突発的な豪雪にサルはどのように対応するか?

~採食選択の視点から~

Enari & Sakamaki-Enari (2013) Influence of heavy snow on the feeding behavior of Japanese macaques (Macaca fuscata) in northern Japan.

American Journal of Primatology 75:534-544.

動機と背景

気象変動による暖冬化。こんな話はよく聞きますよね。確かに、平均気温(正確に言えば移動平均)で見ると徐々に暖冬化の傾向は各地でみられるようになっています。ただ実際現地では、とんでもない暖冬の年もある一方、かつてない爆弾低気圧によって豪雪に見舞われる年も増えています。極端な気象条件の発生頻度の増加が、気象変動の実態と言ってもよいのかもしれません。

そんな突発的な豪雪年に、(熱帯由来で北限にまで分布を広げた)ニホンザルは無事に冬を越せるのでしょうか。こんな疑問を動機に、研究をしてみました。

成果

調査はいつものとおり、白神山地。

北東部の固定調査区(40m幅で、総延長13キロ程度のルート)を用意し、2008年からニホンザルの採食痕を毎年記録しています。冬季の主食は樹皮と冬芽なので、晩冬季に採食痕を記録することで、その冬にどこで何を食べていたのかが定量的に評価できる、というわけです。

この論文では2012年までのデータで解析。

その結果、以下のことが分かりました。


  • 積雪量が平年並みかそれ以下の年は、一般的に彼らが好んでいるといわれる陽樹の低木類やツルの樹皮と冬芽を採食すること

  • 一方で、雪が平年よりも増加する年(豪雪年)は、上記の採餌をあきらめ、①「寒冷豪雪環境からの避難場」の重要さが高まることで採餌場が制限されること、②耐陰性の強い高木類(ブナ・ホオノキ・トチノキなど)を代替的に採餌すること

がわかりました。

一言でいえば、豪雪年では、「好きなものを努力して食べる」のではなく、「あまり動かず、身近に食べれるものを細々と食べ続ける」というリスク回避型の採食戦術を採用しているようです。

こうした採食戦術によって、豪雪年でもどうにか越冬しているようですね。では、こうした豪雪が、具体的にどの程度個体群動態(個体の越冬成功率)に影響が及ぶのでしょうか。

この点は、評価を継続中。続報までお待ちください。

後記

固定調査区は、その後も毎年痕跡評価を続きけており、さらに膨大なデータがたまってきました。ここまで長年にわたって食性を記録し続けたものは、他の種でもそうはないはずです。そろそろ論文化しないといけませんね。