雪中で越冬する大量の哺乳類糞の役割を探る
Enari, Koike, and Sakamaki-Enari. 2016. Ecological implications of mammal feces buried in snow through dung beetle activities.
Journal of Forest Research 21: 92-98.
動機と背景
この研究の動機(+淡い期待)は3つ
1)豪雪帯の場合、晩秋から冬季にかけて哺乳類が排出する糞は次々雪に埋められ、春の雪融けとともに、同時に一斉に現れます。実にこの量の推定値(エビデンスあり)は、平方キロ当たり、サルで60キロ、ウサギで30キロ、カモシカで80キロ!(こんな推定、誰も考えたことないでしょうね。きっと)。この大量の埋雪糞がもつ生態学的な意味って何かあるのでしょうか?
2)先の研究で明らかにしたサルと糞虫による種子の一次・二次散布の連鎖(ただし春と夏に限定)。しかし、糞虫が秋にほとんど現れなくなる冷温帯では、秋に一次散布された果実の種子はうまく二次散布されなくなる恐れがあります。ここでポイントとなるのが、晩秋から降り始める雪。雪が積もることで、サルに一次散布された種子は、ネズミによる捕食圧をある程度回避できるはず。捕食回避され、春にその糞が雪融けとともに出現すれば、春に大量発生する糞虫によって二次散布されるのでは・・・、という淡い期待が頭をよぎりました
3)糞虫の発生量と、気温との正の相関関係は、世界各地で報告されています。ただ・・・、冷温帯多雪地では、比較的冷涼な気温の春(正確には雪融け後)に糞虫が大量発生します。もしかしたら、この同時多発的にあわれる雪中糞が影響しているのでは・・・???
成果
上記3つの動機と期待をもとに、埋雪されたサル・ウサギ・カモシカの糞が、春にあらわれる糞虫によって利用可能な資源となりうるかを評価してみました。
いつもどおり、調査地は白神山地。
その結果
12種の糞虫が、そうした雪中で越冬した糞を利用していること
特にカモシカの埋雪糞が多様な糞虫に利用されること
種子の二次散布機能に優れたセンチコガネ類(日本でもっとも大型の糞虫)はサル糞に集まりやすいこと
このことから、
春に同時に一斉出現する大量の埋雪糞は、春に大発生する糞虫を説明する一つの要因になりそうなこと(やっぱり、そうなんですね!)
秋にサルによって一次散布された種子は、春にあらわれる糞虫によって無事に土中に埋められること(すなわち、時間差の種子散布プロセスが成立!)
が言えるでしょうか。
後記
この研究でとりあえず大変だったのが、雪中に保存されている糞を見つけ出すこと。はじめは、秋の糞を人工的に雪に埋めてもよいかも・・・と思ったのですが、自然のプロセスとはちょっと違うので、やめました。
そこで、長年の勘を頼りに、雪をほって3種の哺乳類の糞を探すという荒業に出ました。どうにか成功したからよかったものの、もう二度とやりたくない作業の一つですね。