山口優

《記憶のための視点》2010  

山口優 Yu Yamaguchi
1983年京都市生まれ。2008年から身近にあったコンパクトデジタルカメラで写真を撮りはじめ、独学でフィルムカメラによるスナップ写真を撮影。2017年京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育部写真コースで写真表現を学ぶ。自己の内面と隔たりのある、外側の世界との橋渡しとして写真を媒体にし、他者との関係性を模索しながら、表現活動を続けている。


記憶のための視点
Perspective for Memory

「記憶のための視点」は、私が14年ほど前のある時期にフィルムカメラで撮影したものである。その頃に写真と向き合っていた時間とは、孤独という厚い壁に自己の存在が閉ざされながらも、どこかに未来の希望や他者とのつながりを想像し、しかし、それが叶わないという絶望の中に生きてきた私自身の「過去の記憶」である。振り返れば、あらゆる恐怖や病といった苦しみの感情の最中には、形を持たずにきえてしまう個人の小さな願いや思いがあり、通り過ぎていった時間の中には、たくさんの見失われてしまったものの存在が沈んでいるように感じる。自分自身の「グリーフ(※)」を癒していく過程には、それらの出来事が個人を超えて他者へと開かれていくという道のりがある。それが私自身にとって、過去の現実であるという以上に「今もどこかにありえる他者の存在」を想像し、見えない誰かを照らせること。周囲とのつながりに眼差しを向けられること......。この作品に触れて思い起こされる、さまざまな『記憶』から、新たなつながりの輪が広がることを願っている。

※グリーフ:喪失による、さまざまな心理・身体・社会的な反応