豪雪地における哺乳類の分布回復は糞虫群集を回復させるか
Enari, Koike, Enari, Seki, Okuda, & Kodera. 2018. Early-stage ecological influences of population recovery of large mammals on dung beetle assemblages in heavy snow areas.
Acta Oecologica, 92:7-15.
動機と背景
東北日本海側は世界有数の豪雪帯。そのため、シカやイノシシといった大型哺乳類にとって生息不適地と呼ばれてきました(ちなみに、これら2種は明治期以前には広く分布していたんですけどね)。
一方で・・・
この2種、さらにニホンザルは、ここ10年ぐらい、分布回復を顕著にみせはじめ、排除すべき害獣として、メディアの報道や、行政の会議の場にもたびたび登場します。ですが、これらの種は外来種ではなく、在来種。人間によってかつて地域絶滅させてしまったそれらの種がもつ生態学的な役割というものは考えなくてよいのでしょうか。
成果
ということで、哺乳類種3種の回復がもたらす生態学的評価として、糞虫群集に注目してみました。糞虫は、生態系の変化に敏感な指標種であると当時に、これらの群集が豊かになると、種子散布プロセスが向上する(=生態系の回復力が高まる)ことが分かっています。
調査サイトは、白神、八甲田、朝日、庄内海側、にあるブナ・ミズナラ林(今回はかなり広域で調査)。これらの4サイトで、カメラトラップで哺乳類群集を、上記3種の哺乳類の糞を誘因餌としたベイトトラップで糞虫群集の両方を評価しました
その結果、
上記3種の糞は間違いなく糞虫の有用な資源になること
ただし、哺乳類群集がすでに脆弱になってしまった地域(これを「森林の空洞化」と呼びます)では糞虫層はすでに脆弱化しており、これら3種の哺乳類が回復しても、すぐに糞虫群集の回復は見込めないこと
特に、哺乳類群集の脆弱化の影響は、種子の二次散布に欠かせない糞虫(トネラー類)に顕著なこと
などが明らかにされました。
過去の生態系攪乱の影響(履歴効果)は、生態系の再野生化を考えるうえでも無視できませんね。
上記写真のシカとイノシシは、ともに朝日山系の奥山で見つかった個体。
後記
この調査で大変だったのは、3種の哺乳類の新鮮糞を集めること。糞虫の誘因効果が変わるため、糞の鮮度を統一する必要があるんですよね。
特に大変(というか、ほとんど不可能)だったのがイノシシ。ということで、イノシシの解剖個体から、直腸糞を集めるという荒業に打って出ました(KさんとOさんには感謝!)。シカについては、妻を奥日光(日本有数のシカ高密度地域)に派遣して、糞の回収をしてもらったり。
ということで、実験準備段階で、かなりの総力戦に。論文になってホッと一息。