Thermoelectric Generator

フレキシブル熱電シートの開発

我々は、単層カーボンナノチューブ (SWCNT) を素材とした世界最高の熱電変換効率と耐久性を有するSWCNT熱電変換シートの開発を目的としています。SWCNTの直径やバンドルの制御、高いゼーベック係数、安定なドープを実現する機構を突き止めることで、高性能なSWCNT素子の作製を目指します。またSWCNTの接点の理解と制御に着目し、実測データと連動しながら、巨大モデリングを構築することでSWCNT熱電発電の体系化を目指します。

最近の動向

1. 光塩基発生剤を用いた単層カーボンナノチューブシートのpnパターニング

単層カーボンナノチューブ (SWCNT) を使用した熱電発電機 (TEG) を構築するため、単一の p 型 SWCNT 内に n 型領域を開発することが関心を集めています。これにより、p 型領域と n 型領域を橋渡しする金属電極を必要とせずにシームレスな TEG 構造を実現できます。熱堆積、プラズマ誘起劣化、光誘起ドーピングなどのいくつかのパターン形成方法は、その簡単なプロセスと優れたパターン形成解像度により、従来のドロップキャスティングの潜在的な代替法として提案されています。本研究では、光誘起ドーピングの n 型ドーパントとして光塩基発生剤 (PBG) を使用しました。PBG ドープ SWCNT は、UV 照射がない場合でも p 型の性質を維持し、UV 照射により自発的に n 型に遷移するという優れた熱安定性を示しました。さらに、得られた n ドープ領域は、空気中で 100 日以上にわたって顕著な安定性を示しました。この技術を用いて、最大 6 つの p 型および n 型領域が連続する平面型 TEG デバイスが構築したところ、シートの前面と背面の間に 30 °C の温度勾配を適用したとき、面内開放電圧と最大出力がそれぞれ 3.45 mV と 5.75 nW を示しました。

N. Tanaka, M. Yamamoto, I. Yamaguchi, A. Hamasuna, E. Honjo, T. Fujigaya, J. Mater. Chem. A 11, 23278 (2023).

2. ベンズイミダゾール酸化体を用いたSWCNTの光誘起電子ドーピング

1,3-ジメチル-2-アリールベンズイミダゾール(DMBI)誘導体は、半導体の電子ドーパントとして機能します。しかし酸素の存在下によるドーピングでは、DMBIラジカルと酸素分子の反応により、不活性な酸素付加体(DMBI-Ox)が生成するため、ドーピング効率の低下を招きます。今回DMBI-Oxが紫外線照射により、分子内環化反応に基づいて、水酸基イオンを発生することを明らかにしました。さらにこの反応を用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の光誘起電子ドーピングを達成し、p型SWCNTをn型SWCNTに変換することに成功しました。本ドーピングは、フォトマスクを用いることでp-nパターンを有するSWCNTシートを簡便に作製可能であり、これを用いた平面型熱電発電(TEG)デバイスへと展開することができました。

N. Tanaka, T. Ishii, I. Yamaguchi, A. Hamasuna, T. Fujigaya, J. Mater. Chem. A 11, 6909-6917 (2023).

3. ピリジン–ホウ素ラジカルによる単層カーボンナノチューブの電子ドーピング

有機ホウ素化合物は、ホウ素上の空の2p軌道に由来するルイス酸性を示し、さらにこの空の2p軌道はπ骨格との有効なπ共役により、低いLUMO準位をもつ電子受容性に富んだ電子系を形成します。このためホウ素化合物は、半導体に対してp型ドーパントとして振る舞います。しかし2000年代以降、電子供与性を示すホウ素化学種 (ボリルラジカルやボリルアニオン) が次々に登場し、その高い還元性を利用した反応開発が行われてきました。本研究では、この性質を利用して、SWCNTの電子ドーピングに成功しました。

N. Tanaka, A. Hamasuna, T. Uchida, R. Yamaguchi, T. Ishii, A. Staylkov, T. Fujigaya, Chem. Commun. 57, 6019-6022 (2021). 

4. 平面型熱電発電デバイス作製に向けた、蒸着によるカーボンナノチューブのp-nパターニング法の開発

フレキシブルな単層カーボンナノチューブ(SWCNT)シートを用いた熱電発電機(TEG)は、高いゼーベック係数、優れた電気伝導性、優れた柔軟性を有し、ウェアラブルエレクトロニクスの実現に有望です。そのための熱電発電デバイスの構造は、従来のπ平型構造に比べ、平面型構造が望ましいです。平面構造を実現するためには、p型とn型の領域を連続して高精度に繰り返す必要がありますが、溶液ドーピング法では、横方向への分子拡散が大きいため、パターニングの分解能が低下する問題がありました。そこで本研究では、ドライパターニングされたマスクを用いて,蒸着によるドライパターニングプロセスの開発を行いました。

R. Yamaguchi, T. Ishii, M. Matsumoto, A. Borah, N. Tanaka, K. Oda, M. Tomita, T. Watanabe, T. Fujigaya, J. Mater. Chem. A 9, 12188 (2021). 

5. 大気安定n型単層カーボンナノチューブの熱電変換と安定メカニズムの解明

大気安定なn型半導体カーボンナノチューブ (SWCNT) は、オールカーボン熱電デバイス開発において必要不可欠です。これまでSWCNTのn型ドーパントとして、ジメチルベンズイミダゾール (DMBI) が報告されており、これは大気安定なn型SWCNT膜を与えます。しかしこれまで、この安定化メカニズムは明らかになっていませんでした。今回、吸着頭音実験により、ナノチューブ表面全体にドーパントが被覆していることが明らかになり、この被覆量がナノチューブの安定性を決定づけていることが明らかになりました。

Y. Nakashima, R. Yamaguchi, F. Toshimitsu, M. Matsumoto, A. Borah, A. Staykov, M. Saidul Islam, S. Hayami, T. Fujigaya, ACS Applied Nano Materials 2, 4703-4710 (2019).