有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 4

2021.04.13

縄文土器学習 578

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は北斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 北斜面貝層 155番土器

北斜面貝層 155番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「155は南東北の大木様式の資料と思われる。やや括れた頸部に横長の楕円形区画文が廻り、胴部文様帯にはL撚糸文を地文に並行沈線による渦巻状や波状、クランク状の文様が整然と配されている。大木8aであろう。」

クランク文のふるさとが大木式にあるようですから、勝坂式、阿玉台式だけでなく大木式の学習を予定したいと思います。

2 北斜面貝層 166番土器

北斜面貝層 166番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「166はキャリパー形土器の破片資料。地文は撚糸文。波状文が文様帯の上下の隆線に接して三角形区画文になっているもの。」

南斜面貝層260番土器(2021.04.12記事)と類似土器と思いますが、撚糸文であることが気になります。有吉北貝塚では撚糸文と縄文の割合がどの程度であるのか、今後注目して学習することにします。

3 北斜面貝層 171番土器

北斜面貝層 171番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「171はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取されるが、区画が粗雑に扱われている。」

2条の垂下沈線も観察できます。

4 北斜面貝層 176番土器

北斜面貝層 176番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「176はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取される。口縁は平縁を基本とするが、176のように第7群の161や162からの系譜と見られるものも残存する。」

口縁部が波状を呈し、波頂部の口唇に渦巻文を配する加曽利E式土器はS字状文が付されていることが多いと感じています。関東西部に起源を有する文様かもしれません。今後注目して学習することにします。

参考 第7群161、162

5 感想

・北斜面貝層は加曽利EⅡ式期から使われたようなので加曽利EⅠ式土器とそれ以前の土器は加曽利EⅡ式期以降に流れ込んだもののようです。従って破片が多くなっています。

・破片資料からも多くの情報を汲み取ることができることを知りました。

・加曽利EⅠ式土器学習を起点にして、過去に土器様式を遡る学習(勝坂式、阿玉台式、中峠式)、同時代別様式の学習(大木式学習、曽利式学習)、次期様式に進む学習(加曽利EⅡ式、EⅢ式、EⅣ式、称名寺式、連弧文土器)が必須であるという総合的イメージが出来ました。加曽利EⅠ式土器の混沌とした状況のなかで、個別土器理解(類型の直観的感得)が出来ないで苦しんでいますが、加曽利EⅠ式土器だけをいくら観察しても、それだけでは理解がすすまないということが判りつつあることはうれしいことです。