最近、これまでバイオや医療をやってこなかったメーカーの方から声をかけられることが増えました。この分野は技術の新機軸として大変オススメです。石田研究室をはじめ大学の持つ多くのシーズを見渡していただき、どんどん新技術を形にしてもらえればいいと思っています。石田研究室は、世界に先駆けた技術・製品作りに意欲のある企業との連携(共同研究・開発含む)は、いつでもウエルカムです。お互いの特長を活かし、スピード感をもって一緒に世界を変えていけたら、大変うれしく思います。
そもそも連携以前に「マイクロ流路って何?」「何に使えるの?」というところで話が止まっている方がいらっしゃるかもしれません。ここではメーカーの方たちが、そこが知りたかった!と言っていた内容をまとめています。ただこの説明だけで新規事業を考えるのは難しいかもしれないので、その場合は石田研究室に是非お問い合わせ下さい。マイクロ流路は幅広い用途や可能性があるので、御社の強みやニーズに合わせた開発・製品つくりを一緒に考えられたらと思います。
Wikipediaによると、「マイクロ流体力学 (Microfluidics) は、工学、物理学、化学、生化学、ナノテクノロジー、生物工学にまたがる学際的な分野であり、小体積の流体の多重化、自動化、高スループットスクリーニングなどの実用的応用がある」という説明があります。 これだけ聞いてもよくわからないですね。少し簡単に説明します。
マイクロ流路はマイクロと流路の二つの言葉が組み合わさった言葉になっています。つまりマイクロ=小さい、流路=流体(=液体や気体)が流れる道なので、流体が流れる小さい道のことなんです。
そんなものが何の役に立つかというと、流体が関係する分野であればなんでも対象であります。ただなんにでも役立つと言われるとつかみどころがないので、わかりやすくするために創薬を例として説明します。薬品や細胞は高価であることが多く、それを沢山使うことは、創薬ではものすごいコストにつながります。そこでかかるコストは最終的には皆さんが薬を使うときに価格として載ってきます。なので、創薬でつかう薬品や細胞を少量にして開発したいです。そんな時に、マイクロ流路の出番です。マイクロ流路に薬品や細胞を流し、反応を調べることができます。通常の細胞ディッシュで使う液量を1000万分の1に減らすなんてことが普通にできます。
さらに、流体が小さくなると、特殊な現象が沢山起こります。例えば、マイクロ流路の中では水は層流(まっすぐ流れる)などがあります。これをうまく使うと、マイクロ流路の形をうまく設計するだけで、いろんな濃度の液体を一括で作ることができたりします。すると、これまで条件を沢山試すために人海戦術で行われてきたプロセスが、マイクロ流路を使うといろんな薬剤濃度に対する細胞の反応を一括で調べることができます。また、マイクロ流路の中では表面張力の影響が大きいので、空気や油の中を水が流れると小さな液滴に分割されます。これをうまく使うと、液滴の中で多くの細胞の薬剤スクリーニングができます。 これらは小さくなったからこそ実現する機能です。他にもまだまだ多くの現象を使った技術が開発されています。
また、それらを一つのチップに多くの技術を実装してバイオ実験を一気通貫チップ上で行う試みなどもあり、マイクロ流路を使うことで医療研究は革新的な進歩を果たしています。そして、これは医療分野だけでなく、化学、農業、食品、美容など様々な分野に応用可能な技術となっています。
◎ マイクロ流路の市場規模
マイクロ流路の市場規模は年々拡大しています。と言っても、技術開発以来ずっと産業的発展があったかというと、最初のマイクロ流路はおもちゃとしか認識されませんでした(1983)。そこから研究レベルの技術的積み重ねが続き、2000年代前半で一度多くのメーカーが参入するブームがありました。しかし、そのブームが来た後には一旦下火になりました。そこで見えた技術的課題をクリアし、新型コロナウイルスパンデミックのタイミングでマイクロ流路の重要性が再認識され、現在再び盛り上がっています。マイクロ流路のポテンシャルはまだまだあります。現在、大注目のAIも、何度かブームが来ては下火になりを繰り返し、第4次AIブームで今の爆発的発展につながっており、マイクロ流路の爆発的発展のタイミングは近づいてきています。
2024年のYole groupレポートによると、市場規模は2.7兆円、CAGRは2.6%となっています。近年はポイントオブケアや感染症検査、DNAシーケンサーなど現在の医療に不可欠となり、大きな発展を果たしました。マイクロ流路は多くの条件を迅速に試せる技術ですので、AIとの相性も良くAIのブームを追い風にAI on chipのような概念も生まれています。現在では日本の世界に誇るアニメと同等の産業規模であり、今後ますます必要となる技術であることは間違いあり、大きな発展が見込まれています。
◎ マイクロ流路分野の将来
よく言われることですが、新薬開発には、膨大な時間とコストがかかっています。一つの薬を開発するには、10-18年&200-500億円がかかると言われます。しかも、新薬開発においてはそれを支える技術が十分に開発・浸透しているとは到底言えない状況であり、時間とコストを引き下げる余地が多分にあり、今後そのための技術開発が必要であることは間違いありません。そのために、マイクロ流路の分野では、微小試薬操作技術や臓器チップ、センシング技術などに世界的に多くの研究者が取り組み多くの予算が投入されています。新薬開発を効率的に行うシステムを実現するには、周辺技術やそれを補う縁の下の力持ち的な技術の開発が重要であり(ゴールドラッシュのツルハシやジーパンのようなもの)、それを実現する技術がマイクロ流路技術と考えます。
今回は新薬開発に着目して説明をしましたが、応用先は無限にあります。それぞれの分野で一旦マイクロ流路が導入されれば、縁の下の力持ちとなる技術になることは間違いありません。様々な分野が発展すればするほど、必須の技術になることでしょう。
石田研では、以下の研究に取り組んでいます。
つまり、石田研究室は、マイクロ流路の開発や計測を中心に、ウイルス、細菌、細胞、臨床組織など多岐にわたるバイオ試料を扱う実験、ハイドロゲルの各種パラメータ計測、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いた観察などを自前で行うことが可能です。
これらの研究に取り組む中で、これまでに開発した技術としては、以下があります。
・粗微動切替可能なマイクロバルーンアクチュエータ
・電子線散乱の少ない超薄シリコン窒化膜
・光ピンセットによる物体操作とSEM観察を両立する技術
・液滴の順次格納技術
・液滴の均一分割技術
・液滴の順次輸送技術
・液滴の蒸発を抑制する技術
・直列マイクロヒータを用いた複数温度のマイクロチャンバ
・マイクロ流路内で組織を包埋・割断する技術
・マイクロアクチュエータで小腸組織を動かす技術
・組織内に濃度勾配を形成する技術
・マイクロ流路内の気泡を局所的に除去する技術
・マイクロ流路内でガラス化凍結をする技術
など
これらの技術をメーカーの人に説明すると、全て特許を取った方がいいと言われます。
しかし、昨今の大学は、特許を使うパートナーがいないと特許として権利化することを望みません。
逆に言えば、一緒に共同研究をすれば、優先的に開発した技術を使ってもらうことが可能です。
共同研究を模索するにあたり、まずは実際にお会いして、いろいろとお話しすることから始めたいです。オンラインより対面でお話しする方がずっと得られるものが多いと思います。必要であれば社内向け研修や講演会などでわかりやすく説明することもできますので、お気軽にお問い合わせください。
その上で、一緒に共同研究を模索し、良さそうであれば共同研究に発展させていくのはどうでしょうか。
共同研究にはいろんな切り口がありますが、以下のような形で可能です。
・現在、研究室で進行中の研究内容をメーカーの製品として技術協力できます。
・研究室で生まれた技術をメーカーの技術に組み込むことができます。
・これまでの研究室の経験を活かして、新たな技術開発に協力することができます。
・将来の共同研究を見こした、試し作製、試し計測、試し観察などできます。
・MEMS・マイクロ流路の研究や材料・バイオにその技術を応用する研究を立ち上げたいという気持ちに寄り添って、新たな研究を一緒に考えることができます。
他にもマイクロ流路に留まらず、MEMSについても共同研究可能です。
◎ 共同研究のおすすめスタイル
個人的にはメーカーの方に石田研究室で過ごしてもらい、技術や重要な考え方を経験的に身につけながら、研究・開発をしてもらうのが良いと思っています。研究室の学生は二・三年で出ていく場合が多く、学生たちは成長過程です。教育のためには学生たちを企業との共同研究にアサインするといいですが、スピードと信頼が求められるビジネスにそんな学生を入れるのは合理的ではありません。
しかも、石田研には、素人を数年教育して、一流に育ててきた実績があります。メーカーの方が石田研究室で過ごしてもらえば、将来的に企業の中でマイクロ流路を独自開発できるくらいマイクロ流路に精通することができます。独自の切り口でマイクロ流路を開発可能となり、共同研究で得られる技術以上に、自走できる組織ができると考えています。
また、バイオ・医療の研究をするにあたっても、バイオ医療の専門家はもちろん、多岐にわたる工学研究者のネットワークがあります。共同研究で行き詰ることがあっても、必要に応じて周りのエキスパートたちの協力を仰ぐこともできますので、課題を迅速に解決できます。