Locally-Functionalized

SWCNT

カーボンナノチューブの局所化学修飾

半導体性単層カーボンナノチューブ (SWCNT) の示す近赤外発光は、バイオイメージングや通信分野などにおいて有用とされています。しかしその量子収率は1%未満と低く、発光波長もグラフェンシートの巻き方 (カイラリティ) によって固定されてしまうという問題があります。これに対し、SWCNT表面に極少量の分子を修飾することで、発光特性を大幅に向上させることのできる「局所化学修飾」という手法があります。我々は、この局所化学修飾SWCNT (lf-SWCNT) の発光が修飾する分子の構造・機能に大きく影響を受ける点に着目し、有機合成化学や超分子化学を駆使することで、分子の化学に立脚したlf-SWCNTの新たな近赤外発光機能創出や励起子エンジニアリング技術開発を目指しています。総説はこちら!!

最近の動向

1. アルキル化窒化ホウ素ナノチューブの欠陥フォトルミネッセンス

我々は、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)の還元的アルキル化反応により、化学的に機能化し、欠陥ドーピングを行うことで、発光する欠陥の形成に成功しました。BNNTの壁面にヘキシル基を導入したBNNTは、BNネットワークにsp3ホウ素原子の欠陥生成が明らかになり、ヘキシル修飾BNNTからの欠陥発光が紫外可視領域で新たに観測されました。この化学的手法による欠陥ドーピングは、BNNTのバンドギャップエンジニアリングのための有力なツールであると考えています。

T. Shiraki, R. Saito, H. Saeki, N. Tanaka, K. Harano, T. Fujigaya, Chem. Lett. 52, 44-47 (2023).

2. オルト置換アリールジアゾニウムを用いたキラル単層カーボンナノチューブの欠陥配置制御による光輝性機能化

化学修飾による単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の欠陥官能基化は、1000 nmを超える近赤外フォトルミネッセンス(NIR-PL)発生に有望な戦略です。SWCNTに対して反応種を混合すると、共有結合形成によるSWCNTのsp2-炭素格子にsp3-炭素欠陥が生じ、PLの長波長シフト示します。本研究では、欠陥形成化学反応にナノチューブ側壁との分子間相互作用を導入するため、オルト置換基(フェニル基とアセチレン基)を持つアリールジアゾニウム塩を開発した。このジアゾニウム塩を用いて作製した修飾SWCNTは、(6,5)チューブの波長域 (1230-1270 nm) で単一欠陥PLを選択的に示し、1150 nm PLを示す典型的なアリールまたはアルキル修飾SWCNTが示すものとは異なる発光特性を示すことが明らかになりました。さらにアセチレンを基盤とした置換基設計により、PLを明るくすることができ、その後、クリックケミストリーを用いてドープ部位を分子修飾することができました。

B. Yu, S. Naka, H. Aoki, K. Kato, D. Yamashita, S. Fujii, Y. Kato, T. Fujigaya, T. Shiraki, ACS. Nano 16, 21452-21461 (2022).

3. アビジン-ビオチン相互作用に基づく局所修飾単層カーボンナノチューブ近赤外光発光のタンパク質構造依存的スペクトルシフト

単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、近赤外(NIR)領域(>900 nm)でフォトルミネッセンス(PL)を示します。そのPL特性を向上させるための手法として、局所的な化学修飾による欠陥ドーピングがあります。局所的に化学修飾されたSWCNT(lf-SWCNT)は、欠陥ドープサイトに局在する励起子を起源とする赤色シフトしたE11* PLを示します。本研究では、lf-SWCNTのドープ部位にアビジン-ビオチン相互作用を介したタンパク質吸着によって引き起こされるE11* PLのエネルギーシフトを観察することに成功し、アビジン誘導体の構造の違いが、エネルギーシフトに大きく影響することを明らかにしました。lf-SWCNTsは、NIR-PLに基づく高度なタンパク質検出/認識デバイスへの応用展開に期待できます。

Y. Niidome, R. Wakabayashi, M. Goto, T. Fujigaya, T. Shiraki, Nanoscale 14, 13090-13097 (2022). 

4. 局所修飾単層カーボンナノチューブ上の共有結合型ジアリールエテンの光異性化による近赤外フォトルミネッセンスの光誘起波長スイッチング

1000nm以上の近赤外フォトルミネッセンス(NIR-PL)は、量子通信や深部組織のバイオイメージングなどの先端光技術で利用されています。我々は、ジアリールエテン誘導体を単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に共有結合させることで、SWCNTの結晶性sp2炭素ネットワークにsp3炭素欠陥を導入し、1142 nmの赤外PLバンドを出現させることに成功しました。さらに、ナノチューブ上のジアリールエテン部位の光異性化に基づき、PL波長の切り替えを可逆的かつ繰り返し行えることを示しました。分光測定と理論計算によって確認された光スイッチング現象は、ナノチューブ上のジアリールエテンの異性化に基づくPLバンドギャップ変調であることを明らかにしました。

Y. Nakagawa, B. Yu, Y. Niidome, K. Hayashi, A. Staykov, M. Yamada, T. Nakashima, T. Kawai, T. Fujigaya, T. Shiraki, J. Phys. Chem. C 126, 10478 (2022).

5. 修飾分子構造の異なるlf-SWCNTが示す励起子局在化に基づいた発光ソルバトクロミックシフト

我々は、異なる分子構造をもつドープサイトを形成させたlf-SWCNTを合成し、その周囲溶媒環境変化による発光エネルギー変化 (ソルバトクロミックシフト) の解析を行いました。ここでは、近接2点でsp3炭素をドープしたlf-SWCNTおよび酸素原子をドープしたlf-SWCNTを用いています。興味深いことに、lf-SWCNTのソルバトクロミックシフト挙動が分子構造に応じて異なることが示されました。これは、(1) ドープサイトにおける励起子の局在化が双極子モーメントや分極率の変化を誘起し、(2) 分子構造に応じて励起子の局在化度合いが変化するためだと考えられます。本研究は、分子構造がlf-SWCNTの発光波長のみならず励起子物性をも変えることを示しており、この知見に基づいた分子設計によるSWCNT近赤外光アプリケーションへの展開が期待されます。

Y. Niidome, B. Yu, G. Juhasz, T. Fujigaya, T. Shiraki, J. Phys. Chem. C 2021, 125, 12758–12766.