サルは破壊的な食植動物?ヤマグワとの生物間相互関係から考える

Enari & Sakamaki (2010). Abundance and morphology of Japanese mulberry trees in response to the distribution of Japanese macaques in snowy areas.

International Journal of Primatology, 31, 904-919.

冷温帯林に生息するニホンザルは、落葉広葉樹の樹皮・冬芽を冬季の主食とします。餌樹木の中で、ヤマグワの採食頻度は際立って高く、複数年にわたり継続して採食されると枯死し、生育密度が低下することが一般的に知られています。しかし、こうしたサルと被採食植物との「対立的な相互関係」に関する指摘とは異なり、長期的にサル生息が確認されている白神山地において、ヤマグワは現在でも広く分布しており、サルの分布が本種の生育を制限しているとは必ずしも考えられませんでした。

そこで、この研究ではサルがヤマグワに与える影響を定量化するために、豪雪地である白神山地及び八甲田山系において、30年以上長期的にサルが生息する林分(M30)、最近15年以内に新しく生息が確認された林分(M15)、現在生息が確認されていない林分(M0)を調査地として選択し、各調査地におけるヤマグワの生育密度・樹形を評価しました。

その結果、M30において、ヤマグワの樹高や樹冠直径などは最低となったが、生育密度は最高となることが明らかになりました。この理由として・・・

  1. サルがヤマグワの効率的な種子散布者として機能している可能性があること

  2. 種子散布され発芽に成功したヤマグワ稚樹は、雪のカバーによってサルによる採食を回避できること

  3. ヤマグワ成木も、雪のカバーにより本種の成長に重要な樹木基部が保護されること

の3つが考えられました。

また、サルの生息歴が長い地域ほどヤマグワのシュート数は増加する傾向も確認されました。これは、植食動物の採食に対するヤマグワの補償成長である可能性が考えられます。これらの結果は、サルとヤマグワの間に存在すると考えられていた「対立的な相互関係」を否定するものでした。

さらに本研究では、サル生息状況が異なる各林分におけるヤマグワ密度・樹形の特徴をより体系的に理解するために、J48 アルゴリズムを用いたdecision tree model(決定木モデル)により、ヤマグワ密度・樹形に関する各変数を用いたM0・M15・M30の分類ルールの作成を試みました。その結果、生育密度・樹高・枝下高・シュート本数密度の4変数から、正答率が高い分類ルールの作成に成功しました。今回構築されたdecision tree modelは、ヤマグワ密度・樹形から、サル生息履歴が一定の確度で推定できる可能性があることも示唆しています

食害ヤマグワ

上記の写真は、サルに採餌されたヤマグワ