おすすめ書籍・講義関連

おすすめの書籍として、立命館大学生協でのブックフェアで紹介した書籍およびポップを掲載しています。研究室選択などの参考にしてください(書籍情報はブックフェアからそのままコピペしたのでちょっといい加減です。リンク先はamazonですが、立命館大学の学生さんは生協で購入すると10%offになるので生協が少しお得かもしれません)。

また、今後の講義関連の資料を掲載予定です。過去の講義資料・参考文献情報などを予定しています。

著者や対談者として加わった本の紹介

横澤一彦(編)(2022)『認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開』東大出版

新しく東京大学出版会から刊行される認知科学講座シリーズの第4巻です。1巻『心と身体』、2巻『心と脳』、3巻『心と社会』をそれぞれテーマとしていますが、第4巻はそれらの分類に収まらない先端的な研究をまとめています。私(専門は認知科学)は数学者と共著で数学の一分野である「圏論」を用いた認知科学研究について書いています。それ以外にも、近年注目されている自由エネルギー原理や、本学の谷口先生による記号創発ロボティクスの章もあります。認知科学としてやや高度な内容も含まれる一冊ですが、新しい展開を味見するのに楽しい一冊です。1~3巻と合わせてぜひ手に取ってご覧ください。認知科学にはちょっと興味があるけれど、この本から読むのは難しそう…という方はおすすめしている他の本から先に読まれると良いと思います。

西郷甲矢人(著)(2022)『圏論の地平線』技術評論社

「しかし、もし対象を他の対象との「関係性」の総体において捉えるのが圏論の精神であるというのなら、他の諸分野との関係性を通じて圏論を「圏論的に」語ろうとする本があってもよいのではないか(「まえがき」より)」という冒険的なアイディアから生まれた対談本。計算機科学、認知科学、意識研究、複雑系、物理・工学、哲学、数学など多様な分野の研究者が圏論に詳しい数学者である西郷さんと対談しています。といっても、圏論のことばかり話しているのではなく、少なくとも認知科学分野の対談では好き勝手自分の研究や大学教育への文句などを話しており、研究者がカジュアルに話す様子や普段何を考えているのかを知ることができます(私は認知科学分野の対談に参加しています)。専門的な圏論の部分はわからなくても、きっと楽しむことができる一冊だと思います。なお、どの章からでも読むことができます。


認知科学および出版書籍に関連する布山からのおすすめ本

1. 鈴木宏昭(2022)『私たちはどう学んでいるのか—創発から見る認知の変化』筑摩書房

認知科学の知見から思考力、知識、上達、発達、ひらめき、教育について書かれた本です。本書は特に、揺らぎや動的な状況が学びに本質的である点に注目して書かれており、現在の教育のあり方についても批判的に論じています。著者の多くの面白い実験についても書かれており、読みやすく、また考えさせられる本です。各章の最初にまとめが書かれているので、良ければ手にとってその部分だけでも読んでみてください。教育に興味がある学生さんにぜひ読んでいただきたいです。

2. 鈴木宏昭(2020)『認知バイアス—心に潜むふしぎな働き』講談社

1と同じ著者によって書かれた認知バイアスの本です。認知バイアスとは、主に無意識に行う非論理的な思考のことを指し、限られた認知資源で実際の問題を解くためのヒューリスティックです。必ずしもバイアスが悪いわけではないのですが、非合理的な意思決定や社会的ステレオタイプ・偏見の助長など悪い点もあります。自分自身の持っている認知バイアスを自覚することで、より広い視野で物事を捉えるきっかけをつくれます。近年多くの会社でも認知バイアスに様々な観点から注目しているようです。

3. 今井むつみ(2010)『ことばと思考』岩波書店

日本語母語話者が多い日本では虹は7色で表現しますが、5色で表現する言語もあります。また、基本的な色の名前が2色しかない言語もあります。では、虹を5色で表現する言語の母語話者は虹が5色に見えるのでしょうか?基本的な色の名前が2色しかない言語の母語話者は世界が2色で見えているのでしょうか?これらは哲学・文化人類学の分野の問題でもありますが、認知科学の実験によって実証的に検証されてきました(ちなみに色の名前が多い言語の話者ほど、逆に色の認識が歪むことが知られています)。本書はこういったことばと思考の関係について、多くの興味深い実証的知見をもとに考える本です。言語や概念に興味のある学生さんにぜひ読んでいただきたいです。

4. メアリアン・ウルフ(2020)『デジタルで読む脳 x 紙の本で読む脳』インターシフト

私は文章理解を一つの研究テーマの軸にしています。近年SNSの発達で短い文章を素早くやりとりする機会が多くなったように思います。ではそういった素早い文章の理解とゆっくり紙の本で小説を読むのにはどういった違いがあるのでしょうか。現代社会においては早く理解することばかりが重要視されますが、実は集中して「ゆっくり」読むからこそできる理解もあるとされます。一方で、電子ならではの長所も併論されています。著者は認知神経科学・発達心理学の研究者で、多くの研究知見も盛り込まれていますが、とても読みやすい、親しみやすい一冊です。

5. 犬塚美輪(2020)『生きる力を身につける 14歳からの読解力教室』笠間書房

「読解力」は身につけるべき能力として近年も重視されています。では何ができたら「読解力」が身についたと言えるのでしょうか?文章を理解することは、文章を構成する文や単語それぞれを理解することとどう違うのでしょうか?漫画の理解と文章の理解は何が違うのでしょうか?本書は文章理解の基礎的な知見について対話形式で書かれた入門書です。難しいテーマなので諸説ある部分もありますが、文章理解研究の最初の一歩として読みやすいと思います。

6. 嶋田総太郎(2019)『脳のなかの自己と他者』共立出版

本書は「越境する認知科学」シリーズの最初の一冊です。「越境する認知科学」はファンカルチャーといった一見カジュアルなテーマから、創造性や人工知能など多くの注目テーマについて刊行されているシリーズです。本書は自己と他者について私たちがどのように認知するのか、神経科学の知見を主として、哲学の観点も入れながら論じています。私たちはどうして「この」腕が私の腕だと思うのでしょうか。なぜこの腕を動かしたのは私だと思うのでしょうか。なぜ他者は自分ではないのでしょうか。自分ではない他者にどうして共感できるのでしょうか。これらの当たり前だと思うことは実はまったく自明なことではありません。実際、脳の障害によって自分の腕が他者の腕だと感じたり、他者に動かされていると感じることもあります。本書はやや専門的で難しい部分もありますが、認知モデルの考え方も学べ、非常に面白く勉強になると思います。個人的にもとても好きな本です。

7. アントニオ・R・ダマシオ(2010)『デカルトの誤り』筑摩書房

感情とはなんでしょうか。感情と理性は対立するものでしょうか。感情と身体はどういった関係にあるのでしょうか。本書の原著は1994年に刊行されており、古い本ですが、感情と理性、身体の関係の研究が進むきっかけとなった一冊で、いまでも読む価値があると思います(なお本書の説に一部否定的な知見も出ています)。ダマシオは感情が合理的な判断、つまり理性の屋台骨の一つであり、かつ身体の状態が感情の一つの基盤である可能性を指摘します。感情や合理性に興味のある方はぜひ手にとってみてください。

8. 服部雅史・小島治幸・北神慎司(2015)『基礎から学ぶ認知心理学 人間の認識の不思議』有斐閣

認知科学は学際的かつ扱うテーマが広いため、一冊で全体像がわかる入門書はなかなかありません。本書は認知科学のテーマの中から主なものを中心に1章1テーマで10章にわたって、面白い具体例や読者が考える課題も盛り込みながら書かれています。それぞれのテーマについてより詳しく学びたい場合の推薦書も載っており、教科書としても使える一冊だと感じています。認知科学全体を一冊で見てみたい人におすすめです(ただし漏れているテーマもあるので、その場合は「認知科学講座」「越境する認知科学」「認知科学のススメ」シリーズから気になるテーマの本を読んでみてください)。

9. ルトガー・ブレグマン『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』

人の本性は悪なのでしょうか。善なのでしょうか。もちろん状況次第なわけですが、これまで心理学の有名な実験はどちらかというと人間が“悪”に転びがちなことを報告してきました。たとえば、スタンフォードの監獄実験、ミルグラムの電気ショック実験など映画や有名な映像に残る実験が多くあります。本書はこういった性悪説に与する知見を再検討し、多くの欺瞞をあばき、むしろ「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ(p.21)」ということを主張します。皆さんは利己的で自分のことしか考えない生物が進化で生き残った「人間」だと思うでしょうか。あるいは「ほとんどの人は、本質的にかなり善良だ」と言う人はお気楽な人だと思うでしょうか。そう思われた方はぜひ読んでみてください。本書は、むしろ「本質的にかなり善良だ」ということを受け入れる勇気が世界を善くすると主張します。きっと新しい見方を得られると思います。

10. ドナルド・ホフマン(2020)『世界はありのままに見ることができない—なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか』青土社

いま何が見えますか?三次元の世界が目前に広がっていて、棚に本やポップが見えるでしょうか。この本は、そういった“現実”がディスプレイ上のアイコンと同じ程度にしか“現実”でないことを主張します。あなたは目の前の本を取ることができ、コンビニで買ったお菓子を食べることもできます。しかし、それらはファイルのアイコンをディスプレイのゴミ箱アイコンに捨てたり、ダブルクリックして開くことと同じことだとホフマンは言います。そして、もしそうだとしても、あるいはそれだからこそ、私たちは生き延びてきたとします。そうだとしたら私たちは(あるとすれば)“ものそのもの”や“実在”を知ることができるでしょうか?本書は実証的な知見に基づきながらこういった世界や実在について議論します。マーケティングや美しさといった身近なテーマの知見もあり、面白い一冊です。

11. カルロ・ロヴェッリ(2021)『世界は関係でできている:美しくも過激な量子論』NHK出版

この一冊も“実在”のあり方について議論する一冊です。前半は量子物理について論じ、後半でより広いテーマを議論しています。量子物理では、物理的な対象、たとえば電子が、粒子でもあり波でもあり、かつ粒子でもなく波でもないといったような、私たちの直感的な実在のあり方とはかけ離れた特徴を持ちます。著者は、量子物理の示す意味を検討することで、あらゆる物理量(たとえ古典的な質量や速さであっても)はあるものと他のものとの関係で決まる(あるいは関係そのもの)と解釈します。このように“実在”が“関係”であると考え論を進めるのが本書です。量子物理の部分は、正確に理解するには量子論をある程度勉強しなくてはいけませんが、一般書として事前知識がなくてもある程度理解できるように読みやすく書かれています。実在のあり方に興味がある方はホフマン(2020)と共に読まれると新しい観点が得られると思います。

12. レベッカ・ソルニット(2019)『迷うことについて』左右社

哲学者メノンの「それがどんなものであるかまったく知らないものを、どうやって探究しようというのでしょうか」という問いに対して、迷うことや不確定性にとどまることを提示しオムニバス形式で進む本書。私の研究テーマの一つである不確定性を積極的に捉えるとても美しい本です(表紙も中表紙もとても綺麗なのでぜひ開いてください)。本書はいわゆる認知科学や数学分野の本ではありませんが、鈴木(2022)のゆらぎの価値やウルフ(2020)のゆっくり読むことの価値に通じる本だと感じています。

13. 西郷甲矢人・能見十三(2019)『圏論の道案内』技術評論社

『認知科学講座4 心をとらえるフレームワークの展開』で私たちが取りあげた「圏論」にもし興味を持たれたら、入門書としてはこの一冊が良いと思います。数学は難しいと思われるかもしれませんが(実際、私も難しいですが)、新しい見方を手に入れるのに数学ほど良い分野もないかもしれません。数学は計算すると思っていませんか?圏論のこの教科書ではいわゆる計算は全く出てきません。代わりに矢印ばかりが出てきます。すべてを矢印で表そうというのが圏論の思想(らしい)です(言い過ぎかもしれませんが)。ロヴェッリ『世界は関係でできている:美しくも過激な量子論』とも通じる部分があります。なぜかというと、矢印は関係性だからです。矢印だけでどこまで表現できるのか?さらさら読むのではなくゆっくり考えながら思考する本ですが、一緒に考えてみませんか。


紹介文未作成のおすすめ書籍(一部品切れ)

1. ウンベルト・エーコ(2002)『開かれた作品』青土社 品切れ

2. W・イーザー(1982)『行為としての読書』岩波書店(新装版でも)

3. ヴァージニア・ウルフ(2015)『自分ひとりの部屋』平凡社

4. レベッカ・ソルニット(2020)『【定本】災害ユートピア』亜紀書房

5. 渡辺正峰(2017)『脳の意識 機械の意識』中央公論新社

6. クリストフ・コッホ(2014)『意識をめぐる冒険』岩波書店

7. 谷口忠大(2014)『記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門』講談社 品切れ

8. 安西祐一郎(2011)『心と脳―認知科学入門』岩波書店

9. 安西祐一郎(1985)『問題解決の心理学』中央公論新社

10. マイケル・ポランニー(2003)『暗黙知の次元』筑摩書房

11. C.M.ビショップ(2012)『パターン認識と機械学習 上』/『パターン認識と機械学習 下』丸善出版

12. 西郷甲矢人・田口茂(2019)『〈現実〉とは何か』筑摩書房

13. 橋本治(2018)『負けない力』朝日新聞出版

14. アルベルト・マングェル(1999)『読書の歴史 あるいは読者の歴史』柏書房

15. ロジェ・シャルティエ&グリエルモ・カヴァッロ(2000)『読むことの歴史 ヨーロッパ読書史』大修館書店 品切れ

16. 永嶺重敏(2004)『〈読書国民〉の誕生』日本エディタースクール出版部 品切れ

17. 谷口忠大(2020)『イラストで学ぶ人工知能概論』講談社

18. 高橋英之(2022)『人に優しいロボットのデザイン』福村出版

19. メアリアン・ウルフ(2008)『プルーストとイカ』インターシフト

20. チャールズ・ファーニハフ(2022)『おしゃべりな脳の研究』みすず書房

21. 川上弘美(2009)『真鶴』文藝春秋

22. 小川洋子(2011)『猫を抱いて象と泳ぐ』文藝春秋

23. テッド・チャン(2003)『あなたの人生の物語』早川書房

24. 向後千春・富永敦子(2007)『統計学がわかる』技術評論社

25. 向後千春・富永敦子(2009)『統計学がわかる 回帰分析・因子分析編』技術評論社

26. ジャック・ランシエンール(2019)『無知な教師〈新装版〉:知性の解放について』法政大学出版局 品切れ