主催・後援イベント

【主催】5月例会 室内楽編曲で聴く! Part 2

ベートーヴェン交響曲第5番 ヴァイオリンとピアノのための二重奏用編曲

~国立音楽大学ベートーヴェン初期印刷楽譜コレクションより~


日時:2024年531日(18:30開演(18:00開場)

会場:小山台会館(小山台教育財団)大ホール東急目黒線・武蔵小山駅西口より徒歩3分)  

出演:沢田千秋(企画・構成)

   吉岡麻貴子(ヴァイオリン)・沢田千秋(ピアノ)

   沼口隆(お話)

入場料:一般4,000円、BKJ会員・学生2,000円 *当日、会場受付にてお支払いください

曲目:ベートーヴェン交響曲第5番 ハ短調op. 67 ヴァイオリンとピアノのための二重奏用編曲


~ 例会の聴きどころ ~

国立音楽大学図書館所蔵のベートーヴェン初期印刷楽譜コレクションは世界的に見ても貴重な資料となっています。録音や放送メディアのなかった19世紀においてオーケストラ作品の普及にはさまざまな編曲版が大きな役割を果たしました。今回とりあげる交響曲第5番にも初演翌年の1809年の4手連弾ピアノ編曲をはじめとしてベートーヴェンが他界する1827年にJ.Nフンメルが編曲したピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロによる四重奏版までさまざまな編曲が出版されました。そうした編曲について沼口先生の話と、今回のヴァイオリンとピアノによる二重奏編曲の聴きどころや編曲の工夫や面白さについて演奏者の吉岡さん、沢田さんにも話を聞きたいと思います。  BKJ代表:平野 昭


こちらよりご予約をお願いいたします  → https://forms.gle/xFcHquihWNFGZCX67


(2024/2/8、2/27、4/18更新

出演者プロフィール

吉岡 麻貴子 Makiko Yoshioka(vn)

埼玉県生まれ。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学を首席で卒業。

学内において、安宅賞、アカンサス賞受賞。

別府アルゲリッチ音楽祭、アフィニス夏の音楽祭、東京春音楽祭など、国内外の音楽祭、また、NHK『クラシック倶楽部』などにも出演している。

2014年8月より一年間ウィーンにて研鑽を積む。

現在、東京都交響楽団第一ヴァイオリン副首席奏者。

ソロ、室内楽においても意欲的に取り組んでいる。 


沢田 千秋 Chiaki Sawada(企画・構成・pf)

鹿児島県出身。京都市立堀川高校音楽科、東京藝術大学ピアノ科及び大学院修士、博士課程を修了。ベートーヴェン交響曲のリストによるピアノ・スコアの演奏及び研究論文にて博士号を取得。ピアノ・トランスクリプションの研究及び演奏をライフワークとする。

1994年 東京文化会館新進音楽家デビューコンサート、NHK-FMリサイタル、大垣音楽祭、都城音楽祭、水戸市芸術振興財団主催コンサート、〈東京アーツトリオ〉米国公演等、ソロ、室内楽、歌曲伴奏において、演奏活動を行う。

CD:ショパンピアノ協奏曲第 1 番(室内楽版)、ベートーヴェン=リスト編曲 交響曲第 5 番、第 6 番、ハイレゾ配信: グリーグ/ホルベルグ組曲 op.40・2つの悲しい旋律 op.34 他。

小山台教育財団小山台会館ランチタイムコンサートコーディネーター(2015〜)。

日本ベートーヴェンクライス運営理事。国立音楽大学准教授。


沼口 隆 Takashi Numaguchi(お話)

東京藝術大学准教授、国立音楽大学および桐朋学園大学講師、日本ベートーヴェンクライス事務局長。ドルトムント大学博士課程修了(Dr. phil., 2006)。2002~06年、ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生。専門は音楽学、主たる関心領域はベートーヴェンとその周辺の音楽文化。共編著に『音楽を通して世界を考える』(2020)、『ベートーヴェンと大衆文化』(2023)。一般書に『楽譜をまるごと読み解く本』(共著)など、訳書にハインリヒ・シェンカー『ベートーヴェンの第9交響曲 分析・演奏・文献』、ルイス・ロックウッド『ベートーヴェン 音楽と生涯』(ともに共訳)など。

【後援】TAMA音楽フォーラム 


本会が後援する演奏会です。ぜひご参加ください。


特定非営利活動法人TAMA音楽フォーラム ようこそ、スタジオ・コンチェルティーノへ第25回

「フーガへの誘い」

 

演奏 

アンサンブル・フモレスケ

山本美樹子、三雲はるな(ヴァイオリン)脇屋冴子(ヴィオラ)長谷川彰子(チェロ)

 

演奏プログラム

ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調 Op.20-2 Hob.Ⅲ:32

ヒンデミット:弦楽三重奏曲 第1番 Op.34

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 変ロ長調 Op.133「大フーガ」

 

日程

2024/6/8(土)15時 


会場

スタジオ・コンチェルティーノ(東京都町田市東玉川学園1-6-20)


聴講料

 一般3,500円  学生1,500円(当日清算)


お申込・お問合せ先

TAMA音楽フォーラム

〒194-0042 東京都町田市東玉川学園1-6-20

FAX 042-729-4698 

e-mail:ticket.tama@gmail.com

ホームページ:http://tama-music-forum.sun.bindcloud.jp/

オンライン予約:http://tama-music-forum.sun.bindcloud.jp/reservation.html

  (2024/2/20)

【後援】Ensemble Humoreske ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲コンサートシリーズ

本会が後援する演奏会です。ぜひご参加ください。


Ensemble Humoreske ベートーヴェン後期弦楽四重奏曲コンサートシリーズ

第3回 涙をたたえて 作品130(作品133「大フーガ」付き)


日時 2024年8月30日(金)19時開演(18時半開場)

場所 ルーテル市ヶ谷ホール

チケット料金 一般3500円 学生2000円

曲目 L.v.ベートーヴェン:弦楽三重奏曲ト長調 作品9-1

   L.v.ベートーヴェン:弦楽四重奏曲変ロ長調 作品130、「大フーガ」変ロ長調 作品133

お問い合わせ 新日本フィル・チケットボックス 03-5610-3815

     アンサンブルフモレスケ info@ensemblehumoreske.com

(2024/04/07)

【お知らせ】『ベートーヴェンとホルン:資料集』の販売について

2023年6月13日に開催した特別例会「ベートーヴェンとホルン」に合わせ、本会副代表の土田英三郎が資料集を作成しました。この貴重な情報が満載の資料集は、当日の特別例会にお越しいただけなかった方にもお楽しみいただける内容となっております。

今後開催される本会の例会会場にて、『ベートーヴェンとホルン:資料集』を2000円で販売いたします。

ぜひお求めください!

(2023/07/08)

ぶらあぼCaféの特設ページ

ぶらあぼCaféにBKJのページができました。

https://cafe.ebravo.jp/beethovenkreis

代表・野平一郎のメッセージもございます。ぜひご覧ください!

(2022/02/15)

YouTubeに例会のハイライト版動画を公開しました!

2021年に主催した例会のハイライト版動画をYouTube上に公開いたしました。

それぞれ3分にまとめてありますので、ぜひご覧ください。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLopqwfydGeFwzwrKC8Q381bXOlkQNSBjM

2019年11月の演奏会のハイライトはこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=x5ft_oxBLd8


今後もこのような例会を続けていきますので、ご興味を持たれましたら、ぜひご参加ください。

(2021/10/28、2021/12/28更新)

特別演奏会〜音楽劇《エグモント》   動画公開

本会が後援した東京藝術大学での演奏会の動画が公開されています。ぜひご覧ください。


演奏会名:特別演奏会 音楽劇《エグモント》〜ゲーテによる悲劇〜

日時:2021年 8月 29日(日)15:00開演

会場:東京藝術大学奏楽堂

主催:東京藝術大学演奏藝術センター・東京藝術大学音楽学部

後援:日本ベートーヴェンクライス

東京藝術大学 演奏藝術センター企画/藝大フレンズ賛助金助成事業

https://dt.geidai.ac.jp/?p=561

(2021/12/2、2021/12/16更新)

室内楽編曲で聴くベートーヴェン  動画公開 

本会が後援した東京藝術大学での演奏会の動画が公開されています。

あまり聴くことのできない珍しい室内楽編曲での演奏です。ぜひご覧ください。


演奏会名:藝大プロジェクト2020 ベートーヴェン生誕250年記念 第2回 室内楽編曲で聴くベートーヴェン

日  時:2020年 11月 1日(日)15:00

会  場:東京藝術大学奏楽堂

 主  催:東京藝術大学演奏藝術センター・東京藝術大学音楽学部

 共  催:国立音楽大学附属図書館

 後  援:日本ベートーヴェンクライス 

 http://arcmusic.geidai.ac.jp/10051


(2021/11/28)

訃報】

日本ベートーヴェン クライス事務局長(ミリオンコンサート協会代表取締役社長)小尾旭が、2020年7月25日虚血性心疾患のため逝去致しました。享年90歳でした。故諸井誠前代表の発案により、日本ベートーヴェン クライスの発足時よりとても親身に相談に乗ってくださり、この会の発展にご尽力いただきました。ここに謹んで哀悼の意を表したいと思います。

日本ベートーヴェン クライス代表 野平一郎 副代表 平野昭 土田英三郎 

【動画情報】もうひとつの英雄交響曲

本会が後援する予定だった演奏会の出演者たちによって、ベートーヴェンの《ピアノ四重奏曲第3番》、そしてリース編の《英雄交響曲》ライブ配信されました

YouTube で公開されていますので、ぜひご覧ください。

*****

第1部 ピアノ四重奏曲3番、英雄交響曲1,4楽章

https://www.youtube.com/watch?v=nQY-IyD5BHQ

第2部 英雄交響曲 全楽章

https://www.youtube.com/watch?v=MTukbWmijfA&t=1123s 

ヴァイオリン:志村寿一

ヴィオラ:廣海史帆

チェロ:懸田貴嗣

ピアノ:森下唯 

2020/07/25 にライブ配信 

***

◎演奏会主催者からのコメント(懸田貴嗣さん)

 《エロイカ》のリースによる編曲楽譜は、ミラーノ滞在中に、ヴェルディ音楽院の図書館で見つけて、コピーを入手していたものです。いつか演奏してみたいと思っていました。まだIMSLPに掲載される前のことです。音楽院図書館の蔵書目録によれば、「Bonn: N. Simrock. [189.!.]」とあるので、19世紀末の増刷かと思われます。第1楽章提示部の最後で2小節(第150〜151小節)、余分な繰り返しがあるのですが、今回は楽譜通りに演奏しました。なぜ、この編曲譜はそうなっているのか、またリースがいつ頃編曲したものなのでしょうか?

 

◎ベートーヴェンクライスからのコメント

(1)フェルディナント・リースによる《エロイカ》編曲について(丸山瑶子)

 ベートーヴェンの弟子フェルディナント・リース(1784〜1838)Ferdinand Ries による《エロイカ交響曲》作品55のピアノ四重奏曲編曲は、ベートーヴェンの最新の作品目録(キンスキー/ハルム1955[KH1]の改訂第2版2014[KH2])には情報がありません。それは、この目録における初期出版譜の情報は、原則として1830年頃までに限られているからです。

 セシル・ヒル Cecil Hill のリース作品目録(1977)によると、この編曲譜は1857年にボンの N. ジムロックによって出版されています。IMSLP(International Music Score Library Project: Petrucci Music Library)からダウンロードすることもできますが、蔵書印から判断するとベルリン国立図書館のものです。https://imslp.org/wiki/Symphony_No.3,_Op.55_(Beethoven,_Ludwig_van)

ただ、よく見ると、「N. SIMROCK IN BERLIN」とあります。ということは、1870年より後に出た刷りだということになります。ボンのベートーヴェン・ハウスも1部所蔵していますが、やはりベルリン版です。ベートーヴェンの生地ボンにおける大先輩で、ベートーヴェンにホルン奏法を教え、またその作品を多数、出版しているニーコラウス・ジムロック(1751〜1832)が1793年(つまりベートーヴェンがヴィーンに移住した翌年)に設立した楽譜出版社は、孫の代の1870年(ドイツ帝国成立の前年)に、田舎町のボンからプロイセンの首都、大都市ベルリンに拠点を移します(ブラームスやブルッフ、やがてドヴォルジャークらの出版社として有名)。ですから、IMSLP掲載のエディションはそれ以降のはず。となるとヴェルディ音楽院の所蔵譜は1870年以前の刷りかもしれません(古い印刷プレートをすぐには直さないで、しばらくそのまま使うことはあり得ますが)。

 《エロイカ交響曲》に関する最新の論文集のなかで、ナンシー・ノーヴェンバー Nancy November は、リースによる編曲を、《エロイカ》の他の二つのピアノ四重奏編曲と比較しています。1807年の匿名の人物によるもの(《エロイカ》のパート譜初版を出した美術工芸社)と、1832年に独英で出た、ピアノ・ヴィルトゥオーソとして有名なヨーハン・ネーポムク・フンメル J. N. Hummel (1778〜1837)によるもの(ピアノだけでも可、フルートとヴァイオリン、チェロが任意に。IMSLP上記ページ参照)です。ナンシーの評価では、リース編曲の特徴は、音色のコントラストを編曲でも実現しており、その手段として音域が活用されていること、1807年の編曲者不明の編曲よりも各楽器の語法に配慮した編曲になっており、各楽器に重要な役割が配分されていて、アマチュア演奏者には演奏がハードであるとのことです。

 November, Nancy, “Performing, Arranging and Rearranging the Eroica: Then and Now,” in The Cambridge Companion to the Eroica Symphony, edited by Nancy November (Cambridge: Cambridge University Press, 2020), pp. 221–38. (Cambridge Companions to Music)

(2020/8/6)


 (1.5)タイトル・ページについて(土田英三郎)

 懸田さんから、ミラーノのヴェルディ音楽院所蔵本のタイトル・ページが送られてきました。IMSLP掲載のベルリン版と比べてみましょう。同じ印刷プレートを使っているのが分かります。違うのは、一番下の値段表記の有無と出版社の表記です。 

 ミラーノ本では、一番上に「Legato Dott. Giuseppe Ferrario ジュゼッペ・フェッラーリオ博士遺贈」とスタンプ?があり、下方の作品番号「Op. 55.」の右側に「Prix 2 Thlr. 20 Sgr. 価格 2(ライヒス)ターラー、20ジルバーグロッシェン」、一番下に「Propriété de l'éditeur. / CHEZ N. SIMROCK À BONN. / Paris, Hy.[Henry] Lemoine.        Londres, R.[Robert] Cocks & Co.  出版社の版権所有./ボンのN. ジムロック社./パリ、アンリ・ルモワーヌ. ロンドン、ロバート・コックス商会.」とあります。

 ライヒスターラーは本来は神聖ローマ帝国(〜1806)の通貨(銀貨)ですが、1821年からはプロイセン王国の通貨名となり、1871年にドイツ帝国が成立してまもなく、1873年にマルクに取って代わられます。

 最下行はパリとロンドンの提携会社です。ルモワーヌ社はフランス革命後に設立された出版社で、IMSLP掲載の《エロイカ》編曲だと、ジャン・アンリ・ラヴィナ編による4手ピアノ連弾版(1872)があります。ロバート・コックス(1823〜1904)ともども、ベートーヴェン関連の楽譜を出版している会社です。ジムロック社は1802年にパリ支店、1812年にケルン支店を開きますが、パリ支店はその後閉鎖されたのでしょうか、ここでは挙がっていません。

 一方、ベルリン本では、作品番号の右の値段表示がなく、一番下の出版社表示も「N. SIMROCK IN BERLIN.」とあるだけです。新帝国の成立期で、ドイツ国内の通貨の変換期でもあり、また国際的な販売のためには他国の通貨も併記するようになってくるので、ここに価格表示がないのは、ちょうどその端境期だからかもしれません。

 以上から考えられるのは、両版とも同じプレートを(部分的に手直ししながら)使用しているので、基本的には同じ楽譜であること、ミラーノ本の方はもしかすると初版そのもの(初刷りか増し刷りかは不明)で、ベルリン本は1870年以降の改題版である、ということです。

 このように、印刷物のタイトル・ページだけからでも、分かることというのは結構あるものです。

(2020/8/9)

(2)第1楽章の余分な繰り返しについて(土田英三郎)

 第1楽章提示部最後の余分な2小節ですが、これは有名なミス・プリントです。《エロイカ》のパート譜初版(1806、ヴィーンの美術工芸社)の初期の刷り、それにロンドン版の総譜初版(1809)でこうなっています。当時はまずパート譜で出版され、だいぶ遅れて総譜が(運がよければ)出版されるのが常でした。ベートーヴェンの交響曲1~3番は当時としては異例なことに、ロンドンで、海賊版ではあるものの、ハイドンやモーツァルトの交響曲と一緒のシリーズで、総譜が早めに出版されました。版下(印刷用原稿)は、《エロイカ》の場合はヴィーンで出たパート譜です。ヴィーンのパート譜は、後の刷りでは印刷プレートでそこだけ訂正が施されて、正しいテクストになっています。

 

初版パート譜初刷り(1806)、ヴィオラのパート譜(ヴィーン楽友協会所蔵)、第1楽章第138〜163小節:2段目の第7〜8小節目が余分な反復

初版パート譜の増刷(1807頃)、ヴィオラのパート譜(ボンのベートーヴェン・ハウス所蔵)、同一箇所:2段目7小節以降で印刷プレートがパテで埋められ、改めて反復1回目(「1」)として彫版されている。

ロンドン版総譜はIMSLPとボンのベートーヴェン・ハウスでダウンロードできます。https://imslp.org/wiki/Symphony_No.3%2C_Op.55_(Beethoven%2C_Ludwig_van)

https://da.beethoven.de/sixcms/detail.php?id=15241&template=dokseite_digitales_archiv_en&_eid=1510&_ug=Symphonies&_werkid=55&_dokid=T00016728&_opus=op.%2055&_mid=Works&suchparameter=&_sucheinstieg=&_seite=1

  正規の総譜はボンの N. ジムロックから、ようやく1822年に出ます(メトロノーム記号入り)。このエディションでは2小節の重複はありませんが、ベートーヴェンがその出版に関与した痕跡もありません。ボンのベートーヴェン・ハウスは2部

後にふれる改題版も2部、日本では国立音楽大学が初版を3部、改題版を1部、所蔵しています。

 《エロイカ》は自筆総譜は残ってませんが、筆写総譜がヴィーン楽友協会にあり、それと初演に使われたパート譜とがファクシミリ版で出ています(音楽大学や大きな大学の図書館で見ることができます)。第1楽章の提示部の繰り返し記号のあたりは筆写総譜でもいろいろと複雑な問題があって、ベートーヴェンが一時、あまりに長いので提示部繰り返しをやめようとした痕跡も見られます。

 当時はこのようなミス・プリはかなりあって、ベートーヴェンの初版でも珍しくはありません。興味深いのは、この間違った2小節多いテクストでも、おそらくある時期までは演奏されていたということです。さすがに、おかしいという声も出てきて、パート譜出版社も修正刷りを出すわけですが、19世紀半ばになっても、ベートーヴェンの弟子のカール・チェルニーは、1853年の「ベートーヴェン交響曲の正しい演奏のための覚え書きBemerkungen zum richtigen Vortrage Beethoven’scher Sinfonien」で、この2小節増を支持しています。この余分な2小節は、リース編曲版を演奏するなら、そのまま2小節増で演奏するのが正しい、つまりそれが当時の演奏実態の歴史的に正しい再現ということになります。

 しかし、まだ残る謎があります。①そもそも何故、このような誤植が初版楽譜に紛れ込んだのかについては、ベーレンライター版のジョナサン・デル・マーや新全集版のベイシャ・チャーギンが、それぞれ校訂報告でもっともな説明をしているので、ここでは省きます。それよりも、②なぜ、ベートーヴェン直々の弟子で、《エロイカ》の試演や初演も直に体験しているはずのリースが、このような初版の間違いを継承しているのか。③リースの没後かなりたっての出版ですが、彼はそもそもいつ、この編曲譜を作成したのか。④正しい小節数の総譜初版を出したジムロックが、19世紀半ばにもなって、なぜリース編曲譜をそのまま出版したのか。

 ②に関して:リースは1805年、とくに1809年からヴィーンを去り、1813年から11年ほどはロンドンを中心に活躍しますが、もしかしてヴィーンのパート譜初版とロンドンの海賊スコアしか知らなかったのかもしれません。③は現時点では分かりません。④については、まだ興味深い事実があります。

 ジムロックは1822年に総譜初版の初刷りを刊行した後、ある時点からの増刷と1830年以降の改題版(基本的にタイトル・ページのみが新しくなっているもの)で、問題の2小節はそのままにしながら、その上にスラーと「bis 反復」を加えています。

  初版総譜改題版、ボンのN. シムロック(1830年以降)。

この反復指示の復活は、KH1では前記のチェルニーという権威者の説に由来しているのではないかと推測されていますが、KH2では年代的にも疑わしいとしています。しかし、もう一人のベートーヴェン・オーソリティであるリース(ボン生まれでジムロックとは同郷)の「2小節増」をそのまま出版することに、ジムロック社はもう抵抗はなかったわけです。その後のいわゆる旧全集版(1862頃)からは、初版の誤植が再確認されて、この問題はなくなります。

  ともあれ、こうした編曲ものは、いわばレパートリーの宝庫なので、今後ともどんどん演奏していただければ嬉しく思います。ベートーヴェン関係は国立音楽大学が大量に所蔵しています。

「国立音楽大学附属図書館所蔵 ベートーヴェン初期印刷楽譜目録」:  http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/cat/cat.html

(2020/8/6)

【報道】『音楽の友』4月号に記事が掲載されました

『音楽の友 』2020年4月号に「二つの《ディアベッリ変奏曲》をテーマにレクチャー・コンサート」が掲載されました(巻末p. 8)。

横谷貴一氏によって、当日の演奏家の模様が詳しく伝えられています。

ぜひお買い求めのうえ、お読みください!

日本ベートーヴェンクライスの今後の活動予定

日本ベートーヴェンクライスでは、今後、以下のようなテーマで演奏会や講演会を行うことを企画しています。

どうぞご期待ください!

また、企画を実現できますよう、随時ご寄附を募集しております。何卒よろしくお願いいたします。

―――企画案―――

・ベートーヴェンとチェロ(続編)

・ベートーヴェンの民謡編曲

・ベートーヴェン作品の同時代の編曲

・ベートーヴェンのスケッチの再現(未完オペラ《ヴェスタの火》、第9交響曲フィナーレ低弦レチタティーヴォに付けられた歌詞など)

・シラーの『歓喜に寄せて』への他の作曲家による付曲(ケルナーからライヒャルト、シューベルトなど、第9までに40数曲)から

・ベートーヴェンと対位法(ベートーヴェンとバッハ、ヘンデル、フックス、アルブレヒツベルガー、ライヒャ等)

・ベートーヴェンと当時の弦楽四重奏曲(ヴラニツキ他)

・ベートーヴェンとロンドン・ピアノ楽派(クレメンティ他)

・ベートーヴェンとフランス・ヴァイオリン楽派(クロイツェル他)

・フランス革命とベートーヴェン

・ベートーヴェンと当時の楽器

・その他、めったに演奏されないベートーヴェンの隠れた名曲の紹介

・ベートーヴェン賛の系譜(ベルリオーズ、リスト、シューマン、S. ヘラー、プリュダン、ヴァーグナー、ブラームス等無数にある中から。「批判」も含める)

・ベートーヴェンと弟子たち(リース、チェルニー、ルードルフ大公他)

・ベートーヴェンと同時代のヴィルトゥオーソたち

・ボン時代のベートーヴェン

・ベートーヴェンの「後期」