Thermoelectric Generator

フレキシブル熱電シートの開発

我々は、単層カーボンナノチューブ (SWCNT) を素材とした世界最高の熱電変換効率と耐久性を有するSWCNT熱電変換シートの開発を目的としています。SWCNTの直径やバンドルの制御、高いゼーベック係数、安定なドープを実現する機構を突き止めることで、高性能なSWCNT素子の作製を目指します。またSWCNTの接点の理解と制御に着目し、実測データと連動しながら、巨大モデリングを構築することでSWCNT熱電発電の体系化を目指します。

最近の動向

1. ピリジン–ホウ素ラジカルによる単層カーボンナノチューブの電子ドーピング

1,3-ジメチル-2-アリールベンズイミダゾール(DMBI)誘導体は、半導体の電子ドーパントとして機能します。しかし酸素の存在下によるドーピングでは、DMBIラジカルと酸素分子の反応により、不活性な酸素付加体(DMBI-Ox)が生成するため、ドーピング効率の低下を招きます。今回DMBI-Oxが紫外線照射により、分子内環化反応に基づいて、水酸基イオンを発生することを明らかにしました。さらにこの反応を用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の光誘起電子ドーピングを達成し、p型SWCNTをn型SWCNTに変換することに成功しました。本ドーピングは、フォトマスクを用いることでp-nパターンを有するSWCNTシートを簡便に作製可能であり、これを用いた平面型熱電発電(TEG)デバイスへと展開することができました。

N. Tanaka, T. Ishii, I. Yamaguchi, A. Hamasuna, T. Fujigaya, J. Mater. Chem. A 11, 6909-6917 (2023).

2. ピリジン–ホウ素ラジカルによる単層カーボンナノチューブの電子ドーピング

有機ホウ素化合物は、ホウ素上の空の2p軌道に由来するルイス酸性を示し、さらにこの空の2p軌道はπ骨格との有効なπ共役により、低いLUMO準位をもつ電子受容性に富んだ電子系を形成します。このためホウ素化合物は、半導体に対してp型ドーパントとして振る舞います。しかし2000年代以降、電子供与性を示すホウ素化学種 (ボリルラジカルやボリルアニオン) が次々に登場し、その高い還元性を利用した反応開発が行われてきました。本研究では、この性質を利用して、SWCNTの電子ドーピングに成功しました。

N. Tanaka, A. Hamasuna, T. Uchida, R. Yamaguchi, T. Ishii, A. Staylkov, T. Fujigaya, Chem. Commun. 57, 6019-6022 (2021). 

3. 平面型熱電発電デバイス作製に向けた、蒸着によるカーボンナノチューブのp-nパターニング法の開発

フレキシブルな単層カーボンナノチューブ(SWCNT)シートを用いた熱電発電機(TEG)は、高いゼーベック係数、優れた電気伝導性、優れた柔軟性を有し、ウェアラブルエレクトロニクスの実現に有望です。そのための熱電発電デバイスの構造は、従来のπ平型構造に比べ、平面型構造が望ましいです。平面構造を実現するためには、p型とn型の領域を連続して高精度に繰り返す必要がありますが、溶液ドーピング法では、横方向への分子拡散が大きいため、パターニングの分解能が低下する問題がありました。そこで本研究では、ドライパターニングされたマスクを用いて,蒸着によるドライパターニングプロセスの開発を行いました。

R. Yamaguchi, T. Ishii, M. Matsumoto, A. Borah, N. Tanaka, K. Oda, M. Tomita, T. Watanabe, T. Fujigaya, J. Mater. Chem. A 9, 12188 (2021). 

4. 大気安定n型単層カーボンナノチューブの熱電変換と安定メカニズムの解明

大気安定なn型半導体カーボンナノチューブ (SWCNT) は、オールカーボン熱電デバイス開発において必要不可欠です。これまでSWCNTのn型ドーパントとして、ジメチルベンズイミダゾール (DMBI) が報告されており、これは大気安定なn型SWCNT膜を与えます。しかしこれまで、この安定化メカニズムは明らかになっていませんでした。今回、吸着頭音実験により、ナノチューブ表面全体にドーパントが被覆していることが明らかになり、この被覆量がナノチューブの安定性を決定づけていることが明らかになりました。

Y. Nakashima, R. Yamaguchi, F. Toshimitsu, M. Matsumoto, A. Borah, A. Staykov, M. Saidul Islam, S. Hayami, T. Fujigaya, ACS Applied Nano Materials 2, 4703-4710 (2019).

5. フラビン抽出された半導体性単層カーボンナノチューブの熱電特性

大気安定なn型半導体カーボンナノチューブ (SWCNT) は、オールカーボン熱電デバイス開発において必要不可欠です。これまでSWCNTのn型ドーパントとして、ジメチルベンズイミダゾール (DMBI) が報告されており、これは大気安定なn型SWCNT膜を与えます。しかしこれまで、この安定化メカニズムは明らかになっていませんでした。今回、吸着頭音実験により、ナノチューブ表面全体にドーパントが被覆していることが明らかになり、この被覆量がナノチューブの安定性を決定づけていることが明らかになりました。

W. Huang, F. Toshimitsu, K. Ozono, M. Matsumoto, A. Borah, Y. Motoishi, K-H. Park, J-W. Jang, T. Fujigaya, Chem. Commun. 55, 2636-2639 (2019).