科学の視覚文化とは、「観察する」「視覚的に思考する」「表現する」「図で議論する」「図を解釈する」といった視覚に関わる一連の活動とそれを支える価値観や慣習を指します。近年、科学史・科学哲学・科学社会学などの研究者たちが、科学において図像がなければ記録や説得、議論ができない場合があることや、歴史的な発見に視覚的に思考が関わっていること等を指摘するようになりました。
科学の視覚文化を理解することは、そもそも「科学」とはどのような営みなのかを理解するうえで重要です。私は、特に現代に近い生命科学や生物学の図像の性質やそれを作成する人々について研究することで、科学の図像とはどのようなものであり、どう変化しているのか、また、図像はどう作られているのかといった視覚文化の研究を行っています。
関心のあるテーマ
生命科学論文の図は20世紀後半以降どのように変化してきたのか、
グラフィカルアブストラクトがもたらす新しい視覚文化とは何か
図鑑のいきもののを描くイラストレーターはどのような価値観をもっているのか 等
Kana ARIGA, Manabu Tashiro 2022: Change in the graphics of journal articles in the life sciences field: Analysis of figures and tables in the journal “Cell”, History and Philosophy of the Life Sciences 44(3) Article number: 33. リンク
Kana ARIGA, Manabu Tashiro 2016: A History of Biological Illustrators in Japan, Journal of Natural Science Illustration 48(3) 3-8.
有賀 雅奈, 永井由佳里 2022「サイエンティフィック・イラストレーション制作の際の作り手の介入と表現情報」『桜美林大学研究紀要総合人間科学研究』 (2) 1-18.リンク
20世紀後半以降、PCや作画アプリが普及し、また誰もが情報発信をする時代になり、科学者は自分で研究内容を説明する概念図やイラストを描く機会が増えてきています。にもかかわらず、科学者がそのような図を描くための技術や知識を学ぶ機会は、国内外ともにほとんどありません。また、海外ではプロのサイエンス/メディカルイラストレーターが大学や大学院で教育を受けたうえで活躍していますが、日本ではそのような学びができる機会はわずかにしかありません。
私は実践的な関心から、どうすれば効果的な図を作成でき、それをどう教育することができるのかについて研究をしています。また、研究成果の還元として企業や大学、学会などにアドバイジングやセミナー指導も行っています。
関心のあるテーマ
研究者や学生が科学的な概念図を制作する方法を学ぶワークショップの開発
患者説明資料のメディカル・イラストレーションの表現はどうあると良いのか
イラストレーターは研究の概要をまとめた図=グラフィカル・アブストラクトをどのような観点から評価するのか 等
有賀雅奈 2024「科学的な概念図の制作法を学ぶワークショップの開発」『科学技術コミュニケーション』34 47-60. リンク
有賀 雅奈, 高柳 航, 永田 徳子, 原 彩子, 田端 実 2022「患者と医療者双方にとって効果的な 患者説明資料のメディカルイラストレーションとは」『日本メディカルイラストレーション学会誌』4(1) 46-60.
有賀雅奈 2018「あなたの資料はわかりやすく魅力的?:研究者のためのビジュアルデザイン入門」『応用物理』87(4) 293-296.
大学・研究機関・学会・企業などでの各種ビジュアル・デザインやセミナーや図解制作セミナー、ワークショップ[企画や講演]
科学のビジュアルコミュニケーションは重要ですが、それだけでは科学と社会の信頼関係を築くことはできません。そもそもなぜ科学について情報提供や対話をする必要があるのか、科学コミュニケーションに対して研究者はどう関わっていくのが適切なのか、どのようにして情報提供や対話を行うのが良いのか。私は実践・理論両面の関心から、科学と社会のあるべき関係を探っています。
桜美林大学に異動して以降は特に、理系でも研究者でもない社会で活躍する市民が、科学や科学コミュニケーションにどう参加していけるのか、また参加するためには何が必要なのか、関心を持っています。
具体的なテーマ
市民のためのリベラルアーツとしての科学技術社会論/科学コミュニケーション教育
科学コミュニケーションの方法論(伝達と対話)
市民科学・科学者の責任論 等