7/26(水) 17:00 -  

精度が保証された機械学習分子動力学シミュレーション:自己学習ハイブリッドモンテカルロ法

永井 佑紀  (日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター )


本講演では、最近盛んに利用されている機械学習分子動力学法について解説するとともに、学習精度に計算精度が依存しない機械学習シミュレーションである自己学習ハイブリッドモンテカルロ法について紹介する。

より正確な原子分子シミュレーションを行うためには、より正確な原子間相互作用の評価が必要であり、密度汎関数理論に基づく第一原理計算で得られたポテンシャルを微分することで得られる力を使った第一原理分子動力学が現時点で最も正確なシミュレーションであると考えられている。しかしながら、第一原理分子動力学法は計算の各ステップで第一原理計算を行うために計算コストが莫大であり、長時間あるいは大きな系の計算が困難であった。これを解決する手法として、第一原理計算で得られたポテンシャルを再現するような人工ニューラルネットワーク(ANN)を構築して分子動力学を実行する機械学習分子動力学法が脚光を浴びており、盛んに利用されている。しかしながら、構築されたANNが元々の第一原理計算のポテンシャルを再現するという保証はない。さらに、4元素以上で構成されるような系の場合には、長時間の機械学習分子動力学法では計算が不安定になることがあり、機械学習分子動力学法の計算の精度や妥当性については常に慎重な議論が必要であった。


本講演では、自己学習モンテカルロ法のアイディア[1]を用いることで、得られた結果が統計的に厳密にオリジナルの第一原理計算分子動力学法の計算結果と等しい手法を開発したことを報告する[2]。また、この手法を効率的な学習手法として使った応用例についても述べる[3]。


[1] J. Liu, Y. Qi, Z. Y. Meng, and L. Fu, Phys. Rev. B 95, 041101(R) (2017).; J. Liu, H. Shen, Y. Qi, Z. Y. Meng, and L. Fu, Phys. Rev. B 95, 241104(R) (2017).; YN, H, Shen, Y. Qi, J. Liu, and L. Fu, Phys. Rev. B 96, 161102(R) (2017)

[2] YN, M. Okumura, K. Kobayashi and M. Shiga, Phys. Rev. B 102, 041124(R) (2020); Kobayashi, Keita, YN, Mitsuhiro Itakura, and Motoyuki Shiga. The Journal of Chemical Physics 155 (3): 034106.

[3] YN, Yutaka Iwasaki, Koichi Kitahara, Yoshiki Takagiwa, Kaoru Kimura, and Motoyuki Shiga.  “Atomic Diffusion due to Hyperatomic Fluctuation for Quasicrystals.” arXiv:2302.14441. http://arxiv.org/abs/2302.14441.