Biomaterials

ナノバイオへの挑戦

CNTはアスベストに似ているので毒性がある、という認識が広がっていますが、どんな物質でも摂取の仕方次第では、毒になるものです。CNTには生体透過性に優れる「近赤外光」を吸収できる稀有な物質で、この性質を利用した生体応用の研究が進んでいます。

最近の動向

1. ゲル被覆CNTのサイズ排除クロマトグラフィーによる長さ分離

単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の安定した分散液は、ユニークな近赤外(NIR)蛍光を発現するために必要不可欠です。架橋ポリマー(ゲルなど)でSWCNTをコーティングすると、薄いゲル層により被覆したSWCNT分散が安定に得られます。ゲル被覆の魅力的な特徴のひとつとして、ゲルの多様性が挙げられます。たとえば、反応部位とPEGユニットを導入すると、それぞれ後修飾と生物学的用途が可能になります。本研究では、さらに実用的な利用を目指して、ゲル被覆SWCNTをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により長さを分画しました。長さ選別されたSWCNTは、強いNIR蛍光を維持するだけでなく、タンパク質で後修飾が可能となり、生体実用性が格段に向上しました。

R. Hamano, N. Tanaka, T. Fujigaya, Mater. Adv. 5, 2482-2490 (2024).

2. 光熱剤としての抗体結合ゲル被覆単層カーボンナノチューブの開発

近赤外線を用いた光熱療法 (PTT) は、光エネルギーを吸収した光熱剤が熱を放出し、がん細胞を死滅させる魅力的ながんの治療法です。様々な有機および無機材料の中でも、単層カーボンナノチューブ (SWCNT) は、近赤外領域での強い吸収と高い光熱変換効率を持つことから、近赤外光熱剤の有望な候補となります。本報告では、マレイミドを用いてチオール含有抗体を修飾したSWCNTが、分散安定性のあるSWCNTとして特徴的なNIR吸収を維持していることを明らかにしました。

Y. Nagai, K. Nakamura, J. Ohno, M. Kawaguchi, T. Fujigaya, ACS Appl. Bio Mater. 4, 5049 (2021).

3. 架橋ポリマーをコーティングした単層カーボンナノチューブの高輝度化

近赤外線は単層カーボンナノチューブの特徴的な性質の一つですが、その発光強度は大きくありません。今回、ポリマー被覆されたカーボンナノチューブのポリマー構造の違いにより、近赤外発光強度が大きく変化することを見出しました。

Y. Nagai, M. Yudasaka, H. Kataura, T. Fujigaya, Chem. Commun. 2019, 55, 6854-6857.

4. ミセル重合を利用した反応性ゲル被覆単層カーボンナノチューブの開発

単層カーボンナノチューブ (SWCNT) は、ユニークな近赤外吸収や光学特性を有しており、近年バイオアプリケーションとしての応用が期待されています。我々はミセル重合法を用いて、SWCNTの性質を損なうことなく、さまざまなチオール化合物と反応可能なマレイミド基を含むSWCNT/ゲルハイブリッドの設計と合成を報告しました。

Y. Nagai, Y. Tsutsumi, N. Nakashima, T. Fujigaya, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 8544-8550.