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071014 次期学習指導要領が目指す理科教育の変革について授業実践と結びつけて個人的一考
国際学力調査で常に上位を維持する一方、子どもたちの理科への興味や有用感は国際平均を下回る―この長年の課題は、先生方が日々感じておられる実感と重なるものでしょう。特に、中学校以降に「理科は楽しい」と感じる生徒が減少し、大学の理工系進学率がOECD諸国で最低水準に留まる現状は、個々の授業の問題ではなく、知識の網羅を優先するカリキュラムの構造的な課題に起因します。電流のつなぎ方や化学反応のモデル化といった基本概念の定着不足や、知識を応用して探究する力の育成が十分でないという調査結果は、断片的な知識の習得が「わかったつもり」を生み、深い理解に至っていない現状を浮き彫りにしています。次期改訂は、この状況を打開し、子どもたちが科学の本質的な面白さに触れ、持続可能な社会の創り手となるための学びを実現することを目指すものです。
その変革の中核をなすのが、学習内容を「中核的な概念の深い理解」を軸に再構築することです。これは、単に知識を羅列するのではなく、小学校から高等学校まで一貫して概念が深まる「タテのつながり」と、習得した知識を探究スキルや日常生活の問題解決に活用する「ヨコのつながり」を明確に意識した単元設計を促すものです。これにより、科学的な探究は単なる観察・実験活動に留まらず、子どもたちが自ら問いを立て、試行錯誤しながら中核概念を体得していくための、学びそのもののエンジンとして位置づけられます。デジタル技術の活用は、この探究活動を質的に向上させ、膨大な情報の分析や思考過程の共有を可能にし、リアルな学びを力強く支えます。さらに高等学校では、文理の枠を超えたSTEAM教育を推進し、社会的な課題を探究の対象とすることで、理数への関心と有用感を高め、生徒一人ひとりのキャリア形成へとつなげていきます。
こうした「質の高い、深い学び」を実現するため、次期改訂では教育課程に「余白」を生み出す制度的な柔軟化が図られます。例えば、学校の裁量で標準授業時数を調整し、理科の探究活動に時間を上乗せしたり、特定の単元の学び直しに充てたりすることが可能になります。この「余白」は、先生方が教科書を網羅的に教えるというプレッシャーから解放され、子どもたちの多様な学習ニーズに応じた「個別最適な学び」をデザインするための時間的基盤となります。不登校の児童生徒や、特定の分野に突出した才能を持つ生徒に対しては、大学や研究機関と連携した高度な探究活動を学校の学びとして認めるなど、学校外のリソースも活用した特別な教育課程の編成が可能となり、全ての子供の可能性を最大限に引き出す環境が整備されます。
評価の在り方も、学びを支える方向へと大きく転換します。「主体的に学習に取り組む態度」は評定の観点から外れ、個々の良さや成長に着目する「個人内評価」として位置づけ直されます。これにより、先生方は形式的な評価材料集めに追われることなく、生徒の内発的な知的好奇心や粘り強さを肯定的に認め、育むことに専念できます。一方で、「思考力・判断力・表現力等」の評価は、ペーパーテストだけでなく、レポート作成やパフォーマンス評価といった多角的な手法が重視され、探究のプロセス全体が評価の対象となります。さらに、学期ごとの評定が必須でなくなり、学年末に総括的な評定を行えばよいと明確化されることで、学期中は学習の改善に資する形成的評価に集中でき、多様なペースで学ぶ生徒に年度途中での挽回の機会を提供しやすくなります。これらの改革は、評価が学びを管理するものではなく、次なる学びへと導くための羅針盤となることを目指しています。
071006「多様性の包摂」を目指す義務教育段階の教育課程の柔軟化
調整授業時数制度と個別の教育特例による学びの多様性の創出
義務教育段階における授業時数の柔軟化は、多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する「多様性の包摂(Equity)」を基本的な方向性として目指すものです。この柔軟化の実現に向けて、主に「調整授業時数制度」の創設が検討されており、これは学校の判断により、各教科の標準授業時数を一定の範囲で下回る編成を可能とします。その結果生み出された「調整授業時数」は、学校や個々の児童生徒のニーズに応じた教育の多様性を創出するために活用されます。この制度は、国への申請を不要とする方向で検討されており、従来、時間や手間がかかり活用しにくいと指摘されてきた特例校制度とは異なり、「常に利用可能な選択肢」として、学校や地域の創意工夫を発揮した柔軟な教育課程編成を促進することを意図しています。この柔軟化は、「主体的・対話的で深い学び」の実現と両立し、一人一人の意欲が高まり、可能性が開花し、個性が輝く教育の実現を目指す、次期学習指導要領に向けた重要な第二の方向性です。
この調整授業時数を活用することで創出される多様性の一つが、「裁量的な時間」の設定です。この裁量的な時間は、児童生徒の個性や特性、実態に応じた学習支援に充てることが想定されており、具体的には、基本的な概念の獲得や意味理解を伴った確かな知識の習得、認知の特性に応じた学力保障のための指導、学習方略に関する指導、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、または個人探究を伴う体験活動などに充てられます。学校は、この調整授業時数を別の教科等の授業時数に上乗せしたり、地域や学校の実態を踏まえて特に必要な教科の開設に充てたりすることも可能となります。教育課程編成の自由度を高める観点からは、学習内容の系統性や発達段階を踏まえた指導内容の確保を前提としつつも、児童生徒の実態に応じて必要と判断される場合には、学年区分に囚われずに柔軟に教育課程の編成・実施を行うことが明確化されます。これにより、学習内容の習熟の早い子供や遅い子供の実態を踏まえた柔軟な指導が容易になり、また、単位授業時間についても、標準授業時数を確保した上で、各学校や地域、児童生徒の実態に応じて、活動の特質に応じた工夫として、単位授業時間を柔軟に設定することが促進されます。
授業時数の柔軟化は、「学校」単位の柔軟化(調整授業時数制度)に加え、「個々の児童生徒」に着目した特別な教育課程の特例の新設・拡充(「2階建て」の仕組み)を組み合わせることで、多様性を複層的に包摂できる仕組みを構築します。個別の児童生徒の多様なニーズに応じた特例的新設として、まず、校内外の教育支援センター等に通う不登校児童生徒に対して、個々の実態に配慮した特別の教育課程を必要に応じて編成・実施可能とする仕組みが検討されています。これにより、学習意欲を高め、資質・能力の向上に繋がる指導の充実が図られます。また、特定分野に特異な才能のある児童生徒に対しては、学校外の機関との連携も視野に入れ、その特性等に応じた高度な内容を取り扱う場合に特別の教育課程を編成・実施可能とする仕組みが新設されることが検討されており、個人の「好き」や「得意」を伸ばし、それを原動力として学び全体への動機付けを図る教育が具現化されます。
さらに、日本語指導が必要な児童生徒に対しては、日本語と母語の力を活用しながら、日本語と教科の統合学習を通じた資質・能力の一体的な育成を目指す「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」(仮称)を再定義し、特別の教育課程の質の向上が図られます。また、通常の学級に在籍し通級による指導を受ける障害のある子供たちに対しては、障害による困難の改善・克服を目的とする指導の充実に加え、特に必要がある場合には、各教科の指導を行うことを可能とするなど、教育課程の特例的な取扱いを認めることが検討されています。これにより、各教科の目標や内容の一部について、障害の状態等を考慮したものに替えたり、取り扱わないことなどを認めることで、障害の状態等に応じたきめ細かな指導が実現できます。なお、学校単位の柔軟化として生み出された裁量的な時間の一部は、教育の質の向上を目的とした、授業や指導の改善に直結する組織的な研究・研修等に充てることも可能であり、これは教員の専門性向上や、教員と子供の双方に「余白」を創出し、持続可能で豊かな学びに繋がる教育の在り方を追求する側面も併せ持っています。
070923 次期学習指導要領改訂の三位一体戦略
―「Excellence, Equity, Feasibility」による「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」の実現ー
次期学習指導要領改訂に向けた検討の基盤となる三つの方向性、すなわち「主体的・対話的で深い学び」の実装(Excellence)、多様性の包摂(Equity)、および実現可能性の確保(Feasibility)は、「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」という目的に集約され、教育課程の内外のあらゆる方策を用いつつ、三位一体となって具現化されるべきものであるとされています。
この三方向性が目指す究極の目標は、生成AIの発展や社会分断の可能性といった社会全体の構造変化を踏まえ、生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら自らの人生を舵取りすることができる、民主的で持続可能な社会の創り手を「みんな」で育むことです。
Excellenceは質の高い教育の実現を、Equityは多様な個性を持つ子供たちの可能性の開花を、そしてFeasibilityはそれらの両立と持続可能性を担保する基盤整備を意味しており、この三要素が相互に支え合い、連動することで、次期学習指導要領の改善を駆動します。
第一の方向性であるExcellence(深い学びの実装)は、現行の学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」を一層具現化し、深化させることを目指します。この質の高い学びの実現において核となるのは、思考力、判断力、表現力等を発揮する中で、知識を概念として習得し、他の学習や生活の場面でも活用できる、生きて働く「確かな知識」の習得です。
その実現を助けるために、学習指導要領の目標・内容は「中核的な概念等」を活用した一層の構造化や表形式化、デジタル化が図られ、教員にとって分かりやすく使いやすいものに刷新されます。
例えば、中学校の数学の授業を例にとると、「比例・反比例の理解」といった個別の知識を教えるだけでなく、それらを統合し「関数を使えば未知の状況を予測できる」という中核的な概念として深く理解させる指導のイメージを、教師が学習指導要領を通じて掴み取りやすくすることを目指します。また、こうした深い学びの過程を支える基盤として、デジタル学習基盤の活用を前提としつつ、情報活用能力の抜本的な向上を各教科等における探究的な学びの基盤として位置付けます。
Excellenceと両立させることが不可欠な第二の方向性がEquity(多様性の包摂)です。これは、増加する不登校児童生徒や、日本語指導が必要な生徒、特定分野に特異な才能のある児童生徒など、多様な個性や特性、背景を持つ全ての子供たちが、その意欲を高め、可能性を開花できる教育の実現を目指します。Equityを具現化するための具体的な施策は、教育課程全体の柔軟化と「個別最適な学びと協働的な学び」の一体的充実です。例えば、義務教育段階において「調整授業時数制度」が創設される方向で検討されており、学校の判断で各教科の標準授業時数を調整し、生み出した時間を児童生徒の個性や特性に応じた学習支援に充てる「裁量的な時間」として活用することが可能となります。これにより、例えば、学年や教科の系統性に囚われずに指導を柔軟に展開したり、特定の分野に優れた才能を持つ生徒のために、学校外の大学や研究機関での学びを教育課程に位置づけたりする仕組みが整備されます。また、デジタル学習基盤を活用することにより、教師による指導体制の工夫だけでなく、子供自身が主体的に学習を調整できる学習者主語の視点に立った「個別最適な学び」が可能となり、多様な学びの実現を後押しします。
最後に、Feasibility(実現可能性の確保)は、ExcellenceとEquityという二つの方向性の両立を持続可能な形で支える第三の方向性です。この目的は、教育課程の実施に伴い教師に過度な負担・負担感が生じないよう、教師と子供の双方に「余白」(教育の質の向上のための時間的余裕)を創出することにあります。Feasibilityは、学習指導要領の構造化に伴う学習内容の精選や、約50年で約3倍に増加した小学校の教科書分量の精選を通じて、「教科書を網羅的に教える」という従来の認識からの脱却を図ります。例えば、教科書の内容を中核的な概念の獲得に資する内容に重点化・精選することで、「教科書『を』教える」から、子供の関心に応じた多様な教材を活用する「教科書『で』教える」授業への転換を促します。
さらに、調整授業時数制度は、柔軟な教育課程編成を可能にするだけでなく、教員が教育の質の向上を目的とした組織的な研究・研修に時間を充てるための「裁量的な時間」の創出も可能とし、カリキュラム・マネジメントの実質化と教師の勤務環境の総合的な改善に繋がります。このようにFeasibilityによって、ExcellenceとEquityが現場で持続的に実現されるための時間的・制度的な基盤が確保され、三つの方向性が有機的に連動し、次期学習指導要領の目指す教育の質の向上へと繋がっていくのではないでしょうか。
次期学習指導要領に向けた教育改革は、「主体的・対話的で深い学び」の実装、多様性の包摂、そして教師と子供の双方に「余白」を創出することの三つの方向性を基盤として、その実現を図ろうとしています。まず「主体的・対話的で深い学び」の実装においては、学習指導要領の目標と内容を「中核的な概念の深い理解」と「複雑な課題の解決」を中心に一層構造化し、必要な学習内容を精選することで、教師が「深い学び」を実現する授業のイメージを掴みやすくします。具体的には、知識・技能の「タテ」の関係性(個別の知識と中核的概念の結びつき)と、知識・技能と思考力・判断力・表現力等の「ヨコ」の関係性(相互作用)を可視化することで、資質・能力の一体的な育成を促します。また、学習指導要領を表形式化し、デジタル学習基盤を前提とすることで、教科等間の関係を俯瞰しやすくし、AIによる指導案作成支援やデジタル教科書との連携を通じて、教師の授業改善を強力に後押しします。教科書についても、中核的な概念の獲得に資するよう内容を精選し、「教科書『を』教える」から「教科書『で』教える」という指導への転換を図り、児童生徒が自ら探究的な学びに主体的に取り組むことを奨励します。ICT機器の活用は児童生徒の学習意欲や正答率の向上に寄与することが示されており、これを学習者自身の学習ツールとしても位置づけ、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させます。
次に「多様性の包摂」は、多様な個性や特性、背景を持つ全ての子供たちが、自らの意欲を高め、可能性を開花させ、個性が輝く教育の実現を目指します。義務教育段階では、各教科の標準授業時数を弾力的に運用できる「調整授業時数制度」を創設し、生み出された時間を、個々の児童生徒の学習支援や、特に必要な教科の開設、あるいは教師の組織的な研究・研修などに充てることを可能にします。高等学校においては、必履修科目と選択科目を柔軟に組み合わせたり、学校設定科目の中で必履修科目の一部を取り扱ったりするなど、教科・科目の柔軟な組み替えを可能とします。さらに、単位計算を細分化して半期ごとの単位認定を容易にし、きめ細かな増減単を可能とすることで、生徒の多様な学習ニーズに対応します。特定の必履修科目においてすでに高度な能力を持つ生徒に対しては、その履修を免除し、上位科目や学校設定科目、学校外学修に振り替える仕組みも検討されます。不登校児童生徒に対しては、全日制・定時制課程での通信教育や自宅からの遠隔授業を制度化し、履修・修得の柔軟な認定を促進します。また、個々の不登校児童生徒や特定分野に特異な才能のある児童生徒、日本語指導が必要な児童生徒に対し、その実態に応じた「特別の教育課程」を新設・拡充し、多様な学びの機会を保障します。これらの改革は、社会経済的背景による学習格差の是正にも貢献し、一人ひとりの「好き」を育み「得意」を伸ばす教育を推進します。
そして「教師と子供の双方に『余白』を創出すること」は、前述の二つの方向性を実現可能にするための基盤であり、教育の質の向上と教師の過度な負担軽減を両立させることを目指します。学習指導要領の構造化と教科書内容の精選により、記載の冗長さを改善し、教師が授業準備にかける労力を軽減します。義務教育段階の「調整授業時数制度」は、各教科の標準時数を下回って生み出された授業時数を「裁量的な時間」に充てることを可能にし、教師には授業改善や研究の時間を、子供には個別学習や探究活動の時間を創出します。年間を通じた授業時数の平準化(例:週28コマへの見直し)の促進は、教師一人あたりの持ちコマ数を減らし、よりゆとりある学校生活に繋がります。学習評価においては、「記録に残す評価」(総括的評価)の頻度やタイミングを精選し、「学習改善等に活かす評価」(形成的評価)を充実させることで、子供の学びの意欲を高め、教師の評価業務負担を軽減します。特に「学びに向かう力、人間性等」の評価は、各教科ごとの目標準拠評価ではなく、教育課程全体を通じた「個人内評価」に改められます。これは、子供たちの良い点や成長を肯定的に評価することを促し、過度な評価材料集めの抑制に繋がり、教師と子供の双方に心の余白を生み出すことが期待されます。教員業務支援員の配置拡充や校務DXの推進も、教師が子供と向き合う時間を確保するための重要な方策です。
これらの「主体的・対話的で深い学び」の実装、多様性の包摂、そして教師と子供の双方への「余白」の創出という三つの方向性は、それぞれが密接に連携し、相乗効果を発揮することで、教育改革全体の実現を図ります。質の高い「深い学び」は、一人ひとりの多様な背景とニーズに応じた教育課程の中で実現され、その過程で生まれる教師と子供の「余白」が、より豊かな教育活動と学習の深化を可能にします。デジタル学習基盤の活用は、この三位一体の改革を支える共通基盤として機能し、多様な学習形態の実現と教師の負担軽減を両立させます。この統合的なアプローチにより、全ての子供たちが自らの人生を主体的に舵取りし、民主的で持続可能な社会の創り手として成長するための資質・能力を育むことを目指しています。
070907 学校全体の協調性を高めるための組織的・文化的変革
学校全体で協調性を高めるためには、組織的および文化的な両面からの変革が不可欠であり、これらは密接に連携しながら学校の機能全体を向上させるものです。組織的な側面では、まず体系的なチームワークモデルの導入と活用が中心となります。例えば、教科や学年といった既存の枠を超え、教員が協同して課題解決型の学習に取り組む「ENP(Education Network Project)」のような構造を導入することは、教育改善や生徒の学びの質の向上に寄与します。このENPでは、リーダー、メンバー、サポーターといった役割分担を明確にすることで、チームの効率的な機能が促進され、特に共通のテーマを設定し、計画、実践、評価、改善を繰り返すことで、教員間の協調性が育まれます。また、情報共有と知識・ノウハウの共有システムの構築も極めて重要です。教員間の情報共有の透明性を高める組織的な仕組みは、効果的な連携の基盤となります。ICTを積極的に活用することで、場所や時間にとらわれずに知識や経験を共有し、対話と議論を活性化させることが可能となり、教員の「多忙感」を軽減しながら、継続的な専門性開発にも繋がります。さらに、組織内での役割分担と責任を明確にすることは、各教員が自身の役割を自覚し、責任を持って業務に取り組むことで、チーム全体の効率性と連携の質を高める上で不可欠です。
次に、教職員の継続的な専門性開発と研修は、協調性を育み、教員の専門性を向上させる上で欠かせません。教職員研修は、新たな知識やスキルの習得を促すだけでなく、校内での共通理解を深め、対立解消のスキルを習得する機会を提供し、対立を教育資源として捉える視点を養います。この研修は、オンライン形式を活用することで、多忙な教員が場所や時間の制約を受けずに参加できる利点もあります。校内研究の推進も、教員が教育実践の改善に向けて協力し、共通の目標設定から計画、実行、評価、改善のサイクルを回す重要なプラットフォームです。これにより、教員間の協調性が深まり、共通の教育目標に対する理解が強化されます。学校の管理職は、強力なリーダーシップを発揮し、明確なビジョンと目標を設定するとともに、教職員が協調して働きやすい組織的な支援体制を構築することが求められます。これには、教職員一人ひとりの努力を組織全体で支え、協調的な文化を奨励する姿勢が不可欠です。また、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSC)といった外部専門家との多職種連携を促進することは、教職員の協調性をさらに高める上で非常に有効です。これらの専門家は、生徒の抱える多様な課題に対して専門的な支援を提供し、教職員と協同することで、学校全体として包括的なサポート体制を構築することを可能にします。
このような組織的基盤の上に、学校全体に根付く文化的な変化も不可欠です。まず、教職員が安心して意見を共有できる開かれた対話と信頼の文化を醸成することが、協調性を高める上で極めて重要です。心理的安全性の確保された環境では、教職員は多様な意見を自由に表明でき、それが活発な対話や議論へと繋がり、組織全体の学習と成長を促進します。この心理的安全性は、教職員一人ひとりが互いを尊重し、相互支援と共感を重視する文化があってこそ育まれるものです。お互いに協力し支え合う姿勢は、教職員間の信頼関係を深め、チームワークの基盤を強固にします。さらに、教職員全員が教育目標や学校のあり方について共通のビジョンと目標を共有することは、組織全体の一体感を醸成し、行動の一貫性を生み出す上で不可欠です。共通の目標が明確であれば、それぞれの役割を果たす上で協調する意識が高まります。また、学校は常に変化し続ける社会に対応するため、継続的な改善意識を文化として定着させる必要があります。定期的な振り返りや評価を通じて、教育実践や組織運営の改善を繰り返すサイクルを日常的に取り入れることで、組織全体の学習能力が高まり、より質の高い協調性を維持することができます。
協調性を高める文化では、生徒だけでなく教職員自身も協調的学習を重視し、実践する姿勢が求められます。教職員が自身の知識や経験を積極的に共有し、互いに学び合うことで、組織全体の専門性が向上し、結果として生徒への教育の質も高まります。これは、教員が学び続けるプロフェッショナル集団としての自覚を促すものでもあります。そして、一体感と帰属意識の醸成は、教職員が学校という組織の一員であるという強い意識を持ち、共通の目標に向かって協力する意欲を高める上で重要です。チームビルディング活動や共通の体験を通じて、教職員間の絆を深めることは、組織全体の協調性を強化します。加えて、現代社会の多様性を反映し、学校組織においても多様性の尊重と活用が不可欠です。教職員の持つ様々な背景や専門性、価値観を尊重し、それらを創造的な解決策や新たな教育実践の共創の力として活用する文化を育むことが、学校の適応力と発展性を高めます。このように、学校全体で協調性を高めるためには、制度や仕組みといった組織的な側面と、教職員の意識や行動様式を規定する文化的な側面との両方から、包括的かつ継続的な変革を進めることが重要であり、これらが相まって初めて、持続可能な協調性の高い学校組織が実現されると言えるでしょう。
070817.新時代に向けた教育課程・学習評価・教員制度の再構築
変革する社会に対応するため、教育課程や学習指導要領を再構築することは、人口減少・少子高齢化、デジタル技術の進歩、グローバル競争の激化といった現代社会の不確実性の高まりに対応し、児童生徒一人ひとりの豊かな可能性を最大限に引き出すために不可欠であると考えられます。これまでの「何を学ぶか」に加え、「何ができるようになるか」を明確にし、「どのように学ぶか」の重要性を強調する「主体的・対話的で深い学び」の理念を継承しつつ、GIGAスクール構想で整備された一人一台端末やクラウド環境といったデジタル学習基盤の活用を前提とした教育の再設計が進められています。この再構築では、教員と児童生徒双方に「余白」を創出し、質の高い教育活動に繋げるための教育課程の柔軟化が重視されており、学校全体で編成する教育課程の柔軟化と、個々の児童生徒に着目した特例を組み合わせる「2階建て」の仕組みによって、多様な子供たちを複層的に包摂することを目指しています。
学習指導要領の改善においては、知識の羅列に留まらず、各教科等の本質的な理解である「中核的な概念」の獲得に重点を置き、学習内容を精選・構造化することで、教員がより深い学びを実現する授業をイメージしやすくします。また、表形式や箇条書きの積極的な活用、デジタル技術を活用した解説との連携などにより、学習指導要領の分かりやすさ・使いやすさの向上も図られます。特に、「情報活用能力」の抜本的向上は小中高を通じた体系的な育成が強化され、情報技術の活用、適切な取扱、特性の理解を体系的に指導し、生成AI等の先端技術への対応や情報モラル・メディアリテラシーの育成も含まれます。この情報活用能力は、児童生徒が自ら課題を設定し、解決に取り組む力を育成するための質の高い「探究的な学び」を支え、駆動させる基盤と位置づけられ、一体的に向上させることが目指されています。さらに、学習評価の改善として、「学びに向かう力・人間性等」の評価を各教科での「目標に準拠した評価」から、教育課程全体を通じた「個人内評価」に変更し、一人ひとりの良さや成長を肯定的に評価する方向性も示されています。評価頻度も見直され、学期中は「学習改善等に生かす評価」(形成的評価)を中心に促すことで、教員の負担軽減を図ります。
高等学校の教育課程の柔軟化も重要な柱の一つであり、生徒の多様な学習ニーズやキャリア希望に対応するため、単位制高校における必履修科目の柔軟な組み替え、標準単位数の細分化、特定の科目履修免除の仕組みの創設などが検討されています。例えば、高い外国語運用能力を持つ生徒は、基礎科目の履修が免除され、上位科目や学校設定科目、あるいは大学での学修に振り替えることが可能となる見込みです。産業界の急激な変化に対応するため、データサイエンス・AIの活用を含む実践的な学びを充実させ、「変化への対応能力」という産業教育に共通する資質・能力を明確化し、産業界との連携を深めることも強調されています。また、学校教育への多様な専門性を持つ社会人の積極的な参画が期待されており、例えば、アサヒグループホールディングスが「カルピスこども乳酸菌研究所」で理科実験や食育プログラムを提供したり、住友商事が「Mirai School」で社員がキャリア経験を伝えたり、DeNAがプログラミング学習アプリを提供したり、東京海上日動火災保険が防災啓発授業を行ったり、野村ホールディングスが金融経済教育を無償提供したり、富士通がシニア社員を特別非常勤講師として派遣したりするなど、多くの企業が学校教育の充実に貢献しています。
教員の質を維持・向上させるための採用・研修の在り方も議論の焦点です。教員の働き方改革の推進、処遇改善、指導・運営体制の充実により教職の魅力を高め、教職員定数の改善や支援スタッフの充実が不可欠とされています。人材確保のため、就職氷河期世代の採用や、民間企業に在籍しながら学校に勤務する「在籍型出向」といった中途採用・社会人採用の拡大が検討されています。また、大学で教職課程を履修しなかった社会人にも免許取得の道を開くため、教員資格認定試験の拡充が図られます。現職教員の能力向上に向けては、校務DXの推進による働きやすい環境づくりに加え、研修時間の確保、現場ニーズに即した実践的な研修内容の充実、サバティカル制度の検討、臨時的任用教員への研修、そして経験豊富な退職教員が授業をカバーする「サプライ教員」の仕組みなどが検討されています。教職大学院は、現職教員の学び直しを促進する中心的な場として戦略的に活用され、オンライン教育や経済的支援の拡充が図られるとともに、多様な社会人が教職に就くルートや、現職教員が他校種・他教科の免許を取得できる仕組みも検討されています。最終的には、教育委員会だけに任せるのではなく、国と地方が一体となった広報戦略により、教職の社会的意義を再発信し、優れた人材が教職を志願する裾野を広げることが求められています。
070808 日本の教育改革に向けた教員養成・研修及び教育課程の改善に関する提言と議論
現代社会は、少子高齢化、デジタル技術の発展、グローバル競争の激化といった不確実性の高まりに直面しており、これまでの教育のあり方が大きく問われています。このような時代において、子どもたちが自らの人生を主体的に舵取りし、社会の創造者として活躍できるような教育の実現が喫緊の課題です。本稿では、今後の教育改革において不可欠となる「人」と「学び」の変革について、具体的な方策と展望を皆様にお伝えします。
まず、教育を支える「人」、すなわち教師の確保と質の向上が喫緊の課題です。近年、教師の大量退職に伴う大量採用が続いているものの、全国的に教員採用倍率は低下傾向にあります。この背景には、少子化に伴う大学進学者数の減少や、生産年齢人口の減少による人材獲得競争の激化といった志願者減少要因が挙げられます。今後の採用者数は中長期的に減少方向と見込まれており、志願者数を維持・増加させるための継続的な取り組みが不可欠です。
教職の魅力を高めるためには、働き方改革の推進、処遇改善、指導・運営体制の充実が求められます。教職員定数の改善や支援スタッフの充実など、教師を取り巻く環境のさらなる充実が不可欠であり、これには社会的な理解も必要となるでしょう。また、人材獲得競争が激化する現代において、教師の採用広報を教育委員会だけに委ねるのではなく、国と地方が一体となった広報戦略が求められています。教職が将来を創造する人材を育成する中核的な職業であることを国主導で社会に再発信することも重要であると考えられます。
多様な人材を教職に呼び込むための具体的な取り組みも進められています。例えば、就職氷河期の世代を鑑みた教師の中途採用の拡大、さらには民間企業に在籍しながら学校に勤務するという新たな形態も視野に入れる必要があります。採用前の段階で、学校現場での実践的な経験を積む機会を提供することは、本人にとっても学校現場にとっても非常に有益です。特に教育実務の経験がない方々には、学校に過度な負担をかけることなく、短期間でも現場を体験できる制度設計が求められます。
教員採用選考における工夫改善の一環として、第一次選考の共同実施が検討されています。現在、各都道府県や指定都市の教育委員会が独自に試験問題を作成し、事務をすべて実施していますが、共同実施により、複数の自治体が問題作成に参画することで試験内容の質が向上し、第一次選考の問題作成に係る負担が軽減されることで、第二次選考において人物・実践力重視の丁寧な選考が可能になるといったメリットが期待されています。これにより、教師志望者が一度の試験受験で複数の自治体に応募できるようになり、受験者数の増加にもつながるでしょう。令和9年度からの共同実施開始を目指して、既に51の自治体が協議会に参加し、試験実施日や科目、費用負担などについて議論が進められています。統一試験方式や共通問題配付方式といった実施方式も検討されており、統一試験方式では一括して処理することで負担軽減効果が大きい一方で、共通問題配付方式では各自治体で試験を運営しつつ、問題作成の負担軽減が中心となります。
現職教師の能力向上も重要なテーマです。教師が生き生きと働くことのできる環境づくりが重要であり、校務のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進や、研修のための時間確保が不可欠です。経済的負担の軽減、研修等定数の拡充、有給・無給の研究・研修休暇(サバティカル)制度の検討も必要とされています。教師には、特別な配慮を要する児童生徒への対応、倫理観や危機管理能力、ICTに関する授業・校務の能力、教科・領域に関する知識や指導技術など、多様な力が求められており、これらに応えるためには単発の研修だけでなく、体系的・段階的な学びの保障が重要です。教職大学院は、理論と実践を往還し、教師としての課題解決能力の基盤を形成する場として戦略的に位置づけられ、活用されるべきです。オンライン教育の活用や在職型の教職大学院進学支援制度の創設など、様々な事情で学修機会を利用できない現職教師への支援策も検討されています。
民間企業に勤務する多様な専門性を持つ人材を教育現場に呼び込むことは、子どもたちの学習権を保障する上で極めて重要です。教師は教えることのプロであっても、教えている内容についてのプロであることは少ないとされていますが、民間から転職した教師は、自身の体験を基にした学びを子どもたちに提供できるという大きな役割を担います。短期的には、専科指導やICT教育など、社会人の専門性を活かせる分野での教職参入を優先的に進めることで、既存の教員の専門性向上にもつながると期待されています。
企業に在籍しながら教師として勤務する「在籍型出向」といった任用形態も視野に入れられています。企業にとって人材流出につながる可能性もあるため、まずはシニア人材からの派遣を増やし、成功事例を蓄積することで、企業、学校双方のメリットを実感し、これを現役世代の従業員にまで拡大していく流れが考えられます。例えば、富士通では2014年の川崎市との包括協定に基づき、2024年度からシニア社員4名を特別非常勤講師として市立の小・中学校、高等学校へ派遣し、富士通に籍を置いたままエンジニアや海外居住経験を活かした指導を行っています。経団連も「企業の教育支援プログラムポータルサイト」を運営し、アサヒグループホールディングス、住友商事、DeNA、第一生命保険、東京海上日動火災保険、東京ガス、野村ホールディングス、住友生命などが、食育、キャリア教育、プログラミング、金融経済教育など多岐にわたる教育支援プログラムを全国の学校で展開しています。企業版ふるさと納税の「人材派遣型」スキームを活用することも、企業が学校現場に人材を派遣しやすくなる方策の一つです。
教育課程においても、社会の大きな変化に対応するための抜本的な改革が求められています。現在の学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」を理念とし、知識だけでなく、子どもたちが「何ができるようになるか」を明確化し、「どのように学ぶか」の重要性を強調することで、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を提示してきました。しかし、学ぶ意義を十分に見いだせず、主体的に学びに向かえない子どもが増加していることや、学習指導要領の理念や趣旨の浸透が道半ばであるといった課題も顕在化しています。
今後、質の高い、深い学びを実現するため、学習指導要領の目標・内容を「中核的な概念等」を中心に一層構造化することが考えられています。これにより、教師が「知識及び技能」や「思考力、判断力、表現力等」の「タテ」と「ヨコ」の関係性をより明確に捉え、授業づくりに活かしやすくなるでしょう。また、表形式やデジタル技術を積極的に活用することで、学習指導要領のユーザビリティ・アクセシビリティを高めることも検討されています。特にデジタル学習基盤は、多様な子どもたちにとって包摂的な学びを実現し、教師にとっても持続可能な形で主体的・対話的で深い学びを通じた資質・能力の育成に資する学習環境をデザインできる可能性を秘めています。
教育課程の柔軟化も重要な論点です。全ての学校において、学習指導要領に示す標準授業時数を基本としつつも、学校や地域の創意工夫によって教育課程を柔軟に編成できる仕組みが検討されています。例えば、特定の教科等の授業時数を減じ、その分を他の教科等に上乗せしたり、子どもたちの個性や特性に応じた学習支援のための「裁量的な時間」に充てたりすることが可能になるかもしれません。これは、不登校児童生徒や特定分野に特異な才能のある児童生徒、日本語指導が必要な児童生徒といった多様な子どもたちを包摂し、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための「2階建て」の教育課程の仕組みとして構想されています。
質の高い「探究的な学び」の実現も目指されています。総合的な学習の時間や総合的な探究の時間を中核としつつ、情報活用能力をその基盤と位置づけ、探究と情報の連携を一層強化することが検討されています。情報活用能力は、単に情報技術の活用に留まらず、情報技術の適切な取り扱いや特性の理解を含めた形で、小中高を通じて体系的に育成されるべきです。これにより、子どもたちが生成AI等の先端技術を適切に活用し、実社会の課題解決に主体的に取り組む力を養うことが期待されています。
学習評価のあり方も見直されています。学習途中で行う「学習改善等に生かす評価」(形成的評価)を重視し、学年末に評定を総括することで、子どもたちが学期途中でうまく学べなかった場合でも挽回の機会を得られるようにすることが検討されています。また、「学びに向かう力、人間性等」の評価については、従来の「主体的に学習に取り組む態度」という目標に準拠した評価から、教育課程全体を通じた「個人内評価」に改めることで、教師の過度な負担を抑制しつつ、一人ひとりの良さや成長を肯定的に捉えることができるようになります。これにより、教師は形式的な評価に時間を割かれることなく、子どもたちの学習改善に注力できる「余白」を生み出すことが可能となります。
最後に、子どもたちが社会に主体的に参画する力を育む教育の充実も重要な柱です。小学校の学校運営や中学校・高校の校則見直しにおいて、子どもたちの意見が十分に反映されていないという課題が指摘されています。今後は、学級や学校という身近な社会の形成に子どもたちが当事者として参画し、対話や協働を通じて改善していくことで、「生成AI時代の主権者」として、確かな民主主義の担い手を育むことが期待されています。そのため、特別活動を中核として、児童会・生徒会活動や学校行事など、様々な活動における子どもたちの主体的な関わりを明確化し、クラウドツールを活用した意見表明の機会の創出など、教師の負担軽減にも配慮しながら、子どもたちの声を学校運営に活かす仕組みを充実させる方向で検討が進められています。
これからの教育は、教師と子ども、そして社会全体が連携し、変化を恐れずに新たな挑戦を続けることで、子どもたちの無限の可能性を開花させ、より良い社会を築いていく礎となるでしょう。
今日の日本社会は、世界的な環境問題や国際情勢の緊張化、AIの急速な進展、そして国内の急速な少子化と労働供給不足といった複合的な課題に直面しています。このような激しい変化の時代において、社会全体の持続可能性と一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を実現するためには、「知の総和」(「数」と「能力」の積)を向上させることが不可欠であるとされています。この壮大な目標を達成するために、高等教育は「教育研究の質」を向上させ、意欲ある全ての人が高等教育を享受できる「社会的に適切な規模の機会」を提供し、さらに地理的・社会経済的な観点から「アクセス」を確保することで、機会均等を強力に推進していく必要があります。これらの「質」「規模」「アクセス」という三つの目的(価値)は、常に調和するとは限らず、時にトレードオフの関係となる可能性もあるため、価値の選択と調整が求められます。特に、2040年には大学進学者数が2021年比で約27%減少すると推計されるなど、急速な少子化への対応は喫緊の課題であり、規模の適正化と同時にアクセス確保策を講じ、教育研究の質を高めることで知の総和の向上を目指す高等教育全体の変革が始まっています。
「知の総和」の向上の中核をなすのは、教育研究の質の高度化に他なりません。これは、学生一人ひとりの能力を最大限に引き出すことを目的としています。まず、未来社会を担う人材に必要な資質・能力を育成するため、文理横断・融合教育を推進し、デジタルやグリーンといった成長分野を創出・牽引する人材の育成を重視しています。具体的には、自然科学系における修士・博士5年一貫プログラムの構築や、人文・社会科学系における学士・修士5年一貫教育の大幅な拡充が図られます。また、高等教育機関は、多面的・総合的な入学者選抜や転編入学の柔軟化を通じて、外国人留学生、社会人、障害のある学生など、多様な背景を持つ学生の受け入れを積極的に促進します。留学モビリティの拡大、経済的支援の充実、多文化共修環境の整備も進められ、社会人の学びの場を広げるためには、産業界と連携した教育プログラムの開発や、組織レベルでの連携強化が図られます。教育内容・方法の改善においては、学生が主体的に学修できる環境の構築を目指し、教学マネジメント指針の見直し、同時履修科目の絞り込み促進、そしてレイトスペシャライゼーション(専門分野の選択を遅らせる制度)を促すための定員管理制度の弾力化が検討されています。さらに、厳格な成績評価や卒業認定、成績優秀者への称号授与といった「出口における質保証」の促進、そして遠隔・オンライン教育の推進も重要な要素です。教育の質を保証するシステム自体も刷新され、大学設置基準や設置認可審査の見直し、認証評価制度の変革を通じて、教育の質を多段階で評価する新たな評価制度への移行が計画されています。研究面では、研究環境の構築や研究開発マネジメント人材の量的不足解消・質向上、そして教員の業務負担軽減を進めることで、研究力の強化を目指します。これらの取り組みの透明性を高めるため、高等教育機関の情報を横断的に比較できる新たなデータプラットフォーム「Univ-map(仮称)」の構築や、全国学生調査の活用を通じて、積極的な情報公開が推進されます。
一方、少子化という不可逆的な潮流の中、高等教育全体の「規模」の適正化は避けられない課題です。これに対応するため、機能強化と再編・統合が重要な政策の柱となります。意欲的な教育・経営改革に取り組む高等教育機関に対しては、規模を縮小しつつも質の向上を図り、大学院へのシフトや、デジタル・グリーン分野といった成長分野への学部転換を支援する方策が講じられます。高等教育機関間の連携も強化され、定員未充足や財務状況が厳しい大学等の統合に対するペナルティ措置の緩和や、再編・統合を行う大学等への支援が積極的に行われます。国立大学は、学部定員規模の適正化を図りつつ、修士・博士課程への資源の重点化を進めるとともに、国際化や地域のアクセス確保に配慮する役割を担います。公立大学は、地方公共団体の規模や実態に応じた教育研究を実施し、定員規模の適正化を進めることが求められます。私立大学においては、建学の精神に基づく多様性を尊重しつつも、設置認可の厳格化、そして再編・統合、規模縮小、さらには撤退への支援を通じて、持続可能な運営体制の構築が促されます。具体的には、設置認可審査時の財産保有要件や経営状況に関する要件が厳格化され、設置計画の履行が不十分な場合には私学助成の減額・不交付といった措置も検討されています。また、一時的な減定員を容易にする仕組みの創設や、早期の経営判断を促す指導の強化に加え、撤退する高等教育機関に対しては、在学生の卒業までの学修環境確保、卒業生の学籍情報管理、残余財産帰属要件の緩和など、きめ細やかな支援が提供されます。高等教育への「アクセス」確保は、地理的・社会経済的な観点から高等教育の機会均等を実現することを目的としています。地理的アクセスについては、都市から地方への学生・教員の移動を促進し、地方創生に貢献するための高等教育機関への支援(国内留学、学生寮整備、サテライトキャンパス、キャンパス移転など)が推進されます。遠隔・オンライン教育の活用も進められ、大学間連携による授業の共有化を通じて、どこにいても質の高い学びが得られる環境が整備されます。また、地域ごとのアクセス確保と人材育成を推進するため、「地域構想推進プラットフォーム(仮称)」という協議体が構築され、国からの支援も検討されます。社会経済的アクセスに関しては、高等教育の修学支援新制度等の着実な実施や、企業等による奨学金代理返還の普及促進を通じて、個人への経済的支援が充実されます。入学前の段階においても、高等教育に関するプッシュ型情報発信、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)の解消促進、キャリア教育の推進など、多様な取り組みが進められます。これらの支援策の財源については、個人・保護者負担の見直しと、公財政支援や社会からの支援とのバランスを考慮した、持続可能な財源確保の検討が行われます。
これらの高等教育改革は、「経済・財政新生計画」に基づき、潜在成長率の引き上げに重点を置いた政策運営の一環として位置づけられています。高等教育への投資は、未来への先行投資であり、国力の源泉そのものであるという認識の下、持続可能な社会を構築するための重要な施策とされています。教育研究活動を高度化し、その成果や効果を社会に対して情報公表することで、高等教育機関は学生の満足度を高め、国民からの信頼を得ることが求められます。公財政支援の充実、社会からの投資・支援の強化、そして個人・保護者負担のバランスを考慮した、多角的な財源確保の仕組みを構築することが、高等教育の持続的な発展に不可欠であると考えられています。最終的に、これらの「質」「規模」「アクセス」の各側面における統合的な改革を通じて、日本の高等教育は、一人ひとりのWell-being(幸福度)が高い、豊かさ、安心・安全、自由、自分らしさを実感できる活力ある経済社会の構築を目指します。これは、「人材希少社会」において「人財尊重社会」を築き、教育と人づくりを通じて国民一人ひとりの人生の可能性を最大限に引き出し、その選択肢を拡大していくという、より大きな国家戦略の一環として推進されているのです。
2025.7.2. 学校施設の災害リスク評価、脆弱性対策、防災機能確保のための包括的チェックリストの要点
学校施設の災害リスク評価、脆弱性対策、防災機能確保のための包括的チェックリストの要点は、地域の実情や災害リスクに応じた防災機能の強化・実装を目指すものであり、以下の3つの主要な確認事項に集約されます。これは、文部科学省がこれまでの手引きや事例集等の蓄積を踏まえ、特に令和6年能登半島地震の教訓(地理的条件による被害の差異、ライフライン寸断による長期化など)も踏まえて作成されたものです。
学校周辺の災害種ごとの災害リスクの確認 この項目では、学校の立地する環境がどのような災害リスクに晒されているかを具体的に把握します。
災害ハザードの存在:
学校周辺に土砂災害の警戒区域や、津波・洪水等の浸水想定区域があるかを確認します。例えば、3~5mの浸水が想定されるような具体的な状況を把握することが求められます。
強い地震によって液状化しやすい場所があるか、または地震ハザードの危険性が高いと評価されている場所であるかを確認します。
交通インフラへの影響:
土砂災害や津波・洪水等により、周辺道路に通行規制や冠水が想定される場所があるかを確認します。特定の県道で冠水が想定されるケースなどが例示されています。
浸水の深さと継続期間:
津波・洪水等により、床上浸水や一定期間浸水が続くことが想定されているかを確認します。例えば、3日間の浸水継続が想定される場合があります。
情報源の活用と連携:
国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」や防災科学技術研究所の「地震ハザードカルテ」を活用し、学校周辺の災害リスクの全体像を把握します。
自治体の防災部局等と連携し、ハザードマップ等を活用して、災害時に想定される被害や孤立の可能性を確認することが重要です。
学校施設の脆弱性や必要な対策の確認 この項目では、災害リスクに対して学校施設自体がどれだけ頑強であるか、またどのような対策が必要かを確認します。
耐震対策の状況:
耐震対策により、地震による被害から児童生徒等の安全確保が図られているかを確認します。これには以下の点が詳細に含まれます:
構造体(建物本体)の耐震化が図られているか(「耐震化の基本」や「耐震補強早わかり」等の手引きを参照)。
屋内運動場等の吊り天井の落下防止対策が施されているか(「天井等落下防止対策のための手引」や「対策事例集」を参照)。
その他の非構造部材(天井、照明器具、内外壁、窓ガラス、設備機器等)の耐震点検・対策が実施されているか(「耐震化ガイドブック」や「耐震対策事例集」を参照)。
発災後に使用できない恐れがある施設・箇所などを確認し、安全性を確保することが求められます。
避難経路の確保:
津波・洪水等による浸水に対し、児童生徒等の避難経路が確保されているかを確認します。特に津波については、地震直後に発生することを念頭に、浸水想定区域内にある学校の避難経路の確保状況を綿密に確認します。
発災後の施設利用可能性:
地震や津波・洪水等により、発災後に使用できない恐れがある施設・箇所、設備があるかを確認します。
例えば、校舎の1階部分が浸水したり、電源設備が校舎の1階にある場合などが該当し、これに対する対策(例: 電源設備を3階に移設する)を検討します。浸水想定区域にある学校については、ハザードマップ等で想定される浸水の深さ・時間から、使用できない恐れがある校舎・体育館等の施設・箇所、受変電設備等の設備を確認することも重要です。
文部科学省から提供されている「水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進のための手引」などの関連手引きや事例集を参照し、具体的な対策を進めることが推奨されます。
避難所として必要な防災機能の確認 学校が地域コミュニティの拠点として、災害時に避難所機能を十分に発揮できるかを確認します。
スペースの確保:
最大規模の避難者数等の想定に対し、避難所開設・学校再開に必要なスペースが確保されているかを確認します。
防災機能の充足:
最大規模の避難者数等の想定に対し、防災機能(備蓄・非常用電源・飲料水・冷暖房・ガス・通信・断水時のトイレ)が十分に確保できているかを確認します。
例えば、体育館に空調設備が設置されていない、非常用発電設備が校内にないといった課題に対し、空調設備の設置や非常用発電設備の整備といった対応方策が示されています。これには、空調設備整備臨時特例交付金や緊急防災・減災事業債の活用も含まれます。
地域との連携と訓練:
上記の状況確認に加え、地域との避難所運営訓練を実施し、その効果を検証しておくことも非常に効果的です。
具体的な機能強化事例:
空調設備: 足立区立綾瀬小学校では、屋内運動場が避難所として開放できるよう、非常時でも使用可能な冷暖房設備を備えています。和歌山市では、都市ガスによる空調システムを採用し、供給エネルギーの分散化を図っています。
電源設備: 足立区立綾瀬小学校では、受変電設備やプロパンガス設備を浸水しない屋上に設置しています。和歌山市では、自家発電設備(軽油で連続10時間運転可能、225kVA)を設け、停電時の非常用電源を確保しています。
飲料水確保: 和歌山市では、災害時にいち早く給水所を開設するための**応急給水栓(水道管から直圧で給水)を配備しています。
備蓄品の保管場所: 和歌山市では、屋内運動場や空き教室を活用した備蓄スペースを確保しています。
トイレ設備: 足立区立綾瀬小学校では、マンホールトイレ、少量の水で洗浄できる災害用タンク式トイレ、バリアフリートイレ(オストメイト対応、ユニバーサルシート・ベビーチェア設置)を設置しています。令和6年能登半島地震の教訓を踏まえ、清潔なトイレカー・トイレトレーラーの確保も重要性が指摘されています。
炊き出し機能: 熊本県益城町の学校給食センターは、熊本地震の教訓から、建物自体の耐震性を高め、オール電化とし、自家発電装置を導入することで、大規模災害時に1日約1万食のご飯提供能力を持つ炊飯施設や、防災炊き出し室としても機能するよう整備されています。また、消防団が集結し活用できる防災研修室やシャワーも設置されています。
避難経路/避難場所: 和歌山市では、津波からの避難場所として後期課程用屋内運動場を校舎3階に整備しています。夜間・休日でも市民が施設にアクセスできるよう、震度感知式鍵ボックスを設置している事例もあります。足立区立綾瀬小学校では、改築後の屋内運動場が2階に整備され、想定最大の浸水深4.5mまで水が来ても利用可能な設計となっています。
その他の機能向上: 川崎市の事例では、発災後の初動対応やライフライン確保を意図し、管理諸室を集約したり、備蓄倉庫を増築したりする配置計画が実施されています。
これらの要点を踏まえ、各学校設置者は地域の実情に応じてこのチェックリストを適宜加除修正し、防災体制の強化に繋げていくことが望ましいとされています。
2025.6.25. 公立学校教員の働き方改革と多様化する学校課題への総合的対応
学校教員の長時間勤務削減に向けた具体的な施策は多岐にわたり、その根幹には、政府が令和11年度までに公立の義務教育諸学校等の教育職員について、1箇月時間外在校等時間を平均30時間程度に削減するという明確な目標が掲げられています。この「1箇月時間外在校等時間」とは、1箇月の学校の教育活動に関する業務を行っている時間から、祝日法による休日や年末年始の休日等を除く正規の勤務時間を除いた時間を指します。この目標達成のために講じられる具体的な措置として、まず、教育職員一人当たりの担当授業時数を削減すること、そして教育課程の編成のあり方について検討を行うことが挙げられます。また、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律に規定する教職員定数の標準を改定し、教育職員以外の学校の教育活動を支援する人材を増員することも重要な施策です。さらに、不当な要求等を行う保護者等への対応について教育職員への支援を行い、部活動の地域における展開等を円滑に進めるための財政的な援助を行うこと、これら以外にも教育職員の業務の量の削減のために必要な措置が講じられます。
教員の負担軽減と教育環境の改善を目指す関連施策として、公立の中学校における35人学級の実現が推進されます。具体的には、令和8年度から、公立中学校の同学年の生徒で編制する学級について、1学級の生徒の数の標準を35人に引き下げるよう、法制上の措置その他の必要な措置が講じられることになっています。加えて、公立の義務教育諸学校等において、学校全体の教育職員の仕事と生活の調和を実現する上で、管理職手当を受ける教育職員、すなわち公立学校の管理職員が重要な役割を果たすことに鑑み、管理職員や教育委員会による当該教育職員の担当業務の見直しに係る措置や、業務の管理の実効性向上のための措置について検討が行われ、その結果に基づいて必要な措置が講じられます。その他、幼稚園を除く公立の義務教育諸学校等の教育職員の勤務条件のさらなる改善のため、当該教育職員の勤務の状況について調査を行う旨も規定されています。
教職員への支援策の中でも、特に重要視されているのが、保護者等からの多様化・増加する要求や苦情への対応です。近年、学校現場では、子どもへの指導に関する細かい要望、本来家庭や地域で行うべきしつけやトラブル処理を学校に求めるケース、不適切な内容の要望、教員の指導に対するもの、学校で対応しきれないもの、学校経営に関するものなど、内容が多岐にわたる不当な要求が増加しており、学校単独での解決が難しい、時間的・精神的に限界がある状況も想定されています。このような状況に対し、学校管理職や教育委員会には、増加・多様化する要望・苦情への適切な対応と、さまざまな危機事象に対応できる強固な危機管理体制の構築が喫緊の課題とされています。対応にあたっては、一人で抱え込まず、複数の職員で対応することを基本とし、冷静に対応すること、まず事実確認を行い安易な謝罪は避けること、不必要な発言を慎重に避けることなどが求められます。特に理不尽な要求に対しては、できないことはできないと毅然とした態度で対応し、対応内容は必ず記録を取り、職員間で共有することが不可欠です。また、要望や検討、回答は個人としてではなく組織として行い、教育委員会への速やかな報告・相談や、不当な要求行為に対しては警察等の外部機関との連携も積極的に進める必要があります。いじめや児童虐待、学校事故など、学校のみでは解決が難しい複合的な問題に対しては、児童相談所やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、スクールロイヤーなど、専門機関との連携が解決の近道とされています。
これらの包括的な施策が実施されることで、最も直接的に期待される効果は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の1箇月時間外在校等時間を平均30時間程度に削減するという目標の達成です。これにより、教職員の仕事と生活の調和が実現され、ワークライフバランスが大幅に改善されることが期待されます。保護者対応や部活動といった、これまで教員の大きな負担となっていた業務が軽減されることで、教員が本来の教育活動に集中できる環境が整い、教員の負担が軽減されるでしょう。また、35人学級の実現は、教員一人当たりの生徒数が減ることで、よりきめ細やかな指導が可能となり、生徒にとっての学習環境の質向上にもつながる可能性があります。さらに、管理職や教育委員会による業務管理の見直しは、教員の業務がより効率的かつ適正に配分され、負担が偏ることなく、持続可能な勤務体制が構築されることに寄与すると考えられます。これらの課題への対応は、学校現場に大きな負担を強いる側面も否定できませんが、学校づくりには教職員だけでなく、保護者や地域の方々の力が必要であり、子どもたちの豊かな育ちという同じ目的を共有する大人として、相互理解を深め、協力体制を組むためのスムーズな連携が重要です。教育委員会においては、学校が対応に苦慮する事案に対して助言を行う支援チームの設置や、学校問題解決のための手引やガイドラインの作成・改訂を通じて、教職員の対応を支援していく役割があります。これらの取り組みは、子どもたちの安全・安心な学びの環境をより一層充実させる機会と捉えられ、組織全体として対応力を高めていくことで、子どもたちの健やかな成長を支える基盤となると期待されています。
2025.6・17. 教育の質向上と負担軽減のための「余白」創出
~入試制度・学習指導要領・教科書改革の連携~
授業改善や教科書のありかたを考える際、必ず最後にぶち当たるのが、「入試」の存在ではないでしょうか。授業改善ができないという主張、デジタルアンチ教育論を“入試のせい”にしてしまうことは、考察ベクトルがことなると、私は思っています。
入試制度と学習指導要領の連携強化は、現在の教育現場が抱える課題、特に教師と児童生徒双方の過度な負担感を軽減し、教育の質を向上させる上で重要な意味を持ちます。現状では、高校入学者選抜のあり方が、教師が教科書の内容を網羅的に教えなければならないという認識を強くさせ、これが授業進度の速さや過剰な授業時数の設定に繋がっていると指摘されています。例えば、児童生徒の約60%が授業量や週当たり授業時数を「ちょうどよい」と感じる一方で、中学生の5~10%は「多すぎる」と感じており、教師向け調査では小学校で半数以上、中学校で4割以上が「多すぎる」または「やや多い」と回答しています。また、教科書は約50年前と比較して小学校で約3倍、中学校で約1.5倍にページ数が増加しており、指導要領も約30年前から約2倍の文字数になっています。これらの要因が、教師が創意工夫を発揮しにくい環境を生み出し、「教科書通りに教える」指導が主流となる傾向を助長する側面があると指摘されています。入試において依然として単純な事実的知識の記憶を問う問題が出題されることも、教科書を網羅的に取り扱う授業のあり方を促進する一因となっています。
このような状況を改善するため、入試制度と学習指導要領の連携強化は、知識の集積に留まらない本質的な理解や深い意味理解への転換を促します。学習指導要領において「中核的な概念や本質的な理解の獲得に重点を置いた内容に構造化・精選」し、高校入試においても「単なる事実的知識の記憶を問うのではなく概念としての理解を問う問題や、思考力・判断力・表現力を問う問題」の出題を一層進めることで、学校現場に変化を促します。これにより、教師は教科書を「教える」から「で」教えるという意識改革が進み、教科書は中核的な概念を掴みやすいものに精選され、多様な教材と組み合わせやすくなります。この連携は、柔軟な教育課程編成の促進と教師・児童生徒双方への「余白」の創出を可能にします。例えば、年間総授業時数を適正化し、令和6年度の計画段階で小学校5年生の平均が1,059.1単位時間、中学校2年生が1,058.4単位時間と、標準を大幅に上回る編成が減少しています。過剰な予備時数(超過分の約35%が不測の事態用)の解消には、「不測の事態で標準を下回ったことのみをもって法令に反するものではない」という国の認識と、調整授業時数制度の導入検討が寄与します。これにより、年度途中の柔軟なカリキュラム・マネジメントが可能となり、真に必要な時数設定を基本とできます。具体的な工夫事例として、横浜市立つづきの丘小学校は1単位時間を基本的に40分で設定し、午前中に5限目まで実施しています。また、目黒区立中目黒小学校や滋賀県愛荘町立秦荘西小学校では1単位時間を5分短縮し、年間127コマの「余白」を生み出し、そのうち85コマを子供の主体性を伸ばす学習活動に、42コマを教員の研修や教材研究に充当しています。さらに、石川県加賀市や熊本市のように新年度の始業日を数日間後ろ倒しすることで教師の準備期間を確保する事例も出ています。
これらの総合的な取り組みにより、教師と児童生徒双方に「余白」が生まれ、過度な負担が生じにくい環境が実現されることで、教育の質の向上が期待されます。少子化に伴う「大学全入時代」の到来や「公立高入試の倍率低下」(約3分の1の県で倍率1以下)といった状況は、質的改善を行いやすい環境を提供していると見られています。教育現場には「教師一人当たりの担当授業時数の削減」や「教育課程の編成のあり方の検討」を目的とした、令和11年度までに「1ヶ月時間外在校等時間」を平均30時間程度に削減するという政府目標があり、今回の連携強化はこれに資するものです。デジタル技術の活用も、学習指導要領の構造化・表形式化と相まって、教員の負担軽減と教育活動の質の向上に貢献すると指摘されています。これにより、スクールポリシーに応じた多様な選抜を一層進めることが可能となり、画一的ではない、個々の学校の特色に応じた教育が実現しやすくなります。結果として、子供の主体性を伸ばし、学ぶ意味や社会・キャリアとのつながりを意識した探究的な学びの充実**へと繋がっていくでしょう。
2025.5.30. 探究的な学びの質を向上させるICT活用の可能性
探究的な学びは、児童生徒が自ら問いを見つけ、情報を集め、整理・分析し、そして学びの成果をまとめ、表現する一連の主体的な学習プロセスであり、これからの社会を生きる上で不可欠な資質・能力を育む上で極めて重要な役割を担っています。この探究の質をさらに高めるために、ICT(情報技術)の活用がますます重要になってきています。提供された資料からは、ICTが探究の各段階でどのように活用され、その質的な向上に貢献するのか、そして現状と今後の展望について具体的な示唆が得られています。
まず、ICTは探究のプロセス全体を支え、駆動させる基盤となる情報活用能力と一体的に捉えられています。探究の過程は、大きく課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現の4段階に分けられますが、ICTはそれぞれの段階で児童生徒の学びを強力に後押しします。
課題設定の段階では、ICTを活用することで、児童生徒は多様な課題に出会う機会を得ることができます。例えば、バーチャル体験を通じて現実世界に近い状況を体験したり、様々なデータや情報を比較検討したりすることで、問題状況を深く理解し、自らの問いを明確にすることができます。さらに、AIとの対話を通じて問いを洗練させたり、仮説や検証計画を具体化したりすることも可能になり、課題解決に向けた見通しを鮮明に持つことができるようになります。
情報の収集においては、ICTはその真価を十二分に発揮します。インターネット上の検索エンジンやデータベース、統計資料などを活用することで、文献や先行研究はもちろんのこと、多種多様で大量の情報を、時間や空間の制約を越えて高速に収集・蓄積することが可能になります。オンラインでのアンケート調査やインタビュー、動画からの情報収集、あるいはバーチャル空間での体験活動を通じたデータ収集など、従来は難しかった様々な方法での情報収集が可能となり、探究活動の幅を大きく広げます。
収集した情報の整理・分析の段階も、ICTによって劇的に効率化・高度化されます。表計算ソフトを用いた数的データの処理やグラフ作成は、データの傾向を視覚的に把握する上で非常に有効です。また、テキストマイニングといった手法を用いれば、質的なデータからキーワードや共起関係を抽出し、新たな視点を得ることもできます。マップやデジタル年表を使って情報を空間軸や時間軸で整理したり、思考ツールアプリを用いて情報の比較、分類、関連付け、構造化などを視覚的に行ったりすることで、複雑な情報も整理しやすくなり、多角的な思考や原因分析を深めることができます。オンラインでの意見交換も、分析を深める上で有効な手段となります。ICTを用いることで、大量かつ多様な情報の処理が容易になり、思考過程が可視化・操作化されるため、質の高い整理・分析が可能となるのです。
最後に、まとめ・表現の段階では、ICTが豊かな表現をサポートし、学びの成果を広く共有することを可能にします。レポートや論文、活動報告書といった文章表現に加え、ポスター、プレゼンテーション、ウェブページ、動画、さらには立体作品(3Dプリンター)やアプリ、プログラミング作品といった多様なメディアを用いて、自らの学びや考えを効果的に表現することができます。ICTは、イメージに近い質の高い表現を比較的短い時間で作成、修正、改善することを可能にし、その成果をオンラインなどを通じて広く発信したり、自らの学びの過程を効率的に振り返ったりすることにも役立ちます。
これらのICT活用による効果は、実際の調査データからも裏付けられています。全国の小中学校教員を対象としたある調査(学会等未発表データ、速報値)によると、探究的な活動で端末を活用している場合、活用していない場合と比べて、探究の質の高まりや効率化を実感している傾向が見られました。特に、情報収集と整理・分析の学習過程で、端末活用による質の向上・効率化の実感スコアが高く、7点満点中6点を超える項目が多く見られます。このことから、ICT活用は探究の質を低下させることなく時間短縮も可能にし、その結果、課題設定やまとめ・表現といった、より深く思考したり創造性を発揮したりするべき探究の核となる部分に十分な時間を確保できるようになることが示唆されています。さらに、端末の活用頻度が高い教員ほど、これらの効果をより強く実感している傾向があることも確認されています。
このように、ICT活用は探究的な学びの質を高める上で非常に有効ですが、PISA2022の結果では、日本の探究活動におけるICT活用は諸外国と比較して低位であり、まだ多くの伸びしろがある現状が指摘されています。今後の教育においては、生成AIをはじめとするデジタル技術が飛躍的に発展する中で、情報活用能力を単なるツール操作のスキルに留めず、探究的な学びを支え、駆動させるための基盤として位置づけ、探究と情報活用能力を一体的に充実させていく方向性が検討されています。具体的には、小学校段階では、体験的な活動が充実している総合的な学習の時間に情報活用能力を育む領域を付加し、適切な取扱いや特性の理解の基礎も含めて一体的・重点的に指導すること、中学校段階では、技術・家庭科(技術分野)を主たる受け皿として、生成AI等の先端技術を含む情報技術の適切な取扱いや特性の理解をより専門的に深め、各教科等での探究に活用すること、高等学校段階では、小学校・中学校での系統性を踏まえ情報科の内容を充実させつつ、総合的な探究の時間や各教科等での情報技術を基盤とした探究的な学びとの関連を図ることが提案されています。これらの取り組みは、デジタル技術が不可欠となる現代社会において、児童生徒が情報技術を適切かつ効果的に活用し、自らの人生や社会のために課題解決や探究ができる力を育むことを目指しています。
結論として、ICT活用は探究的な学びの各プロセスを豊かにし、学びの質と効率を向上させる強力な手段です。調査データもその効果を裏付けており、今後の教育においては、情報活用能力を探究の基盤として位置づけ、両者を一体的に推進していくことが、質の高い探究的な学びを実現し、予測不能な未来を生き抜く児童生徒の資質・能力を育む鍵となるでしょう。
2025.5.26. 質の高い探究的な学びの実現
https://drive.google.com/file/d/1QppAzEp-Qs9OyXntKdL_vBhpgsV5cCmm/view?usp=drive_link
2025.5.14.子ども・若者が学校で大切にしたい学びとは?―未来の創り手たちの声に耳を傾けると…?!
文部科学省は、将来の人生や社会を創造していく子どもや若者が、学校でどのような学びを大切にしたいと考えているのか、その率直な意見に耳を傾ける機会を設けました。これは、約10年に一度改訂される学習指導要領の新たな検討を進めるにあたり、「こども若者★いけんぷらす」の枠組みを活用して行われたものです。生成AIをはじめとするデジタル技術が急速に発展し、社会が大きく変容する中にあって、学校教育もまたそのあり方を絶えず問い直していく必要があります。社会が内なるグローバル化やデジタル化の負の側面による分断の可能性をはらむ今、異なる価値観を持つ多様な他者と対話し、主体的に問題を発見・解決できる「持続可能な社会の創り手」を育む必要性がかつてないほど高まっています。このような状況下で、教育を受ける当事者である子どもや若者自身の声は、今後の学校での学びをより良いものにしていく上で、最も重要な羅針盤となります。彼らが学校に期待する学びの姿は多岐にわたりますが、その根底には、変化を恐れず自ら考え行動し、他者と協働しながら、より良い未来を築いていきたいという強い願いが込められています。今回の意見聴取では、小学校1年生から高校3年生までの幅広い年代から、授業内容、先生の関わり方、評価、教科書など、学校生活全般にわたる貴重な声が集まりました。これらの声は、単なる願望の表明にとどまらず、彼らが現代社会をどのように捉え、将来に向けてどのような力を身につけたいと考えているのかを示す、示唆に富む内容を含んでいます。
子どもや若者が学校の授業に最も期待するのは、受け身の姿勢を脱し、自ら学びを進め、現実世界とのつながりを実感できる機会です。先生から一方的に知識を与えられるだけの授業には、「ノートにただ単に写して、聞きたくもない話を聞かされた授業」 や、「ただ問題を解き続ける授業。せっかく学校で他の生徒と一緒に勉強している意味がないと感じた」 といったがっかりした声が寄せられています。これに対し、子どもたちは「自分で考えたり、調べてまとめたり、学びを進めたりする」 授業にワクワクし、探究的な学習に強い意欲を示しています。具体的には、小学校での総合的な学習の時間で地域のメロン畑を訪問し、お世話や収穫を体験したこと、中学・高校生がロボットを使ったコンテストやインタラクティブアート制作に触れたこと、魚の解剖を通して体の仕組みを学んだこと など、座学だけにとどまらない実践的・体験的な学びが、深い理解と探究心につながると感じています。また、学びが「生活や社会とつながりを感じられる」 ことも非常に重要視されており、例えば、車いすの使い方を学び、将来家族が使う場面を想像したり、法律や政治、経済といった社会の仕組みについて学ぶことで、現実社会との関連性を感じたという意見が多く見られました。社会に出たときに役立つ住民票や家賃に関する知識、現在の日本の少子高齢化といった課題 について学びたいという具体的な要望も挙がっています。デジタル技術の活用も彼らが求める学びの重要な要素です。小学校でのプログラミング教育必修化(2020年度~)、中学校技術・家庭科技術分野の充実(2021年度~)、高校「情報I」の必修化(2022年度~)といった国の施策 は進められていますが、実際に情報を活用する力はまだ十分ではない現状がデータからも見て取れます。例えば、小学校の1分間の平均文字入力数は15.8字、中学校では23.0字であり、R8年度の目標値である小学校40字、中学校60字には遠く及ばない状況です。子どもたちは、デジタル端末を使った授業やパソコンに触れる体験を求めており、「情報」という教科を通じて、情報技術の仕組みを科学的に理解し、問題解決に生かしたいと考えています。特に、偽・誤情報が溢れる現代社会において、情報の信頼性を確認し、適切に対応できる力を身につけることの必要性を強く感じており、メディアリテラシーを必修で学ぶべきだという意見も出ています。総務省の調査によると、日本は他国に比べて偽・誤情報の認識率やネット情報の信頼性確認の割合が大幅に低いというデータもあり、この点からも情報教育の重要性が浮き彫りになります。さらに、多様な他者と協働し、対話を通じて互いの意見を交換することの価値も多くの生徒が認識しています。友達と一緒にプロジェクトに取り組んだり、議論を通じて自分の考えを深めたりする学びは、単に知識を得るだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力の向上につながると感じています。自分のペースや興味に合わせた学び方(自由進度学習、習熟度別授業)への要望も強く、簡単すぎたり難しすぎたりする授業への不満も寄せられています。また、クイズや競争形式など、遊びやゲームの要素を取り入れることで、楽しく集中して学べるという意見も複数ありました。これらの声は、子どもたちが単に知識を詰め込むだけでなく、主体的な探究心、社会とのつながり、他者との協働、そして自身の興味に基づいた多様な学びの機会を学校に求めていることを明確に示しています。
子どもや若者が学校で前向きに学ぶためには、先生の関わり方と評価のあり方も極めて重要です。特に、先生からの温かい言葉かけや手助けは、子どもたちの学習意欲を大きく左右します。問題につまずいているときに優しく教えてくれたり、「大丈夫だよ」、「解いてみようよ!」と励ましてくれたりすること、間違ったやり方をしていても全てを否定せず、「ここまでは合っている」と肯定的なフィードバックをくれること が、やる気につながるという声が多く聞かれました。また、質問が苦手な生徒にとっては、先生からの積極的な声かけが安心感を与え、授業についてこられているかの確認がサポートにつながると感じています。一方で、努力や過程を認めてもらえなかったり、具体的に褒めてもらえなかったりすること、「私にはどうにもできない」といった突き放すような言葉、生徒の意見を決めつけたり、みんなの前で叱ったりすること は、子どもの心を深く傷つけ、学習意欲を削ぐことが切実に語られています。先生が一人ひとりをしっかり見てくれ、個別の課題に対応してくれる「自分を見てくれているという姿勢」 は、子どもたちに大きな安心感を与えます。また、自分のペースで学ぶことを認めたり、選択の機会を与えたりするなど、自主性を尊重する姿勢 も、子どもたちの主体性を育む上で大切だと考えられています。成績や評価については、単に点数や順位だけを伝えるのではなく、どのような基準で評価されるのかが明確で、透明性が高いことを強く求めています。学校や先生によって評価基準が異なることへの懸念や不公平感も指摘されており、明確な基準の必要性が強調されています。さらに、教科の特性に応じた柔軟な評価を望む声もあり、例えば、芸術系の教科では作品の出来だけでなく主体性や過程を重視すべきだという意見が出ています。何よりも、評価が単なる数値や記号にとどまらず、自分の成長を実感できるものであることが重要だと考えられています。過去と比べてどこがどのように伸びたのか、努力や過程がどのように評価されたのかが分かることで、次への意欲につながるのです。頑張った点や課題、具体的なアドバイスなど、丁寧で具体的なフィードバックを求める声が多く、特に学期の途中でも状況を確認し、何を頑張るべきか示してもらえることが、学習を調整しモチベーションを維持するために望ましいとされています。通知表の表記についても、良くない印象を与える△ではなく、花丸や二重丸といったポジティブな表記にしてほしいという要望や、「もう少し」といった言葉を「頑張ったね!」「あともう一歩!」といった励ましの言葉に変えてほしいという具体的な提案 も見られました。評価がコンプレックスにつながる側面を指摘しつつも、自分の立ち位置を知る指標としての有用性を認め、成績はあくまで「ひとつの指標」であることを丁寧に説明し、サポートすることの重要性を訴える意見もありました。また、不登校や病気で学校に来られない生徒への配慮として、提出期限を柔軟に対応してくれた先生への感謝の言葉もあり、多様な背景を持つ子どもたち全てが安心して学べる環境を整えることの重要性が示唆されています。
子どもや若者は、日々の学習に欠かせない教科書についても、その内容や形式、使いやすさについて多様な意見を持っています。彼らが望む教科書は、まず第一に誰にとっても分かりやすいものであることです。詳細な説明や図表が多く、誰が読んでも理解できる工夫がされていることが重要だと感じています。また、単に知識を羅列するだけでなく、自分で考えたり、作ったり、書き込んだりする実践できる余白や課題があること、学んだことが身近な場面でどのように使われるか示されていること が、学びを深める上で役立つと考えています。要点や用語が整理され、ポイントがまとまっている教科書は、効率的な学習に役立つという意見も多く見られました。一方で、分かりにくいと感じる点や改善を求める点も具体的に指摘されています。例えば、歴史の教科書は日本史と世界史で年代がずれていて分かりにくいので一か所にまとめてほしい、社会の教科書は大事な言葉に対する文章量が多すぎる、数学の教科書やワークは解法が省略されている、公式の成り立ちが書いていない といった具体的な不満が挙げられています。図や表が少なく文字ばかりであること や、文字サイズや行間が適切でなく書き込みにくいこと も、学びを妨げる要因となっています。分量についても、「学ぶことが多すぎて、学校の先生も『ここまで終わらせないといけない』と常に速足」 であり、「どの教科もとにかく量が多い」 という声があり、時代の変化に合わせて学ぶ内容を見直す(減らす)ことも必要だという意見が出ています。教科書の物理的な重さや材質、形についても問題意識があり、特に教科によって大きさや形が違うと持ち運びにくい、重くて家に持って帰るのが大変、紙が破れやすく書き込みにくい といった具体的な困りごとが挙げられています。こうした問題の解決策として、デジタル教科書への期待が多く寄せられています。デジタルであれば個別最適化が可能になり、図形などの複雑な問題も分かりやすく表示でき、検索もしやすくなります。点字を使う生徒にとっては、デジタル教科書が何冊分もの内容を格納でき、はるかに軽くなるという具体的な利点も挙げられています。また、自宅での学習でやる気が起きない時に音声読み上げ機能があれば便利だという提案もあります。紙の教科書の利点(線引きなど)も認識しつつ、紙とデジタルを併用することへの期待も示されています。さらに、多様なレベルの問題を含んだ教科書 や、詳しい解説やヒント、図表が充実していること、特に算数など解き方が分からない場合に答えと解説をつけてほしい という具体的な要望もあり、個々の学習進度や理解度に合わせて使える工夫が求められています。
今回の意見聴取を通じて見えてきた子どもや若者が学校で大切にしたい学びの姿は、極めて現代的であり、彼らが将来の不確実な社会を生き抜くために必要な資質・能力と深く結びついています。彼らが求める主体的な学び、体験を通じた学び、現実社会との関連、他者との対話・協働、そしてデジタル技術の活用は、まさに文部科学省が目指す「情報活用能力の抜本的向上」や「持続可能な社会の創り手」の育成に不可欠な要素と言えるでしょう。特に、デジタル化の負の側面として指摘されている偽・誤情報の氾濫や、ネット利用が青少年の健康に与える影響(「インターネットにのめりこんで勉強に集中できなかたり、睡眠不足になったりしたことがある」という声が24.6%に上るというデータも示されています)といった課題に対応するためにも、子どもたちが主体的に情報を批判的に判断し、適切に活用する力を育むことが急務です。そのためには、情報技術の仕組みを科学的に理解することや、メディアリテラシーをしっかりと学ぶ機会が不可欠です。また、個々の興味や進度に応じた多様な学び方、先生からの丁寧なサポート、そして努力や成長を実感できる評価は、全ての子どもたちが自信を持って学びに主体的に向き合い、それぞれの可能性を開花させるために極めて重要です。教科書についても、単なる知識伝達の媒体としてだけでなく、探究心を刺激し、思考を深め、現実社会とのつながりを感じさせる教材として、内容、形式、デジタル活用など、多角的な進化が求められています。生産年齢人口が急減する日本において、テクノロジーを含むあらゆる資源を総動員し、全ての子供が多様で豊かな可能性を開花できるようにすることは、国の未来のために不可欠であるという認識が示されています。子どもたちの声は、まさにその実現に向けた道筋を指し示しています。彼らが自ら願う人生や社会を創造していくため、学校教育はこれらの声に真摯に耳を傾け、学びのあり方を絶えず改善していく努力が求められます。教育に関わる全ての大人が、子どもたち一人ひとりの声を受け止め、共に新しい時代の学びの形を創り上げていくことが、持続可能な社会を築く礎となるはずです。
2025.5.8. 「こどもまんなか社会」へ…権利尊重と意見反映の現状と展望
2023年4月1日、日本において「こども家庭庁」が発足し、同時に「こども基本法」が施行されたことは、こども政策における歴史的な転換点となりました。これは、児童虐待や貧困、いじめ、不登校、少子化といった長年の課題に対し、省庁間の壁を越えて一元的かつ迅速に対応し、「こどもまんなか社会」の実現を目指すための重要な一歩です。こども基本法は、日本国憲法および1994年に日本が批准した「児童の権利に関する条約」(CRC)の精神にのっとり、全てのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指す包括的な基本法として位置づけられています。CRCは、こどもを権利の主体とみなし、その最善の利益を優先し、差別なく権利を保障するものであり、特に第12条では、こどもが自身に関係のある事項について意見を自由に表明し、その意見が年齢及び成熟度に従って正当に考慮される権利(意見表明権)を保障しています。こども基本法も、全てのこどもについて意見表明・社会参画の機会が確保され、その意見が尊重され、最善の利益が優先されるべきことを基本理念として掲げており(第3条第3号、第4号)、国や地方公共団体にはこどもの意見を反映させるために必要な措置を講ずる責務があることを明確にしました(第11条)。このように、制度上はこどもの権利、特に意見表明権の尊重が政策の基盤として確立されたと言えます。
この法的基盤に基づき、こども家庭庁はこどもの意見を政策に反映させるための具体的なメカニズムを導入・推進しています。その中心となるのが「こども若者★いけんぷらす」です。これは、小学1年生から20代までのこどもや若者から広く意見を聴取し、政策改善に繋げることを目的としており、こども基本法第11条の義務を具体化したものです。意見聴取の方法は多様で、特定のテーマについて直接対話する「対面」、地理的な制約を超えて参加できる「オンライン」、時間をかけてテキストで意見交換する「チャット」、広範な意見を効率的に集める「アンケート」、そして公募では声が届きにくい層(施設入所児、不登校児、障害児など)が普段過ごす場所へ出向いて聴く「出向く型」など、対象やテーマに応じて使い分けられています。例えば、令和6年度には22テーマで延べ1,893名のこども・若者が参加しており、参加者からは意見を言えたことへの肯定的な感想が多く聞かれています。また、こどもの居場所に関する政策や、三姉妹の教育費に関する意見がきっかけとなった3人以上の子どもがいる家庭への大学費用補助、こども向けホームページ制作など、聴取された意見が具体的な政策や施策の検討に活かされた事例も報告されています。こうした取り組みは、こどもの声を政策形成の過程に位置づけるための実践として重要な成果を上げています。さらに、政府はNPO/NGOなどの市民社会組織(CSO)とも連携を強化しており、CSOは現場のニーズを捉え、支援の隙間を埋める役割や、困難を抱えるこどもの意見表明を支援するアドボカシー活動を通じて、意見反映の実践において不可欠な役割を担っています。
しかしながら、こうした制度的な進展や具体的な実践が見られる一方で、こども基本法とCRCの原則が政策の実践において真に実効性を伴っているか、真の「こどもまんなか社会」が実現されているかについては、依然として課題が存在します。法制度や組織といった「構造」は整備されたものの、それが現場レベルでの実践や具体的な政策成果に十分に結びついていない「Implementation Gap(実施におけるギャップ)」が指摘されています。意見聴取の仕組みは構築されましたが、集められた意見が具体的にどのように政策決定に影響を与えたのかが参加者に見えにくいという課題があり、「意見が反映されているか分からない」という声も上がっています。これにより、意見を聴くプロセスが単なる手続きの履行、すなわち「意見を聞きました」というアリバイ作りに終始し、実質的な政策変革に繋がらない「形骸化」のリスクも懸念されています。また、「いけんぷらす」のような公募型の仕組みだけでは、低年齢のこども、貧困、虐待、障害、不登校、施設入所、ヤングケアラーなど、様々な困難を抱え、声を上げにくい多様な背景を持つこども・若者の意見を十分に拾い上げられていない可能性が指摘されており、「意義ある参加(Meaningful Participation)」を保障するためには、アウトリーチ型の支援や、NPO/NGO、関係施設との更なる連携強化が不可欠です。さらに、こどもを一人の権利主体として尊重し、その意見に真摯に耳を傾け、多様な表現方法を受け止めるという大人(行政職員、教育・福祉関係者、保護者等)の意識やスキルが社会全体に十分に浸透しているとは言い難く、意見を聴く側の能力開発支援も重要な課題です。
真にこどもの意見を尊重し、その最善の利益を政策の中心に据えるためには、制度的な枠組みの整備だけでなく、その実効性を高めるための継続的な努力と、社会全体の「文化」の変革が求められます。CSOは、現場に根差した活動を通じて行政の手の届きにくい層へアプローチし、困難を抱えるこどもの意見表明を専門的に支援するなど、この文化変革と実効性確保において重要なパートナーであり、政府はCSOの持つ専門性や現場感覚を不可欠な資源として認識し、連携を強化する必要があります。同時に、CSOは政府の施策実施状況を監視し、こどもの権利擁護の視点から建設的な批判や提言を行う独立した役割も担っており、政府はこうした声にも開かれた姿勢を保つことが鍵となります。意見反映プロセスについては、多様なこどもへのリーチ強化、意見を聴く側の大人への体系的な研修、そして聴取した意見が政策にどう影響したかを具体的に分かりやすく伝えるフィードバックプロセスの改善が急務です。単に意見を聞く機会を設けるだけでなく、学校運営や地域のまちづくりなど、こどもにとって身近な意思決定プロセスへの参加を日常的に保障する仕組みを広げることも重要です。こども基本法やCRCの内容を、こども自身を含めた全ての大人たちが学び、理解を深める啓発活動も不可欠です。構造改革と文化変革が両輪となって初めて、全てのこどもがその権利を保障され、幸福に成長できる真の「こどもまんなか社会」が実現されると言えるでしょう。これは、政府、地方自治体、市民社会、そして国民一人ひとりの持続的な努力によって達成されるべき目標です。
現代の中学校理科教育では、単なる知識の暗記にとどまらず、生徒が科学的な探究能力や思考力を身につけることが重視されています。この目標達成の基盤となるのが「見方・考え方」です。「見方・考え方」とは、自然の事物・現象を捉え、問いを見いだし、情報を解釈する際に科学者(及び科学を学ぶ生徒)が用いる特定の視点や思考様式を指します。これは、科学的な問題にどのようにアプローチするか、すなわち、現象をどのようなレンズを通して観察し、思考するかという点に焦点を当てます。具体的には、物事を量的に捉える、比較する、関係性(原因と結果、構造と機能など)に着目する、あるいは粒子やエネルギーといった科学の基本的なモデルを通して捉えるといった視点が挙げられます。例えば、食塩が水に溶ける現象を学習する際、「粒子」という見方を働かせれば、単に塩が見えなくなるという観察を超え、水分子と塩の粒子がどのように相互作用しているのかを微視的なレベルで想像し、概念的に理解することが可能になります。このように、「見方・考え方」は、知識そのものではなく、科学的な意味形成のために特定の認識枠組みを能動的に働かせる、いわば思考の道具なのです。
次に、「中核的な概念」と「中核的な方略」について説明します。「中核的な概念」とは、科学における基盤的で、多様な現象に対して広い説明力を持つ重要な知識内容、すなわち生徒が習得すべき本質的な理解を指します。エネルギー、物質の粒子性、生物の世代交代、地球システムなどがその例です。「中核的な方略」は、科学者が知識を構築し探究を進める上で用いる主要な方法や実践であり、科学的探究の中核となる技能です。実験の計画・実施、観察、測定、モデル化、データの分析・解釈などが含まれます。ここで、「見方・考え方」との根本的な違いが明確になります。「見方・考え方」が思考の様式や視点(どのように考えるか)を示すのに対し、「中核的な概念」は科学の基本的な知識(何を知るか)、「中核的な方略」は探究の主要な方法(どのように探究するか)を表します。例えば、エネルギーは形態を変えるが保存されるという理解(食物の化学エネルギーが運動のエネルギーになるなど)は「中核的な概念」です。化学反応における温度変化を測定する実験を計画・実行することは「中核的な方略」の適用です。この際、「エネルギーの移動と変換」という「見方・考え方」を働かせることが、方略の実行を通じて概念の理解を深める上で重要となります。概念や方略が科学知識や実践の比較的安定した柱であるのに対し、見方・考え方はそれらに関わる際のより動的な思考アプローチと言えます。
「見方・考え方」と「中核的な概念・方略」は、それぞれ独立して機能するのではなく、科学学習の過程において深く相互に関連し、互いを補強し合います。意味のある科学的学習は、これらの要素が一体となって働くときに実現します。特定の「見方・考え方」は、「中核的な概念」を把握するために不可欠です。例えば、生態系における食物網という「中核的な概念」を理解するには、「関係性」(捕食・被食)や「エネルギーの流れ」といった「見方・考え方」を適用する必要があります。これらの思考様式なしには、食物網は単なる図式に過ぎず、動的なシステムとして捉えることは困難です。同様に、「見方・考え方」は「中核的な方略」の効果的な適用を導きます。生徒が力の働きと運動の関係(中核的な概念)を調べるために実験(中核的な方略)を行う際、「量的な捉え方」や「原因と結果の関係」といった「見方・考え方」を働かせることで、制御された実験計画を立て、適切なデータを収集し、結果を有意義に解釈することが可能になります。つまり、方略が探究の枠組みを提供する一方で、見方・考え方はその枠組み内での思考を方向づけるのです。このような探究活動(方略)こそが、見方・考え方を適用して概念を構築する実践的な場となります。適切な「見方・考え方」に導かれた「方略」の適用は、「概念」のより深い理解につながり、逆に、「概念」の理解が深まり「方略」に習熟することで、生徒はより洗練された「見方・考え方」を働かせることができるようになるという、相互発達的な関係が見られます。
結論として、「見方・考え方」と「中核的な概念・方略」の核心的な相違点を再確認します。「見方・考え方」は科学への認識的アプローチ、すなわち視点や思考の様式であるのに対し、「中核的な概念・方略」は科学における本質的な知識内容と探究の方法、つまり学習の対象となる内容や用いる手段を構成します。これらは明確に区別される要素ですが、その真価は両者の統合によって発揮されます。中学校理科教育の究極的な目標は、生徒が単に個別の概念を記憶したり、手続き的な方略を練習したりすることではなく、適切な「見方・考え方」を活用して、科学的な事象や探究活動に主体的に関わることができる能力を育成することにあります。したがって、教育者は、「見方・考え方」と「中核的な概念・方略」のそれぞれの役割を明確に認識するとともに、それらが不可分に結びついていることを理解することが極めて重要です。この理解に基づき、具体的な内容(概念)を扱い、探究活動(方略)に取り組む中で、特定の科学的な見方や考え方(見方・考え方)を意図的に育成するような効果的なカリキュラムや授業を設計し実践することが、批判的思考力と問題解決能力を備えた、科学的に読み解く力を持つ生徒を育む鍵となるのです。
令和3年1月の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」において提唱された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」という理念は、これからの時代を生きる子供たち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための重要な羅針盤として、教育界に新たな潮流を生み出しています。GIGAスクール構想の推進によって情報端末が一人一台整備されるなど、教育環境が大きく変革する中で、従来の「個に応じた指導」をさらに深化させ、学習者主体の視点に立った「個別最適な学び」を実現することの意義が改めて認識されました。同時に、個別最適化された学びが孤立に陥ることなく、多様な他者との対話や協働を通して学びを広げ深めることの重要性も強調されています。本稿では、この一体的な充実という理念がなぜ提唱されたのか、その背景にある教育課題や社会の変化、そして具体的な実践に向けた視点について考察します。
「個別最適な学び」が声高に叫ばれる背景には、現代社会における子供たちの多様性の増大があります。家庭環境、学習履歴、興味関心、得意不得意など、一人として同じ子供は存在しません。画一的な指導方法では、そうした多様なニーズに応えることが難しく、結果として学びから取り残される子供や、潜在的な能力を発揮できないままの子供が生じてしまう可能性があります。現行の学習指導要領においても「個に応じた指導」の重要性は示されていましたが、令和答申では、教師が一方的に働きかけるだけでなく、子供自身が自身の学習を主体的に調整するという視点がより強く打ち出されました。これは、情報化が進展し、自ら必要な情報を選び取り、活用する力が求められる社会において、受け身の姿勢ではなく、自律的な学び手を育成することの重要性が増していることの表れと言えるでしょう。しかしながら、「個別」を追求するあまり、子供たちが孤立して学び、他者との関わりを通して学びを深める機会が失われてしまうことは、社会性を育む上で大きな課題となります。
そこで重要となるのが、「協働的な学び」との一体的な充実です。多様な他者との対話や意見交換は、自己の考えを相対化し、新たな視点や深い理解を獲得する上で不可欠です。共に課題に取り組む過程で、コミュニケーション能力、協力性、多様な価値観の尊重といった、これからの社会で求められる重要な資質・能力を育むことができます。「個別最適な学び」によって一人ひとりのニーズに応じた学びを保障しつつ、「協働的な学び」を通して多様な他者と繋がり、学びを共有し、高め合う。この二つの学びを車の両輪として捉え、意図的かつ効果的に組み合わせることで、誰一人取り残すことなく、全ての子供たちが主体的に学びに向かい、資質・能力を育成していくことが目指されているのです. サポートマガジン『みるみる』で紹介されている全国の学校の実践事例は、まさにこの理念を具現化しようとする教師たちの挑戦の記録であり、子供たちの「ワクワク」する気持ちを大切にしながら、育成すべき資質・能力をしっかりと育むための様々な工夫が凝らされています. 単元を丸ごと子供と共有し、学習の見通しを持たせること、子供の興味関心に基づいた課題設定を行うこと、ICTの効果的な活用によって学びの選択肢を広げること、子供同士が学び合い、教え合う環境をデザインすることなど、各校の特色を生かした取り組みは、今後の教育のあり方を考える上で貴重な示唆を与えてくれます.
「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を実現するためには、教師の役割も大きく変化します。これまでの知識伝達型の指導から、子供一人ひとりの学びの状況を丁寧に「みる」目を持ち、個々のニーズに応じた多様な「手立て」(足場かけ)を用意し、子供たちが主体的に学びを調整できるよう学習環境をデザインすることが求められます。また、子供同士の協働を促し、学び合いを深めるためのファシリテーション能力も重要となります。さらに、単元というまとまりで学習を捉え、「個別」「協働」「全体」の学習場面を効果的に組み合わせた授業設計が不可欠です。学校全体としては、教師が互いに学び合い、授業改善に向けた組織的な連携を強化していくことが重要であり、「なぜ、このような取組をするのか」という目的や意義を共有し、子供たちの成長を共に支える文化を醸成していくことが求められます. 令和の日本型学校教育が目指すのは、全ての子供たちが未来社会において自立し、他者と協調しながら、それぞれの可能性を花開かせることです。そのためには、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実という理念を深く理解し、日々の教育実践の中で不断の努力を続けていくことが、私たち教育に携わる者の使命と言えるでしょう。
初等中等教育におけるキャリア教育は、児童生徒が将来、社会の一員として自立し、自己実現を図っていくために不可欠な教育活動として、その重要性が認識されてきました。単に職業に関する知識や技能を習得するだけでなく、自らの興味や関心、能力を理解し、社会との関わりの中で自身の役割を見つけ、主体的に進路を選択・決定していく力を育成することを目的として、その内容は時代とともに変遷し、深化してきました。本稿では、初等中等教育におけるキャリア教育が、児童生徒の社会的・職業的自立に向けてどのように展開されてきたのか、具体的な取り組みや変遷、そして今後の展望について考察します。
キャリア教育の初期においては、主に中学校・高等学校段階における進路指導がその中心的な役割を担っていました。しかし、社会の複雑化やグローバル化の進展、そして子どもたちのキャリア発達の早期化を踏まえ、その対象は小学校段階へと広がり、幼児期から高等学校までの一貫した体系的なキャリア教育の重要性が認識されるようになりました。小学校段階においては、働くことの意義や楽しさを体験的に理解させること、身の回りの様々な仕事への関心を広げること、そして基本的な生活習慣や社会性を育むことが重視されています。例えば、学校内での当番活動を通して責任感や協調性を育んだり、地域の人々との交流を通して様々な職業や働き方への関心を喚起したりするといった取り組みが行われています。中学校段階では、小学校での基盤の上に、自己理解を深め、将来の生き方や進路について具体的に考えるとともに、社会や職業に関する理解を深めることが求められます。職場体験活動をはじめとする体験的な学習を積極的に導入し、生徒が自らの興味関心と社会との接点を見つけ、主体的に進路を選択していくための支援が行われています。高等学校段階においては、生涯にわたる多様なキャリア形成に必要な能力や態度を育成し、勤労観・職業観等の価値観を確立することが重要な目標となります。各教科における専門的な学びと将来の進路との関連付けを意識させ、インターンシップや企業見学などの実践的な活動を通して、社会で活躍するために必要な知識やスキル、そして主体的な進路選択能力を育成する取り組みが展開されています。このように、各学校段階において、児童生徒の発達段階に応じたキャリア教育が、それぞれの目標と内容に基づき、多様な活動を通して展開されてきました。
キャリア教育を推進する上で、近年特に注目されているのが、基礎的・汎用的能力の育成です。これは、特定の職業に限定されるものではなく、社会人として、また一人の人間として、生涯にわたって活用できる普遍的な能力であり、具体的には人間関係形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力の四つが挙げられます。これらの能力は、各教科の学習活動や特別活動、学校行事など、学校の教育活動全体を通して育成されることが重要であり、それぞれの活動の中で、これらの能力がどのように育まれているのかを意識した指導が求められています。例えば、グループワークを通して他者と協働する経験は「人間関係形成・社会形成能力」を、課題解決型の学習に取り組む中で困難を乗り越える経験は「課題対応能力」を、自身の興味関心や得意なことを見つめ、将来について考える活動は「自己理解・自己管理能力」や「キャリアプランニング能力」を育成することにつながります。また、児童生徒が自らの学習や活動を振り返り、学びと将来とのつながりを意識化するためのツールとして、キャリア・パスポートの活用が推進されています。キャリア・パスポートは、小学校入学から高等学校卒業までの学びの記録を蓄積し、自己の成長を可視化することで、主体的な学びを促し、将来への展望を育む役割を担っています。各学校においては、キャリア・パスポートを特別活動(特に学級活動・ホームルーム活動)を要としつつ、各教科等の学びと関連付けながら活用することが求められています。さらに、キャリア教育の目標達成のためには、教職員の共通理解と指導力の向上が不可欠であり、校内研修などを通して、キャリア教育の意義や指導方法についての理解を深めることが重要です。
近年のキャリア教育においては、学校内での取り組みだけでなく、家庭や地域社会との連携の重要性がますます高まっています。地域で働く人々を学校に招いて話を聞く機会を設けたり、地域企業での職場見学や就業体験を実施したりするといった活動を通して、児童生徒は多様な職業や働き方に触れ、社会とのつながりを実感することができます。また、保護者に対してキャリア教育に関する情報を提供したり、家庭での学習や活動を奨励したりすることで、家庭と学校が連携し、児童生徒のキャリア発達を支援する体制づくりが求められています。さらに、学校種間の連携も重要な課題として認識されています。小学校から中学校、中学校から高等学校へと進む中で、キャリア教育の連続性を確保し、児童生徒がスムーズに次の段階へと移行できるよう、情報共有や合同での取り組みなどが推進されています。キャリア教育の実施にあたっては、画一的な「4領域8能力」の運用に陥ることなく、各学校や地域の特色、児童生徒の実態を踏まえ、育成すべき資質・能力を具体的に設定し、カリキュラム・マネジメントの視点から教育活動全体をデザインしていくことが重要です।そして、キャリア教育の取り組みの効果を検証し、継続的に改善していくために、多角的かつ継続的な評価を実施し、その結果を次期計画に活かしていくPDCAサイクルを確立することが求められています。
初等中等教育におけるキャリア教育は、児童生徒が変化の激しい社会を生き抜き、主体的に未来を切り拓いていくための基盤を育む、教育の根幹をなすものです。各学校段階における発達課題を踏まえ、基礎的・汎用的能力の育成を軸に、キャリア・パスポートの活用や体験的な学習の充実、そして学校、家庭、地域社会との連携強化を図りながら、体系的かつ計画的なキャリア教育を推進していくことが、児童生徒の社会的・職業的自立を力強く支援することにつながります。今後も、社会の変化や子どもたちの成長に合わせて、キャリア教育の内容や方法を不断に見直し、一人ひとりの可能性を最大限に引き出すための教育活動を展開していくことが求められます。
2025.4.13.新たな時代を拓く学び~初等中等教育の羅針盤~
混迷を深める現代社会において、子供たちが未来を切り拓くための力を育むことは、教育に課せられた最大の使命と言えるでしょう。令和6年12月25日、中央教育審議会に諮問された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」は、まさに新たな時代にふさわしい子供たちの育成を目指し、教育の羅針盤となるべく議論が開始されました。
現行の学習指導要領は、「社会に開かれた教育課程」を理念に掲げ、「何ができるようになるか」を明確にし、「どのように学ぶか」の重要性を強調してきました。全国の学校現場では、コロナ禍という制約を受けながらも、GIGAスクール構想による一人一台端末環境を活用し、精力的な授業改善が進められてきたことは特筆すべき成果です。その結果、全国学力・学習状況調査やOECDのPISA調査において、地域間・学力格差の改善の兆しも見られています.
しかしながら、社会の変化は加速度的に進んでいます。少子高齢化、グローバル化、そして生成AIをはじめとするテクノロジーの急速な発展は、私たちの社会構造、働き方、そして生き方そのものを大きく変えようとしています。このような時代を生きる子供たちにとって、自らの人生を主体的に舵取りする力、持続可能な社会の創り手となる力、そして秘めたる豊かな可能性を開花させる力を育むことが、より一層重要になっています.
諮問では、このような新たな時代において、子供たちを取り巻く社会の変化や、子供たち自身にとって重要な視点が示されています。それは、マルチステージの人生を生きることを前提とし、探検、転職、副業、学び直しといった多様な生き方に対応できる力を育成すること。また、デジタル技術の進化、特に生成AIの登場は、教育のあり方そのものを見直す契機となるでしょう。「デジタルの力でリアルな学びを支える」というバランス感覚を持ちながら、デジタル人材育成を強化することが喫緊の課題として認識されています.
一方で、現行の教育現場には依然として課題も存在します。概念としての知識の習得や深い意味理解、そして自律的に学ぶ自信を持つ生徒が少ないといった点が指摘されています. また、小学校における35人学級という環境においても、日本語を家庭で十分に話さない子供、家庭の蔵書数が少なく学力が低い傾向にある子供、学習面や行動面で困難を示す子供、不登校や不登校傾向にある子供、そして特異な才能を持つ子供など、多様なニーズを持つ子供たちが共に学んでいます. このような多様な子供たち一人ひとりに目を向け、それぞれの可能性を最大限に引き出すための教育の実現が求められています.
今回の諮問では、これらの課題を踏まえ、質の高い深い学びの実現と、多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程のあり方が重要な論点として挙げられています. 例えば、不登校の児童生徒に対しては、画一的な教育課程ではなく、個々の状況に合わせた特別な教育課程を編成・実施できる仕組みの必要性が議論されています. 校内外の教育支援センター等との連携や、個別の指導計画の作成などが検討されており、学びの意欲を高め、社会参加への道筋をつけることが期待されます.
また、特定分野に特異な才能を持つ児童生徒への支援も重要なテーマです. 例えば、小学校3年生で高校レベルの数学を独学で学ぶ子供や、7歳で大学の研究施設で研究を行い新発見のデータを提出する子供など、驚くべき才能を持つ子供たちが存在します. これらの子供たちの才能を伸ばすためには、通常の教育課程では十分な支援が難しく、学校外の大学や研究機関等との連携や、特性に応じた高度な学習プログラムの提供などが検討されています. 令和6年度には、文部科学省の事業として、このような才能を持つ子供たちへの支援に関する様々な取り組みが始まっており、今後の進展が期待されます.
さらに、日本語指導が必要な児童生徒への支援のあり方も見直されます. 日本語が十分に理解できないために、せっかくの才能が埋もれてしまうことは避けなければなりません。これまでの日本語指導は、初期の言語習得に重点が置かれることもありましたが、今後は日本語と教科内容を統合した学習や、母語の力を活用した指導、そして生成AI等のデジタル技術を活用した支援などが検討されています. 例えば、ネパール語を母語とする小学5年生のロイさんの事例では、社会科が好きでも教科書の漢字や言葉が分からず苦労していますが、母語の力を活用しながら日本語で各教科を学べるような支援が求められています.
これらの議論を進めるにあたっては、教師の負担軽減も重要な視点です. 教育課程の実施に伴う過度な負担や負担感が生じないよう、学習指導要領や教科書、入学者選抜、教師用指導書など、授業づくり全体を捉えた上での改善が不可欠です. デジタル技術の活用や、教育委員会による支援体制の強化なども、教師が子供たちと向き合うための「余白」を生み出すために重要となるでしょう.
初等中等教育における教育課程の基準等の見直しは、まさに「令和の日本型学校教育」を持続可能な形で継承・発展させ、変化の激しい社会を生き抜く力、多様な価値観を尊重し共生する力、そして自らの可能性を最大限に開花させることのできる子供たちの育成を目指すものです. その実現のためには、教育関係者だけでなく、家庭や地域社会全体が連携し、未来を担う子供たちの成長を支えていくことが不可欠と言えるでしょう。新たな教育のあり方が、子供たちの輝かしい未来を拓くことを期待してやみません。
2025.4.6. 認知特性から考える学びの在り方~同時処理・継次処理の理解から個別最適な学びへ~
現代の教育現場では、多様な個性を持つ子どもたち一人ひとりの可能性を最大限に引き出すため、「個別最適な学び」の実現が強く求められています。この個別化された学びを考える上で、子どもたちが情報をどのように頭の中で処理しているのか、その認知特性を理解することは非常に重要です。特に注目されるのが、「同時処理」と「継次処理」という二つの情報処理様式です。これらは、学習の得意・不得意や、どのような学び方が効果的かに深く関わっています。同時処理とは、情報を全体的、統合的に捉える処理スタイルを指します。まるで一枚の絵画を鑑賞するように、個々の要素の関係性や空間的な配置を瞬時に把握し、全体像を理解しようとします。例えば、地図を見て目的地までのルートを把握したり、人の顔を認識したり、図形パズルを解いたりする際には、この同時処理能力が活かされています。文章を読む際にも、部分的な単語の意味だけでなく、文脈全体から話の筋や筆者の意図を読み取ろうとする働きは、同時処理の側面が強いと言えるでしょう。この処理スタイルが得意な子どもは、物事の関連性を見つけ出すことや、全体像から詳細を推測することに長けている傾向があります。しかし、一方で、手順を一つ一つ追っていくような作業や、時間的な順序が重要な課題に対しては、戸惑いを感じることもあるかもしれません。教育においてこの特性を理解することは、学習内容の提示方法や評価方法を工夫する上で、大きなヒントを与えてくれるのです。
同時処理を得意とする子どもたちにとって最適な学びの方法は、情報の全体像をまず提示し、そこから細部へと掘り下げていくアプローチでしょう。視覚的な情報を活用することが特に効果的です。例えば、歴史の出来事を学ぶ際には、年表だけでなく、関連する人物相関図や出来事の背景を図式化したもの、当時の様子を描いた絵画や地図などを豊富に用いることで、個々の情報が繋がり、大きな流れとして理解しやすくなります。理科の実験であれば、手順を文字で追うだけでなく、まず完成形や実験全体の目的を視覚的に示し、どのような現象が起こるのかを予想させる活動を取り入れると良いでしょう。算数の図形問題では、補助線を引く練習や、図形を回転させたり分解したりする操作を通して、空間的な認識力を養うことが有効です。また、文章題に取り組む際には、問題文全体を俯瞰して状況を把握するために、簡単な図や絵を描いて整理することを促すのも良い方法です。さらに、グループワークやディスカッションを通じて、多様な視点から物事を捉え、アイデアを結びつける経験も、同時処理能力を刺激し、学びを深める助けとなるでしょう。学習内容を単なる知識の断片としてではなく、相互に関連付けられた意味のある全体として捉えられるよう、教材提示や活動内容を工夫することが、同時処理が優位な子どもたちの学びを豊かにする鍵となります。抽象的な概念を扱う際にも、具体的なイメージやアナロジー(類推)を用いて説明することで、直感的な理解を助けることができるでしょう。
一方、継次処理とは、情報を一つ一つ順番に、系列的に処理していくスタイルを指します。これは、まるで一本道を辿るように、時間的な順序や論理的なステップに従って情報を処理する方法です。電話番号を覚えたり、料理のレシピ通りに調理を進めたり、文章を音読したり、計算問題を手順通りに解いたりする際には、この継次処理能力が中心的に働いています。文法規則に従って文章を組み立てたり、物語を時系列に沿って理解したりすることも、継次処理の働きが重要です。この処理スタイルが得意な子どもは、指示された手順を正確に実行することや、規則性を見つけて応用すること、情報を順序立てて記憶することに長けている傾向があります。しかし、全体像を把握する前に詳細な指示がないと動き出しにくかったり、複数の情報を同時に考慮することが求められる場面では、混乱してしまうこともあるかもしれません。教育においては、このような特性を持つ子どもたちに対して、情報を段階的に提示し、一つ一つのステップを確実に積み重ねていけるような支援が求められます。急かさずに、自分のペースで順序よく課題に取り組める環境を整えることが大切です。この継次処理の特性を理解し、それに合わせた学習方法を提供することが、彼らの自信と学習意欲を高めることに繋がるでしょう。
継次処理を得意とする子どもたちにとって最適な学びの方法は、情報を段階的かつ体系的に提示し、一つ一つのステップを丁寧に確認しながら進めるアプローチです。学習目標を明確にし、そこに至るまでの手順を具体的に示すことが重要となります。例えば、新しい漢字を学習する際には、書き順を一つ一つ丁寧に示し、反復練習を行うことが効果的です。算数の計算問題では、計算の手順を分解して示し、各ステップを確実に理解してから次に進むようにします。文章を作成する際には、まず構成を考え、段落ごとに書くべき内容を整理するなど、段階を踏んで取り組むことを促すと良いでしょう。実験や作業を行う際にも、手順を番号付きで明確にリスト化し、チェックリストを活用するなど、一つ一つの工程を確実に完了できるように支援します。また、聴覚的な情報を活用することも有効であり、指示を声に出して読んだり、学習内容を音読したり、説明を口頭で繰り返したりする活動は、継次的な情報処理を助けます。暗記が必要な場合には、語呂合わせやチャンキング(情報を意味のある塊に分けること)といった、順序性を利用した記憶術を取り入れるのも良いでしょう。複雑な課題に取り組む際には、全体を一度に提示するのではなく、小さな単位に分割し、一つずつクリアしていく成功体験を積み重ねることが、学習への意欲維持に繋がります。このように、順序性、段階性、明確性を重視した学習環境を提供することが、継次処理が優位な子どもたちの能力を最大限に引き出すことに繋がるのです。
これらの同時処理と継次処理という二つの認知特性の理解は、「個別最適な学び」を実現するための重要な基盤となります。すべての子どもがどちらか一方の処理スタイルだけを用いているわけではなく、多くの場合、課題の内容に応じて両方の処理スタイルを柔軟に使い分けています。しかし、どちらかの処理スタイルをより得意としたり、好みとして持っていたりする傾向があることは事実です。教育者は、子どもたちの学習態度や課題への取り組み方を注意深く観察し、どちらの処理スタイルを優位に使っているか、あるいはどのような場面で困難を感じているかを把握しようと努めることが大切です。そして、その理解に基づき、画一的な指導方法に固執するのではなく、多様なアプローチを提供することが求められます。例えば、授業においては、全体像を示す視覚的な資料(同時処理向け)と、手順を詳細に説明するプリント(継次処理向け)の両方を用意したり、グループワーク(同時処理を促す)と個別でのドリル学習(継次処理を促す)を組み合わせたりするなど、多様な選択肢を提供することが考えられます。評価方法においても、ペーパーテストだけでなく、レポート作成、プレゼンテーション、実技など、多様な形式を取り入れることで、異なる認知特性を持つ子どもたちが、それぞれの得意な方法で学習成果を発揮できるように配慮することが望ましいでしょう。個別最適な学びとは、単に学習内容を個々の進捗に合わせるだけでなく、このような認知特性の違いを理解し、一人ひとりが最も力を発揮できる学び方を尊重し、支援することに他なりません。同時処理と継次処理の視点を取り入れることで、私たちは子どもたち一人ひとりの内に秘められた可能性をより効果的に引き出し、誰もが自信を持って学びに向かうことができる、真に個別化された豊かな教育環境を築いていくことができるでしょう。
令和6年12月25日、中央教育審議会は初等中等教育における教育課程の基準等について文部科学大臣からの諮問を受け、新たな時代の教育の在り方に関する議論が始まった。現行の学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」を理念に掲げ、「何ができるようになるか」を明確化し、「どのように学ぶか」の重要性を強調してきた。全国の学校現場では、コロナ禍という制約を受けながらも、GIGAスクール構想による1人1台端末環境を活用し、精力的な授業改善が進められてきた。その結果、全国学力・学習状況調査やOECDのPISA調査においては、地域間格差・学力格差の改善も見られるなど、一定の成果を上げている。しかし、子供たち一人ひとりに目を向けると、画一的な教育課程だけでは対応が難しい多様な課題が明らかになっている。今回の諮問は、これまでの教育実践の成果を継承しつつ、これらの課題を乗り越え、高等教育との接続改善や国際的な潮流にも配慮しながら、新たな時代にふさわしい教育課程を構築する必要性を示唆している。特に、少子高齢化、グローバル化、テクノロジーの急速な発展といった社会の変化を踏まえ、子供たちが自らの人生を主体的に舵取りし、持続可能な社会の創り手となり、豊かな可能性を開花できるような教育の実現が求められている。
諮問において指摘された「子供一人ひとりに目を向けた時に見えてきた課題」は、まさに教育現場における多様性の現実を浮き彫りにしている。例えば、小学校の35人学級の中には、家庭で日本語をあまり話さない子供、家の蔵書数が少なく学力が低い傾向にある子供、学習面や行動面で困難を示す子供、不登校や不登校傾向にある子供、そして特異な才能を持つ子供など、様々な背景や特性を持つ子供たちが存在している。各種調査に基づく出現率から算出されたこれらの数字は、決して無視できない重みを持つ。現行の学習指導要領においても、その理念や趣旨の浸透、デジタルを活用した効果的な学びの推進が図られてきたものの、これらの多様なニーズに十分に応えられているとは言えない現状がある。特に、知識と現実の事象を結びつけて理解することや、深い理解を伴う知識の習得、自律的に学ぶ自信、自分の考えを書くこと、社会参画の意識などにおいて、課題が指摘されている。このような状況を踏まえれば、すべての子供たちがそれぞれの可能性を最大限に伸ばせるよう、教育課程そのものがより柔軟性を持ち、多様な学び方を許容できるものでなければならないことは明らかである。
この「多様性を包摂する教育課程の柔軟性」とは、文字通り、一人ひとりの子供の多様な特性や学習ニーズに対応するために、教育の内容、方法、時間配分などを固定的なものとせず、状況に応じて柔軟に変化させることができるという考え方である。具体的には、まず、学習面や行動面に困難を示す子供、不登校傾向にある子供、日本語を母語としない子供、学力に課題のある子供、そして特定の分野に特異な才能を持つ子供など、多様な子供たちの存在を前提とした教育課程の設計が求められる。これには、単一の教育課程では対応が難しい子供たちに対して、教育課程上の特例措置を設けることなどが考えられる。また、子供自身が自分の興味や進捗に合わせて学びを調整し、教材や学習方法を主体的に選択できるような学習環境のデザインも重要となる。さらに、教師には、画一的な指導ではなく、子供一人ひとりの状況に応じたきめ細やかな指導が求められる。そのためには、教師に「余白」を生み出し、教育の質の向上に資するような、柔軟な教育課程編成を促進する必要がある。標準授業時数や学習内容の学年区分、単位授業時間、年間の最低授業週数などについても、硬直的な運用を見直し、より弾力的な対応が可能となるような検討が求められている。不登校児童生徒や特定分野に才能のある児童生徒を包摂するための教育課程上の特例の在り方、そして障害のある子供の教育的ニーズに応じた質の高い特別支援教育の提供も、柔軟な教育課程を構成する重要な要素である。幼児教育と小学校教育との円滑な接続も、多様な学びの連続性を確保する上で欠かせない視点である。
もっとも、教育課程の柔軟性を高めることは、ともすれば教師の負担増に繋がりかねないという懸念も指摘されている。今回の諮問においても、「教育課程の実施に伴う教師の負担への指摘に真摯に向き合う必要性」が明記されており、子供たちの多様性に対応するための柔軟な教育課程の実現と、教師の負担軽減の両立が重要な課題となる. そのためには、学習指導要領や解説、教科書、教師用指導書を含めた授業作りの実態全体を捉え、過度な負担や負担感が生じにくいような仕組みを構築する必要がある。例えば、表形式やデジタルを活用した分かりやすい学習指導要領の作成、デジタル教科書や学習基盤の整備による教材準備の効率化、教育委員会による支援体制の強化、指導主事等の資質・能力の向上などが考えられる。また、「デジタルの力でリアルな学びを支える」という視点のもと、生成AI等のデジタル技術を効果的に活用することで、個別最適化された学びを支援すると同時に、教師の業務効率化を図ることも重要な検討課題となるだろう。教育課程の柔軟性は、決して教師の努力と熱意に過度に依存するものではなく、持続可能な形で質の高い教育を提供できる基盤となるものでなければならない. 今後の議論においては、これらの多岐にわたる検討課題を踏まえ、子供たち一人ひとりの可能性が最大限に開花する、新たな時代の教育課程の構築が期待される。
社会の急速な変化と科学技術の進展を背景に、これまでの画一的な学びのあり方が見直され、一人ひとりの個性を尊重し、主体的な学びを育む教育への転換が求められています。その中で注目を集めているのが「自由進度学習」という学習スタイルです。愛知県東浦町立緒川小学校から始まったこの取り組みは、全国へと広がりを見せ、新たな学びの潮流を生み出しています。この革新的な学び方は、単に学習のペースを個別に最適化するだけでなく、学習者自身が学びの主人公となり、自ら考え、行動する力を育むことを目指しています。
自由進度学習を成功に導くためには、多岐にわたる要素が相互に作用することが重要です。その中でも核となるのが、学習者自身の内発的な動機と、学びの過程を深く見つめ直す「振り返り」の習慣です。従来の授業では、ともすれば「何問できたか」「何点だったか」といった結果に一喜一憂しがちでしたが、自由進度学習では、「なぜ、できたのだろうか」「なぜ、できなかったのだろうか」という問いを自らに投げかけ、自身の学びのプロセスを分析することが重視されます。この内省的な活動を通じて、学習者は自分の得意なことや苦手なこと、効果的な学習方法などを理解し、次なる学びへと繋げていくことができるのです。より深く振り返るためのツールとして、「振り返りジャーナル」を活用することも推奨されています。
このような主体的な学びを支えるのは、「自分から学ぶ」という強い意志、いわば「心のまえ(マインドセット)」です。先生が一方的に知識を伝授するのではなく、学習者自らが「なぜ?」「どうして?」という好奇心の種を見つけ、大切に育てていく姿勢が不可欠となります。教科書を読み込んだり、資料を調べたり、実験に取り組んだりする中で生まれる疑問こそが、学びの原動力となるのです。そして、「まあこれくらいでいっか」と安易に妥協せず、粘り強く学び続ける力も重要になります。先生を待つのではなく、自ら必要な学習環境を整え、積極的に学びに向かう姿勢こそが、自由進度学習の成否を握ると言えるでしょう。
自由進度学習は、一人ひとりの学習進度や理解度に合わせた「個別最適な学び」を中核に据えながらも、他者との関わりを通じて学びを深める「協働的な学び」を不可欠な要素として捉えています。教室には、学習に役立つ様々な資料や教材が用意され、学習者は自分のペースでそれらを活用しながら学びを進めます。わからないことがあれば、すぐに先生に質問できる環境があるとともに、友達と協力して問題を解決したり、意見やアイデアを出し合ったりすることも積極的に推奨されます。時には、「一緒に学びたい時や、困った時は友達と声をかけあう」ことが大切であり、一方で、「ごめんね。ひとりでやりたいの」という気持ちも尊重される、柔軟な人間関係が求められます。
学習の道しるべとなるのが、「単元進度表」です。これは、単元の学習内容や目標が示されたもので、先生だけでなく子どもたちも共有し、自分自身の学習計画を立てる際に活用します。全11時間のうち最初の4時間を「みんなで一緒に」学ぶ時間を設け、基本的な知識やスキルを習得した後、各自が学習進度表に基づき、自分のペースで学びを進めていく例が示されています。学習者は、この進度表を参考にしながら、「今日はどこまで学ぶか」「どんな順番で学ぶか」といったことを自分で考え、決めていくのです。
自由進度学習が円滑に進むためには、教室の中に温かい人間関係が育まれていることが重要です。私たちは一人ひとり違う存在であり、得意なことや苦手なこと、興味のあることも様々です。だからこそ、お互いの違いを認め合い、尊重し合える関係性を築くことが、安心して学びに取り組める環境へと繋がります。週に一度席替えをしたり、目的によって席を変えたり、全員で対話をする機会を設けたりするなど、意図的に温かい関係性を築くための工夫が大切になります。自由進度学習は、このような温かい関係性を土台として、さらに深めていく力を持っています。
また、物理的な学習環境の整備も、自由進度学習を支える重要な要素です。教室には、教科書だけでなく、参考書、問題集、デジタル教材など、多様な学習リソースが用意され、必要に応じて数え棒やホワイトボードなどの学習用具もすぐに利用できる環境が求められます。近年注目されているのが、ICT(情報通信技術)の積極的な活用です。授業で先生の説明を聞き逃したり、もう一度確認したいと思ったりした際に、動画教材を何度でも視聴できる。自分の学習の進捗状況をタブレットやパソコンで確認できる。先生が他の生徒の質問に対応している時でも、チャット機能などを利用して質問できる。このように、ICTは時間や場所にとらわれない、個別最適化された学びを強力に後押しするツールとなり得ます。
自由進度学習における先生の役割は、従来の「教える人」から大きく変化し、「学びのナビゲーター」や「伴走者」、そして「ファシリテーター」としての役割がより重要になります。先生は、一人ひとりの学習者の進捗状況を把握し、それぞれに合わせた的確なアドバイスを送ります。目標や計画がスムーズに進むように観察し、具体的な手立てを提案したり、気づきを促したりします。まるで、山登りのガイドのように、学習者がそれぞれのペースで山頂を目指せるよう、方向を示したり、励ましたりする存在と言えるでしょう。また、教室全体が安心して学びに取り組める雰囲気を作り、学習者が主体的に活動できるような環境を整えることも、先生の重要な役割です।時には、子どもたちの声に耳を傾け、「数え棒がほしい」「ホワイトボードがほしい」といった要望に応え、学習環境を共に創り上げていくこともあります。
さらに、先生は「ファシリテーター」として、教室に対話を生み出す役割を担います。ファシリテーターとは、みんなが共通の目標に向かって協力できるよう、議論を円滑に進める役割を指します。先生がファシリテーターとなることで、子どもたちは自分の考えを安心して発言し、他者の意見に耳を傾けるようになります。また、子どもたち自身がファシリテーターの役割を担うことも推奨されており、「ホワイトボード・ミーティング®」はそのための有効な手法の一つです。これは、進行役であるファシリテーターが参加者の意見をホワイトボードに書き出しながら話し合いを進めることで、意見の可視化を促し、深い議論や新たな発見に繋げるものです。小学校1年生から大人まで、誰もが練習を通じてファシリテーターになることができるこの手法は、世代を超えた対話と学びを実現します。
自由進度学習をより豊かにするための取り組みとして、「サークル対話(イエナプラン教育)」も注目されています。これは、クラスのみんなで輪になり、互いの意見や気持ちを共有し合う対話の手法です。大切なのは、たくさん発言することではなく、他者の発言に耳を傾け、受け止めること。嬉しいことを共に喜び合ったり、抱えている悩みを共有し解決し合ったりする中で、一人ひとりが尊重され、グループへの貢献意識を高めることを目的としています。自由進度学習がうまく進んでいることや、困っていることなどをサークル対話で話し合うことで、クラス全体で課題を共有し、解決策を見出していくことができます。
自由進度学習に取り組んだ先輩たちの声からは、「自分で考えて、計画したことにじっくり取り組める」「調べたいと思ったことをすぐに調べられる」「やってみたいと思ったことをすぐにやってみることができる」といった喜びの声が聞かれます。また、「友達と一緒なら頑張れる」「友達と時間を決めて情報収集をするのが楽しかった」「自分のペースで進められるのが楽しい」といった、個別学習と協同学習の双方のメリットを感じている声も多く聞かれます。
このように、自由進度学習は、振り返りを通じた自己理解、主体的な学びへの意欲、個別最適化された学習環境、他者との協働、そして先生のナビゲーションといった要素が有機的に結びつくことで、その真価を発揮します。それは、単に知識を詰め込む教育ではなく、予測困難な未来を生き抜くために必要な、自ら学び、考え、行動する力を育むための、新時代の教育のあり方を示すものと言えるでしょう。自由進度学習は、まさに学びの主人公である子どもたちが、自らの可能性を最大限に開花させるための、希望に満ちた学びのスタイルである可能性を秘めています。
2025.3.16.デジタル技術の日常的活用による主体的な学びを支える情報活用能力の育成
デジタル技術の日常的な活用を前提とした情報活用能力の育成は、現代社会を生きる全ての児童生徒にとって不可欠な要素となっています。文部科学省が推進するGIGAスクール構想により、全国の教育現場で一人一台端末が整備され、クラウド環境などのデジタル学習基盤が急速に拡充し、secondステージでさらに学びの深化が全国で起こっています。これらの進展は、教育のあり方を根底から変える可能性を秘めており、単なる知識伝達型の学習から、児童生徒が主体的に学びを深め、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させる方向へとシフトしていくための強力な推進力となります。情報活用能力は、言語能力や問題発見・解決能力と同様に、「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられており、その育成においては、デジタル技術を鉛筆やノートのように日常的に活用することを前提とした学習活動の設計が求められます。例えば、小学校の国語の授業で、タイピングによる文字入力の基本操作を習得したり、中学校の数学の授業で、図形作成ソフトを用いて様々な図形を動かしながらその特性を考察し、グループで説明し合う活動 などは、情報活用能力を育成する具体的な事例と言えるでしょう。また、総合的な学習の時間においては、児童生徒が自ら設定した課題について、インターネットやデジタル教材、クラウド上に共有された資料など、多様な情報源から必要な情報を収集し、整理・分析する過程 を通して、主体的な学びを深めることができます。しかしながら、全ての学校がこれらのデジタル環境を十分に活用できているわけではありません。文部科学省の調査によれば、「当面の推奨帯域」を満たす学校はまだ一部に留まっており、地域や学校間のネットワーク環境の格差や、自治体職員の専門性向上といった課題も存在します。さらに、せっかく整備された端末が、過剰なセキュリティ設定のために有効活用されていなかったり、教師のICT活用指導に関する知識やスキルが十分でなかったりするケースも見られます。このような現状を踏まえ、ハードウェアやソフトウェアの整備だけでなく、それらを効果的に活用するための教員研修の充実や、学校全体のICT活用を推進する体制づくりが不可欠となっています。
デジタル技術の日常的な活用を前提とした情報活用能力の育成においては、単に情報機器の操作技能を習得するだけでなく、情報を主体的に読み解き、活用し、創造していく力を育むことが重要です。具体的には、インターネット上の情報やデジタル教材から必要な情報を効率的に収集する力、収集した情報を整理・分析し、複数の情報を関連付けながら新たな意味を見いだす力、分析結果や自分の考えを、文書やプレゼンテーション、動画など、適切な形式で分かりやすく表現・伝達する力、そして、情報技術を活用して問題を特定し、解決するための方法を理解し、実践する力 などが挙げられます。例えば、小学校の理科の授業で、人感センサーや照度センサーを用いた扇風機の自動制御プログラムを体験する活動 は、プログラミング的思考を育み、問題解決能力の向上に繋がります。また、中学校の社会科の授業で、地域の課題についてインターネットやインタビュー調査を通じてデータを収集し、そのデータを分析して課題の解決策を考察し、発表する活動などは、情報収集・分析力、表現力、そして問題解決能力を総合的に育成する良い例です。さらに、情報モラルや情報セキュリティに関する教育も、デジタル社会においては極めて重要です。SNSの適切な利用方法や、著作権の尊重、個人情報の保護など、インターネットを安全かつ責任ある態度で利用するための知識や倫理観を育成する必要があります。例えば、情報に関する法制度やマナーの意義を理解させ、自らの情報活用を振り返り、評価し改善する態度を育む ことも、情報活用能力の重要な側面です。このように、デジタル技術を日常的に活用する中で、情報リテラシー、情報倫理、情報活用スキルをバランス良く育成していくことが、情報活用能力育成の核心となります。
デジタル技術の日常的な活用を前提とした情報活用能力の育成をさらに深化させるためには、教育現場、教育委員会、そして国が連携し、継続的な取り組みを進めていく必要があります。まず、教師一人ひとりが、デジタル技術を活用した授業設計や評価方法に関する専門性を高めるための研修機会を充実させる必要があります。成功事例の共有や、ICT支援員によるサポート体制の強化なども有効です。また、各学校が、それぞれの教育目標や児童生徒の実態に合わせて、柔軟にデジタル技術を活用した教育課程を編成できるよう、教育委員会による支援体制を強化することも重要です。具体的には、教育DXを推進し、校務の情報化を図ることで、教師が授業準備や児童生徒との関わりに注力できる時間を増やすことが求められます。さらに、デジタル学習基盤の整備においては、ハードウェアの更新やソフトウェアの導入だけでなく、安定したネットワーク環境の構築が不可欠です。文部科学省が電気通信事業関連団体に協力を要請しているように、学校規模等に対応した広帯域の通信サービスが適切に選択できるよう、環境整備を進める必要があります。加えて、生成AIをはじめとする新たな技術の動向を踏まえ、これらの技術を教育活動に効果的に取り入れるための研究や実践を進めることも重要です。ただし、オンライン学習はあくまで対面学習を補完するものであり、学校における教師と児童生徒、あるいは児童生徒同士の直接的な触れ合いや学び合いの重要性を再認識した上で、それぞれの特性を生かした学習活動を展開していくことが求められます。今後の学習指導要領の改訂においても、デジタル学習基盤の活用を前提とした各教科等の目標や内容の明確化、そして情報活用能力の育成が、各教科等の学びとどのように関連していくのかを示すことが重要となるでしょう。最終的には、全ての児童生徒が、デジタル技術を主体的に活用し、変化の激しい社会において自律的に学び続け、活躍するための情報活用能力を確実に身につけることを目指していく必要があります。
2025.3.15.保護者からの要望・苦情への学校の対応
ニーズ理解と信頼関係構築
学校運営において、保護者からの声は、学校の現状を把握し、より良い教育活動へと繋げるための重要な羅針盤となります。保護者からの要望や苦情は、時に学校運営を揺るがす大きな問題へと発展する可能性を秘めていますが、「信頼ある学校を創る 学校に対する苦情への対応」 に示されているように、その背景には、子どもたちの学校生活に対する切実な願いや、教育への熱い期待が過剰化し、誤解を招いていることが少なくありません。したがって、学校はこれらの声を単に否定的なものとして捉えるのではなく、子どもたちの成長を支え、保護者や地域社会からの信頼を得るための貴重な機会と捉え、真摯に向き合うことが求められます。福井県中学校長会 会長の山口照夫氏も、事務職員研究会による共同実施や事務機能の強化といった取り組みが、教職員の負担軽減に繋がり、より一層充実した教育活動に繋がることを期待しており、このような対応マニュアルの作成が「信頼ある学校づくりのため」に大変有意義であると述べています。近年、社会情勢の急速な変化や価値観の多様化により、保護者や地域住民の学校に対する思いや考え方も大きく変容しており,昔とは異なるニーズに応えていく必要性が高まっています。加えて、情報伝達機器の発達により、社会全体で対話や対面でのコミュニケーションが希薄になっていると言われる中で,学校現場においては、過度の要求や見当違いの批判が増加している現状も指摘されています。大阪大学大学院教授の小野田正利氏も、学校の教職員と保護者あるいは地域の方々との間に生じるトラブルや紛争が全国各地で増加していると指摘しており,このような状況において、保護者の声に耳を傾け、その背景にあるニーズを丁寧に理解することの重要性はますます高まっています。苦情対応は、単に表面的な要求に対処するだけでなく、その根底にある「本当に伝えたかったこと(本物の訴え)」を理解しようと努めることで、より建設的な解決へと繋がる可能性を秘めています。この「本物の訴え」は、往々にして直接的な言葉で表現されるとは限らず、感情的な訴えや強硬な要求の裏に隠されていることも多いため、教職員は注意深く、相手の言葉だけでなく、その表情や態度、言葉のトーンなど、あらゆる情報からその真意を読み解く努力が求められます。「学校への苦情、申し立て等への対応の基本」 では、苦情の背景にあるものを聴き取ることは、初期の対応において特に重要であると強調されています。相手の感情に寄り添いながら、その訴えを注意深く聴くことで、初めて見えてくる真のニーズが存在するのです。事例として、転校前の学校でいじめを受け、学習の遅れから個別指導を強く希望する保護者のケース が挙げられます。表面的な要求だけを見れば過度なものと捉えられがちですが、その背景には、我が子を思う親の切実な願いや不安が 隠れている可能性があり、学校はそうした背景事情を丁寧に理解しようとする姿勢が求められます。
保護者からの要望や苦情に対応する際には、まず、その要求の内容や水準を正確に把握することが不可欠です。同時に、その要求が「要求の正当性」、すなわち学校の責任範囲内であるかどうかを見極める視点も重要となります。当然行うべき学校運営や教育活動であれば、その履行と説明の責任を果たすことが基本であり,それが不十分であったり、不適切なものであったりすると、苦情への対応は非常に困難なものになります。しかしながら、たとえ学校に法的な責任がない場合でも、「教育的な配慮によって受け入れることができるかどうか」という視点を持つことも、円滑な問題解決には不可欠です。また、苦情を持って来られたその人自身の「問題の捉え方」を理解することも、背景にあるニーズを深く理解する上で非常に重要です。「いじめ」に関する苦情の例 では、保護者が学校のいじめ対応に不満を持ち、担任の学級経営が不適切であると訴えるケースが示されています。このような場合、単に保護者の訴えを事実と捉えるのではなく、保護者がどのような事実に基づいていじめがあったと考えているのか、また、なぜ担任の対応に不満を感じているのか、その背景にある認識や感情を丁寧に確認する必要があります。保護者の「問題の捉え方」には、事実誤認や感情的な側面が含まれている可能性もありますが、それを頭ごなしに否定するのではなく、なぜそのような捉え方をするに至ったのか、その奥にある「本物の訴え」、例えば我が子への心配や学校への不信感などを探りながら聴くことが重要です。初期の段階で安易に解決したと決めつけるのではなく、保護者の訴えにある背景を含めた意図を確認し,正確な事実確認を行うために、プライバシーに配慮しながら校内組織を生かして情報を収集し、事実認識のずれを見極めることが求められます。保護者との面談は、こうした背景理解を深めるための重要な機会となります。「保護者から面談の要望があれば、できるだけ早く会うこと。必要に応じて学校からも面談を申し入れること」 とされており、面談の際には、落ち着ける部屋を用意し、できるだけ相手の希望する時間に合わせるなど、相手への配慮を示すことが重要です。また、面談に臨む前に、相手の訴えや要望に関する資料を事前に集め、管理職や関係教職員と対応の方針を明確にしておくこと,必要に応じて教育行政機関との連携を図っておくことも、円滑な対応に繋がります。
保護者からの過度な要求や理不尽な苦情を未然に防ぎ、良好な学校運営を実現するためには、日頃からの保護者との積極的なコミュニケーションと信頼関係の構築が何よりも重要となります。「学校・家庭間における連携・協働の推進」 では、地域に開かれ、信頼される学校を実現するためには、保護者や地域住民の意見や要望を的確に捉え、家庭や地域社会と連携協力していくことが必要であり、学校が一方的に情報発信するだけでなく、学校における教育活動に保護者や地域を巻き込み、共にそれを支えるという双方向の関係を築くことが重要であると指摘されています。そのためには、保護者からの学校に対する要望をアンケートや懇談会等で日常的に把握しておくことが有効であり,これは学校評価の観点からも重要であり、学校に対する信頼を高め、結果として苦情が学校に持ち込まれることの予防に繋がります。また、子どもに対する教職員の指導上の言動に起因する苦情も少なくないため、子どもがどのように教職員の指導を受けとめたかという「指導の受けとめ方」に心を配ることの重要性も強調されています。子どもとの信頼関係は、保護者との信頼関係にも直接的、間接的に繋がっているため、日々の教育活動における子どもたちとの丁寧な関わりこそが、過度な要求や苦情の根本的な予防策となります。「私は担当でないので分かりません」と突き放すのではなく、「大切なことなので、担当のものに確認して、お答えさせていただきます」といった丁寧な対応 を心がけることや、学校で起こった怪我の場合には、大小に関わらず、速やかに丁寧に家庭へ連絡し、誠意を示す ことなどが、保護者の信頼を得る上で不可欠です。大阪大学大学院の小野田正利教授は、事務研の方々の努力により、要望・苦情に関する基本的な応答のガイドブックがまとまったことを評価し、「相手も大切にするし、自分も大切にするというアサーションの気持ちを大切にしながら、心折れないで、はつらつと生きていきませんか」 と述べており、教職員一人ひとりが、保護者との良好な関係を築こうとする意識を持つことの重要性を示唆しています。教職員の多忙化が指摘される中で,事務職員研究会のような組織が共同で業務効率化や事務機能強化に取り組むことは、教職員が教育活動に専念できる環境づくりに貢献し,結果として保護者対応の質の向上にも繋がると考えられます。参考文献 に示されているように、様々な研究や調査が、学校と保護者の連携体制構築や保護者の学校意識について分析しており、これらの知見を参考にしながら、各学校が実情に合った連携体制を構築していくことが、保護者からの信頼を得て、より良い学校運営を実現するための鍵となるでしょう。
2025.3.6. 学習指導要領の構造化「タテとヨコの関係から生まれる深い学び」
先般開催されました教育課程部会 教育課程企画特別部会(第3回)から、議論されたことの中で、「タテ」と「ヨコ」の関係についてさらっと考えてみたいと思います。
学習指導要領は、各教科等の目標・内容を「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの資質・能力の柱で整理しています。特に、内容については「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」を中心に構造化が図られていますが、資質・能力の深まりのイメージが掴みにくいという課題が指摘されています。
この課題を解決し、より深い学びを実現するために重要なのが、学習指導要領における「タテ」と「ヨコ」の関係を理解し、授業に活かすことです。
1. 「タテ」の関係:知識・技能の深化
「タテ」の関係とは、「知識及び技能」相互、または「思考力、判断力、表現力等」相互のつながり**を指します。つまり、個別の知識や技能が、どのように積み重なり、発展していくのかを示すものです。
例えば、小学校の理科では、4年生で「物の重さ」を学習した後、5年生で「水溶液の性質」を学びます。このとき、「タテ」の関係は、「重さ」という概念が、「水に溶ける」という現象を理解する上でどのように発展していくのかを示します。4年生で学んだ「重さ」の知識を基に、5年生では水溶液の濃度や溶解度といった、より高度な概念を理解することができるようになります。
算数数学においては、比例・反比例の理解、一次方程式の解き方、二元一次方程式を関数としてみなせることの理解、現実の事象を関数でモデル化できることの理解、二次関数でモデル化できる事象があることの理解という段階的な知識の積み重ねが「タテ」の関係の良い例です。
「タテ」の関係を意識することで、教員は各教科等の主要な概念の深い理解を促す授業を構成することができます。
2. 「ヨコ」の関係:知識と能力の融合
「ヨコ」の関係とは、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の相互のつながりを指します。つまり、知識や技能を習得するだけでなく、それらを活用して思考し、判断し、表現するという、一連の知的活動を意味します。
国語の授業で、物語を読んで登場人物の気持ちを理解する(知識・技能)だけでなく、その気持ちを自分の言葉で表現する(思考力、判断力、表現力)ことは、「ヨコ」の関係の実践例です。登場人物の感情を理解するだけでなく、それを自分の言葉で表現することで、生徒はより深く物語を理解し、共感することができます。
また、現実の事象を関数でモデル化できることの理解という知識・技能を活用しながら、未知の場面でも課題を解決できるということも「ヨコ」の関係を示しています。
「ヨコ」の関係を意識することで、教員は深い理解を伴う知識が習得され、さらに思考力、判断力、表現力等も高まるという、相互的な学習を促す授業を創造することができます。
3. 授業改善への示唆
学習指導要領における「タテ」と「ヨコ」の関係を理解することは、授業改善に不可欠です。
これまでの学習指導は、教科書の内容を網羅的に教えることや、一コマごとの授業に焦点を当てた「本時主義」に偏りがちでした。しかし、「タテ」と「ヨコ」の関係を意識することで、教員は「どのような力(資質・能力)を身に付けて欲しいか」という明確な目標から出発し、単元や題材を体系的に構成することができます。そして、教科書や教材を効果的に活用し、生徒の主体的・対話的で深い学びを促すことができるようになります。
4. デジタル技術の活用
デジタル技術は、学習指導要領の構造化を支援し、教員の授業準備を支援します。
例えば、教科等間の関係や学年段階、学校種間の記載を容易に俯瞰できるようなデジタルツールを開発することで、教員はより包括的な視点から授業を計画することができます。
また、学習指導要領コードを活用し、学習指導要領とデジタル教科書・教材を紐づけることで、デジタル教科書・教材へのアクセスが円滑になります。さらに、学習指導要領等の記載に基づき応答する機能を開発することで、教員は授業準備にかかる時間を削減し、生徒とのコミュニケーションに集中することができます。
まとめ
学習指導要領における「タテ」と「ヨコ」の関係を理解し、授業に活かすことは、生徒の深い学びを促し、資質・能力を育成するために不可欠です。教員は、「タテ」と「ヨコ」の関係を意識しながら、教科書や教材を効果的に活用し、生徒の主体的・対話的で深い学びを促す授業を創造する必要があります。
2025.2.26 個別最適な学びと協働的な学びの「一体化」
近年の教育改革において、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実は、重要なテーマとなっています。中央教育審議会では、この二つの学びを効果的に統合し、子供たちの可能性を最大限に引き出すための具体的な方法を検討してきました。その中心となるのは、デジタル技術の活用と、それを支える教師の役割です。本稿では、中央教育審議会の議論を踏まえ、これからの学びのあり方について考察します。
まず、個別最適な学びの実現には、デジタル学習基盤の日常的な活用が不可欠です。学習指導要領では、各教科等の授業だけでなく、学校教育活動全体で1人1台端末とクラウド環境を積極的に活用することが求められています。これにより、子供たちは自分の興味や関心、学習進度に合わせて学ぶことができ、より主体的な学習が可能になります。また、デジタル技術は、子供たちの情報活用能力を高めるための重要なツールでもあります。インターネットを活用した情報収集や整理、発信などを通じて、子供たちは社会で生き抜くための基盤となる力を身につけることができます。
しかし、デジタル技術の導入だけでは、真に効果的な学びは実現しません。重要なのは、教師が子供たちの学習状況を的確に把握し、適切な支援を提供することです。教師は、デジタル教材の効果的な活用方法を学び、子供たちが主体的に学習に取り組めるような環境を整備する必要があります。また、協働的な学びを促進するために、グループワークやディスカッションなどの活動を積極的に取り入れることも重要です。子供たちは、多様な他者との協働を通じて、コミュニケーション能力や問題解決能力を高めることができます。
これからの教育は、デジタル技術と教師の指導力、そして子供たちの主体性が組み合わさることで、より豊かなものになります。中央教育審議会が目指すのは、全ての子供たちが自分の可能性を最大限に開花させることができる、そんな未来の学びの実現です。そのためには、教育関係者だけでなく、家庭や地域社会全体で子供たちの成長を支えていくことが重要となるでしょう。
2025.2.17.教員の働きがいを高める人事異動の工夫
教員の働きがいを高めるには、柔軟かつ戦略的な人事異動が重要になります。教員の意欲や能力を最大限に引き出すため、下記のような工夫が考えられます。
まず、教員の希望やキャリアプランを考慮し、定期的な面談で意向を把握し、可能な範囲で希望に沿った人事異動を行うことが大切です。教員の専門性やスキル、キャリア目標を考慮し、適材適所の人事配置を心がけることも重要です。
次に、学校の課題やニーズに対応した人事異動として、学校が抱える課題を明確にし、その課題解決に貢献できる教員を配置すること。特定の分野に強みを持つ教員を重点的に配置することで、学校全体の教育力を向上させることができます。また、人事異動を通じた教員の成長支援として、異動先で新たな経験や知識、スキルを習得できるよう、研修機会やサポート体制を充実させるべきです。若手教員の育成を目的に、経験豊富なベテラン教員をメンターとして配置することも有効です。
地域や学校間の連携を促進する人事異動も重要です。複数の学校や地域をローテーションする人事異動を実施し、教員の視野を広げるとともに、地域全体の教育水準の向上に貢献します。学校と地域の人材を交流させる人事異動を促進し、地域に根ざした教育を推進することもできます。さらに、教員の負担軽減に配慮した人事異動として、過重な業務や長時間勤務が常態化している学校には、教員業務支援員やICT支援員などのサポートスタッフを重点的に配置することが望ましいです。教員の心身の健康に配慮し、連勤や過密なスケジュールを避けるよう、人事異動を調整することも重要です。
教員の働きがい向上は、子供たちの教育の質を高めるだけでなく、教員不足の解消にもつながると期待されています。教育委員会や学校管理職は、現場の声を真摯に受け止め、教員が心身ともに健康で働けるよう、積極的に環境整備に取り組むことが不可欠です。
2025.2.14 成人力を巡る国際比較~日本の現状と課題~
経済協力開発機構(OECD)が実施する国際成人力調査(PIAAC)は、各国の成人が社会生活で必要とするスキル、すなわち「成人力」を測定し、その結果を基に政策提言を行うことを目的とした国際比較調査です。日本は、第1回調査(2011年)に続き、2022年にも第2回調査に参加し、その結果が公表されています。本稿では、このPIAAC第2回調査の結果を基に、日本の成人力の現状と課題を分析し、今後の政策提言について考察します。
卓越した平均値と見え隠れする課題
日本の成人力は、国際的に見ても非常に高い水準にあると考えられます。第2回調査では、読解力、数的思考力ともに平均得点で参加国中第2位、状況の変化に応じた問題解決能力では第1位相当という輝かしい結果を残しています。特に、3分野全てにおいて、低い習熟度(レベル1以下)の割合が参加国中最少であり、高い習熟度(レベル4以上)の割合も第2位と、総じて高いスキルレベルを維持しています。また、16歳から24歳の若年層においては、数的思考力で参加国中第1位、読解力と状況の変化に応じた問題解決能力で第2位と、将来を担う世代のスキルも高い水準にあります。しかし、これらの優れた結果の陰に、いくつかの課題も見え隠れしています。読解力においては、低い習熟度(レベル1以下)の割合が増加傾向にあり、また、第1回調査と比較すると、読解力、数的思考力ともに平均得点に統計的に有意な変化はないものの、習熟度上位と下位の差が拡大していることが指摘されています。これらの結果は、全体的な高いスキルレベルを維持しつつも、読解力における下位層の底上げと、数的思考力における上位層の更なる向上が必要であることを示唆していると考えられます。
生涯学習の必要性と就労におけるミスマッチ
年齢とスキルとの関係を見ると、日本の成人はどの年齢層でもOECD平均を上回る高いスキルを保持していますが、中高年期には徐々に低下していく傾向があります。特に、第1回調査時に44歳から54歳であった層が、第2回調査で読解力の得点を大きく低下させていることが示されており、これは加齢に伴うスキル低下への対策が必要であることを意味しています。また、学歴が高いほどスキルの習熟度が高い傾向は日本でも見られますが、習熟度、教育年数、専攻よりも、勤務経験や年齢、性別などの個人特性が賃金に影響を与えているという結果も看過できません。さらに、労働者の約35%がオーバークオリフィケーションであると回答しており、これは学歴やスキルが必ずしも仕事に活かされていない可能性を示唆しています。加えて、労働者の約29%が「自分のスキルの一部が仕事に必要なものより低い」と回答しており、特にITスキルやチームワーク、リーダーシップスキルの向上が課題となっています。これらの結果は、**年齢に関わらず継続的にスキルを維持・向上させるための生涯学習機会の提供や、個人のスキルと職業のマッチングを促進する政策が必要であることを示しています。
スキル格差の是正と社会的なアウトカムの向上
スキルとジェンダーの関係を見ると、読解力では男女間に有意な差は見られないものの、数的思考力では男性の方が高い傾向にあります。また、STEM分野における女性の割合が低いという現状も考慮する必要があります。このため、男女間のスキル格差を是正するための教育プログラムや、女性がより活躍できるような環境整備が重要となります。さらに、スキルと社会的なアウトカムとの関係を見ると、スキルが高いほど生活満足度や健康状態が良い傾向が見られますが、日本はOECD平均と比較して生活満足度や健康に肯定的な回答をする成人の割合が少ないという結果も出ています。一方で、政治的効用感については肯定的に回答する割合が多く、スキルが高いほどその割合が増加しています。これらの結果から、スキル向上だけでなく、個人のウェルビーイングを高めるための施策や、社会参加を促進するための環境整備が重要であることが示唆されます。教育機会の普及にもかかわらず、スキル水準がそれに応じて上昇していないという課題も指摘されており、特に学歴の低い成人のスキル低下が目立つとされています。このため、教育システムの改革、特に基礎学力の徹底や、個々の能力に合わせた教育の充実が求められます。また、家庭環境や社会経済的背景がスキルの習得に影響することも考慮し、格差是正のための政策も必要になると考えられます。
政策提言~成人力を高めるための総合的なアプローチ~
以上の分析を踏まえ、日本の成人力をさらに向上させるためには、以下の様な総合的なアプローチが必要になると考えられます。
* 第一に、読解力における下位層の底上げと、数的思考力における上位層の更なる向上を目指し、個々の能力に合わせた教育施策を展開する必要があります。基礎学力の徹底はもちろんのこと、実践的な読解力や数的思考力を育成するためのプログラムを開発することが求められます。
* 第二に、年齢に関わらず継続的にスキルを維持・向上させるための生涯学習機会の提供が必要です。特に、中高年層を対象としたスキルアップ支援策を充実させ、ITスキルやチームワーク、リーダーシップスキルなど、現代社会で求められる能力を効果的に習得できるようなプログラムを開発することが重要です。
* 第三に、個人のスキルと職業のマッチングを促進する政策を推進する必要があります。労働者のスキルを適切に評価する制度設計や、企業内でのスキルアップ支援を促進するとともに、学歴だけでなく、実務経験や個人のスキルを総合的に評価するような採用システムも検討されるべきです。
第四に、男女間のスキル格差を是正するための教育プログラムや、女性がより活躍できるような環境整備を進める必要があります。特に、STEM分野における女性の割合を増やすため、女性がSTEM分野への関心を高め、積極的に学習・キャリア形成を進めるための支援策を講じるべきです。
第五に、スキル向上だけでなく、個人のウェルビーイングを高めるための施策や、社会参加を促進するための環境整備も重要です。地域社会における学習機会の提供や、ボランティア活動への参加を促進するなど、社会全体で成人力を高めるための取り組みが必要だと思います。
これらの政策提言を実行に移すためには、政府、教育機関、企業、地域社会が連携し、長期的な視点を持って取り組む必要があります。国民一人ひとりが、自らのスキルを向上させ、社会で活躍できるよう、社会全体で支援していくことが求められていると感じているところです。
「体験あって学びなし」。私たちは時折、この言葉を耳にする。特に、学校教育における体験学習は、ともすれば「やった」という満足感だけで終わり、深い学びにつながらないことがある。職場体験も例外ではない。従来、職場体験は「望ましい勤労観の育成」という観点から語られることが多かった。しかし、現代社会において、若者たちが自立し、社会で活躍するためには、勤労観だけでなく、消費者としての視点や金融リテラシーも不可欠だ。そこで、職場体験を「体験」で終わらせず、多角的な視点から学びを深めるための「クロス・カリキュラム」を提案したい。
職場体験は、働くことの意義や喜びを実感する絶好の機会だ。しかし、その学びは、単に「働くことは素晴らしい」という感情的なものにとどまってはならない。そこで、消費者教育の視点を導入することで、職場体験をより多層的な学びの場へと変革させることができる。例えば、販売やサービス業を体験する場合、生徒たちは、消費者のニーズを理解し、顧客満足度を高めるための工夫を学ぶことができる。これは、単に「働く」という行為だけでなく、「誰のために、何のために働くのか」という根源的な問いへとつながる。また、製品開発やマーケティングの現場を体験することで、生徒たちは、企業がどのように消費者の心を掴もうとしているのか、その戦略や倫理観について考えるきっかけを得る。さらに、職場体験を通して得た収入をどのように管理し、消費するのかという観点から、主体的な消費者としての意識を育むことができる。
消費者としての視点: 消費者の立場から、製品やサービスを評価し、企業活動を多角的に捉える。
倫理観の育成: 企業の社会的責任や倫理的な側面について考え、社会の一員としての自覚を促す。
主体的な消費者意識: 消費行動を自己管理し、計画的な消費を促す。
職場体験を、金融教育と連携させることは、生徒たちが将来にわたって経済的な自立を達成するための重要な一歩となる。例えば、企業における会計処理や財務管理の仕組みを学ぶことで、生徒たちは、お金の流れを理解し、経済活動の全体像を把握することができる。また、職場体験で得た賃金を基に、予算計画を立て、貯蓄や投資を考えることで、金融リテラシーを高めることができる。さらに、将来のライフプランを考える上で、職業選択が収入や生活水準にどのように影響を与えるのかを理解することも重要である。
経済活動の理解: 企業の経済活動におけるお金の流れを理解する。
金融リテラシーの向上: 予算管理、貯蓄、投資など、金融に関する知識やスキルを身につける。
ライフプランニング: 将来のライフプランを設計する上で、職業選択や収入がどのように影響するかを理解する。
このような職場体験を、単独の活動として捉えるのではなく、教科横断的な「クロス・カリキュラム」として位置づけることが重要だ。例えば、職場体験の事前学習として、社会科で企業の役割や経済の仕組みを学び、家庭科で消費生活や金融の基礎知識を学ぶ。職場体験中には、体験内容を記録し、体験後には、体験から得られた学びを振り返り、レポートやプレゼンテーションで発表する。さらに、キャリア教育の観点から、自己の強みや興味関心を再確認し、将来の目標を設定する。これにより、生徒たちは、職場体験を通して得た学びを、他の教科の知識やスキルと関連付けながら、より深く、多角的に理解することができる。
教科横断的な学び: 各教科の知識と職場体験を結びつけ、多角的な視点を養う。
振り返りと自己理解: 体験を振り返ることで、自己の成長や課題を認識し、将来の目標設定につなげる。
主体的な学びの促進: 体験を基に、自ら学び、考え、行動する力を養う。
評価の重視: 体験の前後での変化や成長を評価し、その結果を今後の指導に活かす。
「体験あって学びなし」を「体験あって学びあり」に変えるためには、私たち一人ひとりの意識改革が不可欠である。教育者は、職場体験を単なる「行事」として捉えるのではなく、生徒の成長を促すための貴重な学びの機会として捉える必要がある。企業は、職場体験を受け入れるだけでなく、生徒たちの学びをサポートするパートナーとして、積極的に関わっていく必要がある。生徒たちは、与えられた体験をこなすだけでなく、自ら積極的に学び、考える姿勢を身につける必要がある。そして、社会全体が、若者たちの成長を支え、応援する環境を整備していく必要がある。
教育者の役割: 体験を学びにつなげるための計画、指導、評価を徹底する。
企業の役割: 生徒の学びをサポートするパートナーとして、積極的に関わる。
生徒の主体性: 与えられた体験をこなすだけでなく、自ら学び、考える姿勢を身につける。
社会全体の支援: 若者の成長を支え、応援する環境を整備する。
職場体験を「クロス・カリキュラム」として捉え、消費者教育や金融教育を積極的に取り入れることで、生徒たちは、単に「働く」という行為を超え、社会の一員として自立し、活躍するための力を身につけることができるだろう。
ヤングケアラー支援は、子どもの権利擁護を基盤とし、包括的かつ長期的な視点での取り組みが不可欠です。「こどもまんなか社会」の実現に向け、ヤングケアラーが直面する課題に対し、多角的なアプローチで支援を届ける必要があります。本稿では、既存の支援モデルの分析と課題を踏まえ、より効果的な支援モデルを構築するための要素を、具体的な事例やデータを交えながら考察します。
1. 居場所とアウトリーチ:心理的安全性とアクセス可能性の確保
ヤングケアラーへの支援の第一歩は、心理的安全性が確保された居場所を提供することです。ある小学生は、居場所について「家では必要以上に頑張っていたり、それが必要以上の我慢になっていたりする気持ちをクールダウンできる場所」と述べており、安心できる場所の重要性を示しています。また、体験活動の機会として、ある団体は合宿活動を実施し、研修的な要素を一部設けつつも、キャンプを楽しむことを前面に出すことで、ケアのことを一旦忘れ、楽しい時間を過ごせるようにしています。この事例のように、居場所は、単に「場所」を提供するだけでなく、体験活動、学習支援、相談支援など、多角的なニーズに対応する必要があります。さらに、居場所への参加が難しいヤングケアラーに対しては、アウトリーチによる支援が重要です。例えば、家庭教師のように家庭訪問をしたり、公園など身近な場所で居場所を開催したりすることで、支援へのアクセスを容易にすることができます。ある自治体では、全県域でアウトリーチを行い、オンラインゲームを通じて関係性を築き、オフ会に繋げるなど、多様なアプローチを試みています。さらに、支援機関と学校が連携し、スクールソーシャルワーカーや担任教師など、子どもが信頼する大人からの情報連携や勧めも、支援につながる重要な要素です。居場所の運営においては、子どもや若者の意見を積極的に取り入れ、共にルールやプログラムを作成することで、当事者意識を高めることが不可欠です。例えば、あるグループは、子どもたちが企画の中心となって地域の人と交流できるイベントを実施しています。居場所が提供する体験や活動は、多種多様な機会を充実させることが重要であり、その場だからこそできる体験を通じて、新たな興味関心を育むことにも繋がります。さらに、オンラインの居場所も、特別なニーズを持つ子どもや若者、地域性を忌避する傾向のある子どもたちにとって、つながりやすく有効な手段となりえます。災害時などの非常時においても、子どもたちが居場所を確保し、遊びの機会が守られるように配慮が必要です。これらの取り組みを通じて、切れ目のない居場所を提供し、子どもたちが安心して過ごせる環境を整備することが、効果的な支援モデルの基礎となります。
2. 包括的支援:多岐にわたるニーズへの個別対応
ヤングケアラーが抱える課題は多岐にわたるため、包括的な支援を提供することが不可欠です。家事や家族の世話を担う子どもたちには、ヘルパー派遣や家事支援など具体的な生活支援が必要です。特に小学生や中学生は、「家事」に対するニーズが高い傾向があります。ある調査では、小学生が回答したヤングケアラーへの支援として、「家事やお世話の代行、手伝い」が上位に挙げられています。しかし、家庭の状況によっては、外部の人が家に入ることに抵抗がある場合もあるため、個別の状況に応じた柔軟な対応が必要です。また、子どもたちは、心理的なサポートも必要としています。ある中学生は、「地域に顔見知りができ、家庭外の大人にも柔らかく見守ってもらいながら生きていけることは、生きる力をつけるために役立っていると感じる」と述べています。さらに、学習支援や進路相談、キャリア形成のサポートも重要です。若者ケアラーに対しては、これまでのキャリアや人生を振り返り、ケアの背景を含めたキャリア相談が必要です。また、経済的な支援も重要な要素であり、現金給付や学費支援など、家庭の状況に応じた支援が必要です。加えて、食に関する支援(配食や食料支援、こども食堂など)は、特に利用してよかったと感じる割合が高い支援であり、地域全体で取り組むことが求められます。医療機関との連携も重要であり、精神科の外来や訪問看護などを利用している場合は、支援者が子どもの存在を認識している可能性もあるため、情報連携を密にする必要があります。支援においては、家族全体を捉える視点も重要であり、母親が悪者にならないよう配慮しつつ、子どもと大人の両方を支援する視点が必要です。これらの多様なニーズに応じた支援を提供することで、ヤングケアラーの心身の健康をサポートし、健やかな成長を促すことが可能となります。
3. 多機関連携とコーディネーション:持続可能な支援体制の構築
ヤングケアラーへの支援を効果的に行うためには、関係機関との連携が不可欠です。地域包括ケアシステムにヤングケアラーを位置づけ、医療機関、福祉機関、教育機関、NPO法人などが連携して、切れ目のない支援を提供する必要があります。ある自治体では、拡充したスクールソーシャルワーカーを保健福祉センターに配置し、学校と福祉の連携を強化しています。学校では、スクールソーシャルワーカーが中心となり、ヤングケアラーの早期発見と支援につなげます。ヤングケアラー・コーディネーターは、関係機関との連携を促進し、適切な福祉サービスにつなげる役割を担います。さらに、研修の実施や地域における支援体制の構築も重要な役割です。ケアマネジャーやヘルパーなど家庭に介入する人々からの情報提供も、ヤングケアラーを発見する上で重要な手がかりとなります。地域での連携体制を構築する際には、既存のリソースを最大限に活用することが重要です。ケアマネジャーや学校などを活用することで、効率的に支援を届けることができます。また、自治体は、民間団体との連携を強化し、助成金制度などを活用して、地域での支援体制を充実させる必要があります。ある地域では、民間団体へヤングケアラー等の気になる世帯へ定期的に訪問する事業を補助しています。情報共有も不可欠であり、関係機関が定期的に情報を交換し、連携を密にすることで、より効果的な支援が可能となります。さらに、支援の質の向上も重要であり、研修やスーパービジョンなどを通じて、支援者の専門性を高める必要があります。これらの取り組みを通じて、持続可能な支援体制を構築し、ヤングケアラーが安心して成長できる社会を目指すことが重要です。
4. 社会的理解とエンパワメント:言葉の持つ力と長期的な視点
ヤングケアラー支援の最終的な目標は、社会全体の理解を深め、ヤングケアラーが自己実現できる社会を創造することです。社会全体がヤングケアラーの状況を理解し、偏見や差別をなくすための啓発活動が必要です。特に、「ヤングケアラー」という言葉自体が、家族を傷つける可能性があることに留意する必要があります。メディアを通じた情報発信は、「こどもがかわいそう」というイメージを助長する可能性があるため、ヤングケアラーと家族の関係性はケースバイケースであるという理解を広めていくことが重要です。また、ヤングケアラー自身が自分がヤングケアラーであることを自覚していない場合もあるため、支援に繋がることが難しいこともあります。そのため、支援対象者に寄り添った情報提供やアウトリーチが求められます。支援においては、当事者のペースを尊重し、支援者のエゴで押し付けないことが重要です。ヤングケアラーが「助けて」と言える環境を整えるだけでなく、自らSOSを出すことができるように、エンパワメントしていくことが大切です。ある参加者は、グループでの活動を通じて、「自分の話をすることで人のためになれると感じられたのがとても大きかった。自分は人のためにもなれるし、自分のためにも自分のことを大切にできる。生きていてよかったんだ、と感じたのと同時に、自分の役割を見つけることもできた」と述べています。さらに、支援の出口の難しさについても考慮が必要です。ケアが終了した後も、継続的な見守りや相談が重要であり、長期的な視点での支援体制を構築する必要があります。支援者は、ヤングケアラーの自己決定を尊重し、自立を支援する役割を担うべきです。これらの取り組みを通じて、ヤングケアラーが困難を乗り越え、自分らしく生きていくことができる社会を構築していく必要があります。
2025.2.4. デジタルで高める教育の質
デジタル技術の教育利用は、GIGAスクール構想による1人1台端末やクラウド環境の整備を背景に、大きな可能性を秘めています。しかし、その効果的な活用はまだ緒に就いたばかりであり、多くの課題も存在します。デジタル学習基盤は、一人ひとりの興味や関心に応じた学習を可能にし、困難の克服を助ける力を持っていますが、その一方で、実体験の格差やデジタル化の負の側面も指摘されています。
例えば、小学校ではローマ字入力の学習に検定サイトを利用したり、中学校では図形作成ソフトを使って図形の特性を考察するなど、教科の学習にデジタル技術が活用されています。また、電気の学習では、人感センサーや照度センサーを利用したプログラミングを体験するなど、より実践的な学びも展開されています。
しかし、現状では、デジタル技術の活用が必ずしも効果的に行われているとは限りません。日本のデジタル競争力は国際的に見て低い状況にあり、デジタル人材の育成は喫緊の課題です。また、「デジタルかリアルか」「デジタルか紙か」といった二項対立に陥らず、「デジタルの力でリアルな学びを支える」という視点が重要だと感じています。デジタル学習基盤は、教員の指導ツールとしての側面だけでなく、学習者にとっての文房具のような存在として、学びやすさの提供や合理的配慮の基盤となる側面も考慮されるべきです。
さらに、デジタル技術の進化は速く、特に情報技術などの変化の激しい分野においては、教師の負担を軽減しつつ、常に最新の教育内容を扱うための対策が必要です。生成AIなどの新たな技術が教育に与える影響も考慮し、資質・能力のあり方や教育方法について検討していく必要があります。
学習評価においても、デジタル技術の活用が効果的に行われるよう、改善が必要です。例えば、「主体的に学習に取り組む態度」の評価が、単なるノート提出の頻度などの「勤勉さ」の評価に留まっているケースも見られ、評価のための指導に追われるという「指導の評価化」が生じているという指摘もあります。
デジタル技術の教育利用を促進するためには、教育DXの推進、情報活用能力の向上、教科書の見直し、研修の充実など、多岐にわたる取り組みが必要です。小中高等学校を通じた情報活用能力の抜本的な向上を図り、生成AIに関する教育内容の充実や情報モラル、メディアリテラシーの育成強化が必要です。また、1人1台端末の普及を踏まえ、教科書の内容や分量、デジタル教科書のあり方についても検討が求められます。
教員の役割も変化しており、デジタル技術を活用した教育におけるファシリテーターとしての意識が求められます。また、ICTを活用することで、学習履歴や生徒指導上のデータ、健康診断情報などを利活用し、個別最適な学びを進めることが期待されます。さらに、子供の特性や学習進度、興味関心に応じて、デジタルツールを活用した多様な学習活動や課題に取り組む機会を提供する必要があります。
このように、デジタル技術の教育利用は、多くの可能性と課題を抱えています。今後、これらの課題を克服し、デジタル技術を効果的に活用することで、より質の高い教育を実現し、子供たちの可能性を最大限に引き出すことが求められます。
つまりは、「まずは、食わず嫌いせず、学校が本気でやってみる」ことに尽きるかと思います。
まだいい…かな、はもう通用しない時であることを教委は認識すべきと考えます。と同時に、教委自身が柔軟かつ円滑に学校の創意工夫を妨げない『「寛容さ」>「もしもリスク回避」』の姿勢を持つべきと思いますが、どうでしょ。
幼保小接続期、すなわち幼児教育から小学校教育への移行期は、子供たちの生涯にわたる人格形成の基盤を培う上で極めて重要な時期である。この時期に、質の高い教育を提供することは、子供たちがその後の学習や社会生活において自立し、積極的に学び続けるための土台を築く上で不可欠となる。しかし、現状では、幼児教育と小学校教育の間には、教育内容や指導方法においてギャップが存在し、円滑な接続を妨げる要因となっている。このため、両段階の連携を強化し、切れ目のない質の高い教育を提供するための具体的な施策と課題を詳細に分析する必要がある。本稿では、関連する政府資料や調査研究を基に、幼保小接続期における教育の質向上に向けた具体的な施策と、その実施における課題を分析し、今後の教育改革に向けた提言を行う。
幼保小接続期における教育の質向上に向けた施策は、多岐にわたるが、その中でも特に重要なのは、幼児教育施設と小学校間の連携強化、そして教育内容の充実である。まず、両者の連携強化については、以下のような具体的な取り組みが挙げられる。第一に、教育実践の相互理解を深めるために、両者が合同で研修を実施し、互いの教育内容や指導方法を共有する。具体的には、幼児教育施設での遊びを通した学びを小学校の授業に取り入れたり、小学校の教員が幼児教育施設の教育活動を参観したりするなどの交流を通じて、相互の教育観の理解を深めることが重要となる。第二に、幼児教育施設では小学校以降の学習を見通し、直接的・具体的な体験を通して、小学校以降の生活や学習の基盤となる資質・能力を育成する。例えば、小学校での学習につながるような探求的な活動や協同的な活動を遊びの中で取り入れることで、子供たちの主体的な学びを促す。第三に、小学校では、幼児教育における「環境を通して行う教育」の重要性を理解し、子供の主体性を尊重する必要がある。小学校の教員は、子供たちが自ら学びに向かう意欲を高めるような授業を展開し、一方的な知識伝達に偏らないように努めるべきである。さらに、地域における幼児教育のビジョンを明確化し、研修体制を整備することも重要である。教育委員会や幼児教育センターが中心となり、地域の特性を踏まえた幼児教育の目標を設定し、幼児教育アドバイザーを育成することで、各施設が質の高い教育を提供できる体制を構築すべきである。また、国公私立の幼児教育施設間のネットワークを構築し、教育活動を共有することも効果的である。オンラインプラットフォーム等を活用し、最新の実践研究や優れた教育事例を共有することで、各施設が互いに学び合い、質の向上を図ることができる。これらの施策を総合的に実施することで、幼児教育と小学校教育がよりスムーズに接続され、子供たちは学びへの意欲を持ち続けながら、小学校へと移行することが可能となる。
加えて、教育内容の充実に関しては、以下のような点が重要となる。まず、幼児教育においては、遊びを通した学びを重視し、子供たちが自発的・能動的に環境と関わりながら、多様な経験を積むことが大切である。幼稚園教諭・保育士・保育教諭は、子供たちの興味や関心に基づき、意図的・計画的に環境を構成し、遊びを通して学びを深めるための支援を行うべきである。小学校においても、この「環境を通して行う教育」の考え方を参考に、子供たちの主体的な学びを促す授業を展開する必要がある。教科書に沿った一方的な授業だけでなく、子供たちが自ら課題を発見し、解決策を模索するような探究的な学習活動を取り入れることで、学びの質を高めることができる。特に、情報活用能力を「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ、教科等横断的に育成を推進することは、これからの社会で生きる子供たちにとって不可欠である。情報や情報技術を主体的に選択し、適切に活用していく力を養うために、学校はICT環境を整備し、効果的な指導方法を開発する必要がある。さらに、特別な配慮が必要な幼児への支援も欠かせない。障害のある幼児に対しては、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成し、関係機関と連携した切れ目のない支援を提供する必要がある。外国籍等の幼児に対しては、言語や文化の違いに配慮し、適切な情報提供や指導を行うことが求められる。また、道徳教育の充実も重要である。「特別の教科 道徳」の目標に基づき、子供たちが道徳的な課題に向き合い、考え、議論する機会を設けるとともに、問題解決的な学習や体験的な学習などを取り入れ、より実践的な指導を行う。これらの施策を適切に実施することで、子供たちは多様な経験を通して学びを深め、小学校以降の学習においても主体的に取り組むことができるようになる。
これらの施策を効果的に実施するためには、いくつかの課題を克服する必要がある。まず、幼児教育施設における専門知識の不足が挙げられる。特に、個々の障害に関する専門知識を有する幼稚園教諭・保育士・保育教諭が少ないため、個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成が困難な場合がある。また、障害のある幼児や外国籍等の幼児への指導に関する情報も未だ十分とは言えない状況である。このため、幼児教育施設における研修機会を充実させ、専門的な知識やスキルを習得するための支援を強化する必要がある。例えば、専門家を招いての研修や、情報共有のためのネットワーク構築などが有効である。次に、小学校教育における幼児教育への理解不足も課題である。小学校の教員の中には、幼児教育における遊びを通した学びの意義を十分に理解しておらず、小学校での学習が幼児期の学びから遊離してしまうという懸念がある。また、幼児教育施設において、小学校の各教科等の学習を一方的に指導することへの懸念も指摘されている。この課題を解決するためには、小学校の教員に対する幼児教育に関する研修を充実させ、両者の教育観の相互理解を深めることが重要である。さらに、幼児教育施設と小学校間の連携不足も深刻な課題である。両者の教育実践に対する相互理解が不十分であるため、子供たちが小学校へスムーズに移行できない場合がある。このため、定期的な合同研修や交流活動を実施し、情報共有や連携を密にする必要がある。
また、教員の負担増と多忙化も大きな課題である。教育課程の実施に伴う教員の負担が大きいだけでなく、教員の長時間勤務も問題となっている。特に、授業改善の方向性と入試の出題傾向にずれが生じ、結果として教科書の内容も授業も変わりづらいのではないかという懸念も存在する。さらに、教科書の内容と分量の問題も無視できない。教科書の内容が充実し分量が増加しており、網羅的に指導すべきとの考えが根強く存在し、教員の負担や負担感を生んでいる。教科書のページ数が増えている中で、教科書の性質や分量について検討が必要である。これらの課題を解決するためには、教員の業務負担を軽減するための具体的な対策を講じるとともに、教科書の内容や分量について見直しを行う必要がある。例えば、授業準備や教材研究の時間を確保するための支援や、ICTを活用した教材開発などが考えられる。また、教員の専門性を高めるための研修機会を提供し、授業の質の向上を図ることが求められる。さらに、学校における働き方改革を推進し、教員の長時間勤務を是正するための取り組みも重要である。これらの課題を一つずつ解決していくことで、幼保小接続期の教育の質は向上し、子供たちはより良い環境で学ぶことができるようになるだろう。
拙稿では、幼保小接続期における教育の質向上に向けた具体的な施策と課題について詳細に分析した。結論として、幼児教育施設と小学校間の連携強化、教育内容の充実、教員の専門性向上、そして教員の負担軽減が、この接続期における教育の質を向上させるために不可欠であることが明らかになった。これらの施策と課題を踏まえ、今後、幼保小接続期の教育をさらに発展させるために、以下のような提言を行う。
第一に、教育委員会を中心とした地域レベルでの継続的な取り組みを強化すべきである。各地域の課題やニーズに対応した具体的な計画を策定し、幼児教育施設と小学校が協力して、子供たちの成長をサポートする体制を構築することが必要である。第二に、教員の専門性を高めるための研修プログラムの継続的な実施と改善が求められる。研修内容は、幼児教育の最新の研究成果や実践事例に基づき、教員がより効果的な指導方法を習得できるように設計すべきである。特に、障害のある幼児や外国籍等の幼児への指導に関する専門知識やスキルを習得できる機会を増やす必要がある。第三に、教員の業務負担を軽減するための具体的な対策を講じるべきである。ICTを活用した教材開発や授業支援ツールの導入、事務作業のアウトソーシングなど、教員がより授業に専念できる環境を整備する必要がある。第四に、教科書の内容や分量について見直しを行い、子供たちがより深く理解できるような教材を開発すべきである。教科書だけでなく、デジタル教材や補助教材を適切に活用し、子供たちの多様な学習ニーズに対応することも重要である。第五に、幼児教育の重要性に対する社会全体の理解を深めるための啓発活動を行うべきである。幼児教育は、子供たちの将来に大きな影響を与える重要な教育段階であり、社会全体でその価値を認識し、支援することが求められる。
これらの提言は、幼保小接続期における教育の質向上に向けた具体的なステップであり、教育関係者だけでなく、保護者や地域住民など、社会全体が協力して取り組む必要がある。今後も継続的な調査研究と実践を通して、幼保小接続期の教育がより充実し、全ての子供たちが平等な教育機会を得られるように努めるべきである。そして、これらの取り組みが、ひいては持続可能な社会の構築に貢献することを期待する。
2024.1.14. 生徒の自己肯定感と自己有用感を育む授業デザイン
~生徒指導の視点から~
生徒の自己肯定感と自己有用感を高める授業デザインの有効性について、具体的事例と児童生徒への働きかけを交え、以下に愚見をまとめてみました。これに関しては、近々執筆の予定なので、その前に自分の考えをまとめておこうと思いまして。
1. はじめに:生徒指導の機能と授業デザインの重要性
生徒指導は、児童生徒一人ひとりの人格を尊重し、個性を伸ばし、社会性を育むことを目指す教育活動です。生徒指導の重要な機能として、①自己存在感を与えること、②共感的な人間関係を育成すること、③自己決定の場を提供すること**の3つが挙げられます。これらの機能を授業の中に組み込むことで、生徒は自己肯定感と自己有用感を高め、主体的に学習に取り組むことができるでしょう。授業において、生徒が「楽しい・できる」「受け入れられた」「決めた・言えた」という感覚を実感できるように工夫することで、生徒の学習意欲を高め、安心して自分の思いや考えを表現できる居心地の良い学級集団を育成することが可能になるでしょう。例えば、ある小学校の授業では、生徒が自分の考えたコマの紹介文を書く活動において、書くことが苦手な生徒にはヒントが書かれたお助けシートを準備し、全員に配ることで自己決定を促し、自己肯定感を下げない工夫がされていました。さらに、ペアで交流する際には、互いの良いところを伝え合う時間を設け、自己肯定感と自己有用感を高める試みがなされていました。
2. 具体的な手立て:対話、協働、個性に着目した授業実践
生徒の自己肯定感と自己有用感を高めるためには、授業における具体的な手立てが重要です。
〇生徒の考えを丁寧に扱うことは、自己肯定感を育む上で不可欠です。例えば、生徒の発言を教師が丁寧に板書し、ネームプレートを貼ることで、生徒は自分の考えが尊重されていると感じます。指名だけでなく、友達の考えに近いところにネームプレートを貼らせることで、生徒は自分の考えを明確にし、自信を持つことができるでしょう。
〇対話と協働を通して、生徒は他者の考えに触れ、自己の考えを深めることができます。話す・聞く、教え合うなどの活動を繰り返し、生徒に自信を持たせること、友達の意見を尊重し、傾聴する態度を身につけさせることが重要です。例えば、ある授業では、グループでの活動を取り入れ、まとめ役を生徒に任せることで、自己有用感を高める試みがなされました。
〇個性を生かすことも重要なポイントです。イラストが得意な生徒には絵を描く機会を、写真加工が得意な生徒には写真を使う機会を与えるなど、個々の生徒の良さを発揮させる場を作ることで、自己肯定感と自己有用感を高めることができます。また、活動を通して、友達の良さを知り、自分の良さに気づく機会とすることが大切です。
3. 相互評価と自己決定:承認と主体性を育む
相互評価は、生徒が自己の成長を認識し、他者からの承認を得る上で重要な役割を果たします。例えば、「元気な声でよかったよ」など、互いの良さや成長を認め合う場を設けることで、生徒は自己肯定感を高めることができるでしょう。さらに、友達の良いところを根拠にして発表者を推薦できるようにすることで、「自分の文章や伝え方には良いところがある」と自信を持って発表できるようになります。また、自己決定の機会を与えることも重要です。授業の目標設定において、生徒自身が自己決定できるように促し、教材を選ぶ際にも、生徒が自分の興味や関心に基づいて選べるようにすることが有効です。これにより、生徒は主体的に学習に取り組むことができるでしょう。
4. 教員の役割と生徒理解の重要性:共感的な関わりとチーム支援
教員は、生徒の良いところを褒めたり認めたりすることで、生徒の自己肯定感や自己有用感を高める上で中心的な役割を担います。生徒の「当たり前の行動」や「今、できている行動」を意識して見ることが大切であり、授業中だけでなく、日常の様々な場面で生徒の良いところを見つけ、言葉で伝えることが重要です。生徒をよく観察し、生徒の状況を把握しながら授業を進めることも必要不可欠です。さらに、生徒理解を深めるためには、生徒の情緒の状態、生育歴、家族関係、友人や教師との関係、学校や学級での体験、進路希望などを把握する必要があります。生徒一人ひとりの内面に積極的な関心を持ち、苦しい思いをしていないかという視点で生徒を見ていくことが大切であり、生徒理解に基づいて、生徒の自己肯定感と自己有用感を高める授業デザインをすることが重要です。生徒指導は、教職員だけでなく、学校全体、関係機関、地域・家庭と連携協働して組織的に推進する必要があり、教職員には学校内外の関係者と連携してチームとして活動する姿勢と能力が求められます。
5. まとめ:発達を促す生徒指導と授業改善
生徒の自己肯定感と自己有用感を高める授業デザインは、生徒の主体的な学びを促し、自己理解を深め、他者との良好な関係を築く上で非常に有効です。生徒指導の3つの機能(自己存在感、共感的な人間関係、自己決定の場、※学級風土の醸成)を授業に意図的に組み込むことで、生徒は自己肯定感を高め、自己有用感を実感することができるでしょう。また、授業における生徒指導の三機能と関連させた「楽しい・できる」「受け入れられた」「決めた・言えた」を実感できる児童の育成を目指すことで、児童が安心して自分の思いや考えを表現できる居心地の良い学級集団を育成することができます。今後は、生徒指導の視点を取り入れた授業改善をさらに進め、すべての生徒が自己の可能性を最大限に伸ばせるような教育環境の実現を目指すべきでしょう。
地域社会における教育力の低下や家庭の孤立化といった課題が深刻化する現代において、学校と地域社会が連携し、社会全体で子どもたちの成長を支える仕組みづくりが急務となっている。この課題に対応するため、文部科学省は「社会に開かれた教育課程」の実現を掲げ、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)と地域学校協働活動の推進を両輪として位置づけている。本稿では、これらの制度の概要を説明するとともに、その連携を強化するための具体的な方策について、理論的考察と具体的な事例を交えながら愚見を記します。
コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の制度的概要と連携の必要性
コミュニティ・スクールとは、地方教育行政法に基づき学校運営協議会を設置した学校を指す。学校運営協議会は、保護者や地域住民等の意見を学校運営に反映させるための合議制の機関であり、校長が作成する学校運営の基本方針を承認したり、教育委員会や校長に対して学校運営に関する意見を述べたり、教職員の任用に関して意見を述べたりする権限を持つ。一方、地域学校協働活動は、社会教育法に基づき、地域住民等が学校と連携・協働して行う教育活動であり、その推進体制として地域学校協働本部が整備される。地域学校協働活動推進員は、教育委員会の施策に協力し、地域と学校との情報共有や、地域住民等に対する助言などを行う、地域と学校をつなぐコーディネーターとしての役割を担う。
これらの制度が目指すのは、学校と地域が対等なパートナーシップを築き、地域全体で子どもたちの成長を支えることである。コミュニティ・スクールは、学校運営に地域住民等の意見を反映させ、開かれた学校運営を実現する。一方、地域学校協働活動は、地域住民等の参画を促進し、多様な学習機会や体験活動を提供することで、子どもたちの成長を支える。両者が連携することで、学校運営の改善と地域における教育活動の活性化を同時に実現することが可能となる。また、少子化・人口減少、高齢化、情報化の進展といった社会の変化や、感染症の拡大といった将来の予測が困難な時代において、地域と学校が連携・協働することで、これらの課題に対応していくことが不可欠である。
コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の連携を強化するための具体的方策
コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の連携を強化するためには、両制度の特性を踏まえ、具体的な連携方策を講じる必要がある。まず、地域学校協働活動推進員を学校運営協議会の委員に加えることが重要である。これにより、地域と学校の双方の事情を理解している推進員が、学校運営協議会で地域の実情やニーズを伝え、協議会の決定を地域学校協働活動に反映させることが可能となる。また、学校運営協議会において、地域学校協働活動に関する協議を行うことで、両者の活動が有機的に結びつく。例えば、学校運営協議会で地域の課題やニーズを共有し、それを踏まえた地域学校協働活動の計画を立てたり、地域学校協働活動の成果を学校運営にフィードバックしたりすることができる。
さらに、両者がそれぞれの機能を十分に発揮し、相乗効果を生み出すことが重要である。学校運営協議会は、学校運営の基本方針の承認や学校運営に関する意見を述べることで、学校運営の改善に貢献する。一方、地域学校協働本部は、地域住民等の参画を促進し、多様な学習機会や体験活動を提供することで、子どもたちの成長を支える。両者が連携することで、学校運営の改善と地域における教育活動の活性化を同時に実現することが可能になる。また、教育委員会が、学校教育を担当する部局と社会教育を担当する部局間で連携を強化し、両制度の推進を一体的に行うことも有効である。
具体的な連携事例として、学校行事と地域防災活動の連携が挙げられる。例えば、小学校・中学校の遠足に合わせて、地域住民が炊き出しの準備や見守り活動を行うことで、子どもたちが地域への感謝の念を抱き、防災意識を高めるとともに、異年齢・異世代の交流を促進することができる。また、地域人材を活用した授業も有効である。例えば、地域の伝統文化や特産物に関する授業を実施することで、子どもたちが地域への愛着を深めるとともに、高齢者の生きがいにもつながる。放課後子ども教室などの学習支援や体験活動においても、地域住民や企業・団体と連携し、多様なプログラムを提供することで、子どもたちの学びを豊かにすることができる。
加えて、地域学校協働活動推進員は、学校側の事情や地域の要望を理解し、両者に働きかけ、地域学校協働活動が学校運営の改善に結びつくようにする役割を担う。推進員は、学校と地域のコミュニケーションを円滑にし、活動の企画・調整を担うことで、両者の協力を促進する。さらに、学校運営協議会と地域学校協働本部が、それぞれの役割を理解し、共通の目標やビジョンを共有することが重要である。両者が協力して、地域全体で子どもたちの教育に取り組むことで、より効果的な活動が展開される。
実践事例と今後の課題
岡山県浅口市では、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を活用し、学校業務の棚卸しや学校・家庭・地域の役割分担を進め、教職員の意識改革や教育の質の向上を図っている。また、熊本県では、県立高校に防災に重点を置いたコミュニティ・スクールを導入し、地域と学校の連携を進め、地元自治体との避難所指定の協定締結や合同防災訓練などを実施している。これらの事例は、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動が連携することで、学校の課題解決や地域防災力の向上に貢献できることを示している。
地域学校協働活動を推進する上で、地域住民等の積極的な参加は不可欠である。そのため、地域住民向けのハンドブックや事例集を作成し、活動への参加を促すとともに、地域学校協働活動推進員や地域ボランティアの育成・研修を充実させることが重要である。また、地域の実情や特色を踏まえ、地域課題の解決につながるような活動を推進することも重要である。例えば、地域の高齢化や過疎化といった課題に対応した活動や、地域資源を活用した教育活動などを実施することが考えられる。
また、学校と地域が継続的に連携・協働するためには、地域学校協働本部の設置や、地域学校協働活動推進員の配置が重要である。これらの体制を整備することで、学校と地域が協力しやすくなり、持続可能な活動が可能になる。さらに、活動の成果を定期的に評価し、改善につなげていくことも重要である。地域学校協働活動が、子どもたちの成長や地域の活性化にどのように貢献しているかを把握し、より効果的な活動につなげていく必要がある。
結論
拙稿では、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の連携を強化するための理論と実践について記した。両制度は、学校と地域が対等なパートナーシップを築き、子どもたちの成長を地域全体で支えることを目指しており、連携を強化することで、その効果を最大限に引き出すことが可能となる。具体的な連携方策としては、地域学校協働活動推進員の学校運営協議会への参加、学校運営協議会における地域学校協働活動に関する協議、両者の機能の相互活用、教育委員会における連携強化などが挙げられる。今後の課題として、地域住民の積極的な参加の促進、地域の実情や特色を踏まえた活動の推進、地域学校協働本部の設置や地域学校協働活動推進員の配置の推進、活動成果の評価と改善などが挙げられる。これらの課題に対応することで、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の連携がさらに強化され、子どもたちの健やかな成長と地域社会の発展に貢献することが期待される。
本稿では、高等教育の質、規模、アクセスを最適化するための戦略について、複数の資料に基づき考察いたします。少子高齢化、グローバル化、技術革新が急速に進展する現代社会において、高等教育機関は、社会を牽引する人材育成の中核を担うとともに、地域社会の活性化や国際競争力の強化に貢献する重要な役割を担っております。そのため、高等教育機関は、教育内容の充実、教育機会の均等化、地域社会との連携強化を通じて、社会の要請に応え、持続可能な発展に貢献していくことが求められます。本稿では、これらの課題に対する具体的な戦略と実現方策について詳細に検討し、高等教育機関が直面する課題を解決するための道筋を示すことを目指します。
高等教育の質を向上させるためには、教育内容と方法、教員の質、学習成果の可視化という三つの側面からの取り組みが必要です。まず、教育内容と方法の改善においては、学生の主体的な学習を促すため、アクティブラーニングや反転授業といった新しい教授法を積極的に導入し、シラバスの内容を充実させる必要があります。例えば、東京大学では、学生が自ら課題を設定し、解決策を探求する「自主ゼミ」や、企業との連携による実践的なプロジェクト学習を導入し、学生の主体的な学びを促進しています。また、厳格な成績評価と卒業認定も重要であり、学生の学修成果を正確に把握し、質の高い教育を提供するための基盤となります。学習支援体制の整備も不可欠であり、学生が安心して学べる環境を整える必要があります。
次に、教員の質の向上は、高等教育の質を保証する上で不可欠です。教員養成段階から、理論と実践の往還を重視した人材育成を行うとともに、現職教員に対する研修を充実させ、常に新しい知識や技能を習得する機会を提供する必要があります。教員の研修履歴を活用し、個々の教員の専門性を高めるための仕組みも重要です。さらに、学修成果の可視化は、学生の成長を促し、教育の質を向上させるための重要な要素です。学修成果を明確に定義し、評価方法を適切に設計するとともに、学生が自身の成長を実感できるようにフィードバックを行う必要があります。評価データを活用するためのデータベースを整備し、教育の改善に役立てることも重要です。これらの取り組みを通じて、高等教育機関は質の高い教育を提供し、社会の期待に応える人材を育成していく必要があります。
高等教育の規模を適正化するためには、地域ニーズに合わせた定員設定と大学間の連携強化、機能別分化を推進する必要があります。まず、地域ニーズに合わせた定員設定を行うことが重要です。地方大学は、地域社会の持続的な発展を牽引する役割を担っており、地域経済や産業構造の変化を踏まえ、人材育成ニーズに対応した定員を設定する必要があります。例えば、地方大学においては、地域の中小企業と連携したインターンシッププログラムや、地域課題解決型のプロジェクト学習を導入し、学生が地域社会のニーズを深く理解し、地域に貢献できる人材を育成する必要があります。
また、大学間の連携強化は、教育資源の有効活用と教育の質向上に不可欠です。複数の大学が連携し、それぞれの強みを生かした教育プログラムを提供することで、学生は多様な学びの機会を得ることができ、地域全体の高等教育の質を向上させることができます。機能別分化を推進することも重要であり、大学、専門職大学、短期大学などの各高等教育機関は、それぞれの特徴を明確にし、専門分野に特化した教育を提供する必要があります。例えば、短期大学は、地域に密着した教育機関としての強みを生かし、地域社会のニーズに対応した専門人材の育成に注力するとともに、4年制大学との連携を強化し、学生の編入学を促進する必要があります.
高等教育へのアクセスを確保するためには、地理的アクセス、多様な学生の受け入れ、経済的負担の軽減、高大接続の強化という四つの側面からの取り組みが必要です。まず、地理的アクセスを確保するためには、地域連携プラットフォームを発展させ、遠隔教育やサテライトキャンパスの設置を推進し、地域に住む人々が平等に高等教育の機会を享受できる環境を整備する必要があります。また、多様な学生の受け入れは、高等教育の活性化に不可欠です。外国人留学生や社会人など、多様なバックグラウンドを持つ学生が学ぶ環境を整備することで、学生間の多様な視点や価値観の交流が促進され、教育の質を向上させることができます。入学選抜方法についても、学力試験だけでなく、面接や自己推薦など多様な評価方法を導入し、学生の個性や能力を多角的に評価する必要があります。
さらに、経済的負担の軽減は、経済的な理由で高等教育を諦める学生を減らすために重要な課題です。授業料の減免制度の拡充、返還不要の奨学金制度の創設、給付型奨学金の増額など、経済的な支援策を充実させる必要があります。そして、高大接続の強化は、高校教育と大学教育のスムーズな連携を促し、高校生が適切な進路選択を行えるようにするために重要です。高校におけるキャリア教育の充実、大学教員による出張講義、高大連携による教育プログラムの開発など、両機関が連携して学生の能力を最大限に引き出す必要があります。これらの戦略を総合的に実施することで、より多くの学生が質の高い高等教育を受けられるようにする必要があるでしょう。
高等教育改革を成功させるためには、財政支援、情報公開、産学連携、国際交流の推進など、包括的な支援策が必要です。まず、財政支援の充実は、高等教育機関が質の高い教育を提供するための基盤となります。公財政支援の充実とともに、寄附金や企業からの投資を促進し、多様な資金調達手段を確保する必要があります。また、情報公開を徹底することで、高等教育機関の透明性を高め、社会からの信頼を獲得する必要があります。教育内容や財務状況に関する情報を公開することは、社会からの評価を高め、高等教育機関の持続的な発展を支える上で重要な役割を果たします。
さらに、産学連携の強化は、高等教育機関が社会のニーズに対応した人材を育成するために不可欠です。企業と大学が共同で研究開発を行い、実践的な教育プログラムを開発することで、学生はより社会で役立つ知識とスキルを習得することができます。また、国際交流の推進は、学生の国際感覚を養い、グローバルな人材を育成するために重要です。海外大学との交流プログラムや留学制度を充実させ、多様な文化や価値観に触れる機会を提供する必要があります。これらの支援策と連携を組み合わせることで、高等教育機関は、質の高い教育を提供し、社会の発展に貢献していくことができるでしょう。
今後の展望として、高等教育機関は、少子高齢化、グローバル化、技術革新といった社会の変化に柔軟に対応し、教育の質、規模、アクセスを常に最適化していく必要があります。大学は、社会との連携を強化し、地域社会の発展を牽引する役割を担うとともに、個々の学生の多様なニーズに対応した教育を提供していくことが求められます。また、教育のデジタル化を推進し、オンライン教育の質を向上させるとともに、対面教育とオンライン教育を組み合わせた効果的な学習環境を構築する必要があります。これらの取り組みを通じて、高等教育機関は、より持続可能な社会の実現に貢献していくことが期待されます。
1. はじめに
近年、教員の長時間労働が社会問題化しており、その改善に向けた取り組みが喫緊の課題となっている。文部科学省は、教員の働き方改革を推進するため、「学校・教師が担う業務に係る3分類」を設定し、各教育委員会における取り組み状況を調査している。本稿では、この調査結果に基づき、各分類における取り組みの現状と課題を分析し、時間外勤務削減に向けたより効果的な推進策について考察する。
2. 教員の勤務実態の現状
教員の勤務実態は、依然として厳しい状況にある。令和5年度の調査によると、小学校教諭の時間外在校等時間が月45時間以下である割合は75%程度、中学校教諭では58%程度にとどまっている。また、幼稚園教諭では92%程度と高いものの、他の職種と比較して客観的な把握が進んでいない実態がある。この長時間労働の背景には、授業準備、部活動指導、保護者対応、事務作業など多岐にわたる業務が存在する。これらの業務を整理し、効率化を図ることが、働き方改革を進める上で不可欠である。
3. 3分類業務の取組状況と課題
文部科学省が提示した「学校・教師が担う業務に係る3分類」は、教員の業務を以下の3つに分類している:
基本的に学校以外が担うべき業務
学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
各分類における具体的な取組状況と課題について、以下に詳述する。
3.1. 基本的に学校以外が担うべき業務
この分類には、登下校時の対応、放課後から夜間における見回り、学校徴収金の徴収・管理、地域人材との連絡調整などが含まれる。これらの業務は、本来、学校以外の主体(地方公共団体、教育委員会、保護者、地域人材等)が担うべきものである。現状では、これらの業務が教員の負担になっているケースが多く、教員の時間外勤務を増加させる要因となっている。
現状:
登下校時の対応は、学校以外の主体が中心に対応する割合が72.6%と最も高いものの、都道府県では47.4%にとどまり、地域差が大きい。
放課後から夜間における見回りや学校徴収金の徴収・管理は、依然として学校や教員が担っている割合が高く、改善の余地が大きい。
地域人材との連絡調整についても、学校職員が直接行うのではなく、地域学校協働活動推進員などが中心となることが求められているが、まだ十分に進んでいない.
課題:
地域連携の不十分さ: 地域や保護者の協力体制が十分でないため、学校に業務負担が集中している。
教育委員会の関与不足: 教育委員会が主体となり、地域や関係機関との連携を強化する必要があるが、十分な関与が見られない。
具体的な役割分担の不明確さ: 誰がどの業務を担うのか、明確な役割分担がされていないため、責任の所在があいまいになっている。
効果的な推進策:
地域協議会の設置: 地域住民、保護者、学校関係者、教育委員会などが参加する地域協議会を設置し、役割分担を明確化する。
共同メッセージの発信: 教育委員会と学校が連携し、地域や保護者に対し、協力要請のための共同メッセージを発信する。
外部委託の推進: 登下校時の見守りや学校徴収金管理などの業務を、民間事業者やNPO法人に委託する。
スクールガードリーダーの活用: スクールガードリーダーの活動を強化し、登下校時の安全確保を地域全体で支える体制を構築する.
3.2. 学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務
この分類には、学校における調査・統計への回答、児童生徒の休み時間における対応、校内清掃、部活動などが含まれる。これらの業務は、必ずしも教師の専門性を必要としないため、事務職員や地域人材、外部指導員などが担うことで、教員の負担を軽減できる可能性がある。
現状:
学校における調査・統計への回答は、事務職員等が中心となって回答するよう促す割合が41.3%にとどまり、依然として教員が対応している割合が高い。
児童生徒の休み時間における対応や校内清掃は、地域人材等の協力を得ている割合がそれぞれ8.0%、19.4%と低い水準にとどまっている.
部活動については、部活動指導員をはじめとした外部の人材の参画を図っている割合が74.4%と比較的高いが、依然として教員の負担となっている.
課題:
事務職員の配置不足: 事務職員の配置が十分でないため、教員が事務作業を兼務している。
地域人材の活用不足: 地域人材の活用が進んでおらず、学校が単独で業務を抱え込んでいる。
外部指導員の専門性不足: 部活動指導員等の外部人材の専門性が十分でない場合、教員が指導に関わらざるを得ない状況がある。
効果的な推進策:
事務職員の増員: 事務職員を増員し、教員が本来の業務に集中できる環境を整備する。
地域人材バンクの設立: 地域人材バンクを設立し、学校が地域人材を容易に活用できる仕組みを作る。
外部指導員研修の実施: 部活動指導員等の外部人材に対し、専門性向上のための研修を実施する。
ICTを活用した業務効率化: 調査・統計への回答などの業務をICT化し、効率化を図る.
3.3. 教師の業務だが、負担軽減が可能な業務
この分類には、給食時の対応、授業準備、学習評価や成績処理、学校行事の準備・運営、進路指導、支援が必要な児童生徒・家庭への対応などが含まれる。これらの業務は、教師の専門性を必要とするが、ICTの活用や外部委託、他の職員との連携によって、負担を軽減することが可能である。
現状:
授業準備や学習評価、成績処理については、サポートスタッフの参画が進められており、一定の成果を上げているものの、まだ改善の余地がある.
学校行事の準備・運営については、事務職員等との連携や一部外部委託が進められているが、十分に浸透しているとは言えない。
進路指導や支援が必要な児童生徒への対応については、専門スタッフとの連携が進められているものの、地域や学校間の格差が大きい.
課題:
ICT環境の整備不足: ICT環境が十分に整備されていないため、ICTを活用した業務効率化が進んでいない。
サポートスタッフの不足: サポートスタッフの配置が不十分なため、教員の負担軽減につながっていない。
専門スタッフの連携不足: 専門スタッフと教員の連携が円滑でないため、効果的な支援ができていない。
効果的な推進策:
ICT環境の整備: 全ての学校にICT環境を整備し、授業準備や成績処理などを効率化するためのシステムを導入する。
サポートスタッフの増員: 授業準備や学習評価などを支援するサポートスタッフを増員する。
専門スタッフとの連携強化: スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門スタッフと教員の連携を強化し、チームで生徒を支援する体制を構築する。
業務分担の明確化: 教員、事務職員、専門スタッフそれぞれの役割分担を明確化し、責任の所在を明らかにする.
4. 取り組み進捗状況に対する効果を上げていくための工夫
3分類の取り組みを進めるにあたり、その効果を最大化するためには、以下の点に留意する必要がある。
PDCAサイクルの確立:
各教育委員会は、現状把握、目標設定、計画実行、効果測定、改善策の実施というPDCAサイクルを確立し、継続的な改善に取り組む必要がある。
目標設定においては、時間外在校等時間の縮減だけでなく、教員のやりがいの向上や心理的ストレスの軽減など、多面的な視点を取り入れることが重要である.
情報公開と共有:
各学校の取り組み状況や教職員の勤務状況を可視化し、地域や保護者へ積極的に情報公開する。
教育委員会は、各学校の好事例を収集し、他の学校と共有する機会を設ける.
管理職の意識改革:
管理職向けの研修を実施し、働き方改革の重要性や具体的な推進方法を理解させる.
管理職自らが率先して働き方改革に取り組み、教職員が働きやすい環境を整備する.
労働安全衛生体制の整備:
ストレスチェックの結果を職場環境改善に活かせるよう、臨床心理士等の専門家を活用する。
教員のメンタルヘルス対策を強化し、安心して働ける環境を整備する.
国・教育委員会・学校の連携:
国は、各教育委員会の取り組みを支援し、必要な財政措置を講じる.
教育委員会は、学校現場の意見を尊重し、柔軟な制度設計を行う.
学校は、教育委員会の支援を受けながら、自主的な働き方改革を推進する.
5. 具体的な成功事例
いくつかの教育委員会では、先進的な取り組みを行い、成果を上げている。
山梨県北杜市立長坂中学校:教職員の月時間外在校等時間を学校だよりやHPで公開し、保護者や地域の理解と協力を得ている。
山梨県教育委員会:県内全ての公立学校の管理職等を対象に「学校の働き方改革フォーラム」を開催し、情報共有と意識改革を図っている.
島根県教育委員会:県内全19市町村教育委員会と連携し、保護者や地域に協力要請のための共同メッセージを発表した.
群馬県前橋市教育委員会:スクールロイヤーの相談体制を充実させ、学校における課題対応の負担を軽減している.
新潟県妙高市教育委員会:市内全中学校の授業時数の見直しと部活動の時間短縮を一体的に実施し、教員の時間外勤務削減につなげている.
岐阜県教育委員会: 共有フォルダを活用し、学校への事務連絡等に係るメール発送件数を削減している.
宮崎県日南市教育委員会:域内全小・中学校への時差出勤制度を導入し、教職員の柔軟な働き方を推進している.
愛媛県教育委員会、県内20市町教育委員会: ICTを活用した問題作成・採点システムを導入し、教師の成績処理に係る負担を軽減している.
福岡市教育委員会: 勤務間インターバル制度を導入し、教員の休息時間確保に努めている.
これらの事例は、地域の実情に合わせて柔軟な取り組みを行うことで、働き方改革を効果的に進めることができることを示唆している。
6. まとめ
教員の働き方改革は、教員の負担軽減、ひいてはより質の高い教育を提供するために不可欠な取り組みである。本稿では、「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づき、現状の課題と効果的な推進策について考察した。今後は、各教育委員会が、それぞれの地域の実情を踏まえながら、PDCAサイクルを確立し、継続的な改善に努めることが重要である。また、国、教育委員会、学校、地域が連携し、社会全体で教員の働き方改革を支えていく必要がある。
2024/12/29 教員の不適切な指導に関する実態、原因と対策に関する考察
#1. はじめに
近年、教員の不適切な指導が社会的な問題として注目を集めています。体罰、不適切な言動、性的なハラスメントなど、その内容は多岐にわたり、子どもたちの心身の成長に深刻な影響を与える可能性があります。本稿では、文部科学省の調査結果に基づき、教員の不適切な指導の実態を具体的に分析し、その背景にある原因を考察します。さらに、不適切な指導を根絶するための具体的な対策について提言し、教育現場におけるより質の高い指導の実現を目指します。
#2. 教員の不適切な指導の実態
#2.1. 懲戒処分等の状況
文部科学省の「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、教員の不適切な指導による懲戒処分等の状況は以下の通りです。
体罰による懲戒処分等:397人 (全教育職員の0.04%)
不適切指導による懲戒処分等:418人 (全教育職員の0.04%)
性犯罪・性暴力等による懲戒処分等:241人(全教育職員の0.03%)
うち、児童生徒性暴力による懲戒処分:119人 (全教育職員の0.01%)
これらの数値から、体罰、不適切指導、性犯罪・性暴力といった行為が、依然として教育現場で発生していることがわかります。特に、体罰と不適切指導は、件数も多く、問題の深刻さを物語っています。また、児童生徒に対する性暴力は、子どもたちの心に深い傷を与える行為であり、絶対に許されるものではありません。
# 2.2. 精神疾患による病気休職者数
教員の精神的な健康状態も、不適切な指導の背景にある要因の一つとして考慮する必要があります。同調査によると、精神疾患による病気休職者数は、令和4年度に6,539人(全教育職員数の0.71%)に達し、過去最多となっています。これは、教員の職務におけるストレスや負担が非常に大きいことを示唆しています。
#3. 不適切な指導が生じる原因と背景
#3.1. 教員のストレスと負担
教員は、授業の準備や実施、生徒指導、保護者対応、事務作業など、多岐にわたる業務を抱えています。これらの業務は、時間的にも精神的にも大きな負担となり、教員のストレスを高める要因となります。特に、近年は、生徒の多様化や保護者の要求の高度化など、教員を取り巻く環境が複雑化しており、教員の負担はさらに増大していると考えられます。
#3.2. 指導力不足
教員の中には、十分な指導力や生徒理解が不足しているケースも見られます。特に、経験の浅い教員や、研修機会が少ない教員は、生徒とのコミュニケーションやクラス運営に苦労することがあります。また、生徒の発達段階や個性を理解せず、一方的な指導を行うことで、生徒との間に摩擦が生じ、不適切な指導につながることもあります。
#3.3. 倫理観の欠如
一部の教員には、倫理観が欠如しているケースも見られます。性的なハラスメントや体罰は、教員としての倫理観が欠如していることによって生じることがあります。また、教員としての責任感や使命感が薄れている場合、生徒に対して不適切な言動をとる可能性が高まります。
#3.4. 組織的な問題
教育現場の組織的な問題も、不適切な指導を生む要因となります。例えば、教員間のコミュニケーション不足や、管理職の指導力不足、学校全体のハラスメントに対する意識の低さなどが挙げられます。また、問題が発生した場合でも、学校が積極的に対応しない場合、不適切な指導が放置され、深刻化する可能性があります。
#4. 指導が不適切な教員を生まないための具体的な取組
#4.1. 教員のメンタルヘルス支援の強化
教員のストレスや負担を軽減するために、メンタルヘルス支援を強化する必要があります。具体的には、相談窓口の設置、カウンセリングの実施、研修機会の提供などが考えられます。また、教員の業務負担を軽減するために、ICTの導入や外部人材の活用なども検討すべきです。
# 4.2. 教員の指導力向上のための研修の充実
教員の指導力向上のために、研修機会を充実させる必要があります。具体的には、生徒指導、コミュニケーション、発達心理学など、教員に必要な専門知識やスキルを習得できる研修プログラムを開発・提供することが重要です。また、経験豊富な教員が、若手教員を指導・育成するメンター制度の導入も有効です。
# 4.3. 倫理観の醸成
教員の倫理観を醸成するために、研修や啓発活動を積極的に行う必要があります。性的なハラスメントや体罰に関する研修を定期的に実施し、教員としての倫理観や責任感を高めることが重要です。また、教育現場におけるハラスメント防止のためのガイドラインを策定し、教員全体で意識を共有することも必要です。
# 4.4. 組織的な対応
不適切な指導が発生した場合、学校が組織的に対応する必要があります。具体的には、ハラスメント相談窓口の設置、第三者委員会の設置、懲戒処分の適切な実施などが考えられます。また、学校全体でハラスメント防止に対する意識を高めるために、教員研修や生徒への啓発活動を定期的に行うことが重要です。
#4.5. 管理職の指導力向上
管理職は、学校全体の教育の質を向上させるために、重要な役割を担っています。管理職の指導力向上のために、研修やコーチングを実施し、リーダーシップやマネジメント能力を高める必要があります。また、管理職は、教員の相談に親身に耳を傾け、教員が働きやすい環境を整備することが求められます。
#4.6. 特別支援教育に関する経験の把握と活用
管理職選考において、特別支援教育に関する経験を把握・管理し、選考に考慮する教育委員会の数はまだ少ない状況です。特別支援教育に関する知識や経験を持つ管理職を増やすことは、多様な生徒に対応できる教育現場を形成する上で重要です。
#5. おわりに
教員の不適切な指導は、子どもたちの成長を阻害する深刻な問題です。本稿では、文部科学省の調査結果に基づき、教員の不適切な指導の実態を具体的に分析し、その背景にある原因を考察しました。また、不適切な指導を根絶するための具体的な対策について提言しました。これらの対策を教育現場で実践し、子どもたちが安心して学べる環境を整備することが、我々大人の責務です。今後も、教員の不適切な指導に関する問題意識を持ち続け、より良い教育の実現に向けて努力を続けることが求められます。
特に、「教員のメンタルヘルス支援の強化」のためには、学校内外で起こる業務事案の検討、特にメンタルヘルスの行きつく先は、多くの諸問題(パワーハラスメントなどのハラスメント行為、意図的な疎外、保護者間トラブル、児童生徒に指導・支援が落ちていかない)の行きつく終着は、
「人間関係」
であると感じます。
子どもたちの縮図が、大人の集団にもあるわけです。
感じています。
困ったとき、仕事にハリを付けたいとき、ぜひ一度覗いてみてください。お気軽に。
https://sites.google.com/view/teachers--escort/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
2024/12/26 次期学習指導要領における教育改革の展望
次期学習指導要領における教育改革の展望は、現行の課題を克服し、より質の高い教育の実現を目指すものです。生徒が根拠に基づき他者に明確に説明することや自律的な学習への自信が不足している現状、社会参画意識や将来の夢を持つ割合の低さ、現行指導要領の理念浸透の遅れ を踏まえ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が図られます。これは、生徒一人ひとりの学習進度や関心に応じた指導と、多様な他者との協働を通じて学びを深めることを重視するという方向になることでしょう。
また、情報活用能力の抜本的向上も重要な柱です。急速なデジタル技術の進展に対応し、単なるデジタル機器の操作だけでなく、情報の真偽を見抜き、適切に活用し、発信する能力の育成を目指します。 小学校から高等学校まで一貫した体系的な育成と情報モラル、メディアリテラシーの強化を図り、GIGAスクール構想で整備されたデジタル学習基盤を効果的に活用します。デジタル教科書の積極的な活用や教科書自体の内容の見直しも進められるでしょう。
学習指導要領の構造化と柔軟性の向上も重視されます。各教科の目標・内容を中核概念を中心に構造化し、教員が授業の本質を捉えやすくすると共に、教育課程実施に伴う負担軽減を目指します。学習指導要領の記述は柔軟になり、教員が各学校の実情に応じて創造的な授業を展開できるようになります。具体的には、教科間の関連性を明確にするために表形式を活用したり、学習指導要領や解説などをデジタル化し、教員が一体的に確認できるようにするなどの工夫を行うことで、使いやすさやアクセシビリティの向上が図られます。
さらに、社会との連携を重視した開かれた教育課程が推進されることと思います。「社会に開かれた教育課程」をより一層推進するため、地域や家庭との連携・協働を強化します。学校教育が社会の変化に柔軟に対応し、子供たちが実社会で活躍するために必要な資質・能力を育成するために、学校と社会が連携することの重要性が増しているためです。具体的には、民間企業等勤務経験者の専門的な知識・経験を活かすために特別非常勤講師制度を活用したり、地域の人的資源や施設を活用したりして、地域社会全体で子供たちを育成するという意識を醸成します。 また、学校教育全体でキャリア教育を推進し、子供たちが「自分のがんばりで学級や学校をよりよくすることができる」と実感できるように活動の充実や指導の改善を図ります。
これらの改革を通じて、子供たちが未来社会を生き抜くために必要な力を育成し、より良い社会を創るための重要な一歩となることが期待されます。これらの改革が、教育現場で適切に実施され、継続的に改善されることで、日本の教育は新たな段階に進むでしょう。
2024/12/20 休み時間における校内暴力と命に関わる事案への対応と予防
近年、学校現場における児童生徒の問題行動は多様化・複雑化しており、特に休み時間中の校内暴力や児童生徒の自殺といった命に関わる事案は、学校関係者にとって深刻な課題となっています。これらの問題は、単に個々の児童生徒の行動の問題として捉えるのではなく、学校全体、さらには家庭や地域社会を含めた多角的な視点からの理解と、組織的な対応が不可欠です。本稿では、これらの問題の現状と背景を分析し、具体的な対応策と予防策について、私見ながら以下考察します。
文部科学省の調査によると、学校内外における暴力行為の発生件数は依然として高い水準で推移しており、特に学校内における生徒間暴力は深刻な問題です。休み時間は、教員の目が届きにくく、児童生徒間のトラブルが発生しやすい時間帯であり、暴力行為が発生しやすい状況にあります。暴力行為の背景には、様々な要因が考えられます。まず、児童生徒のコミュニケーション能力の低下が挙げられます。自分の気持ちをうまく表現できない、他人の気持ちを理解できないといったコミュニケーションの困難さが、暴力という形で表出されることがあります。また、家庭環境の問題も無視できません。家庭内での不適切な養育や暴力が、児童生徒の行動に影響を与えていることもあります。さらに、学校内の人間関係、特にいじめの問題も暴力行為の大きな要因となります。いじめられている児童生徒が、ストレスや怒りを暴力という形で発散してしまう場合や、いじめている側が、優位性を誇示するために暴力を用いる場合もあります。また、学校の管理下における暴力行為発生率も問題です。暴力行為は、小学校から高等学校まで全ての学校段階で発生しており、特に中学校における発生率が高い傾向にあります。さらに、学校の管理下以外でも暴力行為が発生しており、学校外の暴力行為についても注意が必要です。学校内外を問わず、児童生徒が安心して過ごせる環境を整備することが重要です。
===児童生徒の自死===
近年、児童生徒の自殺は増加傾向にあり、深刻な社会問題となっています。令和4年度の調査では、小・中・高等学校から報告のあった自殺した児童生徒数は411人と、依然として高い水準にあります。児童生徒の自殺の原因は、一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。自殺の背景には、家庭環境、友人関係、学業不振、進路への不安、いじめなど、様々な要因が考えられます。また、精神的な問題を抱えている児童生徒も少なくありません。特に、新型コロナウイルス感染症の影響で、学校生活や家庭環境が大きく変化し、子供たちの行動にも大きな影響を与えていることが指摘されています。人と人との距離が広がる中で、不安や悩みを相談できない子供たちがいる可能性があり、子供たちの不安や悩みが従来とは異なる形で現れたり、一人で抱え込んだりする可能性があることにも考慮する必要がある。さらに、教職員による体罰や不適切な指導も、自殺の要因となる可能性があることが、令和4年度の調査で新たに項目が追加され、示唆されています。教職員は、児童生徒の些細な変化も見逃さず、早期にSOSをキャッチし、適切な支援を行う必要があります。
暴力行為や自殺といった命に関わる事案に対応するためには、学校全体で組織的な体制を構築する必要があります。まず、生徒指導部を中心に、学校いじめ対策組織、進路指導部、特別支援教育部、教育相談部など、各部署が連携して対応にあたる必要があります。具体的な対応としては、以下の点が挙げられます。早期発見・早期対応として、児童生徒の日常の行動を注意深く観察し、暴力行為や自殺の兆候を早期に発見することが重要です。児童生徒が発するSOSに気づくために、教職員間の情報交換を密に行う必要があります。また、児童生徒が気軽に相談できるような環境づくりも大切です。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの専門家を活用し、教育相談体制を充実させる必要があります。アセスメントと個別支援として、問題行動を起こした児童生徒や、自殺の危険性のある児童生徒に対しては、個別の状況に応じたアセスメントを行い、適切な支援計画を立てる必要があります。児童生徒の課題に関連する問題状況や緊急対応を要する危機の程度等について情報を収集・分析・共有し、課題解決に有効な支援仮説を立て、支援目標や方法を決定するための資料を提供し、チーム支援の必要性と方向性を判断する必要がある。関係機関との連携として、児童生徒の問題行動や自殺に関する問題は、学校だけで解決できるものではありません。医療機関、警察、児童相談所、少年サポートセンター、NPO法人など、様々な関係機関と連携し、多角的な支援を行う必要があります。緊急対応として、暴力行為が発生した場合や、児童生徒が自殺を図った場合には、速やかに適切な緊急対応を行う必要があります。被害を受けた児童生徒のケアと回復支援、加害児童生徒への指導を迅速に行う必要があります。記録と情報共有として、対応の経過や結果を記録し、関係者間で情報を共有することで、今後の対応に役立てることが重要です。再発防止策として、問題行動や自殺が発生した場合には、再発防止策を検討し、学校全体で取り組む必要があります。
そのためには、ゲートキーパーとなる先生を人事的に決定するのではなく、また1人に任せるのではなく、心と心でしっかり子どもと向き合い、情のこもった共感的理解ができる、そのようなスキルの教員が、深く、継続的にかかわることが何よりの対策と、私は思います。
暴力行為や自殺を予防するためには、以下の様な取り組みが重要となります。発達支持的な生徒指導として、全ての児童生徒を対象として、自己肯定感を高め、他者を尊重する心を育むような教育を行う必要があります。児童生徒が、自分の存在意義を実感し、安心して学校生活を送れるような環境づくりが大切です。具体的には、自己存在感の感受、共感的な人間関係の育成、自己決定の場の提供、安全・安心な風土の醸成を意識した授業づくりを進めることが大切です。課題未然防止教育として、暴力行為や自殺をテーマにした授業やイベントなどを実施し、児童生徒の理解を深める必要があります。特に、いじめ防止に関する教育を徹底し、いじめは決して許されない行為であることを理解させることが重要です。また、コミュニケーション能力向上のためのプログラムも効果的です。キャリア教育の充実として、将来の夢や目標を持たせることで、児童生徒の自己実現を促し、生きる意欲を高める必要があります。キャリア教育は、生徒指導と密接な関係にあり、自己の生き方を見つめさせ、将来の夢や進路目標を明確にすることが重要です。学校行事の活用として、学校行事は、児童生徒が協力し、達成感を味わえる機会であり、集団への所属感や連帯感を深めることができます。学校行事を通して、生徒指導の実践上の視点を生かすことができます。教職員の研修として、教職員は、生徒指導に関する専門的な知識やスキルを習得する必要があります。定期的に研修会を実施し、暴力行為や自殺の兆候を見抜く力、児童生徒への適切な対応方法を学ぶ必要があります。また、教職員自身がストレスを抱えないように、メンタルヘルスに関する研修も重要です。家庭や地域社会との連携として、学校だけで問題解決を図ることは困難です。家庭や地域社会との連携を密にし、児童生徒の成長を支える体制を構築する必要があります。子育て世帯への包括的な支援も重要です。児童生徒の意見の尊重として、児童生徒が意見を述べたり、他者との対話や議論を通じて考える機会を持つことは重要です。例えば、校則の見直しを検討する際に、児童生徒の意見を聴取する機会を設けたり、児童会・生徒会等の場において、校則について確認したり、議論したりする機会を設けることが考えられます。
学校における暴力行為や自殺は、単に学校という空間内での問題として捉えるのではなく、児童生徒を取り巻く社会環境全体の問題として捉え、学校、家庭、地域社会が一体となって取り組む必要があります。児童生徒一人ひとりが、自らの存在意義を実感し、安心して過ごせる学校づくりを目指し、発達支持的な生徒指導を基盤とした、組織的で多角的なアプローチを継続的に実施していくことが求められます。また、いじめや暴力行為は児童生徒の人権を侵害する行為であり、教職員は児童生徒の命を守るという当たり前の姿勢を貫くことが大切です。
適切な「見取り」対応と予防策を講じることで、休み時間における暴力行為を減少させ、命に関わる事案を未然に防ぐことができると信じます。
諸外国の動向や研究開発学校の事例は、日本の教育改革、特にデジタル学習基盤の活用と融合させることで、以下の点で貢献すると考えられます。
諸外国の教育改革、特にデジタル技術を活用した成功例や課題を分析することで、日本におけるデジタル学習基盤の効果的な活用方法を検討する際の具体的なモデルケースとして参考になる。
例えば、論点整理では、カナダや韓国のカリキュラム・スタンダードにおいて、表形式を活用し中核的な概念を分かりやすく構造化している点が好事例として挙げられています。 これらの国では、デジタル技術を活用した教育プラットフォームも整備されており、学習指導要領とデジタル教材が有機的に連携していると考えられます。
日本でも、諸外国の事例を参考に、デジタル学習基盤と連動した学習指導要領の構造化や、デジタル教材の開発・普及を促進することで、教員の負担軽減、学習内容の深い理解、個別最適化された学びの実現などが期待できます。
研究開発学校におけるデジタル学習基盤活用の実践事例は、他の学校が同様の改革に取り組む際の具体的な参考モデルとなる。
例えば、東京都目黒区では、40分授業午前5時間制と探究学習を組み合わせた教育課程を編成し、デジタル学習基盤を活用した個別最適な学びと協働的な学びを促進しています。
愛知県春日井市では、「情報の時間」を創設し、デジタル学習基盤を活用した実践的な情報教育を通して情報活用能力の育成に注力しています。
これらの事例は、デジタル学習基盤を活用した柔軟な教育課程編成の可能性と、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実 を目指す具体的な方法を示しており、他の学校がデジタル学習基盤導入の効果を最大化するための参考になる。
諸外国、特に先進国の教育改革の動向、特にデジタル化への対応や教育政策などを知ることで、日本の教育関係者は、自国の教育の現状や課題を国際的な視点から客観的に認識し、デジタル時代に対応した教育改革の必要性を強く意識するようになる。
特に、生成AIのような急速に進化する先端技術が教育に与える影響や、グローバル化が加速する社会で求められる資質・能力の変化、デジタルリテラシーの重要性などについて、海外の事例から学ぶことは多い。
諸外国の教育改革の取り組みや成果、特にデジタル学習基盤を活用した教育の成功事例を見ることで、日本の教育関係者は、従来の教育方法や考え方にとらわれず、新しい教育の可能性を模索する意欲を高めることができる。
研究開発学校におけるデジタル学習基盤を活用した革新的な取り組みは、他の学校の教員や教育委員会に刺激を与え、デジタル時代に対応した教育改革への積極的な参加を促す効果がある。
特に、研究開発学校が、地域社会や企業と連携し、デジタル学習基盤を活用して実践的な学習機会を提供する事例は、社会に開かれた教育課程の重要性を示しており、他の学校の模範となる。
また、研究開発学校での実践を通して得られた知見やノウハウを、他の学校に共有することで、デジタル学習基盤の効果的な活用方法を普及させることができます。
諸外国の教育改革における成功事例、特にデジタル技術を活用した教育の成果は、日本におけるデジタル化を推進する教育改革に対する社会全体の理解と支持を得るための説得力を持つ。
特に、デジタル学習基盤を活用した教育による学力向上、社会への適応力向上、個別最適化された学びによる学習意力の向上などの具体的な成果を示すことで、教育改革の意義を社会に広く理解してもらうことができる。
また、諸外国の事例を紹介することで、日本の教育改革が世界的な潮流に沿ったものであることを示し、デジタル化に対する国民の不安を払拭し、安心感を高めることができる。
研究開発学校は、教育改革の成果、特にデジタル学習基盤を活用した教育の成果を社会に発信し、その意義を広く理解してもらうための重要な役割を担っている。
特に、公開授業や成果発表会などを通じて、研究開発学校は、地域社会や保護者に、デジタル技術を活用した新しい教育の姿を具体的に示すことができる。
これらの活動を通じて、社会全体がデジタル化による教育改革に関心を持ち、積極的に支援する機運を高めることができる。
デジタル学習基盤活用の課題と展望
論点整理では、デジタル学習基盤活用の課題として、ICTツールが「深い学び」に繋がっていない例や、教師の指導ツールとしての側面に偏っている点が指摘されています。 これらの課題を克服し、デジタル学習基盤の効果を最大限に発揮するためには、以下の点が重要になります。
学習指導要領におけるデジタル学習基盤の位置付けを明確化し、各教科等における具体的な活用方法を示す。
デジタル学習基盤を活用した質の高い教材の開発・普及を促進し、教師が効果的に活用できる環境を整備する。
教員のデジタルリテラシー向上のための研修などを充実させ、指導力向上を支援する体制を構築する。
保護者や地域社会への情報発信を強化し、デジタル化による教育改革への理解と協力を得る。
結論として、諸外国の動向と研究開発学校の事例は、日本の教育改革、特にデジタル学習基盤の活用を推進する上で、具体的な方向性と方法の提示、教育関係者の意識改革の促進、社会全体の理解と支持の拡大に貢献すると考えられます。 デジタル学習基盤を効果的に活用することで、子供たちの資質・能力を育成し、Society 5.0時代を生き抜く力を育むことが期待されます。
2024/12/05 日本の理数科教育:国際的な高水準と更なる向上への取り組み
TIMSS2023の質問調査結果から、日本の理数科教育は、国際的に高い水準を維持しており、今後の更なる向上が期待される分野であることがわかります。
「世界トップレベルの成績」
日本の児童生徒は、TIMSS2023において高い成績を収めています。特に小学校4年生の算数では、世界トップレベル**の成績を収めており、625点以上の高得点層の割合が32%と国際中央値よりも高い水準にあります。これは、日本の理数科教育が質の高い教育を提供し、国際的な競争力を持つ人材を育成することに成功していることを示す強力なエビデンスと言えるでしょう。
「高い平均得点」
中学校2年生の数学においても、シンガポール、台湾、韓国に次いで4位という高い順位を維持しています。 さらに、小学校4年生と中学校2年生は、算数・数学、理科ともに、引き続き高い平均得点を維持しており、国際平均点を大きく上回っています。
「優れた認知能力」
日本は「内容領域別平均得点」「認知的領域別平均得点」を見ても、国際的に高いレベルにあります。 これは、日本の児童生徒が、理数科の知識を習得するだけでなく、それを応用し、推論する能力も高いことを示唆しています。
日本の理数科教育は、日常生活や社会との関連性を重視した学習指導要領に基づき、充実した実験や探究活動を通して、児童生徒の思考力、判断力、表現力を育成することに力を入れています。 その結果として、TIMSS2023で示されたような高い学力を獲得できていると考えられます。
しかし、一方で、算数・数学や理科を「得意だ」と思う児童生徒の割合は減少傾向にあり、国際比較においても、日本の児童生徒の数学・理科に対する興味関心は、依然として国際平均を下回っています。
これらの課題を克服し、日本の理数科教育をさらに向上させるためには、以下のような取り組みが重要となります。
「主体的・対話的で深い学びの促進」
児童生徒が自ら課題を設定し、解決するプロセスを重視した授業を展開することで、学習意欲を高め、深い理解を促進することができます。
「ICTを活用した学習の推進」
GIGAスクール構想によって整備されたICT環境を積極的に活用し、個別最適化された学習や、よりインタラクティブな学習を実現することで、学習効果を高めることができます。
「理数系分野における多様なロールモデルの提示」
理系分野で活躍する人々との交流機会を設けることで、児童生徒の将来像を具体的に描き、学習意欲を高めることができます。 特に、女子生徒に対しては、理系分野に進んだ女性のロールモデルを紹介することで、理系分野への進学を促進することができます。
これらの取り組みを積極的に推進することで、日本の理数科教育は更なる高みを目指し、国際社会においてもより一層輝きを増していくことが期待されます。
小学校と中学校における自由進度学習は、共通点として、子供たちの主体的な学びを促進し、自己決定能力や学習意欲を高める効果が期待できるという点が挙げられます。 これは、子供たちが自分のペースで学習を進め、理解を深めることができるためです。 例えば、ソースでは、小学校の自由進度学習において、児童が「計画する力、友達に聞く力、友達と協力する力」を身につけ、社会に出てからも役立つと感じている様子が報告されています。 また、中学校の自由進度学習においても、生徒が自ら学び方について考え、試行錯誤しながら学習を進めている姿が見られています。
一方、小学校と中学校における自由進度学習には、子供たちの発達段階や学習内容、学習環境の違いから、いくつかの相違点も存在します。 小学校段階では、具体的な操作や体験を通して学ぶことが重視されるため、自由進度学習においても、多様な教材や教具を活用し、児童の興味関心を引き出す工夫がより重要となります。 ソースでは、小学校の自由進度学習において、思考や表現を促す多様な教材や環境が独自に開発されている様子が伺えます。 一方、中学校段階では、抽象的な思考や論理的な思考が求められるようになり、学習内容も複雑化します。 したがって、自由進度学習においても、生徒の理解度や学習進度に合わせた適切な指導や支援、そして、生徒同士が教え合ったり、学び合ったりする環境の整備がより一層重要となります。
さらに、自由進度学習を効果的に実施するためには、両段階において、教師の役割が非常に重要となります。 教師は、子供たち一人ひとりの学習状況を把握し、適切な教材や学習方法を提示する必要があります。 また、学習の進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて個別指導やグループ指導を行うことも求められます。 ソースでは、中学校の自由進度学習において、教師が生徒理解を進め、教科関係なく共通の取り組みとして進められるように「人的環境」作りに力を入れている様子が報告されています。 自由進度学習は、子供たちの主体的な学びを促進し、自己決定能力や学習意欲を高める効果が期待できる一方、発達段階や学習内容、学習環境の違いを考慮した適切な指導や支援、そして教師の積極的な関与が不可欠です。
デジタル教科書は、日本の教育現場において、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る上で重要な役割を担うとされています。本考察では、デジタル教科書の導入状況、活用における課題、そして今後の推進策について検討します。
現状では、デジタル教科書の利用は各教科等の授業時数の2分の1未満という制限が撤廃されており、本格的な導入に向けて段階的に進められています。
当面の目標としては、小学校5年生から中学校3年生を対象に、英語と数学から導入が始まり、デジタルと紙の教科書を併用していく方針です。
1. 通信ネットワークの整備不足
デジタル教科書の活用には、安定した高速な通信ネットワークが不可欠です。
しかし、現状では、全国の学校において、「当面の推奨帯域」を満たす学校はわずか2割程度にとどまっており、通信ネットワークの整備が大きな課題となっています。
また、通信ネットワークが不十分であるにもかかわらず、現状を把握するためのアセスメントを実施していない自治体も存在し、早急な改善が必要です。
対策:
国は、学校施設環境改善交付金を活用し、校内のネットワーク環境整備を支援しています。自治体は、この交付金を積極的に活用し、ネットワークアセスメントの実施、機器の入れ替えや設定変更、回線契約の切り替えなどを進める必要があります。
また、文部科学省、総務大臣、デジタル大臣は、電気通信事業関連4団体に対して、教育委員会等が学校規模等に対応した広帯域の通信サービスを適切に選択できるよう協力を要請しています。
2. 教師の情報活用能力の不足
デジタル教科書を効果的に活用するためには、教師自身が情報活用能力を高め、デジタル技術を授業に効果的に組み込むための指導力が必要です。
しかし、現状では、情報活用能力の位置づけや、それを育成するための学習活動の必要性について、学校現場の理解が十分に得られているとは言えない状況です。
対策:
教師の情報活用能力向上のための研修を充実させる必要があります。
特に、情報活用能力と問題発見・解決能力や言語能力との関係、指導すべき内容やレベルなど、具体的な指導方法について研修を行う必要があります。
また、1人1台端末とクラウド環境の日常的な活用を前提とした、具体的な指導事例を共有する場を設けることも有効です。
3. デジタル教科書活用の効果的な指導方法の確立
デジタル教科書は、従来の紙の教科書とは異なる特性を持つため、その特性を活かした効果的な指導方法を確立する必要があります。
例えば、児童生徒が自ら学習を進めるための個別最適な教材の選択、クラウド環境を活用した他者参照による学びの深化など、デジタル教科書ならではの指導方法を開発していく必要があります。
対策:
デジタル教科書の効果的な活用方法に関する研究を進め、実践事例を共有する必要があります。
教師同士が、デジタル教科書を活用した授業のアイデアや課題を共有し、共に学び合う場を設けることも重要です。
4. 教育データの利活用
デジタル教科書は、児童生徒の学習状況や理解度に関するデータを収集・分析できるという利点があります。
しかし、これらのデータをどのように教育活動に活かしていくか、具体的な方法や体制がまだ十分に確立されていません。
対策:
教育データの利活用に関するガイドラインを整備し、プライバシー保護など倫理的な側面にも配慮しながら、データを適切に分析・活用するための研修を行う必要があります。
また、学校全体で教育データの利活用を推進するための体制を構築し、データに基づいた教育改善を継続的に行っていく必要があります。
1. デジタル学習基盤の更なる整備
デジタル教科書の効果的な活用には、1人1台端末、高速通信ネットワーク、クラウド環境など、デジタル学習基盤の整備が不可欠です。
引き続き、国は財政支援を行い、自治体は地域の実情に合わせて、これらの整備を進める必要があります。
2. 教師の指導力向上と働き方改革の推進
デジタル教科書を効果的に活用するためには、教師の指導力向上と働き方改革の両立が重要です。
研修の充実や校務支援システムの導入など、教師が指導に専念できる環境を整備する必要があります。
また、外部人材の活用による業務負担の軽減も有効な手段です。
3. 地域間格差の解消
デジタル教科書の導入状況や活用状況には、地域間で格差が生じているという課題があります。
国は、財政支援や情報提供などを通して、地域間格差の解消を図る必要があります。
4. 持続可能な教育体制の構築
デジタル教科書の導入は、単なる教材のデジタル化にとどまらず、教育の質向上、不登校対策、教師の働き方改革など、様々な教育課題解決への貢献が期待されています。
これらの課題解決に向けて、デジタル教科書を中核とした持続可能な教育体制を構築していく必要があります。
5. 保護者や地域の理解促進
デジタル教科書の導入や活用には、保護者や地域の理解と協力が不可欠です。
学校は、説明会や公開授業などを通して、デジタル教科書のメリットや具体的な活用方法を積極的に発信していく必要があります。
デジタル教科書は、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る上で、大きな可能性を秘めています。今後、上記のような課題を克服し、効果的な活用を推進していくことで、子供たちの資質・能力の育成、そしてよりよい社会の創造に大きく貢献することが期待されます。
近年、児童生徒による暴力行為は深刻な問題となっており、文部科学省による調査では、令和5年度において、小学校、中学校、高等学校で合わせて24,725件もの暴力行為が発生しました。 特に深刻なのは、小学校における暴力行為の増加傾向です。令和元年度と比較すると、令和5年度の小学校における暴力行為発生件数は約1.5倍に増加しており、1,000人当たりの発生件数も増加しています。 これらの数字は、学校現場における暴力行為の深刻さを示すものであり、早急な対策が求められています。
暴力行為の増加の背景には、様々な要因が考えられます。例えば、家庭環境の変化や社会的なストレスの増加、インターネットやスマホの普及によるコミュニケーションの変化などが挙げられます。 また、学校現場における指導体制の不足や、地域社会との連携の不足も指摘されています。 児童生徒を取り巻く環境が複雑化している現代において、暴力行為を未然に防ぎ、健全な成長を促すためには、学校、家庭、地域社会が一体となって取り組むことが重要です。
今後の対策としては、「未然防止」「早期発見・早期対応」「課題解決」という3つの観点からのアプローチが重要となります。 まず、「未然防止」の観点からは、学校における指導体制の強化、道徳教育の充実、保護者との連携強化などが挙げられます。 また、「早期発見・早期対応」の観点からは、児童生徒の日常的な観察の強化、SOS を受け止める体制づくり、関係機関との連携強化などが重要となります。 そして、「課題解決」の観点からは、暴力行為を起こした児童生徒への適切な指導、被害を受けた児童生徒へのケア、再発防止に向けた環境整備などが求められます。 これらの対策を効果的に推進するためには、学校全体で共通理解を図り、組織的な取り組みを進めていくことが不可欠です。
令和5年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果を踏まえ、不登校の児童生徒の増加要因と必要となる対策について、小学校と中学校それぞれの場合についてより具体的に分析します。
(1) 不登校増加の要因
「病気」を理由とする長期欠席の増加: 令和5年度の調査において、小学校では「病気」を理由とする長期欠席児童生徒数が前年度より大幅に増加しています。これは、微熱や咳などの軽い症状でも、新型コロナウイルス感染症への警戒から大事をとって欠席する児童生徒や、保護者が欠席させるケースが増加していることが要因の一つと考えられます。
(2) 対策
① 病気による欠席への対応
健康観察の徹底と適切な判断: 教職員は、児童の健康状態をこれまで以上に注意深く観察し、発熱や咳などの症状が見られる場合は、速やかに保護者に連絡を取り、医療機関への受診を促す必要があります。その際、新型コロナウイルス感染症への過度な不安から安易に欠席を促すのではなく、医師の診断に基づいた適切な判断を保護者と共有することが大切です。
保護者への啓発活動: 学校は、保護者向けの説明会や文書を通して、病気による欠席に関する学校の考え方や対応、家庭での健康管理の重要性などを丁寧に説明する必要があります。保護者の不安を軽減し、学校と家庭が連携して子供の健康を守ることができるよう、積極的な情報提供と対話が必要です。
② 学校における支援体制の充実
スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の専門スタッフの活用: 児童生徒の抱える問題は多様化しており、教員の専門性のみでは対応が困難なケースが増えています。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、専門的な知識やスキルを持つスタッフの配置を拡充し、児童生徒の様々な悩みに対応できる体制を整える必要があります。
多様な専門性を持つ人材との連携: 近年、複雑化・多様化した児童生徒のニーズに対応するため、従来の専門職の枠組みを超えて、地域にある社会資源を学校に迎え入れ、社会全体で児童生徒の学びと育ちを支えることが求められています。 地域の臨床心理士やソーシャルワーカー、精神科医などと連携し、必要に応じて専門的な支援を受けられる体制を構築することも重要です。
③ 外部機関との連携強化
医療機関、教育支援センター等との連携: 学校だけでは対応できない深刻な問題を抱える児童生徒に対しては、医療機関や教育支援センター等と連携し、適切な支援につなぐ必要があります。
地域の関係機関との継続的な連携体制の構築: 日頃から地域の関係機関と情報交換や合同研修などを行うことで、顔の見える関係を築き、緊急時にもスムーズに連携できる体制を構築しておくことが重要です。
④ 保護者への支援
相談窓口の設置: 保護者の中には、子供の不登校について誰に相談すればよいか分からず、一人で抱え込んでしまうケースも少なくありません。学校は、保護者向けの相談窓口を設置し、いつでも気軽に相談できる体制を整える必要があります。
情報提供: 不登校に関する正しい知識や、学校や地域における支援情報などを、ホームページや文書等を通して積極的に提供することで、保護者の不安や負担を軽減することができます。
(1) 不登校増加の要因
「学校における人間関係」の課題: 中学校においては、「学校における人間関係」に課題を抱えていることを理由とする不登校生徒の割合が、小学校と比べて高い数値を示しています。これは、中学校という新たな環境に進み、複雑化する人間関係に適応できない生徒が増えていること、思春期特有の心の揺れ動きが影響していることなどが考えられます。
「無気力」や「不安」: 「無気力」の傾向がある生徒や「不安」の傾向がある生徒の割合も高く、これらの要因も複合的に不登校に繋がっている可能性があります。ただ、私見ですが、「無気力」という言葉の定義は「自ら没頭できるもの、こと、夢をまだ見出していない心境」と解釈しています。考えてみると、「無気力打破」のためには、学校や周囲の大人が、子どものやりたいこと、没頭したいことをしっかり受け止め、許容するー大人、教員の役割であることも否めないと考えています。
発達障害: 近年、発達障害の認知が広がり、中学校においても発達障害のある生徒への支援の必要性が高まっています。発達障害のある生徒の中には、コミュニケーションや対人関係に困難を抱え、学校生活に適応できずに不登校になるケースも見られます。
(2) 対策
① 小学校と共通する対策の継続
中学校においても、小学校で示した病気による欠席への対応、外部機関との連携強化、保護者への支援は引き続き重要です。
② 中学校特有の課題への対応
人間関係の構築支援:
学級・ホームルーム活動: 学級・ホームルーム活動を通して、生徒同士が互いの個性や考え方を理解し、尊重し合える関係を築けるよう支援する必要があります。
いじめの早期発見・対応: いじめは、不登校の大きな要因の一つであり、早期発見と適切な対応が不可欠です。全校体制でいじめ防止に取り組み、いじめを許さない学校風土を醸成する必要があります。
不適切な指導の防止: 教職員による不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることに留意し、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうことのないよう、適切な指導を行う必要があります。
関係機関との連携: 必要に応じて、児童相談所やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどと連携し、ネットワーク型の支援チームを組織することも有効です。
思春期特有の課題への対応:
相談体制の充実: 思春期特有の不安や悩みを抱える生徒に対して、スクールカウンセラーの配置拡充や、養護教諭との連携強化などを通して、適切な相談体制を構築する必要があります。
保護者との連携: 家庭環境が不登校に影響を与える場合もあるため、保護者との連携を密にし、家庭訪問などを通して家庭環境への配慮も必要となります。
家庭訪問時の配慮: 家庭訪問を行う際には、児童生徒の抵抗や不安に配慮し、登校を強く促すことは避け、安心できる関わりを心がける必要があります。
自己肯定感の向上:
成功体験: 学習活動や特別活動などを通して、生徒の成功体験を増やし、自己肯定感を高めることが重要です。
認め、ほめる: 生徒のよいところを認め、ほめる機会を積極的に設けることで、自己有用感の向上を図ることも大切です。
困難に立ち向かう力: 自己肯定感が高まることで、困難な状況にも立ち向かう力を育むことができると考えられます。
発達障害への対応:
合理的配慮: 発達障害のある生徒に対しては、「障害を理由とする差別」の解消を図るとともに、「合理的配慮」を提供することが重要です。 個別の教育支援計画を作成し、学習面・生活面における必要な支援を提供する必要があります。
関係機関との連携: 専門家チーム、センター的機能を有する特別支援学校、療育機関や発達障害者支援センター等と連携し、適切な指導や助言を受けることが大切です。
これらの対策を総合的に進めることで、中学校における不登校生徒の増加を抑制し、全ての生徒が安心して学校生活を送れる環境を整備していく必要があると考えられます。
全国学力・学習状況調査は、児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の改善や個々の学習指導の改善に役立てることを目的としています。近年のGIGAスクール構想によるICT環境整備の進展に伴い、この調査も従来の紙媒体によるPBT方式からCBT方式へと移行が進められています。CBT化は、単に調査方法をデジタル化するだけでなく、「項目反応理論(IRT)」の導入による詳細な分析を可能にし、教育現場における学習指導や教育施策の改善に多大な貢献をもたらすと考えられています。
CBT化とIRT導入による最大の利点は、多様で詳細なデータに基づいた指導改善が可能になる点です。従来のPBT方式では、正答数や正答率といった限られた指標でしか評価ができませんでした。しかし、CBT化により解答データを機械可読のビッグデータとして蓄積できるようになり、IRTを適用することで、児童生徒一人ひとりの学力をより正確に測定し、詳細な分析が可能になります。例えば、異なる問題セットに解答した児童生徒間でも、IRTスコアを用いることで公平な比較が可能となり、各々の得意・不得意分野を明確化できます。これは、従来の一律的な指導ではなく、児童生徒の個性や学習進度に合わせた、よりきめ細やかな指導を実現する上で非常に有効です。さらに、CBT化により動画や音声などを活用した多様な出題形式が可能になることで、ICTを活用した授業で育成された能力も評価できるようになり、学習指導の質向上に貢献します。
加えて、CBT化は教師の負担軽減にもつながり、指導の質向上に間接的に貢献します。電子データによる問題・解答の配信・回収により、印刷、配送、回収といった作業が不要になり、学校現場の負担が大幅に軽減されます。また、採点の自動化により、教師は採点業務に費やす時間を削減し、より児童生徒とのコミュニケーションや教材研究に時間を充てることができるようになります。さらに、IRT導入により、各教育委員会や学校が経年での学力変化を把握できるようになることも大きな利点です。従来は、年度ごとに問題の難易度や内容が異なるため、異なる年度の結果を単純に比較することは困難でした。IRTを用いることで、年度をまたいだ客観的な比較が可能となり、教育施策や指導方法の効果検証、改善に役立てることができます。これらの効果により、教師はより質の高い指導に集中できるようになり、児童生徒にとってより良い学習環境が実現すると考えられます。
現代の学校教育において、教師は児童生徒の教育のみならず、複雑化・多様化する教育課題への対応、長時間労働、保護者や地域住民との連携など、多岐にわたる役割を担っています。これらの課題は教師の精神的負担を増大させ、メンタルヘルスの問題を引き起こす可能性があります。 教師のメンタルヘルスの問題は、教師個人の健康を損なうだけでなく、教育の質の低下や、ひいては子供たちの成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。 したがって、教師のメンタルヘルス対策は、教育の質の維持・向上、そして子供たちの健やかな成長を確保するために不可欠であると言えるでしょう。
文部科学省は、この問題に対処するため、「公立学校教員のメンタルヘルス対策に関する調査研究事業」を実施しています。 この事業では、市区町村教育委員会等に、学校管理職OB等による学校問題解決支援コーディネーターを配置します。 コーディネーターは、学校や保護者等から直接相談を受け付け、専門家の意見も聞きながら、事案ごとに解決策を整理・提示します。 また、必要に応じて専門家を学校に派遣し、専門的な立場から解決に向けた助言を行うことで、学校だけでは解決が難しい事案に対する行政による支援体制の構築を目指しています。
この調査研究事業によって、以下の成果が期待されます。
学校現場における問題の早期発見と解決促進: コーディネーターによる相談体制の整備により、教師が抱える問題を早期に発見し、適切な解決策を提示することで、問題の深刻化を防ぐことが期待されます。
教師の精神的負担の軽減: 専門家による助言や支援体制の構築により、教師が安心して業務に取り組める環境が整備され、精神的な負担軽減につながることが期待されます。
教育の質の向上: 教師が心身ともに健康な状態で教育活動に取り組むことができるようになることで、指導の質の向上、児童生徒との良好な関係構築などが促進され、ひいては教育の質の向上につながることが期待されます。
文部科学省は、この調査研究事業を通じて得られた知見や成果を、今後の教員養成や研修、働き方改革などの政策に反映していく方針です。 これにより、教師が働きがいを感じ、子供たちと向き合える、より良い教育環境の実現を目指しています。
文化祭や合唱発表会、学習発表会や秋の運動会などの文化スポーツ行事の10月ももう半ばに差し掛かりました。学年でいえば、折り返しといった時期です。そこで、学習指導要領を再観し、学校行事の目的と終わった後に留意すべき点をピックアップしてみました。
学校行事とは、教育課程に定められた行事のことです。その目的は、生徒の「生きる力」を育むことにあります。
「生きる力」とは、基礎・基本を確実に身に付け、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力のことです。
例えば、運動会では、生徒たちは、競技を通して、体力向上や協調性を育むだけでなく、役割分担や準備を通して、計画性や責任感を養うことができます。文化祭では、発表や展示を通して、創造性や表現力を高めるだけでなく、準備や運営を通して、協力することや他者を思いやることの大切さを学ぶことができます。修学旅行では、集団生活や異文化体験を通して、社会性や国際理解を深めるだけでなく、計画や準備を通して、自主性や判断力を養うことができます。このように、学校行事を通して、生徒たちは、教室での学習だけでは得られない、多様な経験を通して「生きる力」を育むことができます。
学校行事を実施するにあたっては、学校教育法第一条に規定する「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」という目的を達成することを目指す必要があります。
特別活動は、生徒の生活全体に関わるものであり、学校で行われる全ての教育活動に関わるものであるため、各教科、総合的な学習の時間、特別活動それぞれの目標や特質を生かし、生徒の発達段階や個々人の特性を考慮しながら、人格形成の根幹であると同時に、民主的な国家・社会の持続的発展を支える道徳教育の役割をも担う必要があります。中学校では、生徒は自己の生き方や価値観を主体的に模索し始める時期であります。人間にとって最大の関心は、人生の意味をどこに求め、いかによりよく生きるかということにあり、道徳はこのことに直接関わるものです。道徳教育は、生徒が新たな知識や技能を得ようとしたり、知識や技能を確かなものとして習得したりしていく上で重要な役割を果たします。
学校行事を実施した後は、「振り返りを促す」ことが重要です。生徒が学校行事を通して何を学び、何を感じたのかを振り返る機会を設けることで、生徒は自己の成長を自覚し、今後の学習や生活に活かすことができるようになります。例えば、体育大会後には、各クラスで、目標達成に向けた取り組みや、クラスメイトとの協力について話し合う時間を設けることができます。文化祭後には、作品や発表を通して、自分たちが表現したかったことや、観客に伝えたいメッセージについて、グループで振り返り、発表し合うことができます。修学旅行後には、旅行先で体験したことや、学んだことについて、レポートにまとめたり、クラスで発表したりする機会を設けることができます。これらの振り返りを通して、生徒たちは、学校行事の経験を、単なる思い出として終わらせるのではなく、自己の成長や、今後の学習、生活に繋げることができます。
職場体験や職場見学は、生徒が教室を飛び出し、実際の仕事や職場環境に触れる貴重な機会です。しかし、その経験を真に meaningful なものとするためには、体験後の振り返りや評価が不可欠です。文部科学省が推進するキャリア教育では、これらの活動を「単なるイベント」として終わらせるのではなく、生徒一人ひとりの成長を促し、将来のキャリアプランに繋げていくための重要なプロセスとして位置づけています。
従来の評価では、職場での作業態度やマナーといった表面的・形式的な側面に焦点が当たりがちでした。しかし、新学習指導要領では、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」 の 4 つの基礎的・汎用的能力を育成することを重視しており、評価においてもこれらの能力を多角的に見取る視点が求められます。
例えば、「人間関係形成・社会形成能力」の評価においては、生徒が職場の人々と積極的にコミュニケーションを図り、協調性を持って仕事に取り組めたか、また、その経験を通して、他者と協力して働くことの意義や社会の一員としての責任感についてどのように考えを深めたかを評価します。具体的な方法としては、職場体験中の観察記録や生徒自身の振り返りシート、職場担当者からのアンケートなどを活用します。
さらに、「自己理解・自己管理能力」については、職場体験を通して、自身の strengths や weaknesses、仕事への適性などを認識し、自己成長に繋げられたかを評価します。また、「課題対応能力」については、想定外の事態が発生した場合でも、臨機応変に対応し、最後までやり遂げようとする問題解決能力や責任感を評価します。これらの能力を評価する際には、生徒が自らの成長を自覚し、今後の学習意欲を高められるように、具体的な事例を挙げてフィードバックすることが重要です。
そして、これらの評価結果を踏まえ、生徒一人ひとりのキャリアプランを一緒に見直し、今後の学習活動や進路選択に活かしていくことが重要です。その際、「キャリア・パスポート」を活用し、これまでの活動記録や自己評価、教師のコメントなどを蓄積していくことで、生徒の成長を長期的にサポートすることができます。
文部科学省は、職場体験・職場見学後の評価を通して、生徒が社会と繋がり、将来の夢と学業を結びつけ、学習意欲を高めることを目指しています。そのためには、各学校が創意工夫を凝らし、生徒の状況や地域の実情に合わせた評価方法を検討していくことが重要です。
日本の教育現場では深刻な教師不足が問題となっています。この問題は、単に教員数が不足しているというだけでなく、様々な要因が複雑に絡み合った構造的な問題として捉える必要があります。
まず、教員採用試験の受験者数減少が挙げられます。近年、教職は長時間労働や業務量の多さ、社会的な評価の低さなどが課題として指摘されており、若者にとって魅力的な職業ではなくなってきていることが示唆されます。実際に、にあるように、教師の1日の在校等時間は、小学校、中学校ともに依然として長く、時間外労働の多さが浮き彫りになっています。また、にあるように、日本の学校教育では、GIGAスクール構想の推進など、ICT環境の整備が進められていますが、では、教育委員会や学校におけるICT活用状況や、働き方改革の進捗状況には差がみられることが課題として挙げられています。
さらに、教職員定数の問題も深刻化しています。現状の定数は、児童生徒数と学級数を基に機械的に算出されており、特別支援教育や不登校対策、外国人児童生徒への対応など、近年増加傾向にある多様な教育ニーズに対応しきれていません。によると、令和7年度の予算要求において、教職員定数の改善として7,653人の増員が計上されていますが、その一方で、自然減などにより8,703人が減少する見込みであることも示されており、抜本的な解決には至っていません。にあるように、特別支援学級に在籍する児童生徒数は平成25年度と比較して約4.6倍に増加しており、特別支援教育の重要性が高まっている一方で、現場の負担が増大している現状が伺えます。
これらの問題を解決するためには、多岐にわたる対策が必要です。まず、教職の魅力向上に取り組む必要があります。具体的には、で提言されているように、教師の健康及び福祉を確保するために、メンタルヘルス対策の充実や労働安全衛生体制の整備を行うとともに、給与待遇の改善や業務量の削減など、具体的な改善策を講じる必要があります。また、にあるように、教員養成大学・学部と教育委員会が連携し、地域や現場のニーズに対応した質の高い教師を育成する取り組みも重要です。
さらに、教員採用・人事制度の改革も必要です。では、教員採用選考試験の早期化や複数回実施など、受験機会の充実を図ることの重要性が述べられています。また、特別免許状制度の活用促進も有効な手段となりえます。にあるように、特別免許状の授与件数は増加傾向にあるものの、制度の趣旨が十分に理解・浸透していない、運用が消極的であるなどの課題も指摘されています。特別免許状制度のメリットを最大限に活かすためには、授与基準や手続きの明確化、採用後の研修制度の充実など、より活用しやすい仕組みに改善していく必要があります。教職の魅力向上と人材確保、そして働き方改革の実現。これらの課題解決に向けて、社会全体で取り組んでいくことが、日本の教育の未来にとって不可欠です。
「令和の日本型学校教育」を担う教師を取り巻く環境整備の目的は、子供たちへの質の高い教育の実現です。この目的を達成するために、答申は、教師のウェルビーイングの向上と高い専門性の発揮を重視しており、具体的な例を挙げて説明します。
答申は、日本の学校教育が教師の長時間勤務を含めた献身的な努力によって支えられてきたことを評価する一方で、教師の負担の大きさが、健康を損ない、生活の質や教職人生を貧しくする要因になりかねないことを危惧しています。 その上で、教師が心身ともに健康で充実した状態でいられるよう、長時間勤務を是正し、日々の生活の質や教職人生を豊かにすることが重要であると述べています。
時間外労働時間の削減
答申では、令和4年度の教員勤務実態調査の結果を踏まえ、時間外労働時間の減少といった働き方改革の成果が見られる一方で、依然として長時間労働を強いられている教師が多い現状を深刻に受け止める必要があると指摘しています。 その上で、時間外労働の更なる削減に向けて、
業務の優先順位を見直し、思い切った業務の廃止や簡素化を推進すること
国や教育委員会が実施する調査内容を見直し、教師の負担を軽減すること
ICTなどを活用した校務の効率化(校務DX)を推進すること
などを具体策として挙げています。
休憩時間の確保と休暇取得の推奨
答申では、教師が適切な時間に休憩を取得できるよう、授業以外の時間に休憩時間を設定することや、教員業務支援員による休憩時間の児童生徒の見守りなどを推奨しています。 また、11時間を目安とする勤務間インターバルの導入や、1年単位の変形労働時間制の活用による長期休暇の取得促進なども、教師の心身のゆとりを確保し、リフレッシュする時間を確保するための重要な取り組みとしています。
答申は、教師がその高い専門性を十分に発揮できる環境を整備することで、子供たちにより良い教育を提供できると述べています。 そのために、
教師の専門性向上を支援する体制の構築
教師が専門性を活かせる職務への配置
教師の能力や業績を適切に評価し、処遇に反映する仕組みの構築
などを具体策として挙げています。
教師の専門性向上
答申は、これからの時代において、教師には、子供たちの個性やニーズを把握し、個別最適な学びを提供していくことや、社会の変化に対応できる力を育む指導が求められると指摘しています。 そのため、教師は、生涯を通じて新しい知識・技能を学び続け、資質能力の向上を図ることが重要であると述べ、国や教育委員会に対し、教員免許更新制の廃止による負担軽減や、ICTを活用したオンライン研修の推進などを求めています。
専門性を活かせる職務への配置
答申では、小学校における教科担任制の推進や、中学校への生徒指導担当教師の配置、特別支援学校のセンター的機能の強化などを提言しています。 これらの取り組みによって、教師がそれぞれの専門性を活かし、より質の高い教育活動に従事できる環境を整備しようとしています。
処遇改善
答申は、教職調整額の引上げや、管理職手当の改善、学級担任への手当加算などを提言しています。 これらの取り組みによって、教師の経済的な不安を軽減し、教職の社会的地位向上を図ることで、教師が安心して教育活動に専念できる環境を作ろうとしています。
「令和の日本型学校教育」を担う教師を取り巻く環境整備の目的は、子供たちへのより良い教育の実現です。 答申では、この目的を達成するために、教師のウェルビーイング向上と高い専門性の発揮を重視し、具体的な例を挙げて、多岐にわたる取り組みを提言しています。 これらの取り組みを通じて、教師が、子供たちの成長を支えるというやりがいを感じながら、生き生きと働き続けられる魅力的な職場環境を実現することが期待されています。
検討会では、学習指導要領の実現に向けた様々な課題が議論され、大きく3つのカテゴリーに分類できることがわかりました。それは、「学習指導要領の趣旨の浸透不足」、「学習指導要領の実施に伴う負担感」、そして「社会の変化への対応」です。これらの課題は、複雑に絡み合いながら、学習指導要領の実現を阻害する要因となっています。以下では、それぞれの課題について、具体的な例を挙げながら詳しく見ていきます。
第一に、学習指導要領の趣旨の浸透不足は深刻な問題です。現行の学習指導要領では、「生きる力」を理念として「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指していますが、この理念が、文部科学省から各学校現場にまで、十分に浸透しているとは言えない状況です。これは、コロナ禍という未曾有の事態が、新しい教育課程導入のタイミングと重なってしまったことも、要因の一つとして挙げられます。また、学習指導要領の記載内容に、曖昧な表現や誤解を招きやすい表現が見られることも、現場での混乱を招き、趣旨の浸透を阻害している可能性も指摘されています。さらに、従来のトップダウン型の情報伝達方法では、学習指導要領の持つ理念や、目指すべき方向性が、各学校現場にまで、十分に行き届いていない可能性も、議論されています。
第二に、学習指導要領の実施に伴う負担感は、以前から指摘されている課題ではありますが、新しい学習指導要領では、教師がより主体的・能動的に授業をデザインし、子供一人ひとりの個性や特性に応じた、きめ細やかな指導を行うことが求められているため、その傾向は、さらに顕著になっています。具体的な例としては、教科書の内容の膨大化が挙げられます。これは、学習指導要領の改訂に伴い、新しい内容が盛り込まれた結果、教えるべき内容が増加し、全ての単元を消化しようとすると、どうしても授業進度が速くなってしまい、教師の負担増加に繋がっているという指摘があります。また、学習指導要領の理念を実現するためには、従来の指導方法に加えて、多様な教材を準備したり、評価方法を工夫したりする必要があるものの、時間的・精神的な余裕がなく、十分に対応できないという意見も、多く聞かれます。
第三に、社会の変化への対応は、学習指導要領が、常に直面する課題です。現代社会は、グローバル化や情報化、AIの進化など、かつてないスピードで変化しており、学習指導要領は、そうした社会の変化を常に視野に入れながら、子供たちが将来、社会で活躍するために必要な資質・能力を育成していく必要があります。具体的な例としては、生成AIの台頭が挙げられます。生成AIは、従来人間に求められていた、知識や技能を代替する可能性を秘めており、従来型の学習方法では、社会の変化に対応できなくなる可能性も危惧されています。また、グローバル化の進展に伴い、異文化理解やコミュニケーション能力、多様な価値観を受容する力なども、これまで以上に重要になってきており、学習指導要領の内容に、これらの要素をどのように組み込んでいくかが、課題となっています。
学校施設における共創空間の実現には、従来型の設置者・設計者主体ではなく、児童生徒、教職員、地域住民、専門家など多様な主体の積極的な参画が不可欠となる。提供された資料は、そうした共創空間がどのように実現されているのかを示す好例である。本稿では、資料に基づき具体的な事例を交えながら、学校施設の設計・改修における共創のプロセスを、構想段階、設計・改修段階、運用段階の3段階に分け、論じていく。
まず、構想段階においては、「どのような学校を実現したいか」というビジョンを関係者間で共有することが重要となる。資料で紹介されている北海道中頓別町の事例では、中学校校舎の老朽化を契機に、単なる建物の建て替えではなく、「地域でどんな教育を実現したいか」という根本的な問いから議論を開始している。この事例では、人口約1,550人とコンパクトな規模を活かし、住民が顔見知りの関係性を基盤に、幼児期からの自然と英語教育を柱とした教育の継続、そして生涯学習センターと統合した新しい時代の学びの場の創造を目指した。このように、地域住民、教職員、そして子どもたち自身の意見を反映させながら、将来の教育のあり方から具体的な施設のあり方までを包括的に検討していくことが、共創空間実現の第一歩と言えるだろう。
次に、設計・改修段階においては、構想段階で共有したビジョンを具体化し、実際の設計・改修プロセスに多様な主体の意見を反映させていく。そのための有効な手段となるのがワークショップである。資料の中頓別町の事例では、基本計画から基本設計の段階において、コミュニティデザインの手法を活用したワークショップを複数回実施している。さらに、完成後も地域住民が違和感なく施設を利用できるよう、設計・工事中もワークショップを継続し、子どもも大人も含めた様々なチームを作り、開校後の活動についても検討を重ねたという。このように、ワークショップは単なる意見交換の場ではなく、参加者間の相互理解を深め、共通認識を形成していくプロセスと言えるだろう。また、資料の京都市立開建高等学校の事例では、家具メーカーがワークショップに参加し、生徒と共に空間のコンセプトを検討している。このように、専門的な知識や経験を持つ外部主体の参画は、共創空間の可能性を広げる上で重要な役割を果たすと言える。
最後に、運用段階においては、施設整備は完成ではなく、その後の活用・改善を通して、共創空間は育まれ、進化していく。資料の富山県魚津市立星の杜小学校では、新築校舎のデザインに多くの地元産材を使用し、周辺環境と調和した空間を創出している。そして、この特徴的な空間を活かした「木育カリキュラム」を、地域の職人を先生として、4年生から6年生の総合的な学習の時間において毎年度実施している。さらに、資料の栗生小学校の事例では、「CSカフェ」と名付けられた地域開放型のスペースを、地域住民や児童が設計・施工に携わることで、空間に愛着を持って利用できるよう工夫されている。このように、完成後の運用段階においても、施設の維持管理やイベント開催、さらにはカリキュラム開発など、多様な活動を通して、地域住民、児童生徒、教職員が主体的に関与していくことが、共創空間を持続可能なものとするために重要である。
2024/9/19 今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会「論点整理」についての要約(抜粋)
入試の影響と学習評価の問題点
現在の日本の教育において、学習指導要領は重要な指針としての役割を担っています。しかし、実態として、学習指導要領が目指す教育と、学校現場で実際に行われている教育との間には乖離が見られるケースも少なくありません。その原因として、入試の影響と学習評価のあり方が挙げられます。本稿では、これらの問題点について、より具体的に説明していきます。
1. 入試が学習指導要領の実施に与える影響
学習指導要領は、子供たちに必要な資質・能力を育成することを目的としていますが、入試の内容や形式が、必ずしもその方向性と一致していないことが現状として挙げられます。特に、知識偏重型の入試が依然として多い現状では、教師は、学習指導要領が重視する「思考力、判断力、表現力等」の育成よりも、どうしても入試対策に重点を置いた授業を行う傾向に陥りがちです。
その結果、
教科書の内容を網羅的に教えなければならないというプレッシャー
限られた授業時間の中で、入試対策と学習指導要領の両立を迫られるジレンマ
などが生じ、教師の負担が増加し、「カリキュラム・オーバーロード」の一因ともなっていると考えられます。
また、入試の影響は、教科書の内容にも波及しています。出版社は、入試で出題される可能性のある内容を教科書に盛り込む傾向があるため、結果として教科書のページ数が増加し、内容が複雑化する一因となっています。
2. 学習評価における問題点
学習評価は、子供の学習状況を把握し、指導の改善に活かすために重要な役割を担っています。しかし、現行の学習指導要領における学習評価のあり方についても、いくつかの問題点が指摘されています。
(1)「主体的に学習に取り組む態度」の評価の難しさ
現行の学習指導要領では、学習評価を「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点から行うことが求められています。しかし、「主体的に学習に取り組む態度」については、その定義が曖昧であり、評価基準が明確になっていないという指摘があります。そのため、ノート提出の頻度など、目に見える形で評価しやすい「勤勉さ」の評価に留まってしまい、本来の「主体性」を適切に評価できていないケースも見られます。
(2)評価のための指導に偏ってしまう「指導の評価化」
3つの観点全てを、毎回の授業で評価しなければならないという誤解から、評価のための指導に偏ってしまう「指導の評価化」も問題視されています。例えば、評価の証拠を集めることだけを目的に、毎時間、子供たちに振り返りを書かせるといった指導は、子供たちにとって大きな負担となるだけでなく、学習意欲の低下にも繋がりかねません。
(3)評価結果の学習改善への活用不足
見取り、形成的評価、総括的評価の区別が曖昧なまま、学習評価が行われていることも課題として挙げられます。本来であれば、形成的評価の結果を学習過程にフィードバックすることで、子供の学習改善を促していくことが重要です。しかし、現状では、評価の全てが、最終的な評定を決定するための総括的評価として行われているため、評価結果が、子供の成長や学習改善に十分に活かされていないという指摘があります。
まとめ
上記のように、学習指導要領の実施にあたっては、入試の影響と学習評価のあり方が、大きな課題として挙げられます。これらの課題を解決していくためには、
学習指導要領と入試との整合性を図ること
学習評価のあり方を見直し、子供たちの資質・能力を適切に評価・育成できる仕組みにすること
などが求められます。教育関係者はもとより、保護者や社会全体で、これらの課題について認識を共有し、今後の教育のあり方について真剣に考えていく必要があると言えるでしょう。
学習指導要領の趣旨実現に向けた具体的な方策
これまでのやり取りで、学習指導要領の趣旨実現に向けた具体的な方策がいくつか挙がっていますので、資料(論点整理)に基づきながら詳しく説明します。
1. 教育課程の実施における負担軽減
「ワーク・オーバーロード」と「カリキュラム・オーバーロード」の区別: 教師の負担感として、単に業務量が多いという「ワーク・オーバーロード」だけでなく、「カリキュラム・オーバーロード」と呼ばれる問題も指摘されています。これは、OECDの定義によると、カリキュラムの内容が過剰である、授業時数に対して内容が多すぎる、詰め込みすぎであると認識されている、特定の教科が優先されている、といった4つの側面があります。 これらの問題を区別して議論し、学習指導要領や教科書、入試の内容などを総合的に見直すことで、負担軽減を目指します。
単元ベースでの授業構想: 1コマごとの授業づくりに追われるのではなく、単元や題材など、内容や時間のまとまりを見通しながら授業を設計することで、負担感を減らしつつ、質の高い授業の実現を目指します。 これは現行の学習指導要領でも触れられていますが、十分に理解されていない可能性があるため、具体的な意義や方法を明確化していく必要があります。
必要な評価場面の精選: 学習評価は、子供の学習状況を把握し、指導に反映していく上で重要ですが、評価のために教師や子供の負担が増加しているという課題も指摘されています。 そこで、本当に必要な評価場面を精選し、効率的かつ効果的な評価を実施していくことが求められます。
2. 教科書・教材の在り方の見直し
教科書の内容・分量の精選: これまでの学習指導要領の改訂で、教科書は内容が充実し、ページ数も増加してきました。 しかし、そのことが授業進度や教師の負担感に繋がっているという指摘もあります。 そこで、本当に必要な内容を厳選し、分量を適切にすることで、学びの質を落とさずに負担軽減を目指します。
デジタル教科書の活用: 一人一台端末の普及により、デジタル教科書の活用が進んでいます。 デジタル教科書は、動画や音声などのコンテンツを豊富に盛り込める、学習履歴や理解度に応じて表示内容を調整できるといったメリットがあります。 これらのメリットを活かしながら、新しい学びに適した教科書の在り方を検討していく必要があります。
多様な教材の活用: 教科書だけでなく、AI教材などのデジタル教材や、学校施設・設備を含めた、多様な教材の整備も重要です。 子供たちが様々な教材に触れることで、学びを深め、興味関心を広げていくことが期待されます。
3. カリキュラム・マネジメントの推進
PDCAサイクルの確立: カリキュラム・マネジメントとは、各学校が子供たちの状況や社会の変化などを踏まえ、教育課程を編成・実施・評価・改善していく一連のプロセスを指します。 各学校が主体的にPDCAサイクルを回し、継続的に教育課程を改善していくことが重要となります。
柔軟な運用: これまでのカリキュラム・マネジメントでは、計画を立てることに注力しすぎるあまり、柔軟な運用が難しかったという指摘があります。 子供たちの状況や社会の変化に応じて、計画を見直し、柔軟に対応していくことが重要です。
学校全体のシステム改革: カリキュラム・マネジメントを効果的に機能させるためには、学校全体の組織文化やシステムを変革していく必要があります。 教職員が協力し、共通理解を深めながら、新しい時代の教育を実現していく必要があります。
4. 学校への支援体制の強化
地方教育行政の充実: 全ての子供たちに質の高い教育を届けるためには、各地域の実情に応じた教育を展開していくことが重要です。 そのためには、指導主事の配置など、地方教育行政を充実させ、各学校へのきめ細やかな支援体制を構築していく必要があります。
地域・産学官との連携: 「社会に開かれた教育課程」を実現するために、地域社会や産業界、大学等との連携を強化していく必要があります。 コミュニティ・スクールの推進なども有効な手段となります。 地域と連携した教育活動を通して、子供たちは社会との繋がりを実感し、将来を生きる力を育んでいくことができます。
これらの具体的な方策を通して、学習指導要領の目指すところは、子供たちが変化の激しい社会を生き抜くために必要な資質・能力を育むことです。
学校危機管理マニュアルは、児童生徒の安全を確保するために非常に重要なツールですが、作成して終わりではなく、定期的な評価と見直しを通して、実効性を高めていく必要があります。以下に、学校が危機管理マニュアルの評価・見直しを行うべき具体的な方法を三つ示します。
危機管理マニュアルに記載された内容が、実際に機能するかどうかを確認するためには、訓練の実施と評価が不可欠です。机上でのシミュレーションだけでなく、実際に避難経路を確認したり、関係機関と連携した実践的な訓練を行うことが重要です。
例えば、地震発生時の対応では、緊急地震速報を受信した際の初動対応や、児童生徒を机の下に避難させる手順などを、実際に確認します。津波発生が想定される地域にある学校では、高台などの避難場所への避難訓練も必要になります ()。
さらに、不審者侵入への対応訓練では、教職員が役割分担と対応手順を確認し、さすまたなどの防犯用具の使い方を習熟する必要があります ()。この際、警察官の協力を得て、より実践的な訓練を行うことも有効です。
訓練後には、必ず反省会を行い、以下の点を中心に検証します。
マニュアルに記載された手順は適切だったか
情報伝達はスムーズに行われたか
児童生徒への指示は適切だったか
問題点や改善点はないか
反省会で出された意見や課題を、次回の訓練やマニュアルの改訂に活かすことで、より実効性の高い危機管理体制を構築することができます。
危機管理マニュアルは、社会情勢や学校の状況変化に合わせて、定期的に見直す必要があります。そのため、定期的なマニュアル見直し会を開催し、教職員全員でマニュアルの内容を再確認することが重要です。
見直し会では、下記のような項目を中心に確認します。
法令や社会情勢の変化: 学校安全に関わる法令改正や、社会的に関心の高い事件・事故、ハザードマップの改訂などを踏まえ、マニュアルの内容を更新する必要があります。
過去の事例: 自校や他校で発生した事故やトラブルの事例を分析し、マニュアルに反映することで、同様の事態発生時の対応を強化することができます。
学校行事: 校外学習や修学旅行など、学校行事の実施前に、危機管理マニュアルの内容を確認し、必要に応じて、当該行事向けの危機管理計画を作成します。
危機管理マニュアルの内容を教職員間で共有し、理解を深めるためには、教職員研修が有効です。研修を通して、緊急時における役割分担や行動手順を再確認することで、より実践的な対応力を身につけることができます。
研修では、下記のような内容を取り上げます。
危機管理の基礎知識: 危機管理の定義や重要性、学校における危機管理の現状と課題など、基礎的な知識を学びます。
危機管理マニュアルの内容説明: マニュアルの構成、各危機事象への対応手順、関係機関への連絡体制などを、具体的に説明します。
ロールプレイング: 具体的な危機事象を想定し、教職員がそれぞれ役割を担って対応をシミュレーションすることで、実践的な対応力を養います。
上記に加え、外部講師を招き、最新の危機管理に関する情報や、具体的な事例を交えた研修を実施することも効果的です。
学校危機管理マニュアルは、児童生徒の安全を守るための羅針盤です。日ごろからマニュアルを活用し、教職員一人ひとりが危機管理に対する意識を高め、適切な判断と行動をとることができるよう、学校全体で取り組んでいくことが重要です。
2024/9/13 生活科の目標における「見方・考え方」と、他の教科等における「見方・考え方」との共通点と相違点について
児童が自ら課題を発見し、解決する過程を重視している点で、生活科と他の教科等の「見方・考え方」は共通している。
例えば、生活科では、児童が身近な自然や社会と関わる中で、疑問や課題を見つけ、自ら探究していくことを通して、 「見方・考え方」を養う。
他教科においても、児童は、それぞれの教科の特性に応じた課題を発見し、解決するために、 観察、実験、調査、表現などの活動に取り組む中で、「見方・考え方」を働かせている。
教科等の特質に応じて育まれるという点で共通している。
例えば、生活科では、身近な生活での気付きから疑問を持ち、探究しようとする態度や、
図画工作科では、感じたことや想像したことを表現する過程で、材料や用具の特徴を生かしながら、 よりよい表現方法を追求しようとする態度、
音楽科では、音の響きや組合せに着目し、表現の工夫を追求しようとする態度、
算数科では、事象を数量や図形及びそれらの関係に注目して捉え、根拠を明確にして考え、筋道を立てて論理的に表現しようとする態度など、 教科の特質に応じた「見方・考え方」を養うことが重要となる。
他の教科等と関連付けながら指導を行うことで、より深い学びへとつなげていくという点で共通している。
例えば、生活科で育てた植物を理科の授業で観察したり、生活科で調べた地域の伝統行事を社会科の授業で深く学習したり することが考えられる。
対象となる範囲
生活科:児童の身近な生活や遊び、自然体験など、具体的な経験に基づいた学びを重視する。
他の教科:それぞれの教科の学習内容に特化した知識や技能、思考力、判断力、表現力等を育成する。
発達の段階
生活科:「見方・考え方」の基礎を培うことを目的とする。
他の教科:生活科で培われた「見方・考え方」を基に、それぞれの教科の学習を通して、より専門的・発展的な知識や技能、思考力、判断力、表現力等を育成する。
生活科の「見方・考え方」は、他の教科等の「見方・考え方」の基礎となるものであり、共通点も多い。 しかし、生活科は、児童の身近な生活体験を基盤とした総合的な学習であるという点で、他の教科等とは異なる独自性を持っている。 したがって、生活科の指導においては、児童が、自らの生活と関連付けながら、 主体的・対話的に学習を進めていけるよう、工夫することが重要である。
経済産業省・教育産業室より、先般「イノベーション創出のための 学びと社会連携推進に関する研究会 報告書」が出されました。政府は、イノベーション創出のための学びと社会連携を推進するにあたって、いくつかの課題を認識し、解決策を提案しています。以下に、報告書の内容に基づいて詳しく説明します。
1. 課題認識
自治体・教育委員会・学校側の課題
「自前主義」の文化・慣習:従来の慣習から、学校内で物事を完結させようとする傾向があり、外部との連携に消極的な場合がある。
財政の裁量不足・硬直性:教育予算の大部分が人件費や施設費で占められており、外部サービス活用など、新たな取り組みに必要な財源が不足している。また、単年度予算主義の原則により、年度途中の柔軟な予算執行が困難である。
連携等を担う人材・マッチングの不足:外部連携を推進するためのノウハウや人材が不足しており、企業等とのマッチングがうまく機能していない。
教育への支援に関心のある企業・団体・個人側の課題
マッチングの不足:連携意欲のある学校を発見することや、連携をコーディネートする組織・人材が見つからない。
ニーズに合致するコンテンツの不足:企業理念(パーパス)に合致する教育内容や、効果が明確な教育プログラムが少ない。
教育効果の不明確さ:教育分野への投資対効果が可視化されにくく、投資効果に対する不安を感じている。
2. 解決策(提案)
モメンタム拡大
各地での実践を共有知に:成功事例や留意点を含めた情報共有を促進し、他の自治体や学校が参考にできる体制を構築する。
連携・創発の機会づくり:自治体、学校、企業、金融機関、NPO等の関係者が集まり、意見交換や情報共有、協働プロジェクトの創出を促進する場を設ける。
教育分野への資源還流の拡大・持続性の向上
ファンドレイジング手法の多様化・深化:
クラウドファンディングや企業版ふるさと納税の積極的な活用
金融機関と連携した、投資運用益を活用した給付型奨学金ファンドの設立
遺言信託等を活用した遺贈寄附の促進
寄附のインパクトを可視化し、企業・社会への訴求を強化
卒業生を通じた持続性向上:卒業生のネットワークを構築し、卒業生による教育機関への参画・貢献、経済的支援を促進する。
「多様な学び」やそれを支える人と場の創出
自治体・学校と民間をつなぐ人と場の創出:
官民連携を担う人材の育成・確保
民間人材の教育分野への円滑な参入を促す環境整備
オンラインサービス等を活用した教育の質向上とコスト削減
「共助を促す新たな教育サービス」の創出:
地域全体で子どもたちの多様な学びを支援する体制構築
企業・団体と連携した、実践的な学びの場の提供
オンラインサービスや生成AI等を活用した個別最適な教育支援
公教育と社会が連携したエコシステム構築
地域の中間支援組織と全国的な伴走支援組織の連携による、ヒト・モノ・カネの循環を促す仕組みを構築する。
様々なステークホルダーの連携を通じて、すべての子どもたちが多様な学びの選択肢にアクセスできる環境を作る。
3. 報告書のまとめ
報告書では、社会状況の変化に伴い、従来型の教育から、子どもたちの個性や特性を伸ばす「多様な学び」への転換が求められていると指摘しています。そして、その実現には、企業や地域社会も巻き込んだ「共助」による資源の投入が不可欠であると結論付けています。
政府は、この報告書を契機として、関係省庁とも連携しながら、全国各地で「共助」による学びの変革が促進されることを期待しています。
不登校児童生徒が、学校外機関や自宅等で行った学習の成果を適切に評価し、指導要録に記載したり、通知表等で本人に伝えることは、学習意欲の向上や自立を支援する上で重要です。 ここでは、その留意点と具体的な条件について解説します。
1. 留意点
学校教育の重要性: 義務教育段階の学校は、社会生活を送るための基礎を育み、基本的な資質を培う重要な役割を担っています。周囲の児童生徒との交流や切磋琢磨の機会も重要であるため、不登校になってからの事後的な対応だけでなく、不登校を未然に防ぐ、誰もが安心して学べる学校づくりが重要です。
不登校児童生徒への支援: 不登校の要因を把握し、学校・家庭・関係機関が連携して、個々の児童生徒に合わせたきめ細やかな支援や、社会的自立に向けた進路選択を支援することが重要です。
長期化防止: 学校外の学習の評価を行う場合でも、学校は保護者等と連携し、本人と継続的に関わることで、不登校期間の長期化を招かないよう留意が必要です。
2. 成績評価の条件
不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果を成績に反映するには、以下の3つの条件を全て満たす必要があります。
条件1:学習計画・内容の適切性
学校は、学習計画・内容が、在籍する学校の教育課程に照らし適切かどうかを確認する必要があります。
条件2:学校と保護者等との連携
学校と、保護者、教育支援センター、民間団体等の関係者との間で、十分な連携協力体制が必要です。
学校は、保護者等を通じて、児童生徒の学習活動状況等を定期的・継続的に把握する必要があります。
条件3:学校と児童生徒との継続的な関わり
学校は、訪問による対面指導やICTを活用したオンラインでの相談・指導等を通じて、児童生徒本人の学習活動状況等を、定期的・継続的に把握する必要があります。
その際、学校は、児童生徒本人と直接関わりを継続することが重要です。
成績評価のタイミング(例:学期ごと)に合わせて、学習状況等の把握が必要です。
3. その他
観点別学習状況等の記載: 告示の要件を満たしていても、十分な評価材料がない場合など、全ての教科・観点について観点別学習状況及び評定を記載する必要はありません。 記述が困難な場合でも、指導要録の所見欄に学習状況を記述するなど、今後の指導に生かす工夫が必要です。
民間施設の選定: フリースクール等の民間施設が、個々の児童生徒にとって適切かどうかは、校長が教育委員会と連携して判断します。
複数の学習機関への対応: 複数の機関で学習している場合は、それぞれの学習状況等を確認することが望ましいです。
対面指導の推奨: 原則として、訪問等による対面での相談・指導が推奨されますが、困難な場合はICT等を活用することも可能です。
成績評価の対象: 本省令は、あくまで不登校児童生徒が欠席中に行った学習についての成績評価を明確化したものであり、不登校以外の児童生徒の欠席中の学習評価を妨げるものではありません。
不登校児童生徒の状況は一人一人異なります。学校は、保護者等と連携し、本人の状況を丁寧に把握しながら、学習成果を適切に評価していくことが大切です。
先般令和6年8月19日、「 今後の教育課程、学習指導及び学習評価等 の在り方に関する有識者検討会(第 14 回)」が開催され、「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 論点整理(骨子案) 」 が示されました。
現行学習指導要領は、「生きる力」を理念に、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で構成され、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指しています。しかし、理想と現実の間には、いくつかの課題が存在することが指摘されています。
以下では、当部会の論点整理(骨子案)の中で挙げられた3つの課題について、解説していきます。
1. 新型コロナウイルス感染症の影響による「主体的・対話的で深い学び」の実践の困難さ
現行学習指導要領が本格的に実施された時期は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと重なりました。この未曾有の事態は、学校現場に大きな混乱をもたらし、「主体的・対話的で深い学び」の実践にも大きな影響を与えました。
休校による学習の遅れ: 多くの学校で長期にわたる休校措置が取られ、児童生徒の学習に遅れが生じました。そのため、授業時間の確保が困難となり、新たな学習指導要領の理念を具現化した授業を行う時間の余裕がない学校が多く見られました。
感染対策: 授業再開後も、感染対策として、児童生徒間の距離を確保したり、活動内容を制限したりする必要が生じました。 これらの制約は、グループワークやディスカッションなど、「主体的・対話的で深い学び」に不可欠な活動の実施を困難にしました。
2. 学習指導要領の記載内容の分かりにくさ
学習指導要領は、教育課程の基準を定めた国の指針であり、その内容は、教員が日々の教育実践に反映させるべき重要なものです。 しかし、その表現には、曖昧な部分や誤解を生みやすい部分も含まれており、現場の教員の間で解釈が分かれるケースも少なくありません。
抽象的な表現: 学習指導要領には、「生きる力」や「主体的・対話的で深い学び」など、抽象的な表現が多く用いられています。 これらの表現は、重要な概念を包括的に示す上で有効ですが、具体的な授業場面をイメージしにくいという側面も持ち合わせています。
専門用語の多用: 教育学の専門用語が多く用いられていることも、分かりにくさを助長する一因となっています。 特に、教職経験の浅い教員や、他教科の教員にとっては、学習指導要領の内容を理解する上で大きな障壁となっています。
情報伝達の複雑さ: 学習指導要領の内容は、文部科学省から都道府県教育委員会、市町村教育委員会を経て、最終的に各学校へと伝えられます。 この過程で、情報が減衰したり、歪曲されたりすることがあり、現場の教員が必要な情報を適切なタイミングで入手できないケースも散見されます。
3. 教師の多忙化
日本の教員の労働時間は国際的に見ても長く、長時間労働が常態化していることが問題視されています。 教師は、授業準備や教材研究、成績処理、生徒指導など、多岐にわたる業務を担っており、学習指導要領の改訂に伴い、新たな業務も増加しています。
校務の増加: 学習指導要領の改訂に伴い、教育課程の編成や評価方法の見直しなど、教員の校務は増加する傾向にあります。 特に、新学習指導要領では、学校や教師の裁量権が拡大されており、個々の学校や児童生徒の状況に応じた教育課程を編成することが求められています。 この柔軟性の高さは、一方で、教員の負担を増大させる要因ともなっています。
研修の増加: 新学習指導要領の内容を理解し、実践に移していくためには、教員は研修を受ける必要があります。 しかし、研修の多くは勤務時間外に行われるため、教員の負担が増加する一因となっています。
これらの課題解決には、国や教育委員会による、よりきめ細やかな支援や、教員の負担軽減に向けた取り組みが不可欠です。 また、学習指導要領の表現を分かりやすくしたり、解説資料を充実させたりするなど、教員がその内容を理解しやすくするための工夫も求められています。
9月上旬、この時期は特に中学校においては、文化祭を見据え、職場体験や職場見学などが行われ、児童生徒が様々な「社会見学・体験」へと向かいます。職場体験は、児童にとって将来の職業や生き方を考える貴重な機会となります。関係者が連携し、適切な指導を行うことで、児童の成長を大きく促すことができるでしょう。
目的の明確化と共有: 職場体験を通して児童にどのような力を身に付けさせたいのか、その目的を明確化し、学校・事業所・保護者間で共有することが重要です。 にあるように、職場体験を通して育成すべきは「何を知っているか、何ができるか」「知っていること・できることをどう使うか」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」といった観点を含む、児童の資質・能力です。
例えば、 で示されているような「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」等のうち、どの能力を重点的に育成したいのかを明確にする必要があります。
この際、 で述べられているように、児童が「学校、家庭及び地域における学びを自己のキャリア形成に生かそうとする態度」を養うことができるよう、指導の軸足を明確にすることが重要です。
体験内容の検討: 児童の発達段階に合わせた体験内容にすることが重要です。小学校低学年では、働くことの楽しさを体験できるような内容が中心となりますが、 で示されているように、高学年になるにつれて、例えば「学級生活の中で、自分がやってみたい仕事を見付け,一定期間,継続して行ったり,当番の仕事の仕方を覚えたり,友達と一緒に仕事に取り組んだりする」など、より具体的な仕事内容や働くことの意義を理解できるような内容にする必要があります。
受入先の選定と事前調整: 安全な職場環境であることはもちろん、児童の興味関心に合致し、職場体験のねらいに沿った活動内容であるか、適切な指導体制が整っているかなどを考慮して受入先を選定する必要があります。
に示されているように、学校には、キャリア教育を推進するために、教務主任や安全担当、養護教諭など、様々な役割を担う担当者がいます。これらの担当者と連携し、安全確保や健康管理の面からも適切な受入先を選定する必要があります。
また、受入先と事前に綿密な打ち合わせを行い、活動内容、日程、持ち物、緊急時の対応などを確認しておくことが不可欠です。
では、「キャリア・パスポート」の活用について、学校間で連携を取るように促しています。職場体験の受入先となりうる事業所も、地域社会の一員として、学校と積極的に連携していくことが重要です。
事前指導の充実: 職場体験の意義や目的、働くことの意味、職場でのマナーやルール、活動内容などを、児童に分かりやすく説明しておく必要があります。また、あいさつや自己紹介の練習など、職場体験で必要となる具体的なスキルの習得も重要です。
では、キャリア教育において「見通し、振り返り」と「学びとキャリア形成の関連付け」によって、次の学びへの動機付けにつなぐことの重要性を説いています。事前指導において、児童が職場体験を通してどのような学びを得て、それを今後の学習や生活にどのように活かしていくのかを具体的に示すことが重要です。
安全確保の徹底: 事前に受入先と連携し、活動中の事故やトラブル防止のための対策を講じておくことが重要です。緊急時の連絡体制なども確認し、万が一の事態に備えておく必要があります。
児童へのきめ細かい指導・助言: 児童は初めての経験に戸惑うことも多いため、教師や事業所の担当者は、常に児童の様子に気を配り、こまめな声かけやアドバイスを行うことが重要です。特に、課題に直面して悩んでいる児童に対しては、 で述べられている、キャリア・カウンセリングを通した課題解決に向けた適切な指導や助言が必要です。
振り返りの時間の確保: 職場体験で学んだことや感じたことを振り返る時間を毎日設けることが重要です。 に記載されているように、児童は、日々の様々な学習や経験を通して、変容、成長しています。その成長を促し、児童自身が認識するためにも、振り返りの時間は重要です。
振り返りを通して、体験の意義を深め、今後の学習や生活に活かしていくことができます。
この際、「キャリア・パスポート」を活用し、 で述べられている「自身の変容や成長を自己評価できる」ように促すことが有効です。
コミュニケーションの促進: 児童と事業所の担当者、教師、保護者間で、日々の活動内容や様子、課題などを共有し、密接なコミュニケーションをとるように努めることが重要です。
の事例では、「キャリア・パスポート」の内容を、保護者との三者面談で共有しています。このように、職場体験での学びを家庭と共有することで、家庭でも児童の成長を促すことができるでしょう。
体験の共有と発表: 職場体験で学んだことや感じたことを、他の児童や教師、保護者に向けて発表する機会を設けることで、体験の意義を共有し、学びを深めることができます。
の事例では、職場体験で作成した絵本を地域の方々に見てもらう機会を設けることで、地域との交流を生み出しています。このように、職場体験をきっかけとした地域交流は、学校と地域社会の連携を深める上でも有効です。
キャリア教育との関連付け: 職場体験で得た経験を、今後の学習や進路選択にどのように活かしていくのかを考えさせることが重要です。キャリア・パスポートなどを活用し、自身の成長や変化を記録していくことも有効です。
では、「キャリア・パスポート」の内容を、将来の職業や生活を考える際に役立てることができると述べています。
感謝の気持ちの表明: 職場体験の機会を提供してくれた事業所や担当者に対して、感謝の気持ちを伝えることを忘れずに指導する必要があります。
評価の実施: 職場体験が、事前に設定した目標やねらいに対して、どの程度達成できたのかを評価することが重要です。
では、キャリア教育における生徒の学習状況を評価する方法について、生徒の活動記録や自己評価、他者評価などを組み合わせて行うことができると述べています。
評価方法の検討: 評価方法としては、アンケート調査、児童による発表やレポート提出、事業所への聞き取りなどが考えられます。
では、アンケートによる定量的な把握と、面談や観察による定性的な把握の両方が重要であると述べています。職場体験の評価においても、アンケートやレポートだけでなく、児童や事業所の担当者への聞き取りなどを通して、多角的な情報を収集することが重要です。
評価結果の活用: 評価結果を踏まえ、今後の職場体験の改善に活かしていくことが重要です。具体的には、体験内容の見直し、受入先の選定基準の変更、事前・事後指導の充実などが挙げられます。
では、評価結果に基づき、指導等の改善を図ることを推奨しています。職場体験においても、評価結果を次の機会に活かすことで、より効果的な活動にしていくことができます。
評価結果の共有: 評価結果は、学校関係者だけでなく、事業所や保護者にも共有することで、より良い職場体験の実現につなげることができます。
関係機関との連携: 職場体験の実施には、学校だけでなく、地域社会や企業など、様々な関係機関との連携が不可欠です。地域の教育資源を活用したり、企業と連携したプログラムを開発するなど、 で述べられている校種間連携も視野に入れながら、積極的に連携を図っていくことが重要です。
継続的な見直しと改善: 職場体験は一度実施すれば終わりではなく、児童のニーズや社会の変化などを踏まえ、内容や方法を継続的に見直し、改善していくことが重要です。
文部科学省より、8月29日に公表されました“総合推進パッケージ”では、教師を取り巻く環境整備において、「学校における働き方改革の更なる加速化」「教師の処遇改善」「学校の指導・運営体制の充実」の一体的な推進が求められています。これは、これらの要素が相互に密接に関連し合い、一体的に取り組むことで相乗効果を生み出し、より効果的に教師が子供と向き合う時間を確保し、質の高い教育を実現できる環境を整備できるからです。
以下、一体的な推進の必要性について、具体例を挙げながら詳しく説明します。
現在の日本の教育現場では、教師は、本来子供たちと向き合うべき教育活動以外にも、多岐にわたる業務を担っています。 その結果、多くの教師が長時間労働を強いられており、心身の疲弊や教育の質の低下が懸念されています。
複雑化する教育課題への対応
近年、子供たちが抱える課題は、いじめ、不登校、発達障害、貧困など、複雑化・困難化しています。 これらの課題に対応するために、教師には、従来の指導方法にとどまらない、より専門的かつきめ細やかな対応が求められています。
保護者や地域からの期待の高まり
保護者や地域社会の学校教育に対する関心は高まっており、学校や教師に対する期待も大きくなっています。 その一方で、過剰な苦情や不当な要求も増加しており、教師は、これらの対応にも追われています。
学校事務の増加と複雑化
学校における事務処理も増加・複雑化しています。 GIGAスクール構想によるICT環境の整備に伴い、端末管理やネットワーク関連の業務も増加しており、教師の負担となっています。
これらの状況は、教師一人ひとりの時間的・精神的な負担を増加させ、本来業務である教育活動に集中することを困難にしています。 このような状況を改善するためには、働き方改革を進め、時間外労働を削減すると同時に、教師の処遇を改善し、教職の魅力を高める必要があります。
さらに、外部人材の活用や校務のICT化など、学校の指導・運営体制を充実させることで、教師が教育活動に専念できる環境を整備することが急務となっています。
(1)業務分担の明確化と外部人材の活用による負担軽減
業務分析に基づいた役割分担の徹底: 教師が担っている業務を分析し、
教師の専門性を生かすべき業務 (授業や教材研究、生徒指導など)
校長等の管理職の指揮命令系統が明確な業務
外部人材でも対応可能な業務 (事務処理、部活動指導、スクールカウンセリングなど) に分類し、それぞれの業務に適した人材配置を進めることが必要です。
外部人材の積極的な活用:
スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー を配置することで、 子どもや保護者への専門的な対応体制を強化し、 教師の負担軽減を図ることができます。
全ての中学校に生徒指導担当教師 を配置することで、 近年増加傾向にある不登校やいじめ問題への対応を強化し、 きめ細やかな生徒指導体制を構築することができます。
事務職員を増員し、共同学校事務室 を設置することで、 事務処理の効率化を図り、教師が事務作業に追われる時間を削減することができます。
部活動指導員 を配置することで、 部活動指導の負担を軽減し、教師が授業準備や生徒指導に専念できる時間を確保することができます。 これらの外部人材の配置は、「学校の指導・運営体制の充実」に大きく貢献するだけでなく、結果として「学校における働き方改革の更なる加速化」を推進する力となります。
(2)専門性を生かした役割分担と処遇改善
若手教師へのサポート体制強化: 大量退職・大量採用が続く中で、若手教師の負担軽減は喫緊の課題です。 新規採用教師に対しては、
初年度は学級担任ではなく、教科担任や学級副担任として経験を積ませる
持ち授業時数を減らし、授業準備や研修に専念できる時間を確保する
中堅・ベテラン教師によるメンタリング体制を構築し、相談しやすい環境を作る などのサポート体制強化が必要です。
ベテラン教師の経験・専門性の活用: ベテラン教師は、豊富な経験と専門性を活かし、
若手教師の指導・育成
校務のマネジメント
新たな教育課程や指導方法の開発
校内研修の企画・運営
地域連携の推進 など、学校全体を支える役割を担うことが期待されます。
多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成: 教師の資質向上を図り、子供たちの多様なニーズに対応するためには、
教職課程における専門性の強化
教職大学院の充実と経済的支援
多様な専門性や背景を持つ人材の積極的な登用 などを推進し、質の高い教職員集団を形成していく必要があります。
処遇改善: 教職調整額の引き上げなど、教師の給与面での待遇改善は、教職の魅力を高め、優秀な人材を確保する上で不可欠です。 教師の職務は、
全人格的な対応が求められる
裁量性が大きく、自主性・自律性が求められる
勤務時間の内外を問わず、業務に携わることが多い などの特殊性を有しており、 これらの点を踏まえた処遇改善が必要です。
(3)ICT を活用した業務効率化
校務のICT化: 校務のICT化は、教師の業務効率化に大きく貢献します。
従来、紙ベースで行われていた事務作業をデジタル化することで、業務を効率化し、時間外労働の削減につながります。
オンライン会議システムなどを活用することで、会議時間の短縮や移動時間の削減も期待できます。 これらの効果を最大限に引き出すためには、国や教育委員会による財政支援と、現場の教師にとって使いやすいシステムの構築が必須です。
教育活動におけるICT活用: 学習支援ソフトやデジタル教材などを活用することで、教師の授業準備の負担軽減を図ることができます。
個別に最適化された学習や協働的な学びなど、ICTを活用した効果的な指導方法を導入することで、子供たちの学習意欲を高め、学力向上につなげることができます。
「学校における働き方改革の更なる加速化」「教師の処遇改善」「学校の指導・運営体制の充実」を一体的に推進することで、
教師の長時間労働を是正し、心身の健康を確保する
教師がゆとりとやりがいを持って仕事に取り組める環境を整備する
教師が専門性を活かし、子供たち一人ひとりに向き合った質の高い教育を実現する
結果として、子供たちの学力向上や健やかな成長、そして、日本の未来を担う人材育成につなげる
ことができます。
これらの実現に向けて、国や教育委員会は、必要な財政支援や制度改革、効果的なICT環境の整備を進めるとともに、学校現場では、教職員間で協力し、それぞれの強みを活かした体制を構築していくことが重要です。
2学期制の学校は、そろそろ評価の時季かと思います。「主体的に学習に取り組む態度」は、「自己調整力」「粘り強さ」の2つが柱になるわけですが、生徒が知識・技能を習得し、思考力・判断力・表現力を育成しようとする、内発的な意欲や姿勢といった、非認知能力を評価するものです。理科の授業において、授業者は生徒の以下の行動に着目する ことで、具体的な評価につなげることができます。
1. 探究活動への積極性
疑問を持つ: 自然現象や実験結果に対して、自ら疑問を持ち、その理由や仕組みを解明しようとする行動。 には、「いろいろな生物とその共通点に関する事物・現象に進んで関わり」とあり、 受動的に学ぶのではなく、自ら課題を見出し、探究しようとする姿勢が求められています。
仮説を立てる: 観察や実験結果から、自分なりの考えや予測を立て、探究活動の指針を立てようとする行動。
実験や観察に集中: 精度の高い実験や観察を行うために、手順や方法を工夫し、正確に実行しようとする行動。
結果の考察: 実験結果を様々な角度から分析し、考察を加えることで、課題に対する理解を深めようと する行動。
例:植物の光合成に関する実験
生徒Aさんは、教科書で光合成の仕組みを学んだ後、「光の色を変えると、植物の成長速度はどう変わる のか?」と疑問を持ち、先生に相談して、独自の実験を計画しました。
生徒Bさんは、対照実験で用いる植物の条件を揃えることにこだわり、葉の数や大きさ、水やりの量などを 細かく調整しながら実験を進めています。
2. 課題解決に向けた粘り強さ
試行錯誤: 実験がうまくいかないときも、諦めずに、原因を究明し、実験方法や条件を改善しようと 試みる行動。 には、「見通しをもったり振り返ったりするなど、科学的に探究しようとして いる」とあり、試行錯誤を通して、探究活動を粘り強く継続していく姿勢が求められています。
多様な方法の探求: 一つの方法に固執せず、より適切な解決方法を模索するために、様々な資料を 参考にしたり、先生や周りの人に意見を求めたりする行動。
考察の深化: 実験結果を多角的に分析し、考察を加えることで、より深い理解を得ようと努力する行動。
例:植物の光合成に関する実験
生徒Cさんは、実験の結果が予想と異なった時、実験方法に問題が無かったか、実験条件が適切だったか などを振り返り、先生に相談しながら実験方法を改善し、再度実験に挑戦しています。
生徒Dさんは、実験結果をまとめる際、インターネットや図書を活用し、実験結果の妥当性を検証したり、 より深い考察を加えたりしようと努めています。
3. 科学的な思考力や表現力の活用
根拠に基づいた説明: 自分の考えや意見を述べる際に、実験結果や科学的な根拠を明確に示す行動。
論理的な思考: 実験結果から結論を導き出す際に、論理的な思考に基づいて、思考過程を整理する行動。
考察の共有: 実験結果や考察をグループやクラスで共有し、議論を通して、多様な視点を取り入れようと する行動。
例:植物の光合成に関する実験
生徒Eさんは、実験結果をグラフや図表を用いて分かりやすくまとめ、考察を加える際に、実験結果から 読み取れること、実験の妥当性、今後の課題などを明確に記述しています。
生徒Fさんは、グループでの話し合いの際に、他の生徒の意見を注意深く聞き、自分の意見と比較検討 しながら、より妥当性の高い結論を導き出そうと努力しています。
これらの行動例はあくまでも一例であり、「主体的に学習に取り組む態度」は、生徒の個性や学習内容に よって、その現れ方は様々です。教師は、生徒の状況に合わせて、多様な評価方法を用いるとともに、 評価結果をフィードバックすることで、生徒の「学びに向かう力」を高めていくことが重要です。