市川信也

《仮面の告白》1997

市川信也 Shinya Ichikawa
1959年京都市生まれ。写真家、精神科医(精神保健指定医)。同志社大学法学部、富山医科薬科大学(現・富山大学)医学部卒。いずれも写真部に属し、中国やインドやトルコなどをカメラを持って旅行。1989年京都大学医学部附属病院で研修、市中病院での勤務を経て、1997年〜1999年パリ第5大学(医学部)第3課程(大学院)に留学、表現研究センターで外国人助手を勤め、最初の個展を同センター附属のギャラリーで開催。帰国後は、精神科臨床を続けながら、モノクロームフィルムにこだわった写真作品の制作を続け、日本以外でもフランス、韓国、中国で十数回の個展を行い、ギリシア、アメリカ、イギリスなどでの写真祭や受賞展に参加。アメリカのBLACK & WHITE MGAZINE誌主催のポートフォリオコンテストで2020年より3年連続で入賞するなど、海外での受賞多数。その作品は、フランスのノール・パドカレ写真センター、フランス国立図書館に所蔵されている。

 

Website: www.shinyaichikawa.com



仮面の告白
Confessions of Masks

戦後の日本の繁栄の陰で忘れられた人々がいる。何十年という年月の間、精神科病院で入院生活を続ける人たち、彼はそれぞれの事情があり、家族の元へは帰れず、病院を生活の場としている。人生の過半をそこで過ごす彼らにとって、壁は彼らを世間から隔てると同時に彼らを世間の荒波から守ってくれる存在でもある。この壁の存在によって、彼らの存在も封じ込められ、その素顔やつぶやきが外に届くことは無い。そのような世界で彼らを見守る事を生業としたものが、彼らの顔や呟きをどの様に伝え、残す事ができるか? そのことを90年代の半ばにとある病院で感じた私は、彼らの日常をモノクロームフィルムで収め、光と影の中に彼らの生を浮き上がらせようとした。日常生活と関わり、深い関係性ができると、彼らは抵抗なく被写体となり、お面を被った撮影も快諾してくれた。お面の下にある彼らの顔を想像し、その呟きに耳を傾けてほしい。