培養表皮シートを用いた皮膚再生医療技術の開発
損傷等で失われた臓器を体外で作製し移植する臓器創生研究とその臨床応用は、ヒト表皮幹細胞培養による培養表皮シートの作製に始まる (Rheinwald and Green, Cell 1975)と熱傷患者への移植 (O’Connor et al, Lancet 1981)。この培養表皮シートは、現在、広範囲の重度熱傷の治療に幅広く応用されているだけでなく、遺伝子導入技術と組み合わせて先天性皮膚疾患の遺伝子治療にも利用されている (Nanba, J Dermatol Sci 2019)。当分野では、この培養表皮シートを用いた再生医療および遺伝子治療をより効率化・高度化することで、重度熱傷の治療成果や救命率の向上や、様々な先天性疾患の治療法開発を目指して臨床講座とも連携し研究を行っている。これまでに、培養ヒト表皮幹細胞に特徴的な細胞運動パターンを発見し (Nanba et al, J Cell Biol 2015)、深層学習による細胞認識と物体追跡アルゴリズムを組み合わせることで、表皮幹細胞動態を自動認識できるシステムDeepACTの構築に成功しており (Hirose et al, Stem Cells 2021)、このシステムは培養表皮シート作製過程への応用だけでなく、多様な再生医療用ヒト幹細胞培養の非侵襲品質管理へ幅広く応用が期待されている。
加齢や疾患による皮膚再生能力低下の仕組みの解明
加齢や生活習慣病等によって、我々の体の様々な器官の機能低下が起こる。当分野では、加齢による皮膚再生能力の低下の仕組みや皮膚の恒常性維持の仕組みの解明を通じて、加齢や生活習慣病等によって引き起こされる器官の機能低下を予防する、さらには機能を再生させる(=若返り)方法の開発を目指している。特に、細胞増殖因子や細胞外環境による表皮幹細胞の機能制御、さらにそれらの加齢に伴う変化に注目して解析を行ってきており、EGF受容体シグナルが表皮幹細胞の遊走能や幹細胞性に影響を与える分子機構、およびその加齢変化について明らかにしてきた (Nanba et al, EMBO Mol Med 2013; Nanba et al, J Cell Biol 2021)。また、糖尿病性皮膚潰瘍から表皮幹細胞や真皮線維芽細胞を単離し、その増殖能力を評価するなど、臨床検体を用いた研究も展開している (Toki et al, Regen Ther 2020)。
表皮幹細胞および真皮線維芽細胞の性状解析と産学連携研究
表皮や真皮の恒常性がいかに維持されているかを明らかにするために、ヒト表皮幹細胞やヒト真皮線維芽細胞の性状解析を行ってきた。最近、ヒト表皮幹細胞の温度感受性の分子機構を明らかにすることに成功し (Nanba et al, EMBO Rep 2023)、現在は、温度による幹細胞や組織恒常性の変化、および極端な温度変化と病態との関係を明らかにするため研究を行っている。また、再生医療に用いられるヒト表皮幹細胞培養系や三次元培養皮膚モデル、独自に開発したヒト真皮線維芽細胞培養系を駆使することで、表皮幹細胞維持に関わる細胞増殖因子の機能解析や、加齢に伴う真皮線維芽細胞の性状変化について産学連携研究を行い、これまでに製品開発や共同論文を発表してきた (Muraguchi et al, J Dermatol Sci 2029; Itai et al, Exp Dermatol 2023)。今後も、このような産学連携研究を行うことで、我々の研究資源を再生医療分野だけでなく、化粧品開発分野においても活用し、研究成果の社会実装を目指した取り組みを拡大したいと考えている。