Materials Informatics

データ駆動型の材料開発・分子設計

これまでの材料開発・分子設計は実験・理論・シミュレーションによって推進されてきましたが、近年データ科学という新たなアプローチが広がっています。データ駆動型のアプローチはMaterials Informaticsと呼ばれ、最もホットな研究分野です。私たちは本アプローチに必要になるデータを、実験や文献から取得したり、シミュレーションにより生成しています。シミュレーションには日本が誇る「富岳」や九大の「ITO」などのスーパーコンピュータを使用します。我々にしか作れないデータをスーパーコンピュータ等で生成し、データ科学の手法を駆使して、未知の材料・分子の探索や高精度シミュレーションを高速に実現するための研究を進めています。

最近の動向

1. アニオン伝導膜高分子材料の材料マップの作成

本研究では、燃料電池や水電解装置の中核部品を担うアニオン交換膜材料を対象に、2つの教師なし機械学習モデルを連携させることで化学構造情報に基づく材料マップを作成しました。さらに、マップ上の各材料データ点をアニオン伝導度(アニオン交換膜の重要物性)の値に応じて色付けることで、多様なアニオン交換膜のアニオン伝導度と化学構造の特徴・関係性を明らかにし、材料マップを用いた材料設計の効率化を提案しました。 

 Y. K. Phua, N. Terasoba, M. Tanaka, T. Fujigaya, K. Kato, ChemElectroChem, 10.1002/celc.202400252  (2024) 

2. 生体高分子用のAI粗視化ポテンシャルの開発

本研究では、生体高分子を対象とした粗視化シミュレーションの高精度化のために、人工知能(AI)ポテンシャルと、統計的結合長および排除体積相互作用に関連する最小限の粗視化ポテンシャルからなる新しいハイブリッドポテンシャルを開発し、タンパク質の特性を維持したまま転移ダイナミクスの加速に貢献しました。

R. Kanada, A. Tokuhisa, Y. Nagasaka, S. Okuno, K. Amemiya, S. Chiba, G.-J. Bekker, N. Kamiya, K. Kato, Y. Okuno, Journal of Chemical Theory and Computation, 20, 7-17 (2024).

3. アニオン伝導膜高分子材料のアニオン伝導性とアルカリ安定性の予測

本研究では、アニオン交換膜 (AEM) の機械学習 (ML) モデルを開発しました。このモデルは、さまざまな目に見えない AEM 材料のセットのアニオン伝導率を、その状態に関係なく、高精度で予測可能です。これにより、新しい AEM 材料の仮想合成前スクリーニングが可能になり、リソースの消費が削減されます。さらに、人間が理解できる予測ロジックにより、AEM 材料のアニオン伝導性に影響を与える新しい要因が明らかになりました。(九州大からのプレスリリース

 Y. K. Phua, T. Fujigaya, K. Kato, STAM 24, 2261833 (2023).

4. SARS-CoV-2関連たんぱく質の量子化学的相互作用データベース構築

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質と治療薬候補化合物の分子間相互作用を「フラグメント分子軌道法(FMO法)」で計算し、データを、世界中の創薬研究者が自由に利用できる「FMOデータベース(FMODB)」にて公開しました。

K. Fukuzawa, K. Kato, C. Watanabe, Y. Kawashima, Y. Handa, A. Yamamoto, K. Watanabe, T. Ohyama, K. Kamisaka, D. Takaya, T. Honma, J. Chem. Inf. Model. 2021, 61, 9, 4594–4612.

5. 生体高分子の原子電荷を高精度に予測する機械学習モデルの開発

古典分子動力学シミュレーション等では分子力場と呼ばれるパラメータが一般に用いられ、計算精度に大きく影響します。特に、クーロン相互作用を決定する原子電荷は固定値が用いられており、構造変化に伴う分極や電荷移動を加味できていません。そこで我々は、周辺環境に応じて変化する原子電荷を予測する機械学習モデルの構築を進め、前例のない多数の原子を含む系における高精度予測モデル構築に成功しました。

K. Kato, T. Masuda, C. Watanabe, N. Miyagawa, H. Mizouchi, S. Nagase, K. Kamisaka, K. Oshima, S. Ono, H. Ueda, A. Tokuhisa, R. Kanada, M. Ohta, M. Ikeguchi, Y. Okuno, K. Fukuzawa, T. Honma, J. Chem. Inf. Model. 2020, 60, 3361.