第1回「犬聞録」 白翁会副会長 石黒和守

吾輩は「太助」である。ご主人が時代劇が好きなため、一心太助から命名されたようだ。最近、人間共はバウリンガルとかいうものを発明し我々、犬族の言葉が翻訳されると嘘ぶいているがチャンチャラ可笑しい。人間共は戦争とかいうお互いの殺し合いをする愚かな種族で好きになれないが、ご主人様は餌をくれるので好きである。そこでご主人の日頃の生活を回顧してみよう。

ご主人は幼少時からアトピー性皮膚炎に悩まされ皮膚科医になったようだ。今まで発汗は悪玉で汗をかかない指導がされてきたが、ご主人の経験では汗をかくことはいい事で汗をそのままにしておくから痒いので、「汗」と「発汗」の違いを明確にして、汗をかいて洗い流す指導にガイドラインを書き換える事がご主人の死ぬまでの夢らしい。そのために学会でそのテーマのシンポジウムを企画して皮膚科学会の代議員になり、ガイドラインにコメントを言える立場になり頑張った結果、なんと今年発表されたアトピー性皮膚炎の新しいガイドラインに発汗と汗の違いが明記されたらしく、ご主人の喜びようは物凄いものであった。やはり有言実行で夢は叶うのである。吾輩の美犬の彼女と結婚したい夢も叶うであろうか(笑)。

ご主人も吾輩と同じで女性の趣味は良く、美人の奥様と結婚して毎週夫婦で老人施設に往診している。我々、犬族にも犬疥癬というメチャクチャ痒い憎きダニがいるが、人間共にも流行しているらしい。ご主人は角化型疥癬と通常型疥癬の中間型疥癬である老人施設型疥癬があると感じているらしく、教科書には記載がないので、次の夢は「老人施設型疥癬」が教科書に記載されるのが夢らしい。人間は欲張りで一つの夢が叶ったら次の夢に邁進する生き物らしい。

ご主人は左目の白内障の手術を3年前にしたが(アトピー性皮膚炎の人間は早く白内障になるらしい)今年の誕生日前日に今度は右目の手術をして、人生初の眼鏡が必要になったらしく、東京のドイツマイスター(日本に4人しかいないらしい)がいる眼鏡院で眼鏡を作製した。ドイツマイスターの人間もオシャレなシャツを着ていたため、意気投合して二つも作ったらしい。ご主人はオシャレが好きで毎日その日のラッキーカラーを着るアンポンタンである。アンポンタンは一人だけと思ったら本多のオジジというもう一人のアンポンタンがいるらしく、二人で片町とかいうところに、夜な夜な徘徊し、お酒が飲めないので高いジュースを飲まされて騙されているらしい(笑)。いつぞや二人のラッキーカラーが被ったらしく、真っ赤なジャケットでサンタクロースのようであった。吾輩に餌をくれなくなると困るので病気で倒れないように夜遊びもホドホドにして欲しいものだ。そろそろ吾輩も野良犬のジョセフィーヌのところに夜遊びに行くのでおしまいにしよう。

白翁会副会長 石黒和守