豪雪地に棲むニホンザルにとって針葉樹人工林は低質な餌場か?

Sakamaki, Enari, Aoi, & Kunisaki (2011). Winter food abundance for Japanese monkeys in differently aged Japanese cedar plantations in snowy regions. Mammal Study, 36, 1-10.

多くの哺乳類にとって、餌資源の観点から、「針葉樹人工林は低質である」という仮説があり、それはニホンザルでも同様でした。しかし、それを裏付ける十分なデータがあるわけではありません。例えば、人工林といっても、林齢によって下層植生が異なりますが、それが議論されることもこれまでほとんどありませんでした。そこでこの研究では、人工林の林齢ごとにサルの餌資源を評価しました。






写真:白神とはいっても、世界遺産地域周辺には大面積のスギ造林地が広がっています

人工林の餌資源量を評価する最初のステップとして、サルの餌資源を特定する作業を行いました。白神山地に生息するサルは冬期、広葉樹の樹皮や冬芽を主な餌資源とします。この研究では広葉樹の樹皮に残されたサルの食痕から、冬期のサルの餌資源として機能する樹種を特定しました。その結果、ヤマグワをはじめとする広葉樹25種が餌資源として利用されていました。

次に、20年から60年生のスギ人工林と、ブナ一次林とでサルの餌資源量を比較しました。その結果、20年、30年生の人工林は餌の資源量やその多様度がブナの一次林よりも多い(あるいは多様)であることがわかりました。また人工林には、細いけれどもたくさんの本数の餌資源木が、ブナ一次林には太い餌資源木が少量生育していることもわかりました。さらに若齢の人工林には、サルが選択的に採食する樹種が多く生育していることも明らかになりました。

そのため、白神山地の冬期においては、人工林はサルにとって低質な環境であるという仮説はあまり当てはまらないということが分かりました。これは植栽木であるスギに雪害が発生し、人工林の林冠閉鎖が遅れ、その結果、長期間、日光が林床に届くようになり、サルの餌資源を含む、下層植生が繁茂することが影響しているのではないかと考えられます。

文責:江成(さかまき)はるか