閑静な真夜中。コツンと窓に小石が当たる音がしてカーテンを引いた。そこには屋根まで届く大樹に座る侵入者。窓を開くと夜風が吹いて整えたばかりの前髪をさらっていく。「やだもう」
咄嗟に手をあげれば髪に触れる前に長い指先に絡め取られた。
「わっ」
「失礼、あなたが風に、さらわれやしないかと不安で」
そう言って、手の甲にキスを落とす。
「うわ、気障……」
「ロマンチストと言ってもらいたいですね」
平然と“そういうこと”をする彼に振り回される身にもなってほしい。そう思って睨んでみる。
「ん? そんな可愛らしい睨みでは僕の心しか奪えませんよ」
「ばっバカじゃないの!?」
本当に馬鹿だ。そもそも屋敷の警備を掻い潜って会いに来るなんて、本物の馬鹿以外にいない。
母に連れられた舞踏会で1日限りの雇われSPだった彼に「助けて」と零しただけだ。母から逃れて自由になれたらと。常識人なら子どもの戯言だと窘められて終わるのに。どうして彼は、本気で助け出そうとしてくれるのだろう。
「バレたら大変よ。お母様が何をするか。あなたはあなたの人生に帰っていいんだよ」
「いいえ。僕の人生には抱きしめるべき人がいますから」
引き寄せられると心の奥がじん、とする。きゅっと温かい腕が背中にまわってやさしく上下する。
「必ず助けます。それまではどうかこれで」
私は背中に回した腕に力を込めた。