私の担当プログラムは「科学コミュニケーション」です。担当科目はどれも「科学」がテーマの授業ですが、いわゆる理系科目ではなく、いずれも「科学を文系視点で考える」科目です。
※年度によって内容は変更する可能性があります。
科学コミュニケーションプログラム
桜美林大学リベラルアーツ学群では、入学後に合計30のプログラムから専攻したいプログラムを選択します。私はなかでも「科学コミュニケーション」プログラムを担当しています。
「科学コミュニケーション」プログラムでは、科学・技術と社会の望ましい関係について、人々が共に考えていけるようにするためにはどうしたらいいのかを考えます。文系・理系両方の視点から科学を理解し、市民が科学に関する議論に参加する必要性や、科学を伝えるコミュニケーションスキルなどを学びます。 卒業後は教員や公務員、メディア、メーカー、健康・美容・医療系企業、環境団体など、様々な分野で学びを活かすことができます。
※卒業要件の科目を見たい場合は履修ガイドを確認してください。
※科学好きはもちろん、科学に苦手意識を持つ学生も入学後に関心をもち一緒に学んでくれています。
主な担当科目
有賀が担当するLA専門基礎科目とLA専攻科目を紹介します。どの科目も科学コミュニケーションに関わりますが、プログラムを専攻していなくても履修することができます。
※内容は変更する場合がありますので、履修前に必ずシラバスをご確認ください。
文系視点で科学という営みを考える、入門的な文理融合科目です。
具体的には、科学と生活知や芸術を比べたり、歴史やジェンダーとの関係を考えたり、社会への多様な影響を考えたりすることです。理系科目ではないので、計算や暗記はありません。約半数の回ではグループワークを実施し、学生目線から科学の多面性を掘り下げてもらっています。
毎年初回にアンケートを取ると、半数以上の受講者は科学や理科に苦手意識を持っているという回答がきますが、そんな学生からも終了時には面白かったという感想をもらっています。
「目からウロコがたくさんありました」「科学の見方が180°変化した」「理科が大嫌いで嫌々履修したのに気付いたら毎週楽しみになっていました」「シラバスに計算しないと書いてあったけどどうせ計算させられるんだろうと思っていたら、本当に最後までしなかったし、想像と全く違って毎回いい意味で考えさせられた」【学生のコメントより】
※科学論入門の学生の課題紹介はこちら(授業前後の科学観の表象)
全14回の講義テーマ
ガイダンス/みんなが持っている科学のイメージ
第1部:知識としての科学
科学知識と生活知
科学知識を哲学する
科学知識と疑似科学
科学イラストとは
科学を図解する
第2部:営みとしての科学
科学を営む人々とは
科学のルーツと近代科学の確立
科学と戦争、そして現代へ
第3部:社会とともにある科学
ジェンダー問題と科学
社会と科学の間にある様々な問題
市民は科学技術とどう関わっていくのか
科学コミュニケーションを体験する
まとめと振り返り
軍事科学、再生医療、AIなどの先端科学技術を取り上げ、社会へのさまざまな影響を考えます。
この授業では先端的な科学技術の倫理的、法的、社会的な課題とその課題解決に向けた市民参加型の取り組みについて学びます。毎週あるグループワークでは、特定の科学技術についてどのような条件であれば受け入れられるのかなどを議論しますが、学生の間で意見が割れ悩む場面も多々あります。多様な価値観があるということに気づくことで、考えを深め、視野を広げてもらっています。
「グループワークで自分一人では考えつくことのない意見を知れたことはとても大きな学びだと感じた 」「世の中の二面性をしっかり吟味するスキルが身についた」「社会に出ても役に立つと思う」【学生のコメントより】
全14回の講義テーマ
第1部 先端科学技術の安全・安心とは
ガイダンス/先端科学技術のイメージ
科学技術と安心・安全の意味
第2部 先端科学技術の課題の具体例
位置情報技術の社会課題
軍事科学の社会課題①
軍事科学の社会課題②
AI(人工知能)の社会課題
再生医療の社会課題
人間を「選別する・改良する」科学技術の社会課題
科学技術とジェンダーの社会課題(ジェンダード・イノベーション)
第3部 先端科学技術に対して私たちができること
先端科学技術の課題にどう対応すればいいのか
先端科学技術の多面的検討の場を創る (ワークショップ)
先端科学技術の多面的検討を体験する(発表)
先端科学技術の多面的検討を体験する(発表)
まとめと振り返り
学生の実際の制作物の例
私たちにとって身近な科学を題材に、市民の科学リテラシーを高める意味や方法を考えます。
この授業では、知的に豊かにしてくれる「文化としての科学」と、生きていくうえで必要な「科学的なリスク情報」をテーマに、市民の科学情報の受け取り方や、関心を引く方法、わかりやすく伝える考え方を学びます。グループワークでは科学を伝える漫画や書籍の一部、医療冊子などを見て議論したり、リスクゲームを体験したりします。受講者には関心をもった科学情報について調べ、その内容を伝える資料を作成してもらいます。
「意外に自分でも科学やリスクの文書が作れるんだと思い、伝えるのは専門家だけじゃないと思った」「科学・リスク文書を自分で作るのも、他の学生の文書を読むのもおもしろかった」「リスクゲームが普通にゲームとして楽しかった。こういう取り組みがもっと広まってほしい 」【学生のコメントより】
全14回の講義テーマ
ガイダンス:科学リテラシーと生きる力としての科学
第1部 楽しい科学のコミュニケーション
身の回りの科学とは
関心を引き出すコミュニケーションを考える
第2部 リスクとそのコミュニケーション
生きる選択に関わるリスク情報
人々はどのようにリスクを捉えるのか
医療・防災のリスクとそのコミュニケーション
リスク情報の伝え方
リスク情報のコミュニケーションの検討:医療冊子を例に
第3部 科学/リスクを伝える方法
科学/リスクコミュニケーションの実践と評価
科学を伝えるコミュニケーションの方法(ライティングなど)
科学を伝えるコミュニケーションの方法(レイアウトなど)
リスクを学ぶゲーム体験
実践と評価 :学生同士で制作物を評価する
まとめと振り返り
ガリレオがスケッチした月
ガリレオ・ガリレイ著・伊藤和行訳(2017)『星界の報告』講談社 (原書1610年)
現代当たり前にあるようにみえる科学技術がいつ生まれ、どう変化しながら社会と深く関わるようになっていったのかを考えます。
この授業では①科学の営みがどう変遷してきたのかという思想的・制度的変遷と、②物理・化学・生物・工学・情報を中心とした分野ごとの議論の変遷の両面から、ギリシア時代~21世紀までの科学技術の変遷を見ていきます。授業ではベーコンやガリレオ、福沢諭吉など、科学にかかわる歴史文献の現代日本語訳もいくつか読んでもらい、歴史の理解を深めています。また、映画「オッペンハイマー」(脚本・監督:クリストファー・ノーラン、2023年公開)の一部を見ることで、科学者の社会的位置づけの変容や戦争と科学者の関係性について考えます。
「歴史から科学を捉えるという視点を養えたことに価値があると思った 」 「歴史史料は難しいものもあったけど、いくつか読むうちに時代の変化を感じられておもしろかった」【学生のコメントより】
全14回の講義テーマ
ガイダンス:科学の通史全体像
古代~中世:古代ギリシアとアラビア世界
16世紀~18世紀:科学革命から啓蒙主義の時代へ
16世紀~19世紀:科学の成立と変容(物理学を中心に)
16世紀~19世紀:科学の成立と変容(化学を中心に)
16世紀~19世紀:科学の成立と変容(生物学を中心に)
19世紀:産業革命と科学に依存する技術の登場
19~20世紀:ナショナリズムと戦争
19世紀~20世紀:日本における西洋科学の導入と戦争
20世紀:冷戦と巨大科学、科学技術批判
20世紀後半以降:生命科学と情報科学の時代
映画「オッペンハイマー」にみる変容した科学者
課題のグループディスカッション
21世紀:現在、そして未来を考える
現代の科学技術コミュニケーションの理解の土台となる学術的な理論や分析視点を学びます。
この授業では、科学技術コミュニケーションの学術分野において議論されてきたモデルや歴史的変化、実践例などを学び、欠如モデルやRRIなどのキー概念の理解を深めます。これにより社会的・文化的に価値のある科学技術コミュニケーションとは何かを考えられるようなることを目指します。受講生には自ら関心をもった科学技術コミュニケーションを批判あるいは新たな実践を提案してもらいます。
「市民も科学側も互いの視点の違いを理解していくのが大事だと思った」「科学コミュニケーションの問題は思った以上に根深く、1つの方法で解決できるわけではないため、多面的な分析が重要だと思った」【学生のコメントより】
全14回の講義テーマ
ガイダンス
第1部 科学技術コミュニケーションの理論的土台
科学技術コミュニケーションの変遷
科学技術コミュニケーションの理論
科学への市民参加と市民科学
科学者の責任論
責任ある研究イノベーション
第2部 科学技術コミュニケーションの批判・提案に向けて
科学技術のフレーミング
「伝わらない」を考える
科学のイベント:サイエンスカフェとワークショップ
第3部 さまざまな事例
科学館と博物館
科学とメディア・広報
科学教育
第4部 科学技術コミュニケーションを批判または提案する
学生による批判と提案(発表)
まとめと振り返り
学生の実際の作品の例
科学的な情報を視覚的かつ魅力的に図解するためのデザインの基本を学びます。
この講義では、専門的な科学情報をどうしたらわかりやすく、関心をひきつけられるような表現で伝えることができるのかを学びます。身近な科学的情報(23年度ははちみつの科学、24年度は風邪の科学)をテーマに、A4サイズの説明図を作成することで、編集力、デザイン力、画像制作ソフト(主にAdobe Illustrator)の操作スキル、魅力的に表現するスキルを身に付けることを目指します。
23年度、24年度は企業の方に来ていただいてお題について解説してもらい、理解を深めるディスカッションも行いました。
※レベルとしてはデザインやAdobe Illustratorを全く学んだ経験がない学生を想定しています。
※既存の素材を使うことも許可していますので、絵が苦手な方も取り組むことができます。
「他の人の作品を見て感銘を受けました。初めてなのにプロみたいな出来上がりだなと思いながら見ていました」 「自分はデザインに関心があって受講し、初めてやる操作ばかりで大変な部分はあったが、楽しい授業だった 」「全体を通してとても楽しかった。企業さんに自分の表現したものを見てもらえるという他の授業ではなかなかできない体験ができ、満足度が非常に高かった 」 【学生のコメントより】
全14回の講義テーマ
第1部 視覚的に科学を伝える方法
ガイダンス/科学技術情報はなぜわかりにくいのか
グラフィックデザインの理論
科学を調べ、魅力的に図解する方法論
ミニプレゼンと課題の図解テーマの紹介
第2部 Adobe Illustratorの使い方
Adobe Illustratorの使い方
Adobe Illustratorの使い方
Adobe Illustratorの使い方
第3部 科学の図解制作
課題作品の制作実践
課題作品の制作実践
課題作品の制作実践
課題作品の制作実践
課題作品の制作実践
課題作品の制作実践
第4部 発表とフィードバック
作品発表と振り返り
このほか、リベラルアーツセミナーや博物館実習科目を担当しています。
また、科学コミュニケーションのLA専攻科目としては、非常勤講師が担当する『科学哲学概論』と『科学と宗教』もあります。