ダム開発と森林管理がサル生息地にもたらす影響

Enari & Sakamaki-Enari (2014). Impact assessment of dam construction and forest management for Japanese macaque habitats in snowy areas.

American Journal of Primatology, 76, 271-280.

孤立した北東北のニホンザル個体群のうち、最大規模の分布面積を持つのが白神山地です。しかし、白神山地において現在進行中の大規模ダム開発や過去の針葉樹造林の影響により、生息地の質と量(=Habitat unit, HU)は少なからず影響を受けていることが考えられます。

この研究では、MAXENT(最大エントロピーモデル)を用いた生息地評価から算出したHUをもとに、ダム開発の影響を予測しました。併せて、代償措置(ミティゲーション)としての森林復元の効果を予測するために、現存する造林地の広葉樹林化を含めた複数の森林管理シナリオに基づいて算出されたHUを比較しました。

その結果、

  1. ダム開発がニホンザルの生息地に及ぼす影響は顕著で、特に冬季の好適な利用域(=越冬場)の消失が懸念されること

  2. 現存の造林地の広葉樹林化はHUを回復させるための最善の代償措置にはならないこと

  3. 近年注目されている長伐期施業は冬季を除き好適なサルの代替生息地になりうること

などが明らかとなりました。

後記

生息地評価手続きやシナリオ解析など、日本の野生動物管理の分野では当時は(今も?)まだあまり見られなかった手法を採用。ここで予測したダム開発の影響ですが、まさに今みられはじめています。