過去30年の国内の日本語教育は、「留学生」「高学歴学習者」を対象とするものが主流でした。それは政府主導で「留学生10万人計画」「留学生30万人計画」が推し進められた結果ですが、留学生を越える人数の「技能実習生」が既に入国しており、新たにできた在留資格「特定技能」などの枠組みによる外国人就労者や、「家族滞在」の外国人など、日本語教育を必要とする在留外国人は増加の一方です。
その状況に対応するために、文化庁では「留学」「就労」「生活者」の3分野を想定した上で、特に日本語教育の手薄な「生活者」のための地方自治体の「地域日本語教室」を強化する施策を講じています。そのため、欧州評議会が作成した「ヨーロッパ言語共通参照枠CEFR」(CoE 2001)を参照した「日本語教育の参照枠」(「報告」2021年10月、「手引き」2022年2月)を発表しました。文化庁だけでなく、厚労省や法務省も日本語教育に関する施策に関わっています。
このように、日本語教育が必要な人たちは増加しており、「日本語教育人材」は以前に増して必要とされている一方、現場では「日本語教育人材」が不足していると言います。
私たち、主に大学などの高等教育機関で「留学」分野の日本語教育に従事してきた者は、この状況をどう捉えたら良いでしょうか。今後、「留学生」は減少するようですが、私たちが今の専門性のままで、留学生教育とは異なる「就労」や「生活者」分野の日本語教育に貢献できるのでしょうか。「日本に来て良かった」と言う在留外国人が増えるような環境整備に貢献するためには、日本語教育関係者としての既有知識の更新(アップデート)、または人によっては言語教育観のパラダイム・シフト(アップグレード)が必要なのではないでしょうか。
数十年に渡って欧州で蓄積された研究の成果である「CEFR」と「CEFR-CV」を学ぶことは、そのアップデート/アップグレードの一歩となるかもしれません。CEFR-CVの特長と、欧州と日本の言語教育施策を見据え、これからの日本語教育に求められるものについて、一緒に考えてみましょう。
ご講演では「CEFR」「CEFR-CV」「日本語教育の参照枠」について言及があります。
少なくとも「「日本語教育の参照枠」活用のための手引き」は読んでおくと、ご講演の内容がよりよく理解できると思いますので、ぜひ事前にご覧ください。
※読んで来なければ参加できないわけではありません。
CEFR-CV (欧州評議会のCEFRのサイトに掲載)
https://www.coe.int/en/web/common-european-framework-reference-languages
CEFR - Companion volume (2020)
「日本語教育の参照枠」(文化庁のサイトの下のほうに掲載)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/index.html
「日本語教育の参照枠」報告
「日本語教育の参照枠」活用のための手引き
【2月15日 補記】
日本語教育学会のNKG TVシリーズでも「日本語教育の参照枠とCEFR」第2回誤解と的はずれの批判から考えるCEFRとCEFR補遺版の最重要ポイント(前編・後編)大木充氏(京都大学名誉教授)の動画が公開されました。