「お姉さんって家出中のお姫さま?」
昼下がりの公園に無垢な声が響いた――。
親友からの出世報告、先輩からの結婚報告。朝から目が覚める連絡を受け“普通な私”に虚しくなる。
だらしなく腰かけたベンチから青空が見える。視線を下ろせば手を繋いで歩く老夫婦に犬と戯れる奥さまの姿。さらに視線を落とせば汚れたパンプスと剥げたホログラムのネイル。わたし一人、この世界の暗いほうに取り残されてしまったのかもしれない。
「はあ〜あ」
何かを祓うように髪を掻きむしった。
刹那、幼い声が耳に届く。冒頭の台詞だ。
「お姉さんって家出中のお姫さま?」
「ひ、姫……?」
「違うの?」
純粋な瞳に見つめられつい、「どうしてわかったの?」と返せば少女は「やっぱり!」と目を輝かせて爪先をさした。
「ほら、お姉さんの指先キラキラしてるもの。宝石をこまか〜くしたものをつけているんでしょ?」
少女は探偵よろしく顎に手を当てた。
「お靴が汚れているのはお城の窓を伝って裏庭から逃げてきたから、髪は森の洞窟をくぐり抜ける時に解けたのよ、そしてこの街に辿り着いて休憩中なの、そうでしょ?」
名推理に心が奪われる。ふっと笑いが込み上げてきた。
そっか、そうだよね。人と比べたって仕方がない。違う人間なのだから考えたところで意味がない。見方一つで、世界は変わる。
「名探偵だね」
微笑んでみせれば少女は満足気に頷いた。