研究の余暇




コロナ下にあって,ひとときの安らぎを求めるひとたち。目の前明るい樹木の先に未来がみえている (東京杉並 善福寺公園:著者撮影)。


これを撮影したときは,コロナ第3波の真っ只中にあった。このパンデミックが,今後どうなるか全くわからない状況で,われわれの不安も最高潮に達したように感じている。この後,感染者数は,さらに増加する波が幾度か到来した。しかし,ワクチン接種も国民の間に浸透し,一方,コロナウイルスも変異を重ねて弱毒化し,この災難もやがて収束してゆくことを期待していた。


現在は,この新型コロナ感染症も,法律的には,第2類から季節性インフルエンザなどと同様の第5類に引き下げられた。しかし,あの時のおもいは,風化させてはいけないと考えて,この写真は,そのまま残してある。


本画面テーマ


12.1.  視覚強化刺激


12.2.  聴覚強化刺激



強化刺激について:オペラント行動 & 行動解析と薬物依存  参照

ここでは,研究のかたわら,あるいは研究をそっちのけで,求め続ける「刺激内容」といった程度の意味である。

研究を年にわたり,継続的に実施するためには,研究以外にも好きなことに触れ,楽しい時間に浸ることが極めて重要と考えます。研究は,興味のある好きなことをやる職業だとはいっても,永い研究生活で,それだけで済まされるはずもありません。



したがって,研究が,人生にとって生きがいだとすると,それを背後で支えてきた好きなことや楽しい時間などの体験の意味も考えてみたいと思います。そして,それらの中にも神経行動解析研究のテーマがあり,それについては,とても楽しく考えることに気づかされました。その意味で,「視覚強化刺激」と「聴覚強化刺激」いう題名のページを付け加えました。要は,趣味である旅行と写真撮影とクラシック音楽鑑賞のことを持って回った表現で述べただけではあります。



強化刺激といっても,それぞれの個人(個体)にとって,それらを求める反応が高まり,時間的にも持続することが条件となります。したがって「強化刺激」という標題,当然ながら個人的相対的なものに過ぎません。




12.1. 視覚強化刺激


Sony社カムバックの象徴の様なカメラ。現在,同社の α7シリーズなどは,フルサイズ(イメージセンサーサイズ: 36 X 24 mm)のミラーレス一眼カメラと呼ばれている領域でのトップランナー。現代のカメラは,高品質レンズ,ソフトと連携した精密駆動システムの他に画像感知処理センサーが重要となるが,Sony は後者に圧倒的な強みを持つ。また,このカメラは,ボディの堅牢性,軽量性,操作性を備え,そのデザインもすっきりとして美しい。Sony α7 による実写画像は,本WEBサイトのトップページ(神経行動解析 )に掲載。


追記:

最新の iPhone などのスマホカメラの性能はすごい(ここにも,Sony の画像感知処理センサーが使用されている)。スマホカメラの裏技を含めた使い方を習熟すれば,素人が魅力溢れる高画質の動画や写真を手軽に撮影できるようになった。iPhone などで撮影された youtube 作品を大型テレビ画面で見ると,それに見入ってしまう。だれもが写真を撮影して,SNS などに自由に投稿できる時代になり,写真撮影は極めて日常的で身近になった。国民総カメラ マン&ウーマン時代に,伝統ある写真月刊誌「アサヒカメラ」や「日本カメラ」が休刊あるいは廃刊においこまれたというのは皮肉なことである。これら雑誌が,新しい需要の変化をいち早く察知し,その需要を取り込めなかったのは残念に思う。


一方,思いつくままに他の月刊誌に眼を向けると,「レコード芸術」や「トランジスタ技術」などはいまだに存続している。それぞれは,「レコ芸」や「トラ技」の愛称で親しまれているが,すでに「レコード」も「トランジスタ」も,懐かしい言葉としての存在となった。しかし,これらの雑誌は,時代の変化とその時々の需要を必死に探りつつ,それに合わせた化粧をして,    ♪  昔の名前で出ています ♪   といって,読者の睫毛に憩い,艶然と微笑みかけ続けている。


追追記:

上記に記載した 70年の歴史を持つ「レコード芸術」は,2023年7月号をもって,休刊とのことである。紙材料やその他経費の値上がり,世の中の価値観や仕組みなどの多様な変化のうねりに抗しきれなかったと思う。誠に残念なことではあるが,やむを得ないながれであろう。しかし,このような流れは,新たな仕組みの到来を告げている。

https://www.ongakunotomo.co.jp/information/detail.php?id=2965




日本には本当に美しい自然とすぐれた文化があり,固有の歴史があります。コロナパンデミックが,やっと影を潜めつつある現在,皆でこれらに触れ,美しい日本に誇りを持ちたいと考えています。







--- 下記の写真はすべて著者が撮影しました ---


日本の美しい自然

青森県 奥入瀬渓谷

福島県 五色沼

空と雲そして開花前の桜の巨木 (福島県 三春)

山梨市からの春の富士

宮崎県 鬼の洗濯岩


宮崎県 鵜戸神宮の岩

人の顔の様でもあり,そうでもないところに惹かれる

鹿児島県 開聞岳

箱根 芦ノ湖からみた富士山と,みえるかみえないか

鹿児島県 桜島の噴火の瞬間に遭遇

美しい日本にも,火山噴火,地震,津波,台風,洪水などの自然災害があり,人々は,いまも,また歴史の中でも,それらとたたかってきた




日本の伝統ある文化と生活とひとびと


青森県 ねぶた 山車

ねぶた 山車 2


桜に霞む青森県 弘前城

秋田県 角館

岐阜県 白川郷

借景技法を学べる島根県 足立美術館 

京都府 伊根舟屋

日本家屋が溶込む鹿児島 島津家庭園

岐阜県 長良川鵜飼

魚獲が伝統文化にまで高められた

兵庫県 姫路城

眼に眩しい白鷺城

東北に元気を与えるポリネシアンショウ 1 福島県いわき市スパリゾートハワイアンズ

同ポリネシアンショウ 2 福島県いわき市スパリゾートハワイアンズ 




クルーズ船の旅

青い空と大海原をみながら,ゆったりとした時間を過ごすクルーズ船の旅ほど楽しく,充実したものはない。クルーズ船の歴史は,海外では長く,決して一部の富裕層のみのものではなく,普通の市民が通常の旅行として楽しんでいる。日本のクルーズ船も,サラリーマンとして,あるいは公務員として,つましく真面目に長期間働いて,退職後に乗って楽しんでいる人たちがたくさんいる。飛行機での海外旅行も楽しいと思うが,クルーズ船の旅では,重いキャリーバッグを持っての慌ただしい移動や時差に悩まされることがない。国内をクルーズ船で旅し,いくつかの寄港地で,それぞれの土地の文化,人々の生活,歴史や自然に触れて,ゆったりとした時間を楽しむことができる。


日本のクルーズ船の代表格として,「飛鳥II」 と 「にっぽんまる」が,まずは挙げられる。それぞれ,親会社が日本郵船株式会社と商船三井株式会社である。コロナ禍中では,なかなか運航もままならなかったが,両社は,それにめげず,果敢に運航計画をたて,運航しようとした。しかし,運航について,集客したにもかかわらず,予約の段階で幾度も中止せざるをえない場合や,運航当日の朝に電話がかかってきて,運航中止となったり,運航中に洋上でコロナ陽性者が1人見つかり,急遽運行中止となり,帰港し,相当額を乗客に補償金として返還したりと,クルーズ会社もとても大変であった。客は,そのような困難な場合の会社の真摯な対応にますます惚れ込んでゆくという構図もあったと思う。コロナが収束すれば間違いなくクルーズ船の旅需要は増えるとみている。そういえば,我が国のコロナパンデミックの最初の時期に,「ダイアモンドプリンセス」は,国民の注目を集めていた。このような外国船は,船体自体も,運航規模も日本船より大きく,乗船価格も安い。いずれにせよ,コロナ収束後には,多くの人々がクルーズの旅につぃて興味をもち,それを楽しめるような時期の到来を期待したい。


「飛鳥II」 と 「にっぽんまる」については,それぞれの親会社の株券を購入すると,株主優待で相当額の乗船割引がある。ただし,この2社の株価は,数年前に比べて,現在は急上昇してしまった。それゆえ,株主優待目当てで,これらの株を今購入することには躊躇が必要と思う。上記2社の株は,東京証券取引所でも,値上がり率と高配当金で,現在もっとも注目を集めている。その理由は,コロナ禍において,輸出入などでの物流の需要が急増し,一方,コンテナー船の供給不足により,運賃が鰻登りに増加し,円安の時代に,ドル建てベースの契約も幸いして,船会社の利益が跳ね上がった。さらに,紅海でのフーシー派の攻撃により,貨物船などはスエズ運河を通過せず,アフリカ南端の喜望峰経由になったことで運賃がさらに上昇し,親会社の利益が増大した。このような状況なので,子会社のクルーズ船の運航の赤字などは,現時点ではびくともしていないようにみえる。多分,上記2社のクルーズ船会社の正規従業員も,ある程度雇用が保証されており,クルーズ船の運航に大きな困難と障害があっても,落ち着いて誠意ある対応がとれる状況なのかもしれない。このように,本家が物流の運輸で利益が上がっている場合は,ラッキーである。クルーズ船の中には,クルーズ事業のみを主要なビジネスとして世界規模で運営展開しているところもある。このような場合には,その運営は,コロナ禍では大変であり,コロナパンデミックにより,クルーズ船会社存続という面でも大きな影響を受けた。


ところで,「飛鳥II」 と 「にっぽんまる」とともに,人気のあるわが国のクルーズ船 「パシフィックビーナス」は,2022年12月を最後に,運行を行わないというニュースが入ってきた。この船は,ユニークな企画や航路選定などで魅力があった。しかし,コロナの厳しい影響をもろに受け,また世界規模の貨物運輸業務を行なっていなかったりで,この様な決断をせざるを得なかったと思う。これまで,一生懸命業務を行ってきたクルーたちや関係者には,感謝しかない。


一方,明るいニュースとしては,日本郵船が,「飛鳥II」の後継となる新造船を2025年に就航予定というのがある。この船は,「飛鳥II」なみの5万トン級の大きさであり,エンジンは,液化天然ガス,ガスオイル,低硫黄重油に対応しているとのことである。駆動方式として,従来のスクリュウを回転させて前に進むのではなく,ドルフィンが尾びれを左右に振って前進するようなシステムとのことである。また,船が港に停泊するときに錨を投下するのではなく,自動位置保持システムを利用するとのことである。これにより,停泊場所の選択肢が増え,また錨の投下による海底自然を損なうことがなくなるという。どんな船なのか本当に楽しみである。








--- 下記の写真もすべて著者が撮影しました ---


にっぽんまる

商船三井客船株式会社運航

青空と雲とにっぽんまる

横浜港湾内からの富士

横浜港湾内からの夜景

東京湾からの夜の富士 

東京湾のキリンたち

首を長くして仕事が来るのを物欲しげに待っている 

東京湾工場地帯と富士

船の軌跡と富士

甲板からの落日

赤いマストと青い空

停泊中のにっぽんまるの遠景


飛鳥II

郵船クルーズ株式会社運航 

飛鳥II 全景

岸壁の飛鳥II


ぱしふぃっくびいなす

日本クルーズ客船株式会社運航

(残念ながら 2022年12月が最後の運行となった)

遠景からの ぱしふぃっくびいなす

おがさわらまる と ぱしふぃっくびいなす

長崎県造船所  

かつては世界一の造船王国だったこともある

長崎県端島 

夕闇では本当に軍艦に見える


ダイアモンドプリンセス

米国 Carnival Corporation & PLC 運航

大阪港のダイアモンドプリンセスと観覧車


ダイアモンドプリンセス船尾

彼方に立山連峰が見える

ホールで演奏を聴きながらくつろぐひとたち

船長とシャンパンタワー

気象条件と海流を読み,穏やかな航海を確保しているが故のシャンパンタワーであることをこそ,ここで船長は誇示したいであろう

料理担当者のアトラクション


MSC スプレンディーダ

MSC Crociere S.p.A. 運航


MSC (Mediterranean Shipping Company),スイスに本拠地を持つ巨大船舶運航会社

Mediterranean: 「地中海沿岸の」という意味

鹿児島港のMSCスプレンディーダ

煌びやかな内装

スワロフスキーデザインの階段

足で踏みつけるのは恐縮する

ホールでのピアノ演奏


12.2. 聴覚強化刺激




Boesendorfer は,Franz List などの超絶技巧による激しい演奏にも耐えられるピアノとして,19世紀にウイーンで製作された。20世紀には,鍵盤の獅子王とよばれたピアニスト Wilhelm Backhaus などが,このピアノを好んで使用した。彼は,32曲の Beethoven のピアノソナタのほとんどを,この社のピアノを用いて録音した。 このピアノには,「ウインナー トーン」と呼ばれる倍音の美しさなどで,人を惹きつける魅力があるとされている写真は,山野楽器 銀座本店で許可を得て著者が撮影)。



同社は何度もの倒産を経て,現在は我が国 のヤマハの完全子会社として存続。何十年以上も前には,ヨーロッパのピアノは,ヤマハ(当時は日本楽器)の遥かなる憧れと遠い目標だったに違いない。このピアノの経営権を所有することなど,当時はだれも考えなかったであろう。ウイーンの職人気質と伝統だけでは,ピアノ製作も,ビジネスとしては成り立たなかったのだと思う。



その点, Steinway社は,ドイツに起源をもつが,早くからニューヨークに拠点を移し,世界のコンサートピアノを独占するビジネス展開を見せた。Steinway は,コンサートで 80% の占有率をもち,あたかもスタンダードのような立場にある(Windows OS を想起させる) 。このことが,現代のピアノ製作技術の発展を阻み,ピアニストの演奏を均質化させているとの批判もある。ここで,巨大化し,過大に権威づけられた学術雑誌出版社のことも思い浮かべた。




Johann Sebastian Bach:

The Goldberg Variations

by Glenn Gould


バッハの様式美を維持しつつも,当時としては伝統にとらわれない天衣無縫の躍動感あふれる演奏だった。そのため,クラシック音楽ファン以外にも,バッハ音楽が親しみやすいことを認知させた。グールドは,特別仕様ピアノの Steinway CD 318 と父親の作製したピアノ演奏用椅子への強いこだわりを持っていた。風邪にかかることを極度に恐れ,当時の欧米人には珍しくマスクを常用し,感染防止のために人と握手をしないことでも有名であった。彼には呼吸器障害の持病があり,現在の新型コロナウイルスの深刻な流行を経験しているわれわれにとっては,彼の自身を守る当時の姿勢はよく理解できる。一方,彼自身が後に,ピアニストの命である指先を無神経な相手の握手で傷められたくなかったとも述べていた。細かい指先の技術を駆使する外科医も,同様の気持ちになるのかも知れない。


50歳の生涯のうち,後半はもっぱらレコード録音による音楽活動のみとした。その理由は,生演奏でのわずかなピアノミスタッチについて,いちいち批評されることに嫌気がさしたからとされている。彼は極めて繊細な感情を持っていたことが,友人などの証言でもわかる。彼のデビュー曲のバッハ演奏は,デュークエリントン,カウントベーシー,ベニーグッドマン,グレンミラーなどの当時のスイングジャズの影響があったのかどうかについて考えてみたくなる。


 

この曲は,バッハが 14歳のゴールドベルグ少年のために作曲したといわれている。その理由は,この少年が仕えていたカイザーリンク伯爵の不眠症を癒すために,少年が伯爵の入眠時に隣室で弾くためとされている。この曲は,20世紀になって,ワンダ・ランドウスカが近代チェンバロによる演奏をレコードで出すまではほとんど注目されなかった。さらに,グールドの演奏で,この曲はすっかり有名になった。バッハが,グールドの演奏を聴いたら,「これは素晴らしい曲だ!これを作曲したのは誰だ」と言ったかもしれない。先のランドウスカの演奏を聴いていると眠くなる。これこそが,この曲の作曲者の意図だったであろう。聴いていて眠くなる他の多くの作品や演奏には,それなりの立派な効用と価値があるといえる。




同曲の同演奏家による youtube url (以下同様)

https://www.youtube.com/watch?v=Cwas_7H5KUs&list=RDCwas_7H5KUs&start_radio=1&rv=Cwas_7H5KUs&t=42





Ludwig van Beethoven:

Symphony No. 7

by Wilhelm Furtwangler

with Vienna Philharmonic Orchestra


ベートーベンのドラマティックにして優雅な曲想を,この指揮者は独自の緩急と躍動感あふれる演奏スタイルで表現。これこそが,この指揮者の特色であり,ここに多くのファンが惹き込まれる理由が存在する。


 

生誕250年を迎えるベートーベンの 9曲の交響曲のうち 3曲を選ぶとしたら,まずは合唱付きの第9交響曲が挙げられ,次にこの7番をあげることができると思う。あとのもう一つは,それぞれの好みになると勝手に考えている。


 

フルトウエングラーは,人間の呼吸,脈拍,感情の起伏などの様々な生体リズムを常に念頭におきながら指揮をしていたと感じる。聴き手が,その脳内回路で感応するツボを本能的に知っていたのであろう。日本人の音楽家の中には,彼のことを,フルトメンクラウワアー(振ると面食らうわあー)と呼ぶ人もいる。これは,彼の指揮動作の打点が極めて曖昧なところからきている。確かに,上記7番の交響曲の出だし部分は,各楽器の音が必ずしも揃ってはいない。これがなんとも言えない音楽の味を出している様に感じる。


https://www.youtube.com/watch?v=2kuJEKMSPZw




Johannes Brahms: 

Symphony No. 2

by Bruno Walter with Philharmonic

Orchestra of New York


ブラームスの四つの交響曲の中で,もっともナチュラルにして伸びやか飽きのこない曲と考えている。ブルーノ ワルター が,手兵ニューヨークフィルを指揮。ブラームスの心に秘めた憧憬(あこがれ)の情感をあるときは淡々と,また最終楽章では激しく表現。指揮者とオーケストラの呼吸がぴったりと一致したメリハリの効いた演奏と感じた。このレコードはスタジオ録音であるが,あたかもコンサート録音でもあるかの様な途切れを感じさせない自然な流れがあるワルター はユダヤ人であったことから,ドイツから米国に移住し,そこでのニューヨークフィルや CBS コロンビアレコードなどとの結びつきにより,彼の演奏活動は世界に広まった。



https://www.youtube.com/watch?v=RJa2pPaBsDQ




Johannes Brahms:

Alto Rhapsody

by Kathleen Ferrier

with Clemens Klauss, 

Male Cholus and the London

Philharmonic Orchestra


ゲーテの詩「冬のハルツの旅」に寄せてブラームスが作曲。彼が,これを作曲する時期は,ドイツレクイエムを完成させるきっかけとなった母親の死,ロベルト シューマンとクララ シューマンとの三女への失恋とが重なった。その時のブラームスの心の奥底にある情感を, キャサリン フェリアーは抑制された表現で歌いあげている。クレメンス クラウスの指揮により,オーケストラと影で控えめに支えている男声合唱との呼吸もぴったりとしている。フェリアーは英国生まれで,14歳で電話交換手として働き,正規の音楽教育を受けていなかった。しかし,彼女のピアノと歌唱の才能は,早くから周囲に認められていた。その演奏は,ロンドンレコード(英国デッカ)により,世界中に知られるようになった。しかし,若くして癌になり,彼女は,その最盛期に惜しまれつつこの世を去った。その後,彼女の実績を歴史に刻むために,英国に「キャスリンフェリア協会」が設立された。

 



彼女のことを考えるときに,もうひとりの英国人女性ロザリンド フランクリン のことを思い浮かべる。両人は,第二次世界大戦中とその終戦後の困難な時代に,英国女性として大きな業績を挙げつつ,若くして癌で亡くなった点に共通性がある。ロザリンドこそ,ワトソン & クリックのDNA二重螺旋遺伝子構造発見の裏付けエビデンスとなる X線回折写真を秘かに実験室で得ていた。彼女は当時の英国の学問の世界において,正当に評価されていたとはいえなかった。

 Kathleen Ferrier (1912 - 1953年:享年41歳),Rosalind Franklin (1920 - 1958年:享年37歳)




https://www.youtube.com/watch?v=P7S162WFNI8





Felix Mendelssohn:

Symphony No. 3 (Scottish)

by Wolfgang Sawallisch

with New Philharmonic Orchestra


額にしわを寄せてブラームスの音楽を聴き込んでゆくと,たまには趣の異なったスカッとした音楽も聴きたくなる。メンデルスゾーンのこの交響曲3番スコットランドは,彼が最後に作曲した完成度の高い交響曲である。第4番イタリアや第5番宗教改革などの交響曲も有名であるが,これらの番号は,楽譜出版順であり,作曲年代順ではないとのことである。

 

 

サンディエゴで開催された北米神経科学会 (Society for Neuroscience: SfN) 参加時に,当地の交響楽団 ( Jahja Ling as  the conductor with San Diego Symphony Orchestra) によるコンサートで,この曲を聴いて好きになった。これがきっかけで,上記の Sawallisch 指揮の CD を購入して愛聴している。この曲は,あくまで明るく美しい旋律に満ち溢れ,しかし,時として寂寥感のある趣にはなんともいえない魅力を感じている。

 

 

この作曲家の甘く美しいホ短調のバイオリン協奏曲は,あまりにも有名である。この曲を何度も聴いていると,麦茶に砂糖をいれて飲んでいる様な感覚になったことがある。しかし,この様な曲こそ,われわれがクラシック音楽を好きになるきっかけを作ってくれたのだと今は思っている。

 

 

メンデルソーンは,多くの素晴らしい作品を残した偉大な作曲家である。音楽家の中でも恵まれた生涯を送った作曲家と記載されることもある。しかし,彼の生涯は,他の多くの作曲家同様に幾多の苦難に苛まれており,38歳で亡くなるまで,音楽や作曲に集中するかたちで,偉大な作品を残した。彼は作品以外でも大きな業績を残した。それは,JS バッハのマタイ受難曲の演奏指揮をベルリンでとり,バッハ音楽の素晴らしさを人々に認識させたことである。信じられないことではあるが,当時は JSバッハの音楽はほとんど関心を持たれることはなかった。日本の学校の音楽教室の壁掛け肖像画で「音楽の父」とまで言われているバッハの音楽を世界に紹介しのは,まさにメンデルスゾーンであったといえよう。



https://www.youtube.com/watch?v=3wUa9i8rOJE&t=7s




Zoltan Kodaly:

Sonata for Unaccompanied

Cello by Janos Starker


ハンガリー出身のスターカーは,このレコードで世に出た。録音は作曲家ベーラ バルトークの息子のピータ バルトークが担当した。この曲のモノラル録音の Period 版では,弓毛の松ヤニが飛び散る音が聴こえるとまでいわれた。のちにこのレコードはディスク大賞を受賞し,コダーイのこの曲も,スターカー演奏によって有名になった。スターカーには,バッハの無伴奏チェロソナタのすぐれた演奏録音もあるが,ここでは彼の同国人の作曲家の演奏を挙げた。



https://www.youtube.com/watch?v=0EtxvnqquM0




Igor Stravinsky:

The Fire Bird

by Ernest Ansermet with

Swiss Romand Orchestra

 

ストラビンスキーの独特のリズムと和音から成る作品を息もぴったりのスイスロマンド オーケストラとともにアンセルメが表現。不協和音や意表をつくリズム感の中にも時として美しいメロディーが現れる曲想がストラビンスキー 音楽の特色。作曲者との長い交友関係(その後決別)の中で育まれたこのバレー音楽の曲想の理解で,ストラビンスキー音楽を見事に表現。スイスロマンド の管楽器の透明感も印象的である。アンセルメが数学者であることも,指揮者としては珍しい。現代文の理解と表現には,数学の考え方と知識が基本という林修先生のいうように,楽曲の構造理解には数学の素養が必要だというアンセルメの意見も聴いてみたかった。




https://www.youtube.com/watch?v=y55usKsULdw