雪面に残された足跡からサルの生息数と分布を推定する

Enari & Sakamaki (2011). Estimation of abundance and distribution of Japanese macaques using track-counts in snow.

Acta Theriologica, 56, 255-265.

里山を代表する大型哺乳類であるニホンザルは、その分布を近年拡大(正確に言うなら「回復」)させつつあり、各地で農業・生活被害を深刻化させています。しかし、ニホンザルの個体群の保全・管理を実施するための簡便かつ効率的な個体群モニタリング手法は依然として確立されていません。そこで、この研究では、雪上の足跡を記録することにより、本種の個体数、群れ数、生息分布を同時に推定するための簡便法を開発し、白神山地に生息する個体群を対象にその有効性を検証しました。

まず、白神山地北東部に、5km×10kmの調査区を設定し、調査区全体の植生や地形を代表する5本のライントランセクトを等間隔に設置しました。

次に、雪上のサルの足跡の特徴を事前に学習した5名の調査員により、これらのライントランセクトを早朝に踏査し、トランセクトを横断するサル足跡を記録・カウントする作業を2008年3月に3回繰り返し実施しました。

本研究では、

  1. カウントされた足跡の数をline-intercept sampling (LIS)を用いてサルの個体数及び群れ数を推定

  2. 同時に、足跡が記録された場所をpresence data (サルがその地点を利用したという証拠)として、ニッチ因子解析(ecological-niche factor analysis: ENFA)によりその潜在的な生息分布を推定

を実施しました。また、LISおよびENFAの結果の確度を検証するために、本研究に先立ち、当該地域に生息する全ての群れにラジオ発信器を装着し、ホームレンジ法により個体数、群れ数、生息分布を予め測定しました。

その結果、LISで推定した個体数・群れ数は、ホームレンジ法による測定結果とほぼ一致しました。ENFAによる潜在的な分布の結果は、ホームレンジ法により明らかにされた調査区内の各群れの生息地利用頻度と高い相関を示しました。これらの結果から、この研究で開発した足跡カウント法は、効率的なサルの個体群モニタリング手法として利用価値の高い手法と判断されました。本手法はサルに限定されず、雪上で生息する他の中大型哺乳類にも応用可能であると考えられます。

後記

この研究はとにかく体力勝負。雪山を直線踏査する必要がありましたからね。

そこで、(もと)モーグルの選手や山岳部の学生など、ツワモノに結集して頂き、達成したのがこの研究。大変ですけど、もう一度やりたいですねー。