5/24(水)17:00 -  

テンソルネットワークによる情報圧縮と物理への応用

大久保 毅氏  (東京大学大学院理学系研究科)

物質中の電子集団や、量子計算機中の量子ビットの集団など、量子力学に従って運動する”粒子”が多数集まった量子状態は、その情報を複素数ベクトルで表現しようとすると、粒子数に対してベクトルの次元が指数関数的に大きくなってしまう。一方で、量子状態の性質によっては、小さいテンソルのつながりで表現するテンソルネットワーク状態により、高次元の複素数ベクトルの情報を大幅に圧縮して、少数の自由度で高精度に近似できる場合がある。

 また、古典統計物理学では、しばしば、粒子数に対して指数関数的に大きな数の状態に対する和が現れることがある。このような多数の項の和も、テンソルネットワークとして表現できる場合があり、その表現を活用した情報圧縮により、和の計算を高精度に近似できる。

 本セミナーでは、そのような情報圧縮の観点から、テンソルネットワーク表現を導入し、具体的な応用例として、二次元量子多体系の基底状態計算[1,2]や、古典統計力学模型での臨界現象の解析[3,4]について紹介する他、現状での課題、量子計算機への期待、今後の展望などについても議論する。


[1] T. Okubo K. Shinjo, Y. Yamaji, et al, Phys. Rev. B 96, 054434 (2017).

[2] Y. Motoyama, T. Okubo, K. Yoshimi,  Comput. Phys. Commun. 279, 108437 (2022).

[3] D. Adachi, T. Okubo, and S. Todo, Phys. Rev. B 102, 054432 (2020).

[4] D. Adachi, T. Okubo, and S. Todo, Phys. Rev. B 105, L060402 (2022).