樹皮食者のサル・ウサギ・カモシカが森林にもたらす影響:3種の生息地利用の比較から

Enari & Sakamaki (2012). Landscape-scale evaluation of habitat uses by sympatric mammals foraging for bark and buds in a heavy snowfall area of northern Japan. Acta Theriologica, 57, 173-183.

豪雪の白神では、哺乳類にとっての冬季のエサ資源は限られます。ササなどの草本植物や、低木の多くは、雪に埋まるためです。そこで、木本植物の樹皮や冬芽なども貴重なエサ資源として活用されます。樹皮・冬芽を主なエサ資源として取り入れる代表的な哺乳類として、サル・ウサギ・カモシカが挙げられます。

研究事例が豊富にあるわけではないのですが、それぞれの哺乳類種による樹皮・冬芽食が木本植物にもたらす影響は知られており、破壊的な食植動物として知られるニホンジカと比べれば、その影響は少ないと考えられることの方が一般的です。しかし、一つ一つの影響は少なくても、3種それぞれの影響の累積効果により、森林に対する影響が顕在化するのではないかと私たちは考えました。

そこで、私たちの調査チームでは、冷温帯林において「生物地理学的なスケール(≒マクロなスケール)」からみると同所的な空間を利用する種(sympatric species)であるカモシカ、ウサギ、サルの冬季の生息地利用を、それぞれの哺乳類種の足跡をもとに評価しました。それぞれの哺乳類種のミクロなスケールにおける生息地利用の差異が、森林に対する影響を考える上でまず必要であると考えたからです。ちなみにこの3種の哺乳類は、比較的類似した木本植物を利用することが知られています。

この研究では、白神山地北東部に、50平方キロメートルの調査地を設定し、その中に5㎞×5本のライントランセクトを設定しました。2008年3月と2009年3月に、このトランセクトを踏査し、それぞれの動物の足跡を記録しました。この論文では、これらの足跡を、対象とした哺乳類種がその場所を利用したとする在情報(presence data)として利用し、「生態ニッチモデル」と「判別分析を用いたニッチ比較」を行って、3種の生息地利用の特徴や差異を明らかにしました。


写真:左から、カモシカ、サル、ノウサギの足跡

その結果、実はこの3種、 見事に生息地利用様式が異なることが明らかにされました。つまり、類似した木本植物を採餌していても、この3種は景観スケール(生物種から認識される空間スケール)から見ると、実は同所的に生息する種とは言えないことが明らかにされたわけです。

ちなみに

  1. サルは吹雪などの厳しい冬季の環境を避けるために、低標高で地形の複雑な場所をレフュージ(避難場所)として積極的に利用すること

  2. カモシカは人里を離れた標高が高い広葉樹林を選択すること

  3. ウサギは標高帯の影響は受けにくいが、若齢針葉樹林を選択すること

の3つが3種の生息地利用を分離している大きな要因として特定されました。この結果は、当初想定していた「3種それぞれの影響の累積効果」については、それほど考慮する必要がないことを意味していました。