ご感想送り先:@mirai_en
パルミラ王は夜遅くまで執務室に籠って書面と向き合っていた。
「ご苦労様です。少し休憩なさってください」
そんな声と共に置かれたカップにハッとする。
「っとマリアンヌ、いつの間にここに来てたんだ?」
突然現れた妻に、目を丸くして見上げた。すると彼女は苦笑いを浮かべた。
「やっぱり気付いてなかったんですね。何度か扉を叩きましたし、声も掛けたのですが…勝手に入ってきたらまずかったでしょうか」
「いいや、丁度そろそろ一息つこうかと思ってたところだったんでね、助かるよ。ありがとな」
「いえ…あまり根を詰めないでくださいね」
フォドラと国交を結んだはいいが、揉め事も多く対応に追われていた。養父に培われたマリアンヌも交渉術を活かして対応してくれているが手が回り切っていない状況だ。
「ああ、わかってるよ。お前だって疲れてるのに、悪いな」
「いえ、クロードさんの責務に比べたら私は軽い方ですから。…温かいうちにどうぞ」
「そうだな、いただこう」
頷いてカップを手に取る。まずは香りを嗅いだ。
「うん、いい香りだ。俺の好きな着香茶か」
僅かに頬を緩ませて一口啜った。
「ああ、美味いな…疲れた体に沁みわたるようだ」
「良かった」
彼の言葉にマリアンヌも嬉しそうに顔を綻ばせる。
「しかし俺が淹れても他の奴が淹れても、ここまで美味くならないんだよなあ」
ふむ、と顎に手を当てて首を傾げる。
「マリアンヌが淹れるお茶が一番だ。…とっておきのなにかでも入っているのかね?」
「ふふ、なんだと思いますか?」
なにか入っているとしたらそれはただ一つだろうとマリアンヌは思う。
(だって大切なあなたへのこの想いをこめたんですもの…なんて)
心の中で呟いて、可笑しくなって小さく笑った。すると彼は彼女を見つめて言った。
「入っているとしたら俺への愛、といったところか?」
意味ありげな笑みを浮かべて言われた言葉に、たった今自分が思ったことを言い当てられて、驚きと共に喜びが込み上げてきて、目を丸くしながら頬を朱に染めた。
「図星か?」
彼女の反応を見てクロードは嬉しそうに笑ってからもう一口飲んだ。
「いやはや愛されてるねえ、俺は」
「…はい、愛してますから」
赤くなっていた頬を戻し、恥ずかしがりもせずにそう返すと彼の眉が少し上がって意外そうな顔をした。
「一杯の茶に愛情を感じるのもいいが、やはり言葉にされることに勝るものはないな」
口角を上げてたっぷりと彼女に慈愛の眼差しを向ける。
「先に部屋に戻って、もう少しだけ待っててくれ。こいつをさっさと終わらせて、すぐにお前のところに行く」
「わ、私はそんなつもりでは…」
慌てたように言いながら再び頬が染まる。
「俺の気が変わったんだ。マリアンヌから愛してると言われたら、いつまでも仕事なんてしてられなくなっちまうよ」
本当は今すぐにでも彼女を言葉と行動で愛でてやりたいところだが、まずはやるべきことをやってからだ。だが彼女が淹れてくれた茶と愛の言葉で残りの仕事はさっさと片づけられそうだ。それだけのやる気と気力を十分すぎるほどもらったのだから。
マリアンヌは顔は赤いまま、視線を泳がせ、持ってきたトレイを抱きしめる。
「…じゃあ部屋で待ってますね」
恥ずかしいのか声は小さかったがクロードの耳に確かに届いた。
「ああ、すぐ行く」
目を細めて見つめて頷くと、彼女は執務室を出ていく。
「よし、愛しい妻のためにさっさと片付けるか」
英気を養った王は仕事を再開し、待つ妻のために残りの仕事を速やかに終わらせるのに必死になるのだった。