研究の目的

夏季のヒマラヤ山脈では, 南方周辺海洋からの下層の湿潤(モンスーン)気流が, ヒマラヤ南斜面の影響を受けることにより, 豊富な降水がもたらされます (と, もっともらしく書いてあるこの文章の詳細な降水過程を明らかにするのが最大の目的です). この降水による潜熱加熱(気体の水蒸気から液体の水に相変化する際にでる熱)は, 夏季アジア周辺の大気循環の形成・維持に重要な役割を持っています(Boos and Kuang 2010). また, この降水が高標高地域の山岳氷河やインダス川, ブラマプトラ川, ガンジス川などの大河川源流域を含む山岳域の水循環を維持しています. ヒマラヤには地球上の山岳氷河の約20%が存在し, 流域に住む約8億人の水資源として重要なだけではなく(Immerzeel et al. 2010), その縮小を介し海面高度上昇への寄与が大きいと予想されてます(IPCC AR5 2013). そのため, 夏季ヒマラヤ山岳域の水循環にとって, 降水量とその変動を知ることは非常に重要です. 近年の人工衛星搭載降雨レーダ(TRMM-PR)により, 斜面上の地形の特徴を反映した詳細な降水量分布が明らかになりつつあります. しかし, このヒマラヤ高標高地域の降水量分布の妥当性は未だに確かめられていません. また, 高標高地域での地上降水量データも不足しているため, そもそもどのくらい雨が降るのか? といった基本的な情報すら不足しています. また, どのような降水システムが氷河の涵養に重要なのか?といった疑問にも答えられません.

そこで, 本研究はネパールと日本の氷河・気象・気候・水文を専門とする研究者が共同し, これまで観測や研究の少ない標高3000mから氷河が存在する高度までの領域に注目して,

  1. 夏季ヒマラヤ山岳域の降水量と, 日変化から年々変動にわたる降水量変動の実態及びそれに伴う降水特性の変化を, 標高の異なる複数地点の地点降水観測から明らかにします. 降水量観測は降水イベント毎に記録できる雨量計を用います. これにより極端降水の解析や衛星降水量とのマッチアップ解析も可能になります.

  2. 17年分のTRMM(熱帯降雨観測衛星)の降水レーダと(GPM)全球降水観測計画/(DPR)二周波降水レーダのデータを最大限活用し, 詳細な降水量の空間分布を明らかにします. また, 融解層高度など, 降水システムの鉛直構造も解析します.

  3. 降水変動をもたらす総観規模の大気循環変動(モンスーン低気圧, 赤道波, 中緯度ロスビー波など)を高時空間解像度大気再解析データ(ERA5)を用いて明らかにします.

  4. 総観規模の湿潤気流変動と斜面における領域規模の山谷地形がもたらす降水変動の詳細なメカニズムを雲解像領域モデル(WRFとCReSS)を用いて明らかにします.

これらの総合的な解析を通して, 氷河の存在する高標高地域を含む山岳域の水循環の理解向上を目指します.

研究期間は2018年10月~2023年3月です。https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18KK0098/