようにできれば、さらなる貢献が期待できる。培養条件探索は困難を極めているため、培養特性を細菌に付与することを考えた。培養特性を付与するには大規模な遺伝子組み換えが必要となるため、細胞融合を用いる。細胞融合にはパルス電圧の印加に伴う高電界により可能であるが、高電圧によるダメージが大きいことが課題であった。そこで、高電界を低電圧で実現するために、電極間ギャップを細菌レベルとしたところ、低電圧での細菌融合を実現した(図2-3)。
図2-1 熱ストレス複数同時印加デバイス。
図2-2 並列チャンバからの液滴順次移送の様子。
図2-3 微小電極間における細菌融合
科研費 基盤研究(A) 「実消化器環境再現技術で開発する生細菌輸送マイクロゲル変形カプセル」(2025年4月-2028年3月)
がん組織に濃度勾配を与える流路デバイス(論文表紙)
がんの研究はがん細胞を用いて研究が広く行われてきたが、がん腫瘍はがん細胞だけでできているだけでなく、間質細胞や血管、免疫細胞、細胞外気質など複数の構成物質で形成されている。これらの周辺環境をがん微小環境と呼び、近年、がん細胞の特性にがん微小環境が大きく関与していることがわかってきた。そのため、がん微小環境の中のがん細胞の研究が重要になるが、がん組織を用いた研究手法がほとんど開発されずにいる。そこで、我々はがん組織を用いた研究手法の開発に取り組んでいる。生検針でくり抜いたがん組織をマイクロ流路に実装し、両端に培養液を還流する(図3-1)。片側に色素液を流したところ、組織内部にセンチメートルレベルの浸透を確認できた(図3-2)。
小腸絨毛付近における流れの可視化デバイス(プレスリリース記事、論文表紙)
小腸は免疫の6割を占める器官であり、小腸と細菌の相互作用により免疫は制御される。つまり、細菌が小腸壁に流れ着くことが重要であり、小腸絨毛付近における流れを可視化することは重要である。しかし小腸は深奥部に存在する消化器であるため観察が難しく、管を切開すると消化酵素により自己溶解するため、小腸内の流れは研究が難しかった。 そこで我々は、小腸管を流路と見立てた上で、マイクロ蠕動ポンプを実装することで、内部を観察できる小腸管を開発した(図3-3)。これにより、小腸絨毛付近の流れを可視化することに成功した(図3-4)。
図3-1 H字流路デバイス。
図3-2 組織片内部に形成された濃度勾配。
図3-3 小腸管流路。
図3-4 絨毛付近の流れ。
微小空間における氷晶の微細化
バイオ研究で用いる希少な細胞に始まり、万能性を有する幹細胞や絶滅危惧生物の卵細胞など様々な細胞をダメージレスで保存したいというニーズがある。凍結保護剤を使って氷の結晶が発生を抑制されているが、凍結保護剤はそれ自体に細胞毒性があり、ダメージを回避することができない。そこで、凍結保護剤なしで氷の結晶を発生させないことが望まれている。マイクロ流路という微小空間において凍結を行ったところ、氷晶形成を抑制できた(図4)。
図4 流路内での氷晶の微細化。